7 / 122
序章~二人の出会いは~
6
しおりを挟む
目的なく歩き回ったかと思っていたが、気が付けば、私たちは大きな塔の下に来ていた。
古い石造りの塔は苔むして、佇まいはいかにも町の重鎮といった雰囲気を醸している。
私が見た印象としては、城の塔よりも高いのではないだろうか。
「ここからは見えないけど、塔の天辺には、鐘があるんだ。この町の名物なんだ。ちょっとすごいぞ」
アートは私に手招きをして、当然の顔をして塔の中に入る。
「ちょっと、勝手に入って良いの?こういうのって管理している人以外入れなんじゃ……」
「大丈夫、管理しているの俺の家」
「え?そうなの?」
「そう、だから、扉も開いただろう?管理者として登録していない人では絶対開けられないの」
「そう……そうなら良いけど……」
「さ、行こうぜ」
本当に良いのか。私は言葉を飲み込んで、中へ入った。
塔の中はいつくか設けられている窓から差し込む明かりだけで薄暗く。そのおかげか外よりもいくらか冷やりとしている。
螺旋状の階段がひたすら上へ続いているだけの質素なつ造りで、窓に嵌められているガラスは色なしだが、曇っていて灰色がかっている。
「体力には自信があるんだろう?来いよ。すごいの見せてやる」
暗くて陰気な場所。いざとなった時逃げ場もない。リスクが高すぎる。私の中の理性が告げた。
だから、本当は断ってしまおうかと思った。
だけど迷っている間に、アートは階段を先に行ってしまい、私は意を決して上り始めた。
「手すりないから気を付けろよ。体力に自信のあるあんたなら、もちろん大丈夫だよな?」
「も、もちろんよ。それから私はアイナよ。言ったでしょう?アイナって呼んで」
「別に良いじゃねえか。あ、足元、本当に気を付けろよ」
「え、ええ……」
手すりもない階段は、実は慣れていない。
こうしていると、少し怖かったりもするのだけど、そんなの私のプライドが許さなかった。
壁に両手を付けて、一段ずつ、慎重に上がっていく。
ああ、私今気が付いた。
私っては高いところがそんなに得意ではないみたい。
下を見て、それから上を見て、どれだけ高くなるのか、想像すると足が竦んだ。
情けない顔で、立ちすくむ私を見て、アートは大げさにため息を吐いた。
「ったく、しょうがねえな。ほら、手かせ」
森では私の手を振り払ったのに。
「いいの?手を繋ぐの……嫌じゃないの?」
「別に嫌とかじゃ……ってかここではまた別だろ?嫌なら良いんだ。自分で登るか、降りても良いんだぞ?」
「待って!」
私は下ろされそうになった、彼の手を慌てて掴んだ。
傍から見れば、保護者に引率される子供だろうが、やはりというか、私はすごく心臓が早くなる。
姫という立場上、異性との触れ合いは最低限しかない。こんな風に体温を感じられる程、近づいたのは護衛と国王であるお父様のみだ。
こんなにドキドキするのは、初めてだから?それともこの人だからかしら。
「言っておくけど、時間がないから仕方なくするんであって、別にお前がどうとかないからな」
「そんなに念を押さなくてもわかってるわ。まったく、あなたって雰囲気を壊す天才ね」
彼の言葉はまるで私の心を見透かしたようで、私は一人盛り上がっていたのが、とても恥ずかしくなる。私は別にショックなんか受けてない。呆れて溜息を吐いた。
だって、本当に言われなくても、ちゃんとわかっていたもの。
「さあ、登りましょう」
私はアートと手を繋いだまま、階段を一段上がった。
彼が手を繋いでいてくれるなら、いくらか気持ちを落ち着いた。これから竦まず階段を登れそうだ。
でもどうした事か、肝心の彼は、登ろうとしなかった。とても真剣な眼差しで、私を見下ろしている。
「どうしたの?」
私はまた何かを可笑しなことをしてしまっただろうか。彼を呆れさせてしまっただろうか。
私は首を傾げ、彼の返事を待ったが、結局、私の問いに対する答えは返ってこなかった。
アートは何も言わず身を屈め、不安にしている私を引き寄せ、腰に手を回した。
私を抱き寄せたかと思えば、今度は彼の大きな手が、指を絡ませ、私の手を包み込んだ。
掌に伝わる熱が、さっきよりずっと近い。
「え?何?」
ダメよ!さすがにこれはアウトだわ!淑女としてあるまじきことよ。
戸惑いつつも心臓は期待に早く打つ。顔が熱くなり、鏡がなくとも、自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。
ここが薄暗いのも感謝するばかりだ。そうでなければ、色々な事が彼に筒抜けだっただろう。
「ちょっと黙ってて」
アート顔が私の手と、触れそうなほど近づき、それに伴い、私と彼の体も近づく。
彼の息遣いを感じた、ほぼ同時に風が湧き起こり、彼の黒髪が風に踊る。私のドレスもはためいた。
「俺は魔力を開放する。彼女に羽を、俺は風になろう」
アートの唇が、私の手の甲に押し当てられた。
風はいよいよ強くなり、片手ではスカートを押えきれなくなった。
突然起こった一連のアートの行動は、私には情報量があまりにも多かった。
驚きやら恥ずかしいやら、戸惑う私を見下ろすアートは仏頂面で、何も答えてくれない。
彼が階段を軽く蹴った。
すると、私の体は、彼と一緒にふわりと宙に浮いた。
「手を離すと落ちるから」
言われなくても手は離さないし、それどころか両手で、彼の片手に捕まった。体は強張って、手に力が入る。
私はまるで風に翻弄される羽のようにフワリ、フワリ舞い上がった。
古い石造りの塔は苔むして、佇まいはいかにも町の重鎮といった雰囲気を醸している。
私が見た印象としては、城の塔よりも高いのではないだろうか。
「ここからは見えないけど、塔の天辺には、鐘があるんだ。この町の名物なんだ。ちょっとすごいぞ」
アートは私に手招きをして、当然の顔をして塔の中に入る。
「ちょっと、勝手に入って良いの?こういうのって管理している人以外入れなんじゃ……」
「大丈夫、管理しているの俺の家」
「え?そうなの?」
「そう、だから、扉も開いただろう?管理者として登録していない人では絶対開けられないの」
「そう……そうなら良いけど……」
「さ、行こうぜ」
本当に良いのか。私は言葉を飲み込んで、中へ入った。
塔の中はいつくか設けられている窓から差し込む明かりだけで薄暗く。そのおかげか外よりもいくらか冷やりとしている。
螺旋状の階段がひたすら上へ続いているだけの質素なつ造りで、窓に嵌められているガラスは色なしだが、曇っていて灰色がかっている。
「体力には自信があるんだろう?来いよ。すごいの見せてやる」
暗くて陰気な場所。いざとなった時逃げ場もない。リスクが高すぎる。私の中の理性が告げた。
だから、本当は断ってしまおうかと思った。
だけど迷っている間に、アートは階段を先に行ってしまい、私は意を決して上り始めた。
「手すりないから気を付けろよ。体力に自信のあるあんたなら、もちろん大丈夫だよな?」
「も、もちろんよ。それから私はアイナよ。言ったでしょう?アイナって呼んで」
「別に良いじゃねえか。あ、足元、本当に気を付けろよ」
「え、ええ……」
手すりもない階段は、実は慣れていない。
こうしていると、少し怖かったりもするのだけど、そんなの私のプライドが許さなかった。
壁に両手を付けて、一段ずつ、慎重に上がっていく。
ああ、私今気が付いた。
私っては高いところがそんなに得意ではないみたい。
下を見て、それから上を見て、どれだけ高くなるのか、想像すると足が竦んだ。
情けない顔で、立ちすくむ私を見て、アートは大げさにため息を吐いた。
「ったく、しょうがねえな。ほら、手かせ」
森では私の手を振り払ったのに。
「いいの?手を繋ぐの……嫌じゃないの?」
「別に嫌とかじゃ……ってかここではまた別だろ?嫌なら良いんだ。自分で登るか、降りても良いんだぞ?」
「待って!」
私は下ろされそうになった、彼の手を慌てて掴んだ。
傍から見れば、保護者に引率される子供だろうが、やはりというか、私はすごく心臓が早くなる。
姫という立場上、異性との触れ合いは最低限しかない。こんな風に体温を感じられる程、近づいたのは護衛と国王であるお父様のみだ。
こんなにドキドキするのは、初めてだから?それともこの人だからかしら。
「言っておくけど、時間がないから仕方なくするんであって、別にお前がどうとかないからな」
「そんなに念を押さなくてもわかってるわ。まったく、あなたって雰囲気を壊す天才ね」
彼の言葉はまるで私の心を見透かしたようで、私は一人盛り上がっていたのが、とても恥ずかしくなる。私は別にショックなんか受けてない。呆れて溜息を吐いた。
だって、本当に言われなくても、ちゃんとわかっていたもの。
「さあ、登りましょう」
私はアートと手を繋いだまま、階段を一段上がった。
彼が手を繋いでいてくれるなら、いくらか気持ちを落ち着いた。これから竦まず階段を登れそうだ。
でもどうした事か、肝心の彼は、登ろうとしなかった。とても真剣な眼差しで、私を見下ろしている。
「どうしたの?」
私はまた何かを可笑しなことをしてしまっただろうか。彼を呆れさせてしまっただろうか。
私は首を傾げ、彼の返事を待ったが、結局、私の問いに対する答えは返ってこなかった。
アートは何も言わず身を屈め、不安にしている私を引き寄せ、腰に手を回した。
私を抱き寄せたかと思えば、今度は彼の大きな手が、指を絡ませ、私の手を包み込んだ。
掌に伝わる熱が、さっきよりずっと近い。
「え?何?」
ダメよ!さすがにこれはアウトだわ!淑女としてあるまじきことよ。
戸惑いつつも心臓は期待に早く打つ。顔が熱くなり、鏡がなくとも、自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。
ここが薄暗いのも感謝するばかりだ。そうでなければ、色々な事が彼に筒抜けだっただろう。
「ちょっと黙ってて」
アート顔が私の手と、触れそうなほど近づき、それに伴い、私と彼の体も近づく。
彼の息遣いを感じた、ほぼ同時に風が湧き起こり、彼の黒髪が風に踊る。私のドレスもはためいた。
「俺は魔力を開放する。彼女に羽を、俺は風になろう」
アートの唇が、私の手の甲に押し当てられた。
風はいよいよ強くなり、片手ではスカートを押えきれなくなった。
突然起こった一連のアートの行動は、私には情報量があまりにも多かった。
驚きやら恥ずかしいやら、戸惑う私を見下ろすアートは仏頂面で、何も答えてくれない。
彼が階段を軽く蹴った。
すると、私の体は、彼と一緒にふわりと宙に浮いた。
「手を離すと落ちるから」
言われなくても手は離さないし、それどころか両手で、彼の片手に捕まった。体は強張って、手に力が入る。
私はまるで風に翻弄される羽のようにフワリ、フワリ舞い上がった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる