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夢に咲く花

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 受け取ったプレゼントはよれた薄紫のリボンで飾られ、落ち着いた青い花柄の包装紙にはいくつもの折り目がついている。
 不慣れながらも一生懸命包んでくれたのだろう。中身は、白い小さな花と青いブローチで装飾されたマフラーだった。
 白と淡いピンクとグレーのストライプのマフラーは孝宏から見ると少々可愛らしい印象を受けた。だがそれを手に取ってみると、むず痒い感情が湧き上がり自然と笑みが零れた。


「これ、もしかして作ってくれたの?」


「うん。お母さんみたいに上手じゃないけど……」


 確かに網目は荒く、ラインも歪んで見える箇所があった。しかし、少女がこの短期間で編んだにしては上出来と言える出来栄えだ。おそらく比べる相手が悪い。

 孝宏は気持ちを伝える為にあえて声を大きく、大げさに驚いて見せた。


「本当に!?すごく素敵なマフラーじゃないか!」


 孝宏が素敵だと思ったのは、決して嘘ではない。大げさに言ったのは自身の弟妹と接する時に使う方法だった。
 とはいえ、孝宏の弟妹よりも歳上の娘に通用するとは限らず、少々大げさすぎただろうかと、孝宏はチラリと娘を見た。

 だが心配の必要はなかったようだ。娘の表情を見るとまんざらでもない様子だった。
 娘ははにかみ言った。


「このブローチもね、私が作ったの」


「え!?コレ手作りで作れるの?」


 今度は孝宏も本当に驚いた。
 木彫りの細かいレースの枠に淡い青色の石がはめ込まれ、花の彫刻が施されている。職人の作品ならわかるのだが、少女が彫ったとなるとにわかには信じ難い。

 孝宏の驚きように娘だけなく、父親も兵士でさえもクスクス笑っている。


「もちろん作れるよ、結構簡単なんだよ。でもこれはその中でも特別綺麗にできたから、私の宝物だったの」


(きっと何度も何度も作って練習して、これは一番上手にできたんだろうな)


「そんな大事な物を、俺がもらっていいのか?」


「うん、もちろん。私お姉さんに助けてもらって、本当に嬉しかったの。だからね、あげたくなったの」


 孝宏は娘の気持ちが嬉しくて嬉しくて、心が解けるような、温かくなろうよな。この感情の高ぶりをどう表現したら良いのか分からなかった。だからありったけの気持ちを言葉に込めた。


「本当にありがとう。すごく嬉しい。大事に使わせてもらうね。マフラーも……このブローチも」


 礼を述べる孝宏に、少女は顔を見る間に真っ赤に染め、再び、父親の後ろに隠れてしまった。

 親子と別れ、孝宏は部屋に戻ってからもずっと笑みが絶えなかった。
 自分の行動の結果、このような反応が返ってくるのは初めての経験で、どう表現したら解らないが、少なくとも気分はすこぶる良い。


「ご機嫌だな。そんなにいいものもらったのか?」


 部屋に戻って来た孝宏を見て、カウルが言った。まだ筋トレをしている。孝宏は貰ったプレゼント包みから出してちらつかせた。


「でも物じゃねえよ。いや、物もすごいんだけどさ、気持ちが嬉しいの。俺、誰かにこんな風にお礼言われるのは初めてだったから、なんだか嬉しくて……」


「初めて?だってソコ……」


 カウルは何かを言いかけて止めた。怪訝そうに首を傾げると、ルイを揺すり起こした。


「おい!起きろ!」


「んんん……ったく、なんだよ……」


 気持ちよく寝ていたところを大声で起こされ、ルイは不機嫌にカウルを睨み付けた。 


「おい、ルイ。もしかして村の人の、タカヒロに伝えていないのか?お前が伝えておくって言っていただろう?」


「むらのお……伝えてって何の……あっあれか」


「それだ」


「忘れてた」


「まったく……」


「悪かったって」


「俺に謝れてもな」
 

 カウルは前で腕を組みため息交じりに言うと、孝宏にちらりと視線を送りすぐに逸らした。ルイは眠い目を擦りながらのそっと起き上がった。

 カウルが先ほど言いかけた言葉が引っかかり、孝宏はルイの目をまっすぐ見れなかった。

「忘れたんだけどさ」

 ルイも言いながら孝宏を見ていなかったが、見当違いの方向に視線を送る孝宏に気が付き、浮かない表情で孝宏を伺う。


「ソコトラの人達、タカヒロが集めてくれた遺品、すごく喜んでた。もちろん誰の物とか解らないものがほとんどだったんだけどさ。でも、これでお墓を作ってやれるって喜んでた。誤解してゴメンって言ってたよ」


 ソコトラでの出来事は、孝宏にとって思い出したくない苦い記憶だ。
 思い出さずにいられるならそのままでいたいと願う事も罪だと思いつつも、孝宏はソコトラの話題を避けていた。
 ルイもカウルも薄々気が付いていたが、二人ともあえて触れようとはしなかった。


「そっか……喜んでもらえたなら良かった」


 孝宏はの告白をルイに伝えた、とカウルから聞いたが、ルイから直接何かを言われたことはなかった。
 ルイが怒っているのか、悲しんでいるのか、許せないと感じているのか。
 孝宏は両手を握り合い、強張った表情の視線を自身の拳に落としたまま、顔を上げられなかった。
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