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夢に咲く花
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しおりを挟む「人によって判断基準が違うのか。道理で…………統一仕様がないから。それにしてもやけに詳しいけど、ばあさんは六眼を持っているんだよね?」
「ひっひっひっ……ああ。私には空の色と黄色がかった緑に見えたよ。父方のひいばあさんが六眼持ちでね。遺伝したのさ。私のばあさんと父親には遺伝しなかったけどね。しかし……」
ようやくルイの疑問に答えたら、今度は老婆の方が孝宏を不思議そうに見上げる。
「しかし六眼なんて生まれつきの能力だろう?普通は成長と共に制御できるようになるもんだけどね。何もわからずにいる奴は初めて会ったよ」
「えと、そ……ですか。今までよく考えたことなくて。ははっ」
乾いた笑いは明らかに不自然で、緊張が顔面に張り付いたままだ。
「気にならなかったって、変わった……」
「いくつか聞きたい事があるんだけど良い?」
老婆と孝宏の間にルイが割って入った。老婆は若干訝し気にしていたが、何も聞かずルイに見合った。
ルイと老婆が言葉を交わしているのを、孝宏はボーッと眺めていた。
六眼はつい最近手に入れた力だと言ったら、この老婆はどう思うだろうか。驚くだろうか。それともたまにはあるようだと笑うのか。
初めの印象と違い、意外と人が良さそうだが、知れば力の秘密を知りたいと、利用しようとするのだろうか。こんな人でも悪人何だろうか。
そこまで考えて、孝宏は頭を振って否定した。根拠などありはしないのに、人が良さそうな老婆が他人を騙そうとしていると、どうして思えるのか。
最近は何にでも悪い方へ見えてしまっている気がする。あまりにもそればかりで気分が悪い。地球で、日本で生活していた時は、こんな風に他人を初めに疑ってかかる癖はなかった。店で買い物をするとき、会計に疑問を持たないし、道行く人に親切にしてもらった時、裏があるなどと考えもしない。
多少抜けている感じもするが、あの頃はそれが普通だった。それはあの世界が、自分の住んでいたあの場所が平和だったからだろうか?今は住む世界が変わってしまったからだろうか。
「いや、違うか」
孝宏は小さく独り言ちた。
上着の内ポケットに手を伸ばしかけたが、折りたたまれた携帯電話を手に取る気分にはなれず、孝宏は両手をズボンのポケットに突っ込んだ。
孝宏は何気なしにふと空を見上げた。
古めかしい煉瓦造りの建物が両側に立ち並ぶ、その合間から見える四角い空が身を縮こませている。空はいつの間にか灰色の雲で覆われ、柔らかな日差しは遮られ、それ故空気は冷え込み、時折吹く風が体温を一層奪っていく。
突然吹き抜けた強い風に、ベランダの洗濯物が煽られ今にも跳びそうになっているのを、気が付いた女が慌てて押さえた。
ぼんやりと空を眺めていると、空中に一匹の小さな虫が浮かんでいるのが目に入った。強風が吹き抜ける中、空中にとどまっている様は不思議で余計に興味が湧いた。
全体的に黒っぽいその虫は、建物の二階ほどの高さ、ベランダから一メートル以上は離れている。長い足を左右に広げ、体を小刻みに揺らしながら止まって見えるほどの速度で、ゆっくりと移動している。しかし翅はないようだ。
もっとよく見ようとそれの真下に行くつもりで足を踏み出したが、孝宏はアッと短く声をあげ、二歩歩いた所で立ち止まった。
灰色の空に見事に同化していた糸が、きらりと艶を帯びて見えたのだ。
からくりが解ってしまえば何てことはない。長い脚を左右に四本ずつ、ただの蜘蛛だ。
それにしても大きな巣だった。通りを跨いで張られた巣は、小さな蜘蛛の身丈に似合わないほどに巨大で、人の子くらいならトランポリンにして遊べそうな程に分厚い。小虫を捕まえるにはあまりにも不釣り合いかと思えば、糸は細かく張り巡らせてあり、いかなる虫をも通さないだろう。
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