上 下
104 / 180
夢に咲く花

31

しおりを挟む


「人によって判断基準が違うのか。道理で…………統一仕様がないから。それにしてもやけに詳しいけど、ばあさんは六眼を持っているんだよね?」


「ひっひっひっ……ああ。私には空の色と黄色がかった緑に見えたよ。父方のひいばあさんが六眼持ちでね。遺伝したのさ。私のばあさんと父親には遺伝しなかったけどね。しかし……」


 ようやくルイの疑問に答えたら、今度は老婆の方が孝宏を不思議そうに見上げる。


「しかし六眼なんて生まれつきの能力だろう?普通は成長と共に制御できるようになるもんだけどね。何もわからずにいる奴は初めて会ったよ」


「えと、そ……ですか。今までよく考えたことなくて。ははっ」


 乾いた笑いは明らかに不自然で、緊張が顔面に張り付いたままだ。


「気にならなかったって、変わった……」


「いくつか聞きたい事があるんだけど良い?」


 老婆と孝宏の間にルイが割って入った。老婆は若干訝し気にしていたが、何も聞かずルイに見合った。

 ルイと老婆が言葉を交わしているのを、孝宏はボーッと眺めていた。


 六眼はつい最近手に入れた力だと言ったら、この老婆はどう思うだろうか。驚くだろうか。それともたまにはあるようだと笑うのか。
 初めの印象と違い、意外と人が良さそうだが、知れば力の秘密を知りたいと、利用しようとするのだろうか。こんな人でも悪人何だろうか。


 そこまで考えて、孝宏は頭を振って否定した。根拠などありはしないのに、人が良さそうな老婆が他人を騙そうとしていると、どうして思えるのか。


 最近は何にでも悪い方へ見えてしまっている気がする。あまりにもそればかりで気分が悪い。地球で、日本で生活していた時は、こんな風に他人を初めに疑ってかかる癖はなかった。店で買い物をするとき、会計に疑問を持たないし、道行く人に親切にしてもらった時、裏があるなどと考えもしない。
 多少抜けている感じもするが、あの頃はそれが普通だった。それはあの世界が、自分の住んでいたあの場所が平和だったからだろうか?今は住む世界が変わってしまったからだろうか。


「いや、違うか」


 孝宏は小さく独り言ちた。
 上着の内ポケットに手を伸ばしかけたが、折りたたまれた携帯電話を手に取る気分にはなれず、孝宏は両手をズボンのポケットに突っ込んだ。

 孝宏は何気なしにふと空を見上げた。
 古めかしい煉瓦造りの建物が両側に立ち並ぶ、その合間から見える四角い空が身を縮こませている。空はいつの間にか灰色の雲で覆われ、柔らかな日差しは遮られ、それ故空気は冷え込み、時折吹く風が体温を一層奪っていく。
 突然吹き抜けた強い風に、ベランダの洗濯物が煽られ今にも跳びそうになっているのを、気が付いた女が慌てて押さえた。

 ぼんやりと空を眺めていると、空中に一匹の小さな虫が浮かんでいるのが目に入った。強風が吹き抜ける中、空中にとどまっている様は不思議で余計に興味が湧いた。
 全体的に黒っぽいその虫は、建物の二階ほどの高さ、ベランダから一メートル以上は離れている。長い足を左右に広げ、体を小刻みに揺らしながら止まって見えるほどの速度で、ゆっくりと移動している。しかし翅はないようだ。


 もっとよく見ようとそれの真下に行くつもりで足を踏み出したが、孝宏はアッと短く声をあげ、二歩歩いた所で立ち止まった。
 灰色の空に見事に同化していた糸が、きらりと艶を帯びて見えたのだ。
 からくりが解ってしまえば何てことはない。長い脚を左右に四本ずつ、ただの蜘蛛だ。

 それにしても大きな巣だった。通りを跨いで張られた巣は、小さな蜘蛛の身丈に似合わないほどに巨大で、人の子くらいならトランポリンにして遊べそうな程に分厚い。小虫を捕まえるにはあまりにも不釣り合いかと思えば、糸は細かく張り巡らせてあり、いかなる虫をも通さないだろう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...