79 / 180
夢に咲く花
6
しおりを挟む
やがて唇が離れた。二人とも軽く息が上がっている。
「それで?何のようです?用事がないなら帰ってくれませんか?邪魔なんですよ」
カダンがいつもの辛辣な口調で言った。
ナルミーは一瞬真顔で、それからやや頬を緩め首を傾げた。
「おや?ずいぶんとあっさりした反応だね。もっと嫌がると思っていたよ」
ナルミーは腕をカダンの腰に回したまま、もう一度口づけようとしたが、今度はカダンが顔を反らし彼を避けた。
代わりにナルミーは、カダンの首筋にキスをしたが、それをカダンは鼻をで笑い飛ばした。
「野良犬に噛まれた位で騒ぐほど、生娘でもないですよ」
「あれが野良犬に見えたか、彼にも聞いてみるかい?」
ナルミーが孝宏に送った視線で、カダンは孝宏の存在にようやく気が付いた。
カダンはとっさに口を手で覆い、掌で唇を何度も拭う。
驚いて見開かれた、孝宏を凝視する瞳の奥で、感情が揺れている。
「いつからそこに?まさか、全部見て……?」
「覗くつもりはなかったんだけど……声が聞こえて、何だろうなって……」
孝宏の言い訳する声が震える。孝宏はカダンの顔をまともに見れず顔を反らした。
熱は引かないし、孝宏の動揺に腹の奥で凶鳥の兆しが息吐いる。
こんな気まずく思うなら、カダンに気が付かれる前に、さっさと逃げていればよかった。
「邪魔してごめん!」
孝宏はその場から立ち去った。後ろから引き止めるカダンの声がする。
御者席側から車の中をチラリと見たが、中には入らなかった。しかし、ここ以外どこにも行く場所もない。
孝宏は仕方なく近くの木の根元に、車に背を向けて座った。
「タカヒロ、少し良い?さっきのアレ……なんだけどさ」
背後からカダンが遠慮がちに声を掛けてきた。顔を見れず、孝宏は振り返らずに答えた。
「邪魔して悪かったって。言いふらしたりしないよ、俺……」
「違う、あいつと俺は変な関係じゃなくて、さっきのも無理やりっていうか、不意打ちで」
「そう、それは……本当に酷いな」
言われて見れば、確かにそうだったかも知れない。だが、それだけでもなかったように思えた。
孝宏が見た限り、カダンは抵抗なく流れに任せていた。そう思っても、孝宏は口には出さなかった。
「突然のことでびっくりして、逆に何もできなかったんだ。だって、まさかあんなことするとは思わないだろう?」
「確かに、びっくりして固まってしまうかもな……そういう関係じゃないなら」
そういうこともあるだろう。しかしそう言う割にはずいぶんと余裕があった。
ナルミーでさえも首を傾げたほどだ。そう思ったが、やはりそれも言わなかった。
「それに嫌がって抵抗して、あいつを喜ばすのも癪だったから。だから俺とあいつは何の関係もなくて、むしろ俺は嫌がっているって……いうか……」
「へえ、わかったよ。結構強引な人なんだな、あの人」
確かに普段の態度はそのように見える。
初めはツンデレなんて、特殊な状況かとも思ったが違ったようだ。
「っていうか……そう、俺とあいつは何でないから。さっきのは……」
「だから、関係ないのは解ったよ。何で長々と言い訳してるんだよ」
孝宏はようやく振り返った。カダンは困惑した様子で、どう言おうか迷っている。
カダンは考えて口を開いた。
「何でって…誤解してるみたいだったから」
「誤解ね。わかった。カダンとボウクウさんは、キスはするけど、そんな関係じゃないってことか?」
「だからそれが誤解だって言ってるの。あの人ふざけて俺をからかって遊んでるだけ。たちの悪い悪戯だよ」
孝宏は見たままを言ったつもりだったが、カダンはお気に召さなかったようだ。言い様に力がこもる。
「だから、それは解ったって」
「解ってないから、言ってるじゃないか!」
カダンの口調は荒げ、孝宏の肩を掴んだ。
解ってる、解ってないと繰り返しやり取りしていると、孝宏は本当に何が解っていて、何を分かっていないのか混乱してきた。
カダンは孝宏が何を言ってもお気に召さないらしく、不満を隠そうともしない。
孝宏もカダンがムキになればなるほど、何かあるのではと勘ぐってしまう。
「ボウクウさんはちゃんとカダンが好きだと思うぞ。ふざけてるとは限らない」
ふと思って、素直に口に出して言った。根拠がないわけではない。カダンは信じられないと、首を横に振った。
「あの人、たまにカダンを優しい目つきで見てるぜ?カダンがそんなんだから、ああいう態度しか取れないんじゃないか?確かに子供っぽいけど」
小学生が好きな子にする、思春期のアレだ。
ただ言葉を交わしたいだけなのに、どうして良いか解らず、つい意地悪を言ってみたり、ちょっかいを出したり。そのくせ見えない所で、感情を露わに見つめたりするものだ。
(そういうの、そのままじゃないか)
キスまでするのなら、保護者的な感情でもないだろう。
カダンの機嫌は、いよいよ悪くなっていった。
表情硬く孝宏を睨みつけ、肩を掴む手に力が入る。指先が皮膚にぐっと食い込んだ。
「痛いっ」
孝宏が小さな声で訴えると、カダンは力を抜いた。
「それ本気で言ってるの?ありえないね。あいつは珍しい人魚ってだけで、俺をコレクションに加えたがってるだけ。あんなの真剣に考えろって?バカげてる」
「バカげてるって…カダンこそそのバカげた考えをどうにかした方が良いと思う」
「それで?何のようです?用事がないなら帰ってくれませんか?邪魔なんですよ」
カダンがいつもの辛辣な口調で言った。
ナルミーは一瞬真顔で、それからやや頬を緩め首を傾げた。
「おや?ずいぶんとあっさりした反応だね。もっと嫌がると思っていたよ」
ナルミーは腕をカダンの腰に回したまま、もう一度口づけようとしたが、今度はカダンが顔を反らし彼を避けた。
代わりにナルミーは、カダンの首筋にキスをしたが、それをカダンは鼻をで笑い飛ばした。
「野良犬に噛まれた位で騒ぐほど、生娘でもないですよ」
「あれが野良犬に見えたか、彼にも聞いてみるかい?」
ナルミーが孝宏に送った視線で、カダンは孝宏の存在にようやく気が付いた。
カダンはとっさに口を手で覆い、掌で唇を何度も拭う。
驚いて見開かれた、孝宏を凝視する瞳の奥で、感情が揺れている。
「いつからそこに?まさか、全部見て……?」
「覗くつもりはなかったんだけど……声が聞こえて、何だろうなって……」
孝宏の言い訳する声が震える。孝宏はカダンの顔をまともに見れず顔を反らした。
熱は引かないし、孝宏の動揺に腹の奥で凶鳥の兆しが息吐いる。
こんな気まずく思うなら、カダンに気が付かれる前に、さっさと逃げていればよかった。
「邪魔してごめん!」
孝宏はその場から立ち去った。後ろから引き止めるカダンの声がする。
御者席側から車の中をチラリと見たが、中には入らなかった。しかし、ここ以外どこにも行く場所もない。
孝宏は仕方なく近くの木の根元に、車に背を向けて座った。
「タカヒロ、少し良い?さっきのアレ……なんだけどさ」
背後からカダンが遠慮がちに声を掛けてきた。顔を見れず、孝宏は振り返らずに答えた。
「邪魔して悪かったって。言いふらしたりしないよ、俺……」
「違う、あいつと俺は変な関係じゃなくて、さっきのも無理やりっていうか、不意打ちで」
「そう、それは……本当に酷いな」
言われて見れば、確かにそうだったかも知れない。だが、それだけでもなかったように思えた。
孝宏が見た限り、カダンは抵抗なく流れに任せていた。そう思っても、孝宏は口には出さなかった。
「突然のことでびっくりして、逆に何もできなかったんだ。だって、まさかあんなことするとは思わないだろう?」
「確かに、びっくりして固まってしまうかもな……そういう関係じゃないなら」
そういうこともあるだろう。しかしそう言う割にはずいぶんと余裕があった。
ナルミーでさえも首を傾げたほどだ。そう思ったが、やはりそれも言わなかった。
「それに嫌がって抵抗して、あいつを喜ばすのも癪だったから。だから俺とあいつは何の関係もなくて、むしろ俺は嫌がっているって……いうか……」
「へえ、わかったよ。結構強引な人なんだな、あの人」
確かに普段の態度はそのように見える。
初めはツンデレなんて、特殊な状況かとも思ったが違ったようだ。
「っていうか……そう、俺とあいつは何でないから。さっきのは……」
「だから、関係ないのは解ったよ。何で長々と言い訳してるんだよ」
孝宏はようやく振り返った。カダンは困惑した様子で、どう言おうか迷っている。
カダンは考えて口を開いた。
「何でって…誤解してるみたいだったから」
「誤解ね。わかった。カダンとボウクウさんは、キスはするけど、そんな関係じゃないってことか?」
「だからそれが誤解だって言ってるの。あの人ふざけて俺をからかって遊んでるだけ。たちの悪い悪戯だよ」
孝宏は見たままを言ったつもりだったが、カダンはお気に召さなかったようだ。言い様に力がこもる。
「だから、それは解ったって」
「解ってないから、言ってるじゃないか!」
カダンの口調は荒げ、孝宏の肩を掴んだ。
解ってる、解ってないと繰り返しやり取りしていると、孝宏は本当に何が解っていて、何を分かっていないのか混乱してきた。
カダンは孝宏が何を言ってもお気に召さないらしく、不満を隠そうともしない。
孝宏もカダンがムキになればなるほど、何かあるのではと勘ぐってしまう。
「ボウクウさんはちゃんとカダンが好きだと思うぞ。ふざけてるとは限らない」
ふと思って、素直に口に出して言った。根拠がないわけではない。カダンは信じられないと、首を横に振った。
「あの人、たまにカダンを優しい目つきで見てるぜ?カダンがそんなんだから、ああいう態度しか取れないんじゃないか?確かに子供っぽいけど」
小学生が好きな子にする、思春期のアレだ。
ただ言葉を交わしたいだけなのに、どうして良いか解らず、つい意地悪を言ってみたり、ちょっかいを出したり。そのくせ見えない所で、感情を露わに見つめたりするものだ。
(そういうの、そのままじゃないか)
キスまでするのなら、保護者的な感情でもないだろう。
カダンの機嫌は、いよいよ悪くなっていった。
表情硬く孝宏を睨みつけ、肩を掴む手に力が入る。指先が皮膚にぐっと食い込んだ。
「痛いっ」
孝宏が小さな声で訴えると、カダンは力を抜いた。
「それ本気で言ってるの?ありえないね。あいつは珍しい人魚ってだけで、俺をコレクションに加えたがってるだけ。あんなの真剣に考えろって?バカげてる」
「バカげてるって…カダンこそそのバカげた考えをどうにかした方が良いと思う」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
聖人様は自重せずに人生を楽しみます!
紫南
ファンタジー
前世で多くの国々の王さえも頼りにし、慕われていた教皇だったキリアルートは、神として迎えられる前に、人としての最後の人生を与えられて転生した。
人生を楽しむためにも、少しでも楽に、その力を発揮するためにもと生まれる場所を神が選んだはずだったのだが、早々に送られたのは問題の絶えない辺境の地だった。これは神にも予想できなかったようだ。
そこで前世からの性か、周りが直面する問題を解決していく。
助けてくれるのは、情報通で特異技能を持つ霊達や従魔達だ。キリアルートの役に立とうと時に暴走する彼らに振り回されながらも楽しんだり、当たり前のように前世からの能力を使うキリアルートに、お供達が『ちょっと待て』と言いながら、世界を見聞する。
裏方として人々を支える生き方をしてきた聖人様は、今生では人々の先頭に立って駆け抜けて行く!
『好きに生きろと言われたからには目一杯今生を楽しみます!』
ちょっと腹黒なところもある元聖人様が、お供達と好き勝手にやって、周りを驚かせながらも世界を席巻していきます!
追放された回復術師、実は復元魔法の使い手でした
理科係
ファンタジー
冒険者パーティー【満月の微笑み】で回復術師として従事していたラノイは、その使い勝手の悪さからパーティーを追い出されてしまう。追放されたラノイは旅をする中で、商人であり鑑定魔法を持つチョウカと出会う。事情を話したラノイはチョウカの鑑定魔法を受けることに。
その結果、ラノイは回復術師でなく復元術師であることが判明した。
ラノイのこれからの運命はどうなってしまうのか!?
タイトル変えました。
元タイトル→「幼馴染みがパーティーから追放されたので」
小説家になろうでも載せています。
超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。
紫(ゆかり)
ファンタジー
第2章 帝国編
皇妃は自分の娘をルイフォードと結婚させ、帝国だけではなく王国迄乗っ取ろうと企てている。
その為、邪魔なカルティアを排除しようと、暗殺者を送り込んで来た。
皇女も、カルティアは婚約破棄された哀れな令嬢と位置付け、ルイフォードと親睦を深めようとしている。
常識を覆した魔物、不穏な西の国、皇妃の企み。
様々な陰謀に巻き込まれながらも、聖女の正体を暴き聖物を探す為、カルティアは大聖堂に罠を張っていく。
その合間で、ダンジョンに潜りながら、不思議な出会いを繰り返した。
王命を受けて帝国へ留学して来たカルティア達は、無事任務を遂行し、皇妃の企みから王国を救う事が出来るのだろうか?
ルイフォードを蔑ろにされ、激怒したカルティアは、新たな決意をする事になる。
魔術の詠唱文は無い知恵を振り絞って考えています。
そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜
Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・
神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する?
月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc...
新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・
とにかくやりたい放題の転生者。
何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」
「俺は静かに暮らしたいのに・・・」
「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」
「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」
そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。
そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。
もういい加減にしてくれ!!!
小説家になろうでも掲載しております
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。
しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。
突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。
『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。
表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる