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冬に咲く花
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しおりを挟むカダンの告白を、孝宏は黙って聞いていた。
カダンは一度も孝宏を見ようとしなかったが、カダンが話し始めてから、孝宏は一度も目を離さなかった。
マリーがチラリと横目で見ていたのは、気が付いていた。何か言いたいのを我慢しているのだろうが、今カダンの話を中断させるほどのことでもないなかったのだろう。黙って聞いていた。
「それでどうして俺が引き受けるって思ったんだよ。やっぱりそれも暗示をかけたんじゃぁ……」
「それは誓ってやってない。ただタカヒロは自分にできることは、自分で何とかしようとするだろう?だから自信さえ持てば、必ず引き受けてくれるって。………もう何をしてもダメで、鍵も失ってしまって…………だから…」
「俺が鳥の力を暴走させた時の。あれもそうなんだんよな?」
カダンは一瞬の躊躇の後、無言で頷いた。孝宏の握る拳に、深く爪が食い込んだ。
「仕方なかったんだろう?そのおかげで助かったわけだし?………怒鳴ってごめん」
言えたのはそれだけだった。
結局は力を制御できず、火を暴走させ、さらにその暴走を止めたのも、彼がいてこそだ。
(俺は所詮ただの中学生。何もできない……子供だ)
「俺便所に行ってくる。すぐに戻るから、二人は先に寝ててよ」
そう言ってその場を離れようとした孝宏に、マリーは何も言わなかったが、カダンが呼び止めた。カダンは自分が着ていた上着を脱いで、孝宏に差し出した。
「森の中は危険だから、………気を付けてね」
「……分かったよ」
孝宏はそれを受け取り、軍のテントが並ぶ方へ、足早に向かった。
上着は直前まで彼が着ていただけあり、とても暖かかった。微かに香るのは、彼の匂いだろうか。
(まさかずっと着てたやつ?……まあいいか、暖かいし)
テントの中は静まり返り、足音さえもはばかれるとはいえ、見張りの兵士たちがいるわけで、何人かには声を掛けられた。夕方の一件を見ていた人たちだろう。
「こんな時間にどうしたんだ?」
一番大きなテントの横を通った時だった。
近くで見張りをしていた兵士に呼び止められた。
鎧を身に着け、手には大きな槍を持って立っている。
松明に浮かび上がる容姿は鱗も羽毛もなく、孝宏と何ら変わらない。歳は自分の父親と同じくらいか、炎よりも赤い、特徴的な髪が風になびく。
「お前、もしかして奇跡の子か?ほら、結界焼いたの、お前さんだろ?」
「確かに俺ですけど。……奇跡の子って……俺なんかに……」
奇跡の子などと呼ばれると、特に今は嫌に複雑な気持ちになる。
孝宏が頷くと、兵士は人の良い笑みを浮かべた。そうかと何度も頷き、繰り返し礼を言った。
「実はな、あの中に友人がいたんだ。俺もこの村の出身で、今回自分で志願したんだか、どうしようもなくて、本当は諦めていたんだ。でもあんたのおかげで、また友人と会えた。ありがとう」
「いえ、俺は大したしてませんから」
「子供が謙遜なんかするな。あんたは多くの人の命を救ったんだ。俺もおかげで救われた」
「……ありがとう……ございます」
「あんたが何で、礼を言うんだ?はははっ!おかしな坊主だな」
たったそれだけの出来事だった。たったそれだけで胸の奥でくすぶっていた火が、少しずつ小さくなっていく。
孝宏は唇を噛んで顔を俯けた。つま先で地面をトントンと軽くノックする。
「俺、戻らないと。お休みなさい」
足先は自然と来た方角を向いた。
「そこにいる子供は、教会を燃やしたやつじゃないのか?」
孝宏が兵士に背中を向け、馬車に戻ろうとした時だった。
突然しわがれた声が、テントと孝宏の間にストンと落ちた。
体を強張らせ声の方を振り向くと、大きなテントの出入り口に、よれた服装の男が立っていた。
テントの幕に両手でしがみ付き、膝はくの字に曲がったまま。立っているのもやっとなのだろう。
「教会を燃やしたんじゃなくて、教会の結界を焼いたんだよ」
兵士が声を潜めて言った。引きつった笑みが、兵士の顔に浮かぶ。それでも男は言うのを止めなかった。
「やはりそうなんだな?その子供が私たちを殺そうとしたんだな!?」
「いや、それは違う!彼は結界を焼いて、あんた達を助けてくれたんだ」
「そんなはずがあるか!私は見たんだこいつが炎を操るところを!」
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