53 / 180
冬に咲く花
50
しおりを挟むマリーの言葉を聞いて、カダンは何故が浮かない表情だ。
「俺が言うのも変だけど、どうしてそこまでするの?マリーやタカヒロには関係ないじゃないか。この村も、この世界も……」
「酷いこと言うのね。私たちもう仲間でしょう?次関係ないって言ったら、ぶっ飛ばすよ」
仲間、この単語が孝宏の胸の深い場所で引っかかった。
不確かな疑惑が、宙ぶらりんのまま心の中でブランコのように揺れている。
心拍に合わせて1・2・3、心の中で数えた。……7・8・9・10を数える時には決心がついた。
孝宏はカダンに向かい合った。
「カダンに聞きたい事があるんだ」
「な、ナニ?」
孝宏の雰囲気の変化を感じ取ったのか、カダンの声が上ずった。
「カダンさ、あの時ボウクウさんに何かしただろう?」
「あの時って?」
「結界を破った後だよ。俺とボウクウさんとカダンでいた時。ボウクウさんいきなり意見変えた」
「ああ、あれか。すごいね、どうしてわかったの?」
拍子抜けするほど、カダンはあっさり認めた。
彼の中では、特別でない出来事の一つでしかないのだろう。
感情に任せて孝宏を包む火の勢いが増した。
片手をお腹に当て、服をぎゅっと握り込んで、精神を落ち着かせようとしても、火は弱まるどころか、徐々に勢いを増している。
「やっぱりそうなんだ?」
握る拳に力が入り、そういう孝宏の声は震えている。
「余計な興味を持って欲しくなくて、ボウクウに暗示をかけたんだよ。早くどこかに行って欲しかったし」
それは最も原始的な魔法だと、カダンは言った。
どんな言葉も力を持ち、やがて現実になろうと働く性質を持っている。その言葉に魔力を乗せるだけの魔術。
本能で使う魔術なのだそうだ。
大昔にはどの種族も使えたが、今では現代では極僅かな種族が使えるだけになった。その代り、昔には無かった魔術が、今ではいたるところに溢れている。
「他の魔法と違って、形式的なのは一切ないから、気付かれたことないんだけどな。どうしてわかった?」
「そりゃぁ、見ればわかるよ」
納得のいかないカダンは何度も首を捻り、目をチカチカ光らせ、マリーと顔を合わせながらどうだろうなどと言い合っている。
「じゃあ、夕方の林でのもそうなんだ?」
「は?」
カダンは首を傾け孝宏を見た。
孝宏は全身の炎を一瞬にして消し去った。空気が肌を刺すのも気にならない。
孝宏はカダンの肩を掴んで、無理やり体をこちらを向かせた。きょとんとしたカダンと目が合う。
「林の中で、俺にも暗示をかけたろう?」
「あ……」
カダンが顔が明らかに引きつった。
暗い中でもわかる程に動揺しており、手で口を押え、視線が泳ぐ。
孝宏の手を振りほどこうと身じろぐが、孝宏が一層力を込めるのですぐに諦め、孝宏を見上げた。
「やっぱり、その魔法で俺を操ったんだ?操って、結界を燃やさせたんだ」
「いや、俺はそんな……そんなつもりじゃぁ……あ、そうじゃなくて……」
「ずっと妙な感じはしてたんだ。あれは魔法をかけられていたなんだ」
「俺はそんなつもりじゃ……誤解だよ」
「何が誤解?俺に暗示をかけのは本当だろう!?俺が鳥の力を使うように、暗示をかけたんだろう!?」
「だから俺は………」
「今更なんだって……」
「ちょっと待ちなさい!二人とも!」
孝宏とカダンの間にマリー割って入った。カダンを背にし、孝宏に向き合う。
「それまでよ。ちゃんとお互いの話を聞かないでどうするの?」
「だって……」
「だってじゃない!決めつけられて、話を聞いてもらえないのは辛いものよ?タカヒロだって解るでしょう?」
そう言われては孝宏も黙るしかなかった。
二人の間からマリーが退いて、一度はカダンと目が合ったものの、すぐに反らして俯いた。
「俺にはタカヒロが自信を持っていないように見えてた」
過剰な自信は慢心を生み、失敗の原因にもなる。逆に自身を執拗に卑下するのもまた、失敗を生む要因の一つになる。
言葉とはやがて現実になろうと働く性質を持っている。それを言霊という。
カダンの使う原始的な魔法とは違うが、言葉にするだけで、良いも悪いも起こってしまうという考え方だ。
言葉は外へ発せられるものに限定されず、思えばそれだけで自分自身に影響が出るものだ。
「だから俺は自信を持てるよう、暗示を……軽くかけた。それだけだよ。でも結界をタカヒロに壊してもらうつもりだったから、操った言えるのかな。だってそうすれば孝宏は、引き受けてくれるって分かってたから」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる