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冬に咲く花

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 村は想像していた以上に悲惨な場景だった。

 焼け焦げ枠組みだけになった二階建ての家。

 外塀だけ残して、煤けて崩れ落ちてしまったガレキの山。


 カウルとルイは言葉もなく、涙も流さず、立ち尽くして目に映る場景をただ眺めていた。


「家の様子を見に行かないと」


 カウルがガレキの中に足を進めた。当然の様にルイもそれに続く。

 村の荒れようはもはや道はないに等しいが、二人はかつてあった道をなぞって進んだが、視線は一方向に固定され足下を見ないものだから、何度も躓いては転んでいる。


「あの二人が心配だから私が一緒に行ってくる。孝宏はここで待っててくれる?」


「ああ、気をつけて」


 二人を追ったマリーが小走りに二人に近づいて、転んだルイに手を差し出したが、ルイはそれに見向きもしない。今の二人にはマリーやましてや孝宏の事などまるで見えていないようだ。

 牛たちを放置できず、孝宏はその場に残り牛の手綱を握った。


「お前たち少しだけ大人しくしてろよ。お前らが大好きなカウルの一大事なんだ。お前らがいなくなったら、カウルが悲しむから、ここで俺と一緒に待ってような」


 生きている動物を、息遣いを感じとてる距離でじっくり見たのは初めてだった。 

 まつ毛が長いとか、白目がなくて真っ黒な瞳は、太陽の光を反射して宝石のようだとか。ツルツルして、毛並みは触り心地が良いとか、頭部に生えた二本の角は、薄い縞模様だとか。

 体を長い毛で覆われているから分かりにくいが、孝宏が良く知る牛とは違い細身なのは、見ているだけでは気づかなかった。先入観だろうか。始めて知ることばかりだ。


(意外と大人しいな。暴れたらどうしようかと思ってたけどこれなら……)


「そこで何をしているんだい?」


「ぅわっ!」


 孝宏は夢中で牛を眺めていたので、兵士が近くまで来ていると気が付いていなかった。

 一人はまだ離れた所を、こちらに歩いてきておりおまだ距離あった。もう一人は上背のある女で、孝宏のすぐ背後に立っていた。

 藍鉄色の胸当てに篭手、すね当。胸に細い線で赤い花が描かれている。

 印象としてはナイトというよりも足軽に近い。警察の特殊部隊にもいそうな雰囲気もあるかもしれない。

 兵士の女は腰に手を当て何故か空を眺めていたが、孝宏が振り返ると、薄ら笑みを浮かべ大げさに地面を指差した。


「君はここで何をしているんだい?」
「完結に答えたまえ」
「私は忙しいのだよ!」


 女は言う度にポーズを変え、孝宏を指差し、最後に自分の胸に手を当てた。

 相手にどう見えるか、考えた上での行為だ。一つ一つのポージング自体は確かに格好が良い。

 彼女は計算高く頭の良い人か、よほどのアホか。どちらにしても面倒な人なのだろう。


「ゆ、友人を待ってます。何か……すみません」


 孝宏はただ圧倒されて、間の抜けた返事になった。

 これがナルシストとかと、孝宏は感心して眺めてから、自分の中の偏見に気がついた。

 彼女は筋肉質の立派な肉体と美しい顔を持っていた。間違いなく彼女は容姿で魅せる人だ。そして間違いなく変人だ。


(ナルシストじゃなくて、ただポーズを決めるのが好きな人なのかも知れないし……)


 可能性は一つじゃない。決め付けてかかるのはある意味危険な行為の一つだ。


「あの、それはクビレを作る新しい運動ですか?」


 しかしとても聞かずにはいられなかった。失礼かもしないとも考えたが、興味の方が勝ってしまった。

 兵士はパンッと一回両手を打ち、掌を上にして両腕を左右に広げた。


「はっはっはっは!君は面白い事を言うね」
「でも君の言うとおり、これは美しいボディを維持するのに良いのだよ」
「だって私がこれほどにも美しいのだからねぇ」


「そ、そうですか。すごいです」


 そこでようやくもう一人の兵士が追いついた。同じ防具を身に付けているのだから、彼の仲間なのだろうが、こちらはいたって平凡な出で立ちだ。ポーズも決めなければ、妙な言い回しもない。

 孝宏はいくらか安心した。


「君、今この周辺は一般人立ち入り禁止だよ。検問所とかで聞かなかったかい?」


「き、聞きました。でも……友人がこの村の出身で、俺はその間留守番で。あいつらもすぐ……いや違くて。そうっちじゃないです。俺たちはちゃんと事前に連絡して、頼まれた物資を運んで来ただけで……」


 支離滅裂で説明が全く説明になっていないのは、どこから説明したものか考える前に口を開いてしまったためだ。兵士たちも呆れたことだろう。


(中学生!もう中3なのに!しっかりしろ、俺!)



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