平安ROCK FES!

優木悠

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第四章 たたかうやつら

四ノ十三 瓦解する平和

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 源頼光みずからが、軍を率いて攻め寄せてくる、という情報は、京にいた土蜘蛛の残党からもたらされた。

 京を発した千人ほどの軍が、八十キロ近い山道を不眠不休で歩き続けたのだろう、翌日には福知山に到達している。

 明日にもこの村に攻め寄せてきても不思議ではない。

 矢のような速さであった。

 村人が何十人も朱天の家に集まってきて、不安と混乱で収集がつかないようなありさまとなった。

 ともかく、村人の取りまとめ役である喜造が居間にあがってきた。

「まったく言わんこっちゃない」

 憤懣やるかたないといったふうに、喜造は言った。

「ああ、きっと玉尾だ」熊八が申し訳なさそうな顔をした。「こないだから姿が見えなくなったと思ったら、この騒ぎだ」

「誰が密告したとか、犯人さがしをしたところでいまさら無意味だ。お前が気に病む必要もない、熊八」朱天がなだめるように言う。

「やっぱり、俺達はこの村を去ろう」茨木が意を決したように言った。「俺やあやめさんや虎丸がいなければ、やつらだって攻める口実がなくなるだろう」

「そうひとり合点に話を進めるな」朱天が答える。「先遣隊とか刺客を送り込むとかではなく、いきなり軍を動員してくるあたり、本気でこの村を潰す気だとみていいだろう。咎人とがにんをかくまった時点で村人もまるまる咎人というわけだ」

「じゃあ、俺達を縄で縛って、綱の前に引き連れて行ってくれ」

「いや、それはならん、友達を売るような不義理はせん」

「ならばどうする」喜造がいらだたしそうに言う。「武器もないのに、武士の軍勢と戦うのか?」

「武器ならあるぞ」

 平然とした調子であやめが言うのに、朱天が答えた。

「どこにあるというんだ」

「なんじゃ、おぬしら三年もいて気づかなんだのか。ここから大江山の山頂に登る途中に、洞窟があってな、弓も矢も、太刀も、たんと隠してあるぞえ」

「あ、あきれるな、土蜘蛛という組織には」

「武器があったって、全員が戦えるわけじゃあない。女子供もいるし、戦う意欲のない者だっているだろう」喜造が舌打ちした。

 朱天は黙り込んで、じっと囲炉裏を見つめた。

 その額には焦燥と苛立ちと不安がないまぜになったような汗をかいている。

 ――いくつかの案はある。だが、どの案をとっても、必ず失敗する可能性がつきまとう。

「喜造、とりあえず戦える気があるものだけ集めてくれ。その人数を見て今後の方策を決めたい」

 朱天は苦渋に満ちた表情で言った。

 喜造が答える。

「戦う気がない者や戦えないものはどうする。このままじゃ村が分裂するぜ」

「朱天、聞いてくれ」金時は眉間にシワをよせて話した。「今度は頼光の親父がじきじきに乗り出してくるという。俺は、戦えねえんだ。相手が綱ならまだしも、頼光の親父にはどうしても歯向かえねえ。すまねえな」

「いや、それは仕方ない。お前が恩人に弓引くような義理の欠けた男ではないことは、わかっている」

「ありがとう、朱天さん。そこで提案だ。俺は村を去ろうと思う」

「なんだって、唐突に」

「まあ、聞いてくれ。俺は朱天組の一員だ。その朱天さんと仲良しの俺が、村を去るとしたら、戦いたくない奴らも、村を出て行きやすいんじゃないかな」

「つらい役だぞ、金時。臆病者の烙印を押されるかもしれん。裏切り者とののしられるかもしれん」

「承知の上だ」

「わかった。ではこうしよう。戦うものも含めて、村に残る者は喜造の家に集めてくれ。村から出て行きたい者は、金時の家に」

 その後で決めよう、と朱天は思った。

 戦えるほどの人数が村に残ってくれれば戦おう。

 でなければ、村人全員で逃げよう。

「それと同時に、朱天さん、やらせてもらいたいことがある。いや、去る前にこれだけは絶対にやっておかなくっちゃいけない」

「なんだ、金時」

「軍団に乗り込んで、今度の軍旅の意味を問いただしにいきたい。詰問使さ」
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