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ダークエルフの帰還
食堂での語らい
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山のようにあったブリスケはすべて焼き上がり、火を通す前に使っていた容器は空になっている。
デンスケが調理場と食堂を行き来して配膳を進めてくれたが、これで手が空いたので手伝うことにした。
両手に皿を持って廊下を移動して、兵士の食堂へと足を運ぶ。
途中で肉が冷めるのでは思うほどの長い廊下で、調理を終えた後では疲れを感じる距離だった。
やがて食堂にたどり着き、そそくさと中に入る。
「――おおっ、これはすごい!」
これまでにどこにいたのかと思うほど、室内にはたくさんの兵士がいた。
ほとんどの人が着席していて、思い思いにブリスケを味わっている状況だ。
「大将、その皿はこっちに頼んます」
食堂の様子に驚いているとデンスケの声が聞こえた。
少し離れたところにいる彼は、こちらを手招きして呼んでいる。
いつの間にか大将と呼ばれているが、自分の店にいる時にオーナーあるいは店主と呼ばれることは多くないので、何だか誇らしい気持ちになる。
自分の顔がほころぶのを感じながら、デンスケのところへ近づいた。
「これで最後の皿ですけど、肉は足りそうです?」
「へい、おかげさまで全員に行き渡りやした」
「それならよかった。こんないい肉をお預けなんて、酷なことはないですから」
ここから見る限りほぼ全員が着席してブリスケを食べている。
過不足がないか気になっていたが、多めに買ってきて正解だったようだ。
こうして食堂の様子に満足していると、隣に人の気配を感じた。
「……あれ、デンスケさん? まだ何かありましたか?」
「肉は十分なんで、大将も一緒にどうっすか?」
デンスケは空いた席を指差している。
彼だけでなく他の兵士も歓迎するように笑みを浮かべていた。
「皆さんの分が足りるなら、お言葉に甘えて」
「さあさあ、そこに座ってもらって」
俺は椅子に腰を下ろして兵士たちの様子に目を向けた。
肉だけではバランスが悪いかと思ったが、彼らが普段食べているような料理――先ほどのガレや野菜料理――も一緒に並んでいた。
一見するとヘルシーなようで身体が資本の兵士には物足りないとしても、ブリスケの付け合わせとしてはいい組み合わせだ。
「……すいません、ここは箸しかないですが」
正面を向いて食べ始めようとすると、隣の席の兵士が筒状の箸入れから箸を抜いて差し出してくれた。
こちらに遠慮がちなのは見た目が日本人風ではないことで、箸が使えるか半信半疑だからだろう。
「ありがとうございます。問題なく使えるので」
俺は表情を緩めて応えた。
すると兵士は安心したように微笑んだ。
「よろしければ、こちらもどうぞ」
今度は向かいに座る兵士が小鉢とガレの乗った皿を近づけてくれた。
盛りつけに困らないようにという配慮なのか、すでにガレの上には副菜が盛られている。
「ありがとうございます。これも食べさせてもらいます」
こちらとのやりとりが済むと兵士たちは食事を再開した。
皆一様にブリスケに夢中なようで、なかなかの食べっぷりだった。
実現するには課題が多いものの、焼肉屋のヒイラギ支店を始めたら売上が見こめそうな気もする。
自分だけ食べないわけにもいかず、それに何より空腹だった。
手にした箸を使って焼けたブリスケを掴み、用意してもらった小皿に入ったタレをつけて口へと運ぶ。
すでに味見を済ませているが、口の中で味わうと改めて美味しさが分かる。
バラムへ帰ったらセバスに美味い部位を見つけたと教えてやりたい。
俺はブリスケを飲みこんだ後、ガレに手を伸ばした。
食べ方はシンプルで、具材を乗せた状態で手巻き寿司のように巻くだけである。
きれいに巻けたところで噛んでみると、塩気とほのかな甘みのある生地と具材の味が口の中に広がった。
「塩分控えめで身体によさそうな味つけですね」
誰にともなく自然と言葉が出た。
そんな俺の反応に応えるように近くにいた兵士がこちらを向いた。
「今日はさっぱりめの味つけの日なので、異国の方からすれば薄味でしょうね」
どうやらその兵士は調理を担当するうちの一人のようだった。
ガレに乗せる具材はローテーションで変えており、その日ごとに味つけが違うとのことだ。
当番の兵士ごとに味の違いが出てしまうため、大まかにさっぱりめの日と濃いめの日で分けているらしい。
「物足りない時はこれをかけるといいですよ」
今度は別の兵士が話しかけてきた。
その手には竹製の小さな調味料入れがあった。
「ありがとうございます。これ中身は何が?」
「しょうゆです。薄味にした意味がなくなりますが、味を変えないと飽きがくるもので」
「それはたしかに。兵士の人たちも大変ですね」
俺は笑顔を見せて応じた後、しょうゆ差しを受け取った。
先ほど巻いたガレは取り皿に置いてあるので、そこに数滴ほど垂らしてみる。
そば粉から作られた生地ということもあり、食べてみるとしっくりくる味だった。
具材を巻いたガレを口に含んだ後、今度はブリスケを食べる。
焼肉には白米がベストなのだが、ブリスケとガレという組み合わせも悪くない。
食堂の活気に微笑ましい気持ちになりながら食事を続けた。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ダークエルフのラーニャの目標が達成できたら完結しようと思い立ってから、
気づけば数か月が経ちました。
更新頻度は下がっていますが、最後まで書き上げることができたらと思います。
デンスケが調理場と食堂を行き来して配膳を進めてくれたが、これで手が空いたので手伝うことにした。
両手に皿を持って廊下を移動して、兵士の食堂へと足を運ぶ。
途中で肉が冷めるのでは思うほどの長い廊下で、調理を終えた後では疲れを感じる距離だった。
やがて食堂にたどり着き、そそくさと中に入る。
「――おおっ、これはすごい!」
これまでにどこにいたのかと思うほど、室内にはたくさんの兵士がいた。
ほとんどの人が着席していて、思い思いにブリスケを味わっている状況だ。
「大将、その皿はこっちに頼んます」
食堂の様子に驚いているとデンスケの声が聞こえた。
少し離れたところにいる彼は、こちらを手招きして呼んでいる。
いつの間にか大将と呼ばれているが、自分の店にいる時にオーナーあるいは店主と呼ばれることは多くないので、何だか誇らしい気持ちになる。
自分の顔がほころぶのを感じながら、デンスケのところへ近づいた。
「これで最後の皿ですけど、肉は足りそうです?」
「へい、おかげさまで全員に行き渡りやした」
「それならよかった。こんないい肉をお預けなんて、酷なことはないですから」
ここから見る限りほぼ全員が着席してブリスケを食べている。
過不足がないか気になっていたが、多めに買ってきて正解だったようだ。
こうして食堂の様子に満足していると、隣に人の気配を感じた。
「……あれ、デンスケさん? まだ何かありましたか?」
「肉は十分なんで、大将も一緒にどうっすか?」
デンスケは空いた席を指差している。
彼だけでなく他の兵士も歓迎するように笑みを浮かべていた。
「皆さんの分が足りるなら、お言葉に甘えて」
「さあさあ、そこに座ってもらって」
俺は椅子に腰を下ろして兵士たちの様子に目を向けた。
肉だけではバランスが悪いかと思ったが、彼らが普段食べているような料理――先ほどのガレや野菜料理――も一緒に並んでいた。
一見するとヘルシーなようで身体が資本の兵士には物足りないとしても、ブリスケの付け合わせとしてはいい組み合わせだ。
「……すいません、ここは箸しかないですが」
正面を向いて食べ始めようとすると、隣の席の兵士が筒状の箸入れから箸を抜いて差し出してくれた。
こちらに遠慮がちなのは見た目が日本人風ではないことで、箸が使えるか半信半疑だからだろう。
「ありがとうございます。問題なく使えるので」
俺は表情を緩めて応えた。
すると兵士は安心したように微笑んだ。
「よろしければ、こちらもどうぞ」
今度は向かいに座る兵士が小鉢とガレの乗った皿を近づけてくれた。
盛りつけに困らないようにという配慮なのか、すでにガレの上には副菜が盛られている。
「ありがとうございます。これも食べさせてもらいます」
こちらとのやりとりが済むと兵士たちは食事を再開した。
皆一様にブリスケに夢中なようで、なかなかの食べっぷりだった。
実現するには課題が多いものの、焼肉屋のヒイラギ支店を始めたら売上が見こめそうな気もする。
自分だけ食べないわけにもいかず、それに何より空腹だった。
手にした箸を使って焼けたブリスケを掴み、用意してもらった小皿に入ったタレをつけて口へと運ぶ。
すでに味見を済ませているが、口の中で味わうと改めて美味しさが分かる。
バラムへ帰ったらセバスに美味い部位を見つけたと教えてやりたい。
俺はブリスケを飲みこんだ後、ガレに手を伸ばした。
食べ方はシンプルで、具材を乗せた状態で手巻き寿司のように巻くだけである。
きれいに巻けたところで噛んでみると、塩気とほのかな甘みのある生地と具材の味が口の中に広がった。
「塩分控えめで身体によさそうな味つけですね」
誰にともなく自然と言葉が出た。
そんな俺の反応に応えるように近くにいた兵士がこちらを向いた。
「今日はさっぱりめの味つけの日なので、異国の方からすれば薄味でしょうね」
どうやらその兵士は調理を担当するうちの一人のようだった。
ガレに乗せる具材はローテーションで変えており、その日ごとに味つけが違うとのことだ。
当番の兵士ごとに味の違いが出てしまうため、大まかにさっぱりめの日と濃いめの日で分けているらしい。
「物足りない時はこれをかけるといいですよ」
今度は別の兵士が話しかけてきた。
その手には竹製の小さな調味料入れがあった。
「ありがとうございます。これ中身は何が?」
「しょうゆです。薄味にした意味がなくなりますが、味を変えないと飽きがくるもので」
「それはたしかに。兵士の人たちも大変ですね」
俺は笑顔を見せて応じた後、しょうゆ差しを受け取った。
先ほど巻いたガレは取り皿に置いてあるので、そこに数滴ほど垂らしてみる。
そば粉から作られた生地ということもあり、食べてみるとしっくりくる味だった。
具材を巻いたガレを口に含んだ後、今度はブリスケを食べる。
焼肉には白米がベストなのだが、ブリスケとガレという組み合わせも悪くない。
食堂の活気に微笑ましい気持ちになりながら食事を続けた。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ダークエルフのラーニャの目標が達成できたら完結しようと思い立ってから、
気づけば数か月が経ちました。
更新頻度は下がっていますが、最後まで書き上げることができたらと思います。
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