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ダークエルフの帰還
しょうゆを使ったタレ作り
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厚意で手伝ってくれるのに名乗らないのは失礼になってしまう。
こちらから自己紹介することにした。
「名乗るのが遅れました、マルクといいます。ランス王国の方から来ました」
「そりゃまたずいぶん遠くから。あっしは兵士のデンスケっす」
たずねるまでもなく日本人風の黒い髪と暗めの瞳の色から、彼がサクラギから来ていることが分かる。
デンスケは兵士だけなあって、他の人たちと例に漏れず精悍な顔つきをしていた。
日に焼けた肌をしているので、普段は畑仕事を手伝ったりしているのかもしれない。
「これから先にタレを作るので、まずはそれをモモカさんの部屋に持っていてもらえますか?」
「合点承知」
ダイモンのひと声が効いているようで、デンスケの反応はよかった。
渋々手伝われるよりも頼みやすい感じがする。
「タレが完成したら声をかけるので、そちらの仕事を続けてください」
「食器の整理が残ってるんで、向こうにいるっす」
デンスケは愛想よく応じて、目と鼻の先にある棚の方に向かった。
一旦かまどへと向かい、フライパンが熱くなりすぎないかを確かめる。
火が弱くなっているので、そこまで加熱される心配はないようだ。
それからタレ作りに必要な材料をピックアップして、調理場へと戻った。
まずはベースとなるしょうゆを金属製の容器に注ぐ。
そこに砂糖、料理酒を適量追加。
味を見ながら濃さを調整して、ニンニクとショウガの汁を混ぜ合わせる。
最後に風味づけのゴマ油をいくらか垂らして完成だ。
「……うん、この味なら十分だ」
しょうゆが癖のない風味であることで、味がまとまりやすくなっていた。
スパイシーだったり、甘みを強くしたりという味つけもできるのだが、モモカの好みをしっかりと把握しているわけではない。
そのため、標準的な味つけにしたいところだし、しょうゆが使いやすいことは好都合だった。
ブリスケの量に合わせて、だいたい二十人前を目安に作ったが、先に運んでもらうのは数人分で足りるはずだと思った。
モモカとアンズ、それにダイモン……あとはリリアとクリストフも食べられるようにしておけば問題ないはずだ。
完成したタレを取り分けやすい容器に移して、人数分の小皿を用意する。
そこでデンスケに声をかけて、モモカのところに運んでもらうように頼んだ。
俺よりもここでの配膳や運搬に慣れているので、安心してお願いできると思った。
先ほどブリスケを焼く工程が後回しになってしまい、改めてかまどの火力を調整する。
蒸発することでフライパンの上の油が少なくなっており、ブリスケが焦げつかないように追加しておく。
バラムで流通しているフライパンはそれなりのものがほとんどだが、このフライパンは腕のいい鍛冶師が作っているようだ。
サクラギでは質の高い刀剣を鍛造する技術があり、その応用でフライパンも作れるのだろう。
熱の伝達が十分になったところで、調理台から必要な分のブリスケを持ってくる。
大きめのフライパンの上に並べていくと、ジュワっと肉の焼ける音がした。
漂ってくる脂分の香りに癖はなく、ブリスケに臭みがないことを教えてくれた。
美味しそうな匂いを鼻腔に感じながら、ミディアムからミディアムレア辺りの焼き加減を目安に仕上げていく。
やがてそろそろかというタイミングでフライパンを掴んで、調理台へと移動する。
金属製の台を傷めないように、厚手の布の上にフライパンを乗せた。
この状態では余熱で火が通ってしまうものの、誤差の範囲内だった。
自分の口で仕上がりを確認するために取り皿に焼いたブリスケを一つ取る。
菜箸で掴むと肉汁がにじんで、しっかりとした弾力があった。
焼き加減もそうなのだが、ブリスケを使うのが初めてである以上は味を確認しておきたかった。
「……んんっ、これはなかなか」
何もつけずに食べてみたら、濃厚な肉汁が口全体に広がっていった。
掴んだ時は弾力があったものの、噛めば噛むほどに脂が溶けていく。
肉自体に旨味があり、これだけでもずっと噛んでいたいような味がする。
ステーキのイメージならば厚切りでよいのだが、今回は焼肉をイメージするような作り方をしている。
そのため、ちょうど箸で掴めるような大きさにしておいてよかった。
厚すぎると噛みきれないかもしれないし、ナイフやフォークよりも箸を使うことが多そうなヒイラギ(サクラギ出身)の人たちにはこれでよい気がした。
「――うわっ、びっくりした!」
ブリスケの味に感動して振り返ると、次の指示を待つようにデンスケが立っていた。
こちらの驚きぶりを気に留める様子はなく、彼は背筋を伸ばした状態で口を開く。
「タレを運んどいったす。モモカ様から直々に手伝うように言われたんで、何かあれば頼むといいっすよ」
「とりあえず、最初はモモカさんに食べ方を説明するので――」
俺はそう言って、焼き上がったブリスケを皿へと移していった。
それからデンスケに視線を戻して会話の続きをする。
「この後にどうするかはまだ決めていないので、また後でお願いします」
「了解したっす。調理場にはいるんで、気軽にどうぞ」
「お気遣いありがとうございます」
デンスケが離れたところで焼き上がったブリスケの乗る皿を手に取り、モモカのいる部屋に向かうのだった。
こちらから自己紹介することにした。
「名乗るのが遅れました、マルクといいます。ランス王国の方から来ました」
「そりゃまたずいぶん遠くから。あっしは兵士のデンスケっす」
たずねるまでもなく日本人風の黒い髪と暗めの瞳の色から、彼がサクラギから来ていることが分かる。
デンスケは兵士だけなあって、他の人たちと例に漏れず精悍な顔つきをしていた。
日に焼けた肌をしているので、普段は畑仕事を手伝ったりしているのかもしれない。
「これから先にタレを作るので、まずはそれをモモカさんの部屋に持っていてもらえますか?」
「合点承知」
ダイモンのひと声が効いているようで、デンスケの反応はよかった。
渋々手伝われるよりも頼みやすい感じがする。
「タレが完成したら声をかけるので、そちらの仕事を続けてください」
「食器の整理が残ってるんで、向こうにいるっす」
デンスケは愛想よく応じて、目と鼻の先にある棚の方に向かった。
一旦かまどへと向かい、フライパンが熱くなりすぎないかを確かめる。
火が弱くなっているので、そこまで加熱される心配はないようだ。
それからタレ作りに必要な材料をピックアップして、調理場へと戻った。
まずはベースとなるしょうゆを金属製の容器に注ぐ。
そこに砂糖、料理酒を適量追加。
味を見ながら濃さを調整して、ニンニクとショウガの汁を混ぜ合わせる。
最後に風味づけのゴマ油をいくらか垂らして完成だ。
「……うん、この味なら十分だ」
しょうゆが癖のない風味であることで、味がまとまりやすくなっていた。
スパイシーだったり、甘みを強くしたりという味つけもできるのだが、モモカの好みをしっかりと把握しているわけではない。
そのため、標準的な味つけにしたいところだし、しょうゆが使いやすいことは好都合だった。
ブリスケの量に合わせて、だいたい二十人前を目安に作ったが、先に運んでもらうのは数人分で足りるはずだと思った。
モモカとアンズ、それにダイモン……あとはリリアとクリストフも食べられるようにしておけば問題ないはずだ。
完成したタレを取り分けやすい容器に移して、人数分の小皿を用意する。
そこでデンスケに声をかけて、モモカのところに運んでもらうように頼んだ。
俺よりもここでの配膳や運搬に慣れているので、安心してお願いできると思った。
先ほどブリスケを焼く工程が後回しになってしまい、改めてかまどの火力を調整する。
蒸発することでフライパンの上の油が少なくなっており、ブリスケが焦げつかないように追加しておく。
バラムで流通しているフライパンはそれなりのものがほとんどだが、このフライパンは腕のいい鍛冶師が作っているようだ。
サクラギでは質の高い刀剣を鍛造する技術があり、その応用でフライパンも作れるのだろう。
熱の伝達が十分になったところで、調理台から必要な分のブリスケを持ってくる。
大きめのフライパンの上に並べていくと、ジュワっと肉の焼ける音がした。
漂ってくる脂分の香りに癖はなく、ブリスケに臭みがないことを教えてくれた。
美味しそうな匂いを鼻腔に感じながら、ミディアムからミディアムレア辺りの焼き加減を目安に仕上げていく。
やがてそろそろかというタイミングでフライパンを掴んで、調理台へと移動する。
金属製の台を傷めないように、厚手の布の上にフライパンを乗せた。
この状態では余熱で火が通ってしまうものの、誤差の範囲内だった。
自分の口で仕上がりを確認するために取り皿に焼いたブリスケを一つ取る。
菜箸で掴むと肉汁がにじんで、しっかりとした弾力があった。
焼き加減もそうなのだが、ブリスケを使うのが初めてである以上は味を確認しておきたかった。
「……んんっ、これはなかなか」
何もつけずに食べてみたら、濃厚な肉汁が口全体に広がっていった。
掴んだ時は弾力があったものの、噛めば噛むほどに脂が溶けていく。
肉自体に旨味があり、これだけでもずっと噛んでいたいような味がする。
ステーキのイメージならば厚切りでよいのだが、今回は焼肉をイメージするような作り方をしている。
そのため、ちょうど箸で掴めるような大きさにしておいてよかった。
厚すぎると噛みきれないかもしれないし、ナイフやフォークよりも箸を使うことが多そうなヒイラギ(サクラギ出身)の人たちにはこれでよい気がした。
「――うわっ、びっくりした!」
ブリスケの味に感動して振り返ると、次の指示を待つようにデンスケが立っていた。
こちらの驚きぶりを気に留める様子はなく、彼は背筋を伸ばした状態で口を開く。
「タレを運んどいったす。モモカ様から直々に手伝うように言われたんで、何かあれば頼むといいっすよ」
「とりあえず、最初はモモカさんに食べ方を説明するので――」
俺はそう言って、焼き上がったブリスケを皿へと移していった。
それからデンスケに視線を戻して会話の続きをする。
「この後にどうするかはまだ決めていないので、また後でお願いします」
「了解したっす。調理場にはいるんで、気軽にどうぞ」
「お気遣いありがとうございます」
デンスケが離れたところで焼き上がったブリスケの乗る皿を手に取り、モモカのいる部屋に向かうのだった。
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