426 / 473
ダークエルフの帰還
調査開始
しおりを挟む
「本来ならランス王国以外の人を助ける義務はないけれど、他ならぬマルクくんの頼みとあれば協力するよ」
「私もクリストフに同じです。マルク殿がこちらの店主を助けたいのなら、手助けさせてください」
リリアとクリストフに期待していたが、予想通りの答えで安心した。
一方、ラーニャからの返事はまだだった。
押し黙ったままで彼女の真意は分からない。
俺は沈黙に耐えかねて声をかける。
「……ラーニャさん、ごめんなさい。エスタンブルクに向かうのが遅くなってしまって」
「いや、それは関係ない。それよりこの宿の食事は美味だった。ダークエルフの里には一宿一飯の恩義という言葉がある。恩に報わねば一族の名が廃ってしまう」
「じゃあ、もしかして……」
「ああ、私も手伝おう」
ラーニャの表情は固いままなのだが、はっきりとした声だった。
打ち解けるのにもう少し時間はかかるとしても、彼女が義理堅いところがあると知った。
「ううっ、皆ざん、ありがとうございまず」
仲間たちが協力を申し出たのを受けて、マリオは鼻水と涙を垂らしていた。
すぐに本人もそれに気づき、自分のハンカチで顔を拭った。
「俺も仲間の安全に責任が持てないので、状況次第では調べるだけになるかもしれません」
冒険者の時の名残で、思わず可能と不可能の境界線を伝えてしまった。
無意識にぬか喜びさせたくない意識が働いたような気もする。
「いえいえ、ぞれでもうれじいでず」
マリオはちょっと失礼と言って、調理場で顔を洗って戻ってきた。
再び顔を見せた彼は憑きものが落ちたようにさっぱりした表情だった。
「とりあえず、僕らで調べて行くよ。マリオさん、地図と知る限りの情報を提供してもらえるかい?」
「承知しました。少々お待ちを」
クリストフは淡々と指示を出し、マリオは地図を探しにこの場を離れた。
少しして、丸まった紙を持った彼が戻ってきた。
「うちのペンション周辺の地図です。といっても森と山ばかりで、目印が少ないのが難点ってとこです」
「よしっ、分かった。まずはテーブルの上に広げてみてよ」
マリオはそそくさと丸まった紙を広げた。
全体の左下部分にペンションがあり、それに沿うように街道が見える。
地図を確かめると分かりやすいのだが、森の中を突き抜けるように街道が通っているのが一目瞭然だった。
「まずここがうちのペンション。それからこっちがツヌーク山。標高はそこまで高くなくて、麓から山頂まではわりと距離が短い。危険なモンスターが出ると言われているのはこの山付近です」
マリオは指先でツヌーク山の辺りをぐるぐるとなぞった。
今見た限りの縮尺では比較的近いところにある。
「ちなみにここからその山まではどれぐらいかかります?」
「午前中に出れば昼までには着く。お客さんたちは体力がありそうだから、それよりも短い時間で行けるはず」
そこでマリオは何かを思い出したように席を外した。
戻ってきた彼が手にしていたのは人数分のバックパックだった。
膨らみ具合から中に何かが入っていることが分かる。
「旅の装備はお持ちのはずだけど、山の準備はないでしょう? この中に水筒と食料が用意してあります」
「ありがとうございます。すごく助かります」
俺が感謝を伝えるとマリオは笑顔を向けてくれた。
それからもう一度地図を確認して、用意してもらったバックパックを背負った。
「頼んでおいて言うのもあれだけど、どうか気をつけて。危険を感じたら引き返してください」
「はい、大丈夫です」
俺たちはペンションの外でマリオに見送られながら出発した。
馬に危険があってはいけないため、馬車は宿泊客用の馬小屋に移動してある。
少し歩いたところで街道に出た。
「ここから向こうへ進んで、遊歩道を通ってツヌーク山に向かうルートですね」
俺は地図の写しを手にした状態で仲間に伝えた。
皆一様に平気そうな感じだったものの、移動開始後は口を閉じたまま歩いている。
目的地まで離れていることもあり、今は陣形を組んでいない状態だった。
ラーニャの経験は詳しくないが、少なくともリリアとクリストフは対人戦が主戦場であってモンスターを得意としているわけではない。
それはどちらかというと冒険者の領分だ。
グレイエイプの時でさえも行きがかり上、二人が助力したにすぎない。
周囲は新緑を思わせる木々に囲まれており、自然とすがすがしい気分になる。
朝のきらめく陽射しが風に揺れる枝葉を照らし、さわやかな風が通り抜けた。
ここからそう遠くないところに危険なモンスターが出ることをにわかに信じがたい気持ちになる。
危険にも色んな種類があり、具体的な情報がないことも厄介だった。
「元冒険者としては、情報が少ないことが気になります。以前、フェルトライン王国の街では同業者を狙った嫌がらせが横行していました。ただ、マリオさんの人柄的に恨みを買うようには思えませんし、彼がペンションを引き払った時のメリットも想像できません」
沈黙が続くのに息苦しさを覚えて、思ったことを口にした。
リリアとクリストフはこちらを向き、ラーニャはそのまま歩いている。
三人の実現を頼りにしすぎている面もあるため、もう少し話をした方がいいと判断した。
「私もクリストフに同じです。マルク殿がこちらの店主を助けたいのなら、手助けさせてください」
リリアとクリストフに期待していたが、予想通りの答えで安心した。
一方、ラーニャからの返事はまだだった。
押し黙ったままで彼女の真意は分からない。
俺は沈黙に耐えかねて声をかける。
「……ラーニャさん、ごめんなさい。エスタンブルクに向かうのが遅くなってしまって」
「いや、それは関係ない。それよりこの宿の食事は美味だった。ダークエルフの里には一宿一飯の恩義という言葉がある。恩に報わねば一族の名が廃ってしまう」
「じゃあ、もしかして……」
「ああ、私も手伝おう」
ラーニャの表情は固いままなのだが、はっきりとした声だった。
打ち解けるのにもう少し時間はかかるとしても、彼女が義理堅いところがあると知った。
「ううっ、皆ざん、ありがとうございまず」
仲間たちが協力を申し出たのを受けて、マリオは鼻水と涙を垂らしていた。
すぐに本人もそれに気づき、自分のハンカチで顔を拭った。
「俺も仲間の安全に責任が持てないので、状況次第では調べるだけになるかもしれません」
冒険者の時の名残で、思わず可能と不可能の境界線を伝えてしまった。
無意識にぬか喜びさせたくない意識が働いたような気もする。
「いえいえ、ぞれでもうれじいでず」
マリオはちょっと失礼と言って、調理場で顔を洗って戻ってきた。
再び顔を見せた彼は憑きものが落ちたようにさっぱりした表情だった。
「とりあえず、僕らで調べて行くよ。マリオさん、地図と知る限りの情報を提供してもらえるかい?」
「承知しました。少々お待ちを」
クリストフは淡々と指示を出し、マリオは地図を探しにこの場を離れた。
少しして、丸まった紙を持った彼が戻ってきた。
「うちのペンション周辺の地図です。といっても森と山ばかりで、目印が少ないのが難点ってとこです」
「よしっ、分かった。まずはテーブルの上に広げてみてよ」
マリオはそそくさと丸まった紙を広げた。
全体の左下部分にペンションがあり、それに沿うように街道が見える。
地図を確かめると分かりやすいのだが、森の中を突き抜けるように街道が通っているのが一目瞭然だった。
「まずここがうちのペンション。それからこっちがツヌーク山。標高はそこまで高くなくて、麓から山頂まではわりと距離が短い。危険なモンスターが出ると言われているのはこの山付近です」
マリオは指先でツヌーク山の辺りをぐるぐるとなぞった。
今見た限りの縮尺では比較的近いところにある。
「ちなみにここからその山まではどれぐらいかかります?」
「午前中に出れば昼までには着く。お客さんたちは体力がありそうだから、それよりも短い時間で行けるはず」
そこでマリオは何かを思い出したように席を外した。
戻ってきた彼が手にしていたのは人数分のバックパックだった。
膨らみ具合から中に何かが入っていることが分かる。
「旅の装備はお持ちのはずだけど、山の準備はないでしょう? この中に水筒と食料が用意してあります」
「ありがとうございます。すごく助かります」
俺が感謝を伝えるとマリオは笑顔を向けてくれた。
それからもう一度地図を確認して、用意してもらったバックパックを背負った。
「頼んでおいて言うのもあれだけど、どうか気をつけて。危険を感じたら引き返してください」
「はい、大丈夫です」
俺たちはペンションの外でマリオに見送られながら出発した。
馬に危険があってはいけないため、馬車は宿泊客用の馬小屋に移動してある。
少し歩いたところで街道に出た。
「ここから向こうへ進んで、遊歩道を通ってツヌーク山に向かうルートですね」
俺は地図の写しを手にした状態で仲間に伝えた。
皆一様に平気そうな感じだったものの、移動開始後は口を閉じたまま歩いている。
目的地まで離れていることもあり、今は陣形を組んでいない状態だった。
ラーニャの経験は詳しくないが、少なくともリリアとクリストフは対人戦が主戦場であってモンスターを得意としているわけではない。
それはどちらかというと冒険者の領分だ。
グレイエイプの時でさえも行きがかり上、二人が助力したにすぎない。
周囲は新緑を思わせる木々に囲まれており、自然とすがすがしい気分になる。
朝のきらめく陽射しが風に揺れる枝葉を照らし、さわやかな風が通り抜けた。
ここからそう遠くないところに危険なモンスターが出ることをにわかに信じがたい気持ちになる。
危険にも色んな種類があり、具体的な情報がないことも厄介だった。
「元冒険者としては、情報が少ないことが気になります。以前、フェルトライン王国の街では同業者を狙った嫌がらせが横行していました。ただ、マリオさんの人柄的に恨みを買うようには思えませんし、彼がペンションを引き払った時のメリットも想像できません」
沈黙が続くのに息苦しさを覚えて、思ったことを口にした。
リリアとクリストフはこちらを向き、ラーニャはそのまま歩いている。
三人の実現を頼りにしすぎている面もあるため、もう少し話をした方がいいと判断した。
34
お気に入りに追加
3,383
あなたにおすすめの小説

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。


明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる