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ダークエルフの帰還
エスタンブルクへ再出発
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蒸し風呂を出た俺たちは着替えを済ませて、出発の準備を進めた。
ジョエルはもう一泊していけばと勧めてくれたが、目的地までの距離は残っているため、そろそろ出発しなければいけなかった。
それから、出発の準備が整った後、馬車に乗ってナロック村を発った。
再び馬車での移動を再開した。
今回は御者が交代してリリアになっている。
客車には俺とラーニャ、クリストフがいる状態だった。
「村の人たち、総出で見送ってくれましたね。なんだかしんみりしました」
「短い時間でも情が移るものだよね。僕も感極まりそうだった」
「それにしても、クリストフさんの剣は切れ味抜群ですね。ちょっとした名剣っていうのもかっこいい。国王陛下に認められた鍛冶師がいるというのは王都らしいと思います」
移動中でのんびりした雰囲気なのだが、彼の傍らには鞘に収まった剣が見える。
いついかなる時でも不測の事態に備えているということを意味していた。
ほとんど緊張感を見せないものの、決して油断しない彼の姿勢は賞賛に値する。
「一般的な素材だけれども、鍛冶師の腕がいいからとんでもなく切れるのさ。リリアの剣も同じ職人が作ったから、興味があるなら見せてもらうといいよ」
「二人には憧れますけど、冒険者上がりでは到達できない境地ですね」
「ははっ、そんなことないよ。君だって鍛錬を受ければ一角(ひとかど)の兵士になることはできる。ただ、冒険者気質の人には城勤めは窮屈に感じるんじゃないかな」
クリストフの人柄のよさが垣間見えた。
皮肉ではなく事実を述べていることが伝わってきて、彼の言葉を素直に受け取ろうと思えたのだった。
「参考になる話、ありがとうございます。兵士の人たちがいるからこそ、ランス王国の人たちは安心して平穏な暮らしが送れているので、頭が下がります」
「いやいや、僕らは与えられた役割をこなしているだけだから。リリアだって同じ考えだと思うよ」
クリストフは謙遜した様子だった。
彼ほどの実力と立場ならば驕りがあってもおかしくないのだが、慢心を感じられないところに感心させられた。
リリアにも似たところが垣間見えるので、国民を守る役目を担うには自己犠牲の精神を厭わない人間性が求められるということだ。
引退後も冒険者のようなことをしてみたり、今の本業は畑違いの焼肉屋という自分からすれば、とても真似できないと思った。
「……おや、ぼんやりしてどうしたんだい?」
「いえ、ちょっと考えごとを」
クリストフの言葉で我に返る。
気づかぬうちに会話の途中で内省的になっていた。
「誰にでも適性というものがあるし、比べる必要はないと思うよ。僕だってカタリナ様のように書類の山に囲まれたら、とても耐えれないと思うから」
「ははっ、クリストフさんなら、どんなことでも軽々とこなしそうですけど」
「そうかい? そんなふうに見えるのかな」
二人で笑っていると愉快な気持ちになる。
クリストフと行動を共にするのは今回が初めてだが、短い時間で打ち解けられたような気がしている。
きっとそれは彼がさわやかイケメンながらも飾らない性格だからだろう。
ナロック村から出発して少しすると国境の関所が見えた。
ランス王国の兵士はリリアとクリストフに敬礼して通してくれた。
反対側にはデュラス公国の兵士がいたが、ランス王国とは同盟国ということもあるため、好きに通ってくれといった具合で声をかけられもしなかった。
ちなみにラーニャには目立たないように横になってもらっていた。
関所を通過すると街道の両脇に木々が並ぶように生えていた。
透き通るような空の青さと澄んだ空気に高原地帯を思い起こす。
転生前にこんな道をドライブしたような気もする。
「ラーニャさん、起きて大丈夫ですよ」
身を隠すために車内で横になっている彼女に声をかける。
しかし、反応がなく起きる様子がない。
「どうやら、眠ってしまったみたいだ」
「ああ、そうみたいですね」
「レッドドラゴンを倒すのに魔法を使ったし、慣れないことが多いだろうから、疲れているのかもしれない。そっとしておいてあげよう」
「はい、そうしましょう」
そのまま移動を続けると肌寒い空気を感じるようになっていた。
外で御者を担うリリアを筆頭に車内の三人も防寒着を身につけた。
ラーニャが目を覚ましていたので、思いついたように声をかける。
「エスタンブルクが近づくにつれて、寒くなってきましたね」
「お前のその服でも薄着だ。道中の町で上着を手に入れるのを忘れるな」
「それはもちろん。クリストフさんたちに共有してあるので、立ち寄ってくれると思います」
ふとそこでラーニャの衣服と荷物に意識が向いた。
露出の多い服装で持ち運んでいる荷物は少ない。
寒さに耐性があるとかでもない限り、彼女も冷えるのではないだろうか。
「ラーニャさんは大丈夫ですか?」
「……何のことだ?」
「ずいぶん薄着ですよね」
「問題ない。この地方の寒さには慣れている」
ラーニャはそっけない様子だったが、強がりを言っているようにも見えた。
今は余分な上着がないので、町へ着いたら彼女の分も買い足すようにしよう。
これまで住んでいたバラムは温暖な地方だったので、こうして寒いところに足を運ぶとある意味新鮮に感じるのだった。
ジョエルはもう一泊していけばと勧めてくれたが、目的地までの距離は残っているため、そろそろ出発しなければいけなかった。
それから、出発の準備が整った後、馬車に乗ってナロック村を発った。
再び馬車での移動を再開した。
今回は御者が交代してリリアになっている。
客車には俺とラーニャ、クリストフがいる状態だった。
「村の人たち、総出で見送ってくれましたね。なんだかしんみりしました」
「短い時間でも情が移るものだよね。僕も感極まりそうだった」
「それにしても、クリストフさんの剣は切れ味抜群ですね。ちょっとした名剣っていうのもかっこいい。国王陛下に認められた鍛冶師がいるというのは王都らしいと思います」
移動中でのんびりした雰囲気なのだが、彼の傍らには鞘に収まった剣が見える。
いついかなる時でも不測の事態に備えているということを意味していた。
ほとんど緊張感を見せないものの、決して油断しない彼の姿勢は賞賛に値する。
「一般的な素材だけれども、鍛冶師の腕がいいからとんでもなく切れるのさ。リリアの剣も同じ職人が作ったから、興味があるなら見せてもらうといいよ」
「二人には憧れますけど、冒険者上がりでは到達できない境地ですね」
「ははっ、そんなことないよ。君だって鍛錬を受ければ一角(ひとかど)の兵士になることはできる。ただ、冒険者気質の人には城勤めは窮屈に感じるんじゃないかな」
クリストフの人柄のよさが垣間見えた。
皮肉ではなく事実を述べていることが伝わってきて、彼の言葉を素直に受け取ろうと思えたのだった。
「参考になる話、ありがとうございます。兵士の人たちがいるからこそ、ランス王国の人たちは安心して平穏な暮らしが送れているので、頭が下がります」
「いやいや、僕らは与えられた役割をこなしているだけだから。リリアだって同じ考えだと思うよ」
クリストフは謙遜した様子だった。
彼ほどの実力と立場ならば驕りがあってもおかしくないのだが、慢心を感じられないところに感心させられた。
リリアにも似たところが垣間見えるので、国民を守る役目を担うには自己犠牲の精神を厭わない人間性が求められるということだ。
引退後も冒険者のようなことをしてみたり、今の本業は畑違いの焼肉屋という自分からすれば、とても真似できないと思った。
「……おや、ぼんやりしてどうしたんだい?」
「いえ、ちょっと考えごとを」
クリストフの言葉で我に返る。
気づかぬうちに会話の途中で内省的になっていた。
「誰にでも適性というものがあるし、比べる必要はないと思うよ。僕だってカタリナ様のように書類の山に囲まれたら、とても耐えれないと思うから」
「ははっ、クリストフさんなら、どんなことでも軽々とこなしそうですけど」
「そうかい? そんなふうに見えるのかな」
二人で笑っていると愉快な気持ちになる。
クリストフと行動を共にするのは今回が初めてだが、短い時間で打ち解けられたような気がしている。
きっとそれは彼がさわやかイケメンながらも飾らない性格だからだろう。
ナロック村から出発して少しすると国境の関所が見えた。
ランス王国の兵士はリリアとクリストフに敬礼して通してくれた。
反対側にはデュラス公国の兵士がいたが、ランス王国とは同盟国ということもあるため、好きに通ってくれといった具合で声をかけられもしなかった。
ちなみにラーニャには目立たないように横になってもらっていた。
関所を通過すると街道の両脇に木々が並ぶように生えていた。
透き通るような空の青さと澄んだ空気に高原地帯を思い起こす。
転生前にこんな道をドライブしたような気もする。
「ラーニャさん、起きて大丈夫ですよ」
身を隠すために車内で横になっている彼女に声をかける。
しかし、反応がなく起きる様子がない。
「どうやら、眠ってしまったみたいだ」
「ああ、そうみたいですね」
「レッドドラゴンを倒すのに魔法を使ったし、慣れないことが多いだろうから、疲れているのかもしれない。そっとしておいてあげよう」
「はい、そうしましょう」
そのまま移動を続けると肌寒い空気を感じるようになっていた。
外で御者を担うリリアを筆頭に車内の三人も防寒着を身につけた。
ラーニャが目を覚ましていたので、思いついたように声をかける。
「エスタンブルクが近づくにつれて、寒くなってきましたね」
「お前のその服でも薄着だ。道中の町で上着を手に入れるのを忘れるな」
「それはもちろん。クリストフさんたちに共有してあるので、立ち寄ってくれると思います」
ふとそこでラーニャの衣服と荷物に意識が向いた。
露出の多い服装で持ち運んでいる荷物は少ない。
寒さに耐性があるとかでもない限り、彼女も冷えるのではないだろうか。
「ラーニャさんは大丈夫ですか?」
「……何のことだ?」
「ずいぶん薄着ですよね」
「問題ない。この地方の寒さには慣れている」
ラーニャはそっけない様子だったが、強がりを言っているようにも見えた。
今は余分な上着がないので、町へ着いたら彼女の分も買い足すようにしよう。
これまで住んでいたバラムは温暖な地方だったので、こうして寒いところに足を運ぶとある意味新鮮に感じるのだった。
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