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ダークエルフの帰還
ナロック村に迫る脅威
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ジョエルはにじむ涙を拭うと意を決したように口を開く。
「村の収入源であるホワイトプラムの木の周りにモンスターが出没するようになっておりまして……。どうにか追い払おうとしても、危なすぎて村の者ではどうにもならぬ状況なのです」
ジョエルが言葉にした「ホワイトプラム」というものがどんなものか想像つかなかった。
リリアとクリストフは合点がいったように小刻みに頷いた。
ラーニャはどうすべきか分からないような様子で固まっている。
「モンスターの種類にもよるけれど、僕とリリアなら追い払えるんじゃない?」
クリストフは朝飯前と言わんばかりに余裕のある態度を見せた。
リリアもそれに同意するように相づちを打った。
「ありがたいお言葉ですな。しかしながら、一つ懸念があります」
「懸念? 戻ってこないように手を打つことはできると思うよ」
「木の周りでホワイトプラムをむさぼっているのはグレイエイプでして、これよりも厄介な存在がおります」
リリアとクリストフの登場にジョエルの顔には喜びの色が見えていたが、モンスターについて話し始めてからは曇りがちになっている。
俺の目には他にも懸念事項があるように窺えた。
「どうやら、グレイエイプを操る者が裏で糸を引いているようなのです」
「えっ、そんなことが可能なんですか……?」
ジョエルの言葉が信じられず、思わずたずねてしまった。
モンスターを操れるなど聞いたことがない。
「逃げ延びた村の者の話を総合しまして、そのような結論になりました。グレイエイプを追い払うだけでは解決しないようではと頭を悩ませているのです」
「心中、お察しします。ですがご安心ください。我々は剣の腕が立ち、この方は魔法が得意です」
俺だけでなくもう一人魔法が得意な人がいるのだが――。
それを伝えようとしたところで、本人が緊張した顔で申し出た。
「わ、私も手伝おう。人手が多いに越したことはないはずだ」
「ラーニャはかなりの使い手ですよ」
「ほほう、マルク殿が言うなら間違いありません」
俺が補足するとリリアは感心したように声を出した。
自分のことではなくとも、信じてくれるのはうれしいことだ。
「ではまずはグレイエイプを追い払う、もしくは討伐するということでいいかい?」
「はい、それでお願いします。……ちなみに大した報酬は払えませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「冒険者ギルドに依頼するわけじゃないから、そんなの気にしなくていいさ。みんなも報酬なんて気にしないだろ?」
「はい、もちろん」
リリアが力強く返事をして、俺とラーニャは頷いて返した。
四人の意思が統一されているように感じた。
「よしじゃあ、場所を教えてもらえる?」
「承知しました。少々お待ちを」
ジョエルは室内の棚から地図を取り出して、位置関係を説明した。
ホワイトプラムの木があるのは村外れで、ここから徒歩で行ける位置にある。
「街道のように道は整っておりませんが、皆さんなら大丈夫でしょうな」
「長い散歩と思って歩いてみるよ。ところで村にグレイエイプが近づくことはないのかい?」
「意図は分かりませんが、見かけるのは木の周りだけのようです。いよいよ付近に出没するようなら、村をよそへ移そうと考えております」
「いやいや、そんなことはしなくていいよ。僕たちが解決してみせるから。それに心配なら、戻った後で城から兵士が派遣されるように手配するからさ」
クリストフの親切な提案にジョエルは再び目元を潤ませた。
情に脆いことになるかもしれないが、こうして困っている人を見ると力になりたいと思う。
俺自身が色んな人の力を借りてきたからこそ、心からそう思うのだ。
情報交換が済んで、いよいよ出発することになった。
神妙な面持ちのジョエルに見送られながら、村を出てホワイトプラムの木がある方角へ移動を開始した。
村の近くは整った道だったが、徐々に荒れた道になっていた。
ところどころに雑草が伸びており、方々に石ころが転がっている。
緩やかな上り坂を歩き続けて振り返ると、下の方にナロック村の全景が見えた。
集落のような中心部には民家があり、外周には畑が広がっていた。
「のどかでいい村なので、グレイエイプを退治して憂いを取り払いたいですね」
「もちろんです。モンスターだけならばまだしも、それを操る人物がいるというのなら、到底看過できません」
リリアは正義感に駆られているように見えた。
彼女の言葉はもっともで、罪もない村の人たちを苦しめるのは許せないことだ。
今回が初見のグレイエイプを脅威に感じる反面、リリアとクリストフを見ていると気合が入る。
冒険者だったり、今は焼肉屋の店主だったりする自分とはランスの人々への意識が違うことに尊敬の念を抱いていた。
「……マルク殿。私の顔に何か?」
「あっ、その、立派な志を持っているのだなと感心しまして」
無意識のうちにリリアのことを見つめてしまっていたようだ。
苦し紛れの言い訳は彼女に失礼なので、率直に本音を伝えた。
「ランス王国の兵士として勤め始めたその時から、庇護の精神を叩きこまれます。暗殺機構の襲撃があった前後以外はゆったりしているように見えるかもしれませんが、城の兵士は高い意識を持っているのです」
リリアの言葉が胸に響く。
グレイエイプの件で俺がどこまで役に立てるか分からないが、できる限りのことをしたいと気を引き締めた。
「村の収入源であるホワイトプラムの木の周りにモンスターが出没するようになっておりまして……。どうにか追い払おうとしても、危なすぎて村の者ではどうにもならぬ状況なのです」
ジョエルが言葉にした「ホワイトプラム」というものがどんなものか想像つかなかった。
リリアとクリストフは合点がいったように小刻みに頷いた。
ラーニャはどうすべきか分からないような様子で固まっている。
「モンスターの種類にもよるけれど、僕とリリアなら追い払えるんじゃない?」
クリストフは朝飯前と言わんばかりに余裕のある態度を見せた。
リリアもそれに同意するように相づちを打った。
「ありがたいお言葉ですな。しかしながら、一つ懸念があります」
「懸念? 戻ってこないように手を打つことはできると思うよ」
「木の周りでホワイトプラムをむさぼっているのはグレイエイプでして、これよりも厄介な存在がおります」
リリアとクリストフの登場にジョエルの顔には喜びの色が見えていたが、モンスターについて話し始めてからは曇りがちになっている。
俺の目には他にも懸念事項があるように窺えた。
「どうやら、グレイエイプを操る者が裏で糸を引いているようなのです」
「えっ、そんなことが可能なんですか……?」
ジョエルの言葉が信じられず、思わずたずねてしまった。
モンスターを操れるなど聞いたことがない。
「逃げ延びた村の者の話を総合しまして、そのような結論になりました。グレイエイプを追い払うだけでは解決しないようではと頭を悩ませているのです」
「心中、お察しします。ですがご安心ください。我々は剣の腕が立ち、この方は魔法が得意です」
俺だけでなくもう一人魔法が得意な人がいるのだが――。
それを伝えようとしたところで、本人が緊張した顔で申し出た。
「わ、私も手伝おう。人手が多いに越したことはないはずだ」
「ラーニャはかなりの使い手ですよ」
「ほほう、マルク殿が言うなら間違いありません」
俺が補足するとリリアは感心したように声を出した。
自分のことではなくとも、信じてくれるのはうれしいことだ。
「ではまずはグレイエイプを追い払う、もしくは討伐するということでいいかい?」
「はい、それでお願いします。……ちなみに大した報酬は払えませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「冒険者ギルドに依頼するわけじゃないから、そんなの気にしなくていいさ。みんなも報酬なんて気にしないだろ?」
「はい、もちろん」
リリアが力強く返事をして、俺とラーニャは頷いて返した。
四人の意思が統一されているように感じた。
「よしじゃあ、場所を教えてもらえる?」
「承知しました。少々お待ちを」
ジョエルは室内の棚から地図を取り出して、位置関係を説明した。
ホワイトプラムの木があるのは村外れで、ここから徒歩で行ける位置にある。
「街道のように道は整っておりませんが、皆さんなら大丈夫でしょうな」
「長い散歩と思って歩いてみるよ。ところで村にグレイエイプが近づくことはないのかい?」
「意図は分かりませんが、見かけるのは木の周りだけのようです。いよいよ付近に出没するようなら、村をよそへ移そうと考えております」
「いやいや、そんなことはしなくていいよ。僕たちが解決してみせるから。それに心配なら、戻った後で城から兵士が派遣されるように手配するからさ」
クリストフの親切な提案にジョエルは再び目元を潤ませた。
情に脆いことになるかもしれないが、こうして困っている人を見ると力になりたいと思う。
俺自身が色んな人の力を借りてきたからこそ、心からそう思うのだ。
情報交換が済んで、いよいよ出発することになった。
神妙な面持ちのジョエルに見送られながら、村を出てホワイトプラムの木がある方角へ移動を開始した。
村の近くは整った道だったが、徐々に荒れた道になっていた。
ところどころに雑草が伸びており、方々に石ころが転がっている。
緩やかな上り坂を歩き続けて振り返ると、下の方にナロック村の全景が見えた。
集落のような中心部には民家があり、外周には畑が広がっていた。
「のどかでいい村なので、グレイエイプを退治して憂いを取り払いたいですね」
「もちろんです。モンスターだけならばまだしも、それを操る人物がいるというのなら、到底看過できません」
リリアは正義感に駆られているように見えた。
彼女の言葉はもっともで、罪もない村の人たちを苦しめるのは許せないことだ。
今回が初見のグレイエイプを脅威に感じる反面、リリアとクリストフを見ていると気合が入る。
冒険者だったり、今は焼肉屋の店主だったりする自分とはランスの人々への意識が違うことに尊敬の念を抱いていた。
「……マルク殿。私の顔に何か?」
「あっ、その、立派な志を持っているのだなと感心しまして」
無意識のうちにリリアのことを見つめてしまっていたようだ。
苦し紛れの言い訳は彼女に失礼なので、率直に本音を伝えた。
「ランス王国の兵士として勤め始めたその時から、庇護の精神を叩きこまれます。暗殺機構の襲撃があった前後以外はゆったりしているように見えるかもしれませんが、城の兵士は高い意識を持っているのです」
リリアの言葉が胸に響く。
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