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ダークエルフの帰還

打ち明けられた事情

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 二人のエルフが固まってしまい、彼女たちは神妙な面持ちになっている。
 アデルとエステルでさえもダークエルフの存在は珍しいようだ。
 そんな状況を打ち破るように口を開いたのは意外にもラーニャだった。

「お初にお目にかかる。私はラーニャ。エスタンブルクの外れにあるダークエルフの里出身だ」

「……エスタンブルク。かなり遠いけれど、どうしてそんなところからランス王国に?」

「事情についてはおいおい話そう。ところで、そちらはどちらの出自か? 赤髪のエルフを初めて見た」

 同じエルフという理由が関係しているのか、ラーニャはアデルに敬意をもって接しているように見える。
 立ったままの状態のため、ラーニャに椅子に座るように促して自分も着席した。
  
「私の名前はアデル。故郷はこの国の国境近くの名もなきエルフの村よ」

「そんなところにエルフの村があるのか」

「この国の周辺に点々と小さな村があって、他にもいくつかあるわ。あなたの故郷ではどうか知らないけれど」

 アデルの表情には戸惑いが残ったままで、探り探り話しているように見える。
 まだラーニャを信用していないようで、エステルが妹であることも伝えていない。
 俺自身はエルフたちの事情に詳しくないため、成り行きを見守るだけだった。

「ちょっと待って、エスタンブルクのダークエルフって……」

 アデルが何かに気づいたように顔色を変えた。
 頬に手を添えて考えごとをするように口を閉じる。

「どこかの勢力に襲撃されて、散り散りになった者は暗殺機構に狙われたと聞いたことがあるけれど、まさかその中の生き残り?」

「その通りだ。そこまで知っているのなら、包み隠さず話すべきか」

「無理に話す必要はないわ。それでも話せるのなら、事情は聞いておきたいわね」
 
 アデルの言葉に同調するようにエステルが頷いた。
 二人の反応を受けて、ラーニャは覚悟を決めたような表情になる。

「ずいぶん時間が経ってしまったが、つい最近のように感じる」

 彼女は椅子に座ったまま、どこか遠い目をして語り出した。

 ――ダークエルフの里では豊かな自然の元、静かな暮らしが営まれていた。
 人里離れた立地も影響して、人族がそこを訪れることは滅多にない。
 多少関わりのある者がたまに足を運ぶ程度で、幼い子どもに至っては一度も人間を見たことがない者もいた。

 そんなある日、事件は起こった。
 武装した人族の勢力に里は囲まれて、ダークエルフたちは逃げ場がなかった。
 彼らは必死に魔法で抵抗したものの、多勢に無勢で里は破壊された。
 生き残った者たちはその人族にさらわれてどこかに連れていかれた。

 当初は同胞の痕跡を辿ろうとしたラーニャだったが、暗殺機構の追手に命を狙われていることに気づいて逃亡の旅が始まった。
 やがて、彼女は誰も近寄らない洞窟を見つけて、そこでゴーレムに見回りを任せながら生活するのだった。

 ラーニャが話し終えると重苦しい空気を感じた。
 天真爛漫なところのあるエステルさえも押し黙っている。
 この世界でそんなことが起きているとは信じられない気持ちだった。
 断片的に事情を聞いていたとはいえ、深刻さを実感させられる。

「……その、あなたたちを襲った勢力について手がかりはあるかしら?」

「いや、エスタンブルクの兵士たちではなく、近隣に出没していた山賊のような連中だった。暗殺機構がいなければ詳細について調べるつもりだったが……」

 ラーニャは悔しさをにじませるように唇を噛んだ。
 まとまった戦力があるのならともかく、離れ離れの状況で追われてはできることはほぼ皆無だろう。
 逃げ延びることが優先されたとしても、彼女を責めることはできない。

「うーん、難しい話だね。力になってあげたいけど、聞いた限りだと冒険者か兵士が束になって出向かないと危険だよ」

 口を閉ざしていたエステルが会話に加わった。
 彼女の様子を見て、アデルが何かを思い出したように言葉をつなぐ。

「紹介が遅れてごめんなさい。この子は妹のエステル」

「いや、構わない。それよりもあなたたちの意見をもう少し聞いておきたい」

 ラーニャは切実な表情をしており、アデルたちの話からヒントを得たいように見受けられる。
 歯がゆい気持ちもあるが、エルフの意見ならば聞き入れやすいのだろう。
  
「どうエステル? エスタンブルクはかなり遠いから、一筋縄ではいかないわよね」

「姉さんみたいに他国の情報はないけど、暗殺機構について調べたことがあるから、多少は役に立てるかも」

「どんなことでもいい。話してくれ」

 エステルはラーニャの必死さに戸惑いを浮かべながら話を続ける。

「暗殺機構がそんな遠くで活動するってことは必ず依頼主がいるはず。だから、まずは依頼主を探せば襲撃してきた勢力のことは分かると思うよ。ただ、暗殺機構が跡形もない今は推測して動くしかないよね」

「実は心当たりがないわけではない。ダークエルフのことを狙う存在について、風の噂で耳にしたことがあった。当時は与太話と斬り捨てたが、今思えば聞いておくべきだった」
   
 ラーニャの表情には悔恨の色が見て取れる。
 状況を把握するにはもう少し詳しいことを聞いておいた方がよさそうだ。
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