上 下
395 / 459
ベナード商会と新たな遺構

セルラの町へ買い出し

しおりを挟む
 キャンプ周辺は道なき道だったが、街道に出た後はスムーズに馬車が進んでいる。
 この辺りはランス王国の中でも辺境でバラムよりも田舎な地方だ。
 地元の人間以外は訪れる目的がないため、行商人や旅人の姿は少ない。
 遺構が目立たないという意味では歓迎できる条件だと思う。

「まさか、マルクさんとこんなふうに行動するなんて予想できなかったもんで」

「同意見です。俺はあんなものが見つかることが予想外でしたね」

「そうっすな。何がきっかけになるか分からんところも面白い」

 馬車に揺られながらルカと言葉を交わす。
 初対面では接しにくい印象だったが、話すうちに親しみやすい人柄だと思い直した。

「ところでフレヤお嬢さんと進展はあったんですかい?」

「……進展ですか。親しい間柄ですけど、恋愛感情とまではお互いいかないんじゃないと思います」

「社長はマルクさんのことを気に入ってるのに、なかなか上手いこといかないもんで」

 楽しそうに笑うルカ。
 話に加わるようにエンリケの声が御者台から届く。

「ルカさん、フレヤお嬢様の恋心を笑い話にするのはよくありません」

「いやいや、そんなことはないけども。あっ、エンリはお嬢さんに惹かれてるんだっけか?」

「まさか私が? 冗談もほどほどにしてください」

 エンリケは口では否定しているが、やけに動揺している。
 ベナード商会の従業員ならばフレヤと接する機会は多いだろうし、俺よりも彼女のことをよく知っているのは自然なことだろう。
 明るく朗らかで容姿端麗とあれば、身近にいる同年代の異性が恋心を抱いていたとしてもおかしくはない。

 世間話に夢中になっていると、道の先に町が見えてきた。
 バラムと同じかそれよりも少し小規模な様子だ。
 エンリケが町の外に馬車を停めて下車した後、三人で移動を始めた。

「ここがセルラです。私たちは買い出しで必要なものを探しますが、マルクさんはどうされますか?」

「せっかくなので、二人と行きますよ」

「では、ついてきてください」

 エンリケはそう言って笑顔を見せた。
 三人で町の中を歩き出す。
 ルカとエンリケは来たことがあるようで、歩みによどみがない。

 サルラの町はバラムから離れているとはいえ、雰囲気に似た部分がある。
 建物の建築様式に大きな違いはなく、石畳の道や区画の分け方がしっくりくる。
 町の入り口から中心部に至ると露店がいくつか固まって、一つの市場のようになっていた。

「野菜や果物はだいたいこの辺りで揃います。地元のものがほとんどで新鮮なところが気に入っています。リブラでは鮮度の高い果物は価値があるので、ここの値段はとても安く感じます」

「ホントびっくりだわな」

 ルカは話をしながら、早速露店で果物を買っている。
 店の人に硬貨を渡してみずみずしい果皮の青りんごを受け取り、すぐにそれをかじった。
 ともすれば無頼漢のような雰囲気もあるが、気取らずに果物を頬張る姿は様になっている。

「リブラでこれを買おうと思ったら、同じものが10個は買えるんで。ランス王国は飯が美味いし果物も最高っすわ。このまま住んでもいい」

「ははっ、そこまで言ってもらえるとうれしいです」

「リップサービスじゃないんでさ。エンリはどうよ?」

 ルカがエンリケに話題を振ると、露店の商品を見繕っていたエンリケは少し考えるような素振りを見せた。
 
「ランス王国はいいところですが、故郷のリブラを気に入っているので。どちらか一方に長く住むならリブラでしょうか」

「おおう、ずっとリブラに住んでると愛着が強いんかね。まあ、郷土愛っちゅうのはいいもんで」

 ルカとエンリケは親しい間柄のようで、フランクに話している。
 そんな二人の様子を微笑ましく感じた。
 
「マルクさん、私たちが必要なものはだいたい決まっていますが、他にほしいものあれば一緒に買わせて頂きます」

「いやいや、悪いですよ。そんなに高い品は買わないですし」

「ブラスコ社長から仰せつかっているので、遠慮なさらずにどうぞ」

 エンリケは少し年下だと思うが、教育が行き届いている感じがする。
 ベナード商会は規模が大きいため、従業員の教育に力を入れているのかもしれない。

「では、お言葉に甘えて……。これとこれを」

 俺はオレンジとブドウを指し示した。
  
「承知しました。一緒に会計を済ませておきます」

「ありがとうございます」

「私たちはもう少し時間がかかるので、お好きに行動されてください」

「分かりました。ちょっと近くを歩いてきます」
 
 ルカとエンリケのいる露店の辺りを離れる。
 遠くまで行くと時間がかかるので、あまり離れずに散策することにした。

 市場のように店が集まる一角を中心にして、近くに色んな店が集まっている。
 歩きながら見ていると、バラムと同じような雰囲気だった。
 通りがかったカフェテラスでは地元の人が語らいを楽しんでいる。

 モルネア王国やフェルトライン王国を訪れたこともあり、穏やかな町の雰囲気に心が和む。
 カフェに入るのもよいと思ったが、ルカたちを待たせてしまうので、ひとまず戻ることにした。


 あとがき
 いつも読んで頂き、ありがとうございます。
 エールも励みになっています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...