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ベナード商会と新たな遺構
セルラの町へ買い出し
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キャンプ周辺は道なき道だったが、街道に出た後はスムーズに馬車が進んでいる。
この辺りはランス王国の中でも辺境でバラムよりも田舎な地方だ。
地元の人間以外は訪れる目的がないため、行商人や旅人の姿は少ない。
遺構が目立たないという意味では歓迎できる条件だと思う。
「まさか、マルクさんとこんなふうに行動するなんて予想できなかったもんで」
「同意見です。俺はあんなものが見つかることが予想外でしたね」
「そうっすな。何がきっかけになるか分からんところも面白い」
馬車に揺られながらルカと言葉を交わす。
初対面では接しにくい印象だったが、話すうちに親しみやすい人柄だと思い直した。
「ところでフレヤお嬢さんと進展はあったんですかい?」
「……進展ですか。親しい間柄ですけど、恋愛感情とまではお互いいかないんじゃないと思います」
「社長はマルクさんのことを気に入ってるのに、なかなか上手いこといかないもんで」
楽しそうに笑うルカ。
話に加わるようにエンリケの声が御者台から届く。
「ルカさん、フレヤお嬢様の恋心を笑い話にするのはよくありません」
「いやいや、そんなことはないけども。あっ、エンリはお嬢さんに惹かれてるんだっけか?」
「まさか私が? 冗談もほどほどにしてください」
エンリケは口では否定しているが、やけに動揺している。
ベナード商会の従業員ならばフレヤと接する機会は多いだろうし、俺よりも彼女のことをよく知っているのは自然なことだろう。
明るく朗らかで容姿端麗とあれば、身近にいる同年代の異性が恋心を抱いていたとしてもおかしくはない。
世間話に夢中になっていると、道の先に町が見えてきた。
バラムと同じかそれよりも少し小規模な様子だ。
エンリケが町の外に馬車を停めて下車した後、三人で移動を始めた。
「ここがセルラです。私たちは買い出しで必要なものを探しますが、マルクさんはどうされますか?」
「せっかくなので、二人と行きますよ」
「では、ついてきてください」
エンリケはそう言って笑顔を見せた。
三人で町の中を歩き出す。
ルカとエンリケは来たことがあるようで、歩みによどみがない。
サルラの町はバラムから離れているとはいえ、雰囲気に似た部分がある。
建物の建築様式に大きな違いはなく、石畳の道や区画の分け方がしっくりくる。
町の入り口から中心部に至ると露店がいくつか固まって、一つの市場のようになっていた。
「野菜や果物はだいたいこの辺りで揃います。地元のものがほとんどで新鮮なところが気に入っています。リブラでは鮮度の高い果物は価値があるので、ここの値段はとても安く感じます」
「ホントびっくりだわな」
ルカは話をしながら、早速露店で果物を買っている。
店の人に硬貨を渡してみずみずしい果皮の青りんごを受け取り、すぐにそれをかじった。
ともすれば無頼漢のような雰囲気もあるが、気取らずに果物を頬張る姿は様になっている。
「リブラでこれを買おうと思ったら、同じものが10個は買えるんで。ランス王国は飯が美味いし果物も最高っすわ。このまま住んでもいい」
「ははっ、そこまで言ってもらえるとうれしいです」
「リップサービスじゃないんでさ。エンリはどうよ?」
ルカがエンリケに話題を振ると、露店の商品を見繕っていたエンリケは少し考えるような素振りを見せた。
「ランス王国はいいところですが、故郷のリブラを気に入っているので。どちらか一方に長く住むならリブラでしょうか」
「おおう、ずっとリブラに住んでると愛着が強いんかね。まあ、郷土愛っちゅうのはいいもんで」
ルカとエンリケは親しい間柄のようで、フランクに話している。
そんな二人の様子を微笑ましく感じた。
「マルクさん、私たちが必要なものはだいたい決まっていますが、他にほしいものあれば一緒に買わせて頂きます」
「いやいや、悪いですよ。そんなに高い品は買わないですし」
「ブラスコ社長から仰せつかっているので、遠慮なさらずにどうぞ」
エンリケは少し年下だと思うが、教育が行き届いている感じがする。
ベナード商会は規模が大きいため、従業員の教育に力を入れているのかもしれない。
「では、お言葉に甘えて……。これとこれを」
俺はオレンジとブドウを指し示した。
「承知しました。一緒に会計を済ませておきます」
「ありがとうございます」
「私たちはもう少し時間がかかるので、お好きに行動されてください」
「分かりました。ちょっと近くを歩いてきます」
ルカとエンリケのいる露店の辺りを離れる。
遠くまで行くと時間がかかるので、あまり離れずに散策することにした。
市場のように店が集まる一角を中心にして、近くに色んな店が集まっている。
歩きながら見ていると、バラムと同じような雰囲気だった。
通りがかったカフェテラスでは地元の人が語らいを楽しんでいる。
モルネア王国やフェルトライン王国を訪れたこともあり、穏やかな町の雰囲気に心が和む。
カフェに入るのもよいと思ったが、ルカたちを待たせてしまうので、ひとまず戻ることにした。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エールも励みになっています。
この辺りはランス王国の中でも辺境でバラムよりも田舎な地方だ。
地元の人間以外は訪れる目的がないため、行商人や旅人の姿は少ない。
遺構が目立たないという意味では歓迎できる条件だと思う。
「まさか、マルクさんとこんなふうに行動するなんて予想できなかったもんで」
「同意見です。俺はあんなものが見つかることが予想外でしたね」
「そうっすな。何がきっかけになるか分からんところも面白い」
馬車に揺られながらルカと言葉を交わす。
初対面では接しにくい印象だったが、話すうちに親しみやすい人柄だと思い直した。
「ところでフレヤお嬢さんと進展はあったんですかい?」
「……進展ですか。親しい間柄ですけど、恋愛感情とまではお互いいかないんじゃないと思います」
「社長はマルクさんのことを気に入ってるのに、なかなか上手いこといかないもんで」
楽しそうに笑うルカ。
話に加わるようにエンリケの声が御者台から届く。
「ルカさん、フレヤお嬢様の恋心を笑い話にするのはよくありません」
「いやいや、そんなことはないけども。あっ、エンリはお嬢さんに惹かれてるんだっけか?」
「まさか私が? 冗談もほどほどにしてください」
エンリケは口では否定しているが、やけに動揺している。
ベナード商会の従業員ならばフレヤと接する機会は多いだろうし、俺よりも彼女のことをよく知っているのは自然なことだろう。
明るく朗らかで容姿端麗とあれば、身近にいる同年代の異性が恋心を抱いていたとしてもおかしくはない。
世間話に夢中になっていると、道の先に町が見えてきた。
バラムと同じかそれよりも少し小規模な様子だ。
エンリケが町の外に馬車を停めて下車した後、三人で移動を始めた。
「ここがセルラです。私たちは買い出しで必要なものを探しますが、マルクさんはどうされますか?」
「せっかくなので、二人と行きますよ」
「では、ついてきてください」
エンリケはそう言って笑顔を見せた。
三人で町の中を歩き出す。
ルカとエンリケは来たことがあるようで、歩みによどみがない。
サルラの町はバラムから離れているとはいえ、雰囲気に似た部分がある。
建物の建築様式に大きな違いはなく、石畳の道や区画の分け方がしっくりくる。
町の入り口から中心部に至ると露店がいくつか固まって、一つの市場のようになっていた。
「野菜や果物はだいたいこの辺りで揃います。地元のものがほとんどで新鮮なところが気に入っています。リブラでは鮮度の高い果物は価値があるので、ここの値段はとても安く感じます」
「ホントびっくりだわな」
ルカは話をしながら、早速露店で果物を買っている。
店の人に硬貨を渡してみずみずしい果皮の青りんごを受け取り、すぐにそれをかじった。
ともすれば無頼漢のような雰囲気もあるが、気取らずに果物を頬張る姿は様になっている。
「リブラでこれを買おうと思ったら、同じものが10個は買えるんで。ランス王国は飯が美味いし果物も最高っすわ。このまま住んでもいい」
「ははっ、そこまで言ってもらえるとうれしいです」
「リップサービスじゃないんでさ。エンリはどうよ?」
ルカがエンリケに話題を振ると、露店の商品を見繕っていたエンリケは少し考えるような素振りを見せた。
「ランス王国はいいところですが、故郷のリブラを気に入っているので。どちらか一方に長く住むならリブラでしょうか」
「おおう、ずっとリブラに住んでると愛着が強いんかね。まあ、郷土愛っちゅうのはいいもんで」
ルカとエンリケは親しい間柄のようで、フランクに話している。
そんな二人の様子を微笑ましく感じた。
「マルクさん、私たちが必要なものはだいたい決まっていますが、他にほしいものあれば一緒に買わせて頂きます」
「いやいや、悪いですよ。そんなに高い品は買わないですし」
「ブラスコ社長から仰せつかっているので、遠慮なさらずにどうぞ」
エンリケは少し年下だと思うが、教育が行き届いている感じがする。
ベナード商会は規模が大きいため、従業員の教育に力を入れているのかもしれない。
「では、お言葉に甘えて……。これとこれを」
俺はオレンジとブドウを指し示した。
「承知しました。一緒に会計を済ませておきます」
「ありがとうございます」
「私たちはもう少し時間がかかるので、お好きに行動されてください」
「分かりました。ちょっと近くを歩いてきます」
ルカとエンリケのいる露店の辺りを離れる。
遠くまで行くと時間がかかるので、あまり離れずに散策することにした。
市場のように店が集まる一角を中心にして、近くに色んな店が集まっている。
歩きながら見ていると、バラムと同じような雰囲気だった。
通りがかったカフェテラスでは地元の人が語らいを楽しんでいる。
モルネア王国やフェルトライン王国を訪れたこともあり、穏やかな町の雰囲気に心が和む。
カフェに入るのもよいと思ったが、ルカたちを待たせてしまうので、ひとまず戻ることにした。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エールも励みになっています。
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