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ベナード商会と新たな遺構

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 岩山の近くに複数のテント。
 目に入る備品には掘削用と思われる道具の数々。
 一見すると鉱山の採掘場のようだ。

「中はどんな感じでしょう。ルカさんが戻れば入れると分かっていても、目の前にあると気になります」

「ははっ、お茶でも飲みながら待とうじゃないの」

 ブラスコは鷹揚な笑みを浮かべながら、こちらのカップに紅茶を注いでくれた。
 エンリケの仕事は丁寧なようで十分に温まっている。

「では、いただきます」

「わしも飲むよ」

 二人で同時に紅茶をすする。
 自然に囲まれた状況ということが加味されて、美味しさが増した感じがした。
 社長が愛用する茶葉なだけあり、上品な香りに心が満たされる。

「この茶葉、お高いでしょう?」

「うちは色んなルートで取引しているから、そうでもないよん」

「ああ、なるほど」

 抜け目のない人だと思いつつ、再び紅茶をすする。 
 何度も飲みたくなるような美味さで癖になりそうだ。

「気に入ってくれた? よかったら帰りに包んであげるよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 ブラスコはこちらの返事に満足そうな表情だった。

 二人で優雅な時間をすごしていると、遺構の入り口から人の気配がした。
 見覚えのある顔のルカを筆頭に、似たような風体の男たちがやってきた。

「おっ、社長に呼ばれて来たってところですかい」

 ルカはこちらに気づくと表情を緩めた。
 探索を終えたばかりで顔には土埃がついている。

「久しぶりです。今回はよろしくお願いします」

「ご丁寧にどうも。あっしは社長の従者みたいなもんなんで、気軽に接してもらえば」

 ルカと話しているとエンリケがやってきて声をかけた。

「ルカさん、備品の確認をお願いしてもいいですか?」

「はいはい、ちょい待ち。せっかく来てもらったんで、こっちの用事が済んだら入り口周辺だけでも見ましょうや」

「は、はい。ぜひ!」

 ルカはエンリケとどこかへ歩いていった。

「婿殿、いよいよだね」

「はい」

 大きな荷物は客車に乗せてあるが、探索用の荷物は手元にある。
 俺は必要になりそうなものを確認して、ルカが戻るタイミングに備えた。

「お待ちどお。ちょっくら行きましょうか」

「お願いします」

 ブラスコはそのまま残り、他の人たちは荷物の整理など何かしらの作業中である。 
 先ほどのエンリケも仲間と話し合いながら熱心に作業を進めている。

「皆さんの熱気がすごいですね」

「この遺構はとんでもないんで。その目で見てもらうのが一番でしょうや」

 ルカはそう言いつつ、こちらにヘルメットを投げてよこした。
 俺はそれをキャッチして言葉を返す。

「落盤から守るためにもこれは必須ですね」

「今はモンスターよりもそっちに注意すべきですんで。それらしい兆候はないんすが、危ない時は頭を守るように頼んます」

 遺構の入り口は一見すると何の変哲もない洞窟のようだった。
 ここだけ見れば岩肌がむき出しの状態で人工的なものはない。
 ブラスコたちのように開拓を目的にしていなければ見逃してしまうだろう。

 ルカが先導するかたちで足を踏み入れる。
 外からの光が差しこむため、そこまで暗くはない。

「マルクさんは魔法が使えるんで?」

「はい。これ以上暗くなるようなら、光魔法で明るくできますよ」

「そいつは心強い。松明(たいまつ)いらずだ」

 入ってすぐの段階ではただの洞窟にしか見えなかった。
 しかし、奥に進むにつれて、人の手によって加工されている痕跡が見て取れた。

 岩壁が加工した石材に変わり、規則的に並べられている。
 意味の読み取れない紋様が刻まれた部分もあった。
 蓄積された年月でところどころ劣化が見られるものの、かつては宮殿のような建物の一部だったようだ。

「これは相当古いですね」

「ベナード商会の人間はランス王国の歴史は詳しくないんでさ。劣化の具合で百年以上は経っているとしか」

「ううん、百年とはすごい」

 俺が感心しているとルカが手招きをした。

「こっちにもっとすごいもんがありやすんで」

「もっとすごいもの?」

 ルカの案内に従い、遺構の中を歩く。
 暗闇で足元がおぼつかなくなり、ホーリーライトを唱えた。
 かつては宮殿の内部に当たる場所を通ると足元に石畳が敷き詰められていた。
 やがて、岩肌がむき出しになったところに出る。

「まずはこれを」

 ルカは荷物からハンマーを取り出して、岩の一部を叩き始める。
 すると小さな塊が地面に落下した。
 彼はそれを拾ってこちらに差し出した。

「パッと見はただの岩ですね」

 何か意味があるだろうと思い、ひとまず受け取る。
 鉱物の原石のようだが、種類までは分からない。

「それを手で覆ってもらえやすか?」

「はい」

 言われた通りにすると、指の隙間から光がこぼれているのが目に入った。 
 どうやら鉱石そのものが光を放っているようだ。

「こいつはルミナイト。古文書と呼んでもいいような、大昔の冒険者の日記でしか存在を知られていない鉱石なもんで。希少価値は計り知れないんすわ」

「いやいや、大発見ですね」

 手の平を開くと淡い光を放つ石の塊が見えた。
 特筆すべきは光だけでなく、石自体が美しい色をしていることも含まれる。 
 その美しさに魅了されるように、じっと眺めるのだった。
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