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ベナード商会と新たな遺構
バラムへ到着
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サクラギからランス王国へ向かう際、気をつけるべき点は主に二つある。
一つ目はアンデッドが多数出没する湿地。
二つ目は治安がよくないモルネア王国周辺。
湿地は地竜の竜種パワーのおかげで、アンデッドを寄せつけずに通過できた。
今度はモルネア王国をクリアする必要がある。
湿地を抜けて少し経ったところで、ブラスコに声をかけた。
「前にモルネア王国のムルカで危ない目に遭ったので、迂回するか通りすぎてほしいです」
「婿殿と仲間がムルカ周辺の盗賊を一掃した話は耳にしたよ。今のペースで進むとモルネア王国に着く頃には夕方になりそうだから、手前の町に泊まるのがいいかもね」
「ありがとうございます。あの時の盗賊がいなくなったのは知っているんですけど、まだ恐怖が拭えなくて」
「いいよいいよ。わしも盗賊の怖さはよく分かるから」
シルバーゴブリンに助けられたとは言いにくく、肝心なところは曖昧にしながら話す。
ちなみに盗賊にさらわれて怖かったことは事実である。
おそらく、ブラスコはモルネア王国のどこかで泊まるつもりだったようだが、予定を変えてくれるようだ。
地竜の速さを考えれば、大きな違いにはならないのかもしれない。
それから道沿いの町に竜車を停めて、俺たちは町の宿屋に宿泊した。
翌日には再出発して、バラムへと向かった。
モルネア王国の領土に入ると、街道ですれ違う人が増えた。
国の規模が大きいこともあり、自然と通行人の数も多くなるのだ。
モルネア王国からサクラギに向かう道は一度しか通ったことがないせいか、竜車に乗っていても、記憶がおぼろげであることに気づかされる。
通りすぎる景色の中には見覚えがないところもあった。
移動の途中でムルカの街が見えたものの、ブラスコは約束通りに止まらなかった。
竜車は目を引く存在なのだが、フレヤ親子がすでに通ったことがあるおかげで、足止めされずに関所を通過することができた。
バラムが近くなると見慣れた景色が増え始め、自然と胸が高鳴るのを感じた。
自分の店を持ってからこんなに故郷を離れたのは初めてのことだった。
馬車よりも速い竜車はどんどん町へと近づき、やがて町と街道の境界線のところに到着した。
懐かしい気持ちになりながら、ゆっくりと客車を下りる。
「ありがとうございました。かなり短時間で着きましたね」
「どういたしましてー。わしはこの子を預けてくるから、みんなは先に町へ行っておくんなまし」
ブラスコ以外の三人が下車すると、彼は竜車で移動を再開した。
地竜専用の厩舎はどこの町にもないはずなので、適当な場所を見つけるのだろう。
彼がこの町に来るのは初めてではないため、任せておくことにした。
「これからどうする? やっぱり、自分の店を見に行くよね」
「もう昼の営業が終わった後だし、行ってみるよ」
ここから店までは少し距離があるが、歩いて行ける範囲だ。
「私は別行動にさせてもらうわ。久しぶりのバラムで寄りたいところもあるから」
「分かりました。俺とフレヤは店の方に行くので、何かあったら言ってください」
「ええ、そうさせてもらうわ」
アデルと別れて、フレヤと二人で町の方へと足を運ぶ。
レイランドやムルカのような都市とは異なり、バラムの郊外は建物や人の数が少ない。
整地されずに原っぱになっているところもある。
「こうして見ると、この町はのどかだよな」
「モルネア王国のムルカは雑然としてたから、私的にはこれぐらいがちょうどいいかな」
「ブラスコさんが心配すると思って話さなかったけど、ムルカで盗賊に誘拐されて、隠れ家の洞窟でシルバーゴブリンに助けられた」
「シルバーゴブリン? そんなモンスターがいるの!?」
フレヤはシルバーゴブリンのことを知らないような反応だった。
彼らは基本的に人間とはつるまないため、冒険者でもなければ聞く機会の少ないモンスターだと思う――それに希少性も高い。
彼女にそこでハンクが助けに来たこと、ボードルアから採れるフォアグラ美味であることを話すと、興味深いそうに聞いてくれた。
今でもアデルやハンク相手では気を遣いがちなのだが、フレヤの飾らない性格と年齢が近いおかげで気軽に話ができる。
土産話は盛り上がり、気づけば店のすぐ近くに来ていた。
季節が少し進んだように見えるものの、店の前の通りは変わっていない。
久しぶりに自宅に帰るような感覚だった。
一歩ずつ近づくごとに鼓動が高鳴るのを感じた。
「――マルクさん!」
店の入り口が近づいたところで、敷地の中から声が響いた。
そこには店を任せたシリルの姿があった。
彼はその場から走り出して、こちらに近づいてきた。
「久しぶりです! 元気でしたか?」
「うん、もちろん。シリルも元気みたいでよかった」
「立ち話もあれなので、こっちにどうぞ」
俺は案内されるままに店の敷地に入った。
全体的に清潔感があり、手入れが行き届いていることがすぐに分かった。
フレヤとシリルが大事に扱ってくれていたことを知り、二人に感謝したい気持ちになった。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エールも励みになっています。
新しいアイデアが出たので、エンディングを当初の予定よりも先延ばしにしようと執筆しています。
引き続き楽しんで頂けたら幸いです。
一つ目はアンデッドが多数出没する湿地。
二つ目は治安がよくないモルネア王国周辺。
湿地は地竜の竜種パワーのおかげで、アンデッドを寄せつけずに通過できた。
今度はモルネア王国をクリアする必要がある。
湿地を抜けて少し経ったところで、ブラスコに声をかけた。
「前にモルネア王国のムルカで危ない目に遭ったので、迂回するか通りすぎてほしいです」
「婿殿と仲間がムルカ周辺の盗賊を一掃した話は耳にしたよ。今のペースで進むとモルネア王国に着く頃には夕方になりそうだから、手前の町に泊まるのがいいかもね」
「ありがとうございます。あの時の盗賊がいなくなったのは知っているんですけど、まだ恐怖が拭えなくて」
「いいよいいよ。わしも盗賊の怖さはよく分かるから」
シルバーゴブリンに助けられたとは言いにくく、肝心なところは曖昧にしながら話す。
ちなみに盗賊にさらわれて怖かったことは事実である。
おそらく、ブラスコはモルネア王国のどこかで泊まるつもりだったようだが、予定を変えてくれるようだ。
地竜の速さを考えれば、大きな違いにはならないのかもしれない。
それから道沿いの町に竜車を停めて、俺たちは町の宿屋に宿泊した。
翌日には再出発して、バラムへと向かった。
モルネア王国の領土に入ると、街道ですれ違う人が増えた。
国の規模が大きいこともあり、自然と通行人の数も多くなるのだ。
モルネア王国からサクラギに向かう道は一度しか通ったことがないせいか、竜車に乗っていても、記憶がおぼろげであることに気づかされる。
通りすぎる景色の中には見覚えがないところもあった。
移動の途中でムルカの街が見えたものの、ブラスコは約束通りに止まらなかった。
竜車は目を引く存在なのだが、フレヤ親子がすでに通ったことがあるおかげで、足止めされずに関所を通過することができた。
バラムが近くなると見慣れた景色が増え始め、自然と胸が高鳴るのを感じた。
自分の店を持ってからこんなに故郷を離れたのは初めてのことだった。
馬車よりも速い竜車はどんどん町へと近づき、やがて町と街道の境界線のところに到着した。
懐かしい気持ちになりながら、ゆっくりと客車を下りる。
「ありがとうございました。かなり短時間で着きましたね」
「どういたしましてー。わしはこの子を預けてくるから、みんなは先に町へ行っておくんなまし」
ブラスコ以外の三人が下車すると、彼は竜車で移動を再開した。
地竜専用の厩舎はどこの町にもないはずなので、適当な場所を見つけるのだろう。
彼がこの町に来るのは初めてではないため、任せておくことにした。
「これからどうする? やっぱり、自分の店を見に行くよね」
「もう昼の営業が終わった後だし、行ってみるよ」
ここから店までは少し距離があるが、歩いて行ける範囲だ。
「私は別行動にさせてもらうわ。久しぶりのバラムで寄りたいところもあるから」
「分かりました。俺とフレヤは店の方に行くので、何かあったら言ってください」
「ええ、そうさせてもらうわ」
アデルと別れて、フレヤと二人で町の方へと足を運ぶ。
レイランドやムルカのような都市とは異なり、バラムの郊外は建物や人の数が少ない。
整地されずに原っぱになっているところもある。
「こうして見ると、この町はのどかだよな」
「モルネア王国のムルカは雑然としてたから、私的にはこれぐらいがちょうどいいかな」
「ブラスコさんが心配すると思って話さなかったけど、ムルカで盗賊に誘拐されて、隠れ家の洞窟でシルバーゴブリンに助けられた」
「シルバーゴブリン? そんなモンスターがいるの!?」
フレヤはシルバーゴブリンのことを知らないような反応だった。
彼らは基本的に人間とはつるまないため、冒険者でもなければ聞く機会の少ないモンスターだと思う――それに希少性も高い。
彼女にそこでハンクが助けに来たこと、ボードルアから採れるフォアグラ美味であることを話すと、興味深いそうに聞いてくれた。
今でもアデルやハンク相手では気を遣いがちなのだが、フレヤの飾らない性格と年齢が近いおかげで気軽に話ができる。
土産話は盛り上がり、気づけば店のすぐ近くに来ていた。
季節が少し進んだように見えるものの、店の前の通りは変わっていない。
久しぶりに自宅に帰るような感覚だった。
一歩ずつ近づくごとに鼓動が高鳴るのを感じた。
「――マルクさん!」
店の入り口が近づいたところで、敷地の中から声が響いた。
そこには店を任せたシリルの姿があった。
彼はその場から走り出して、こちらに近づいてきた。
「久しぶりです! 元気でしたか?」
「うん、もちろん。シリルも元気みたいでよかった」
「立ち話もあれなので、こっちにどうぞ」
俺は案内されるままに店の敷地に入った。
全体的に清潔感があり、手入れが行き届いていることがすぐに分かった。
フレヤとシリルが大事に扱ってくれていたことを知り、二人に感謝したい気持ちになった。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エールも励みになっています。
新しいアイデアが出たので、エンディングを当初の予定よりも先延ばしにしようと執筆しています。
引き続き楽しんで頂けたら幸いです。
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