384 / 469
ベナード商会と新たな遺構
フレヤとの再会とマルクへの朗報
しおりを挟む
焼肉屋の常連であり、旅の仲間でもあるハンクが幸せならうれしく思う。
サユキとお似合いなので、彼の幸せを願うばかりだった。
二人の仲睦まじい様子にほっこりした気持ちになる。
からし菜の天ぷらを味わいつつ、やがてそばを完食した。
薬味のわさびがいい風味で、おでんのからしと同じように欠かせないと思った。
前回はかけそばだったが、今回のざるもなかなかの味で満足だった。
全員が食べ終えたところで勘定を済ませて店を出る。
ちょうどお昼の時間で柔らかな陽光が通りに差していた。
「マルクたちには話したかったから、伝えることができてよかったぜ」
「こちらこそありがとうございます」
「これからサユキと出かけるから、それじゃあな」
「また会いましょう」
ハンクは笑顔で手を振り、サユキは丁寧にお辞儀をして去っていった。
遠ざかる背中を眺めながら、旅の日々をしみじみと思い返した。
「二人とも幸せそうでしたね」
「ハンクがサクラギに根を張るとは驚いたわ」
「そういえば、アデルの今後はどんな予定なんですか?」
「フェルトラインやヤルマに行って、料理や旅の情報が増えたから、久しぶりに紀行文を書くのもいいと思っているわ」
「いいですね。アデルの書いた本は見たことがないので読んでみたいです」
アデルと口々に感想を言った後、町のどこかで騒ぎが起きている気配がした。
音の聞こえ方からして、そう遠くない距離のようだ。
「あれ、何かあったのか」
「こんなふうになるなんて珍しいわね」
「見に行ってみましょうか」
「ええ、そうしましょう」
二人でそば屋の前を離れて歩き出した。
騒ぎが起きている場所は見物人がいることで、すぐに見つけることができた。
「……馬車? いや、つながれているのは馬じゃない」
「初めて見るわ。あれは竜なのかしら」
珍しい生きものが客車を引いていた。
サクラギの人たちも物珍しいと感じたようで、何人もの人が注目している。
「あっ、マルク!」
客車の方から名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声に視線を向ける。
栗色の髪とアラビアンな衣服。
どこか東洋風な面影のある整った顔立ち。
留守の間に店を任せていたフレヤだった。
「あれ、どうしてこんなところに?」
「実はお父さんが話したいことがあるみたいで、一人にするのは心配だからついてきちゃった」
「やっほー、婿殿」
客車から大柄な男が身を乗り出した。
たしかフレヤの父親のブラスコだ。
フランクなノリだが、べナード商会の社長である。
二人と話していると兵士の一人が小走りで近づいてきた。
おそらく騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
「失礼いたします。こちらの方々はマルク殿のお知り合いで?」
「はい、お騒がせしてすみません」
「いえ、問題ありません。ただ、馬車と同じように町の外に停めて頂きたいのですが」
ブラスコがただ者ではないと察したようで、兵士は言葉を選びながら話している。
まるで日本人のような丁寧な態度に懐かしい感覚がした。
「ごめんなさい。すぐに移動させます」
「ささっこちらへ。ご案内いたします」
落ちつかない状況になっていたが、フレヤ親子と珍しい生きものの荷車が去ったことで静かになった。
町の人たちは何ごともなかったかのように去っていく。
「ねえ、さっきの男性が婿殿って言っていたけれど」
話すタイミングを見計らったようにアデルが口を開いた。
ハンクの結婚話を聞いたばかりなので、彼女が興味を抱いたとしてもおかしくはない。
「さっきの人はべナード商会の親分で、娘のフレヤと結婚して跡継ぎになってほしいみたいです」
「ああ、なるほどね。見覚えがあると思ったらブラスコ社長だったわ。それにしてもすごいじゃない。商会の後継者なら将来はお金持ち確実よ」
「いい話だと思うんですけど、まだ色んなところを見てみたいですし、後継者ともなれば融通が利かないことも増えると思います。焼肉屋の店主の方が気楽かなと」
「なるほど、それも一理あるわね」
こちらの答えにアデルは納得するように頷いた。
二人で待っているとフレヤとブラスコが歩いてきた。
「いやはや、サクラギという国は興味深い。初めて来たけども、気になることが目白押しだ」
「ほらお父さん。今回はゆっくりする時間はないよ」
「もうフレヤちゃんたら手厳しい。それで婿殿、面白い話を持ってきたよ」
俺が喜ぶようなプレゼントを持ってきたと言わんばかりの表情。
フレヤもどこかそわそわしている。
「サクラギまで来てもらったのですから、ぜひ聞かせてください」
「いいね、わしが見こんだだけのことはある」
ブラスコは満面の笑みを浮かべながら話を続ける。
「ランス王国で何か商売を始めようと思って、キャラバンを連れて国内を回っていたら、手つかずの遺構を見つけちゃった!」
「……えっ? すみません」
遺構という言葉は知っているが、どういう意味だっただろうか。
話についていけないことで、冒険者を離れて久しいことを実感する。
「つまり、新しいダンジョンを見つけたということね」
「ああ、そういうこと……ってすごいことでは?」
アデルが補足してくれたおかげで、ようやく理解が追いついた。
ブラスコはフレヤを同行させて、そのことを俺に伝えに来てくれたのだ。
サユキとお似合いなので、彼の幸せを願うばかりだった。
二人の仲睦まじい様子にほっこりした気持ちになる。
からし菜の天ぷらを味わいつつ、やがてそばを完食した。
薬味のわさびがいい風味で、おでんのからしと同じように欠かせないと思った。
前回はかけそばだったが、今回のざるもなかなかの味で満足だった。
全員が食べ終えたところで勘定を済ませて店を出る。
ちょうどお昼の時間で柔らかな陽光が通りに差していた。
「マルクたちには話したかったから、伝えることができてよかったぜ」
「こちらこそありがとうございます」
「これからサユキと出かけるから、それじゃあな」
「また会いましょう」
ハンクは笑顔で手を振り、サユキは丁寧にお辞儀をして去っていった。
遠ざかる背中を眺めながら、旅の日々をしみじみと思い返した。
「二人とも幸せそうでしたね」
「ハンクがサクラギに根を張るとは驚いたわ」
「そういえば、アデルの今後はどんな予定なんですか?」
「フェルトラインやヤルマに行って、料理や旅の情報が増えたから、久しぶりに紀行文を書くのもいいと思っているわ」
「いいですね。アデルの書いた本は見たことがないので読んでみたいです」
アデルと口々に感想を言った後、町のどこかで騒ぎが起きている気配がした。
音の聞こえ方からして、そう遠くない距離のようだ。
「あれ、何かあったのか」
「こんなふうになるなんて珍しいわね」
「見に行ってみましょうか」
「ええ、そうしましょう」
二人でそば屋の前を離れて歩き出した。
騒ぎが起きている場所は見物人がいることで、すぐに見つけることができた。
「……馬車? いや、つながれているのは馬じゃない」
「初めて見るわ。あれは竜なのかしら」
珍しい生きものが客車を引いていた。
サクラギの人たちも物珍しいと感じたようで、何人もの人が注目している。
「あっ、マルク!」
客車の方から名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声に視線を向ける。
栗色の髪とアラビアンな衣服。
どこか東洋風な面影のある整った顔立ち。
留守の間に店を任せていたフレヤだった。
「あれ、どうしてこんなところに?」
「実はお父さんが話したいことがあるみたいで、一人にするのは心配だからついてきちゃった」
「やっほー、婿殿」
客車から大柄な男が身を乗り出した。
たしかフレヤの父親のブラスコだ。
フランクなノリだが、べナード商会の社長である。
二人と話していると兵士の一人が小走りで近づいてきた。
おそらく騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
「失礼いたします。こちらの方々はマルク殿のお知り合いで?」
「はい、お騒がせしてすみません」
「いえ、問題ありません。ただ、馬車と同じように町の外に停めて頂きたいのですが」
ブラスコがただ者ではないと察したようで、兵士は言葉を選びながら話している。
まるで日本人のような丁寧な態度に懐かしい感覚がした。
「ごめんなさい。すぐに移動させます」
「ささっこちらへ。ご案内いたします」
落ちつかない状況になっていたが、フレヤ親子と珍しい生きものの荷車が去ったことで静かになった。
町の人たちは何ごともなかったかのように去っていく。
「ねえ、さっきの男性が婿殿って言っていたけれど」
話すタイミングを見計らったようにアデルが口を開いた。
ハンクの結婚話を聞いたばかりなので、彼女が興味を抱いたとしてもおかしくはない。
「さっきの人はべナード商会の親分で、娘のフレヤと結婚して跡継ぎになってほしいみたいです」
「ああ、なるほどね。見覚えがあると思ったらブラスコ社長だったわ。それにしてもすごいじゃない。商会の後継者なら将来はお金持ち確実よ」
「いい話だと思うんですけど、まだ色んなところを見てみたいですし、後継者ともなれば融通が利かないことも増えると思います。焼肉屋の店主の方が気楽かなと」
「なるほど、それも一理あるわね」
こちらの答えにアデルは納得するように頷いた。
二人で待っているとフレヤとブラスコが歩いてきた。
「いやはや、サクラギという国は興味深い。初めて来たけども、気になることが目白押しだ」
「ほらお父さん。今回はゆっくりする時間はないよ」
「もうフレヤちゃんたら手厳しい。それで婿殿、面白い話を持ってきたよ」
俺が喜ぶようなプレゼントを持ってきたと言わんばかりの表情。
フレヤもどこかそわそわしている。
「サクラギまで来てもらったのですから、ぜひ聞かせてください」
「いいね、わしが見こんだだけのことはある」
ブラスコは満面の笑みを浮かべながら話を続ける。
「ランス王国で何か商売を始めようと思って、キャラバンを連れて国内を回っていたら、手つかずの遺構を見つけちゃった!」
「……えっ? すみません」
遺構という言葉は知っているが、どういう意味だっただろうか。
話についていけないことで、冒険者を離れて久しいことを実感する。
「つまり、新しいダンジョンを見つけたということね」
「ああ、そういうこと……ってすごいことでは?」
アデルが補足してくれたおかげで、ようやく理解が追いついた。
ブラスコはフレヤを同行させて、そのことを俺に伝えに来てくれたのだ。
5
お気に入りに追加
3,322
あなたにおすすめの小説
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる