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発展を遂げた国フェルトライン

サクラギ城でティータイム

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 翌朝、宿の食堂で朝食を済ませた後、アデルと二人でサクラギ城に向かった。
 見張り番の兵士はミズキからお触れがあったようで、俺たちを通してくれた。

 城門をくぐって中庭に足を運ぶと、前に来た時に満開だった桜の木は葉桜になっていた。
 生命力に満ちた緑色の葉を目にして、季節と時間の流れを感じる。

 中庭から本丸までは幅の広い道でつながっており、その脇で剣を交える二人の姿が見えた。
 ミズキとアカネが剣術の鍛錬をしているようだ。

「朝から元気ね。ふわぁー」

 アデルは低血圧の人みたいに朝が苦手らしい。
 そんな彼女を傍目に見ながら、ミズキたちの動きを見やる。

 体格で勝るミズキの太刀は重そうだが、彼女よりも細長い体型のアカネは器用に受け流している。
 アカネの足捌きは簡単そうに見えるものの、ミズキの動きが鈍いわけではない。
 俺のように剣術と魔法をバランス重視で伸ばしてきた者には、太刀打ちできないほどの力強さがある。

 魅了されるような攻守の応酬が続いたが、途中でアカネが手で制すような動きを見せた。
 ミズキはそれに気づいて剣を下ろす。
 二人は互いに礼をして、アカネがミズキから木刀を預かった。

「おはようー!」

 ミズキは元気にあいさつをした。
 こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。

「おはようございます」

「おはよう」

 俺とアデルはあいさつを返す。
 
「ああー、朝からいい汗かいた」

「見事な剣術ですね。あれならBランク冒険者とも互角にやり合えそうです」

「あたしなんかまだまだ。アカネぐらい強くならないと」

 ミズキが謙遜を見せたところで、そのアカネが歩みを寄せる。
 彼女は手拭いをミズキに差し出した。

「姫様、どうぞ」

「うん、ありがと」

 ミズキは汗を拭った後、俺とアデルに場所を変えるように促した。 
 四人で中庭を歩いて移動する。

「これから朝ご飯だから、マルクくんたちもどう?」

「すみません。モミジ屋で美味しい朝食を食べさせてもらったので」

「だよね! モミジ屋は腕利きの板前がいるから」

 ミズキは鍛錬を終えたばかりなのに元気だった。
 いずれはゼントクを継いで一国の当主になるような人なのだから、これぐらいのバイタリティは当然なのかもしれない。

「あそこの朝食、味はまあまあね。ただ、他では食べられない料理があるから、それを加味すると上の中ぐらいかしら」

「美食家は素直じゃないなー」

「これでも、だいぶ評価している方よ」

 アデルとの付き合いは長くなり、彼女が皮肉を言っていないことが分かる。
 それにミズキは俺以上に長い付き合いで、軽口の応酬を楽しんでいるようだ。

「お二方にはお茶をご用意しましょう」

「ありがとうございます」

 美食家と姫様のやりとりを脇に見つつ、アカネの提案に感謝を伝えた。

「そうそう、何か用事があったんだよね?」

「朝食の後にでも話をさせてもらいます」

「分かった。それじゃあまた後で」

 ミズキはアカネに付き添われて城内へと向かった。
 彼女たちと入れ替わりに若い女がやってきた。
 着物の雰囲気から察するに使用人のような立場なのだろう。

「奉公人のチグサと申します」

「これはどうも」

 チグサは俺とアデルの方を向いて、丁寧にお辞儀をした。

「姫様が朝食の間、お茶をお出しするように承っております」

「あなたの立ち振る舞いは洗練されているわ。サクラギにはいい先生がいるのね」

「恐れ入ります。ではこちらへ」

 アデルに褒められて謙遜した後、チグサは案内を始めた。
 前に訪れた茶室に行くかと思ったが、今回は方向が違うようだ。
 中庭の景色を眺めつつ、チグサに続いて足を運ぶ。

「どうぞこちらです。お好きなところに腰かけて頂いてかまいません」

「案内ありがとうございます」

「お茶をお持ちしますので、少々お待ちください」  

 チグサに案内されたのは日当たりのいい縁側が伸びるところだった。
 一般的な民家より広さがあり、大金持ちの家のようである。
 
 俺とアデルは適当な位置に腰を下ろして、チグサを待つことにした。

 目の前には手入れの行き届いた庭園があり、切り揃えられた庭木を眺めていると退屈しないと思った。
 アデルも雅(みやび)な空気を感じているようで、お互いに口数の少ない状態だ。
 時間の流れがゆっくりに感じられて、心が豊かになるような気分だった。

 その間、チグサは小さな机を運び、俺とアデルの分のお茶を用意を進めていた、
 
「お待たせしました。お茶のご用意ができました」

「ありがとうございます」

「あら、いい香りね」

 小さな机の上には湯吞みがあり、中には鮮やかな紅色のお茶が入っている。
 アデルが言ったように香りが漂い、明らかに紅茶の匂いだった。

「緑茶ではないんですね」

「お二人にはこちらの方がなじみがあるかと思いまして。ミズキ様の影響でサクラギで採れた茶葉から紅茶を作るようになりました。確かな腕の職人が製茶しているので、味の方はご満足頂けると思います」

「まあ、ミズキならやりそうなことね」

「ミズキ様とアデル様は旧知の中と存じます」

 チグサは微笑みを浮かべてアデルを見た。
 年齢は十代後半といった容姿だが、立ち振る舞いが洗練されているので、奉公人になって一定の期間がすぎているのだろう。
 アデルの言うようにチグサがよき師を持っていることを想像した。

 せっかく淹れたてなので、湯吞みに入った紅茶を飲み始めた。
 口の中に含むと上品な香りが広がり、初めて味わう風味を感じる。

「普段飲む紅茶とはひと味違いますね」

「サクラギの上質な緑茶は交易品の一つだから、紅茶になっても美味しいのは当然よ」

 我らが美食家もお気に召したようで、じっくり味わって紅茶をすすっている。
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