375 / 469
発展を遂げた国フェルトライン
ホロホロ鳥の丸焼き
しおりを挟む
夜に入った街を歩くうちに最初の騒ぎがあった付近にたどり着いた。
近くの路地から住宅街に向かえば、立てこもりが起きた家がある。
今いる通りには数軒の飲食店があり、好奇心を抱いたミズキがそのうちのどれかにいてもおかしくない。
俺と同じように彼女も自分の店を経営しているので、目新しい料理に飛びつきそうな気がしている。
そんなことを考えていると耳になじんだ声が聞こえてきた。
ミズキの声ははっきりしていてよく通る。
一国の姫ということもあり、いつも物怖じせずに話すことも大きいのだろう。
「むっ、これは姫様の声」
アカネは俺よりも早く気づいたようで、すでに声のする方向に足を向けていた。
彼女に続いて俺やアデル、ギュンターも同じ方向へと歩く。
ミズキがいたのは店先に大きな照明が置かれた明るい雰囲気の店だった。
ログハウス風の店先にはテラスがあり、そこにテーブルと椅子が置かれている。
彼女はそのうちの一つで数人の人たちと楽しんでいるところだった。
「おっかえりー! 退屈だったから先にやってるよ」
「姫様、只今戻りました」
ほろ酔い加減のミズキと普段通りのアカネのノリがミスマッチで、傍目から見ると面白い感じに見えてしまう。
「ああっ、本物のアデル様よ! あなたの話は本当だったのね!」
ミズキと同じグループに仕事帰りの料理人という格好の若い女がいた。
彼女はアデルを見て色めき立っている。
「ギュンターさん、カオスな状況ですね」
「まああれよ、平和だからこそと思えばな」
俺とギュンターは意気投合した様子で、目の前で繰り広げられている光景を見ていた。
しばらく二人で静観していると場が落ちついて、空いた席に招かれた。
「さあ、どうぞどうぞ」
アデルに心酔している様子だった女がグラスを持ってきてワインを注(つ)いでくれた。
みずみずしい香りの赤ワインで、とても美味しそうな雰囲気がある。
「みんなに飲みものは行き渡ったかな?」
気づけばミズキが中心的なポジションになり、乾杯の音頭を始めようとしている。
「揃いました」
「こっちはいいわよ」
方々からミズキへと反応が返り、それを確認した彼女はグラスを掲げた。
「はーい、乾杯ー!」
席の近くには見知らぬ街の人が多いわけだが、ノリのいい人ばかりで順番にグラスを合わせていく。
すでに酒が入っている影響もあるようで、ウェルカムな姿勢はありがたい。
周りの様子を見ながら注がれた赤ワインを口に含む。
ブドウの甘みと同時にさわやか香りが鼻の奥を抜けていく。
どうやら、熟成度合いは控えめの銘柄のようだ。
「このワイン、とても飲みやすいです」
「レイランドは何でも揃う街だからね。郊外の山間部ではブドウ畑があるし、評判のいいワイナリーもいくつかある。そのワインにはこれが合うから、よかったら食べなよ」
「はい、ありがとうございます」
隣の席の男が親切に話してくれた。
彼が差し出した皿には数種類のチーズが盛りつけてある。
ワイン片手につまんでみると最高の組み合わせだと実感。
「はーい、お待ちどおさま! 当店自慢の料理ができましたよ」
給仕の男が大皿に乗った料理を運んできた。
何かの鳥の丸焼きのようで、美味しそうな湯気が立っている。
「すみません、あの鳥は?」
「そっか、よその人は分からないよなあ。ホロホロ鳥って言って、フェルトライン王国の草原にいる鳥だね。煮ても焼いても美味しいのに、警戒心が強くて捕まえるのが難しいから、なかなか食べられないんだ。おーい、おれも食べるからー」
隣の席の男はこちらの質問に答えてから、自分の分を取りに行ってしまった。
それだけ美味しいのなら、頃合いを見計らって食べておこうか。
ホロホロ鳥の丸焼きに惹かれつつ、集団から少し離れたところで飲んでいるアカネのところに移動する。
「どうしたんです、輪に加われば?」
俺の質問に対して、アカネはわずかに反応を見せた。
彼女の手元を見るとワインではなく、違う何かを飲んでいるようだ。
「……サクラギにはない、この街の空気を感じていたいのだ」
「分かりました。ずいぶん都会ですからね」
ミズキの護衛として同行することはあったかもしれないが、アカネ自身がサクラギ以外の街を満喫できる機会は少なかったのだろう。
姫であるミズキと大して変わらない年齢――十代後半から二十歳ぐらい――であれば都会の華やかさであるとか、見たことのないものに惹かれたとしても自然だろう。
俺はアカネの時間を邪魔しないように離れた。
自分が座っていたところに戻り、椅子に腰かける。
ちょうどホロホロ鳥の丸焼きが切り分けられた後で、大皿には食べられる部分が残っている。
チキンレッグならぬホロホロレッグが美味しそうなので、それを掴んで目の前の取り皿に乗せた。
「食べたことのないあんたに脚の部分は残しておいたよ。一番美味しい部分だから」
「ありがとうございます。では早速――」
突き出た骨の部分を掴み、茶色い焼き目のついた皮にをかぶりつく。
口に含んだ瞬間、濃厚な肉汁が口の中に広がる。
臭みは皆無でしっかりした味つけのソースが絶妙に美味い。
「いやー、これはすごい。冒険者の頃に食べた野鳥も美味しかったですけど、それを上回る味です」
あまりの美味さに言葉に自然と力が入る。
そんな俺の感想を聞いて、料理を紹介してくれた男が笑みを浮かべた。
「だろ? とりあえず、ワインのおかわりを入れようか」
「これはどうも」
俺はグラスにワインを入れてもらいながら、ホロホロ鳥の味を噛みしめていた。
あとがき
タイトルと内容の重複があり、申し訳ありませんでした。
近くの路地から住宅街に向かえば、立てこもりが起きた家がある。
今いる通りには数軒の飲食店があり、好奇心を抱いたミズキがそのうちのどれかにいてもおかしくない。
俺と同じように彼女も自分の店を経営しているので、目新しい料理に飛びつきそうな気がしている。
そんなことを考えていると耳になじんだ声が聞こえてきた。
ミズキの声ははっきりしていてよく通る。
一国の姫ということもあり、いつも物怖じせずに話すことも大きいのだろう。
「むっ、これは姫様の声」
アカネは俺よりも早く気づいたようで、すでに声のする方向に足を向けていた。
彼女に続いて俺やアデル、ギュンターも同じ方向へと歩く。
ミズキがいたのは店先に大きな照明が置かれた明るい雰囲気の店だった。
ログハウス風の店先にはテラスがあり、そこにテーブルと椅子が置かれている。
彼女はそのうちの一つで数人の人たちと楽しんでいるところだった。
「おっかえりー! 退屈だったから先にやってるよ」
「姫様、只今戻りました」
ほろ酔い加減のミズキと普段通りのアカネのノリがミスマッチで、傍目から見ると面白い感じに見えてしまう。
「ああっ、本物のアデル様よ! あなたの話は本当だったのね!」
ミズキと同じグループに仕事帰りの料理人という格好の若い女がいた。
彼女はアデルを見て色めき立っている。
「ギュンターさん、カオスな状況ですね」
「まああれよ、平和だからこそと思えばな」
俺とギュンターは意気投合した様子で、目の前で繰り広げられている光景を見ていた。
しばらく二人で静観していると場が落ちついて、空いた席に招かれた。
「さあ、どうぞどうぞ」
アデルに心酔している様子だった女がグラスを持ってきてワインを注(つ)いでくれた。
みずみずしい香りの赤ワインで、とても美味しそうな雰囲気がある。
「みんなに飲みものは行き渡ったかな?」
気づけばミズキが中心的なポジションになり、乾杯の音頭を始めようとしている。
「揃いました」
「こっちはいいわよ」
方々からミズキへと反応が返り、それを確認した彼女はグラスを掲げた。
「はーい、乾杯ー!」
席の近くには見知らぬ街の人が多いわけだが、ノリのいい人ばかりで順番にグラスを合わせていく。
すでに酒が入っている影響もあるようで、ウェルカムな姿勢はありがたい。
周りの様子を見ながら注がれた赤ワインを口に含む。
ブドウの甘みと同時にさわやか香りが鼻の奥を抜けていく。
どうやら、熟成度合いは控えめの銘柄のようだ。
「このワイン、とても飲みやすいです」
「レイランドは何でも揃う街だからね。郊外の山間部ではブドウ畑があるし、評判のいいワイナリーもいくつかある。そのワインにはこれが合うから、よかったら食べなよ」
「はい、ありがとうございます」
隣の席の男が親切に話してくれた。
彼が差し出した皿には数種類のチーズが盛りつけてある。
ワイン片手につまんでみると最高の組み合わせだと実感。
「はーい、お待ちどおさま! 当店自慢の料理ができましたよ」
給仕の男が大皿に乗った料理を運んできた。
何かの鳥の丸焼きのようで、美味しそうな湯気が立っている。
「すみません、あの鳥は?」
「そっか、よその人は分からないよなあ。ホロホロ鳥って言って、フェルトライン王国の草原にいる鳥だね。煮ても焼いても美味しいのに、警戒心が強くて捕まえるのが難しいから、なかなか食べられないんだ。おーい、おれも食べるからー」
隣の席の男はこちらの質問に答えてから、自分の分を取りに行ってしまった。
それだけ美味しいのなら、頃合いを見計らって食べておこうか。
ホロホロ鳥の丸焼きに惹かれつつ、集団から少し離れたところで飲んでいるアカネのところに移動する。
「どうしたんです、輪に加われば?」
俺の質問に対して、アカネはわずかに反応を見せた。
彼女の手元を見るとワインではなく、違う何かを飲んでいるようだ。
「……サクラギにはない、この街の空気を感じていたいのだ」
「分かりました。ずいぶん都会ですからね」
ミズキの護衛として同行することはあったかもしれないが、アカネ自身がサクラギ以外の街を満喫できる機会は少なかったのだろう。
姫であるミズキと大して変わらない年齢――十代後半から二十歳ぐらい――であれば都会の華やかさであるとか、見たことのないものに惹かれたとしても自然だろう。
俺はアカネの時間を邪魔しないように離れた。
自分が座っていたところに戻り、椅子に腰かける。
ちょうどホロホロ鳥の丸焼きが切り分けられた後で、大皿には食べられる部分が残っている。
チキンレッグならぬホロホロレッグが美味しそうなので、それを掴んで目の前の取り皿に乗せた。
「食べたことのないあんたに脚の部分は残しておいたよ。一番美味しい部分だから」
「ありがとうございます。では早速――」
突き出た骨の部分を掴み、茶色い焼き目のついた皮にをかぶりつく。
口に含んだ瞬間、濃厚な肉汁が口の中に広がる。
臭みは皆無でしっかりした味つけのソースが絶妙に美味い。
「いやー、これはすごい。冒険者の頃に食べた野鳥も美味しかったですけど、それを上回る味です」
あまりの美味さに言葉に自然と力が入る。
そんな俺の感想を聞いて、料理を紹介してくれた男が笑みを浮かべた。
「だろ? とりあえず、ワインのおかわりを入れようか」
「これはどうも」
俺はグラスにワインを入れてもらいながら、ホロホロ鳥の味を噛みしめていた。
あとがき
タイトルと内容の重複があり、申し訳ありませんでした。
4
お気に入りに追加
3,321
あなたにおすすめの小説
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる