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発展を遂げた国フェルトライン

騒動の決着

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 合流したギュンターと共に倉庫の前を離れる。
 彼の話では付近に怪しい人影はなく、他に残党がいるような気配はないようだ。
 これから、自警団の人たちに中にいる男たちを捕らえてもらわなければ。

 街への道を歩き始めて少しして、前方から複数の灯りが近づいてくるのが見えた。

「あれはアレクシスたちじゃないか」

「そうみたいですね」

 お互いの距離が近づいたところで、アレクシスと数人の団員の姿が目に入った。

「アレクシス、三人がやってくれた。中にいる男たちを捕らえてくれ」

「そうか、了解した。今回も皆さんに助けられてしまった」

 アレクシスは感謝半分、申し訳なさ半分といった表情でこちらを見つめていた。
 一番の功労者がアカネであることは間違いなく、彼女の仲間であることが誇らしい気持ちだった。

「自警団がこっちへ来たってことは街の方は大丈夫なのか?」

 ギュンターは不安げな様子でアレクシスにたずねた。
 同じく残党の状況については気になるところだ。
 
「街の人に協力してもらって何とかね。不審者の情報を集めて、隠れているところを押さえたんだ。これで間違いないと思う」

「そいつはよかった」

 ギュンターは胸をなで下ろすような安堵の息を吐いた。

「アレクシス殿、そろそろ中へ頼み申す。拙者が気絶させた二人が目を覚ましてしまう」

「おっと、そうだった。それじゃあ行こうか」

 アカネに頼まれて自警団が動き出そうとしていた。
 俺は中へ入ろうとする団長を引き止めて、握りしめていたカギを差し出す。

「これ、火薬庫のやつです」

「ありがとう」

 アレクシスはカギを受け取ると自警団の面々を率いて、倉庫の中に入っていった。
 騒動の解決が一歩近づいたことが実感できて、肩の力が抜けるような感覚になる。

「これで一件落着だな」

「街の方も大丈夫みたいでよかったですね」

「そうだな。マルクの言う通りだ」

 後ろを振り返ると、倉庫の中で複数の灯りが動いているのが見えた。
 この先はアレクシスたちに任せておいて問題ないだろう。

 それから俺たちは、ギュンターが先導するかたちで街への道を引き返した。

 人気の少ないところから街へ入ると街灯が点灯されていた。
 発展している街だけあり、他の土地よりもしっかりとした明るさがある。
 優れた技術があるようなので、魔力灯ではなく電灯の類かもしれない。

「昨日に比べて、何だかにぎやかになっているような……」

 元々人口の多いところだが、祭りの日のような雰囲気を感じる。

「デックスに苦い思いをさせられた連中がはしゃいでいるんじゃないか? オレもそのうちの一人だし、気持ちはよく分かる」

「なるほど、そういうことですか」

 記憶にある夜店のように露店が立ち並ぶというほどでもないが、テラス席や店の前に座席が設けてあるところでは、すでに酔っている人が見受けられる。
 栄えていることで目につかなかったものの、デックスという存在に抑圧されていた人たちもそれなりにいたことが窺える。

「ギュンター殿、まずは姫様と合流したい」

「おっしゃ、まずはそれからだな」

 かくいうギュンターも陽気なように見える。
 家族が無事だったことや残党を捕まえられたことで、軽やかな気分なのだろう。
  
「少し時間が経ちましたけど、さっきの場所にいますかね?」

「自警団はあの場に残っているかもしれないが、ミズキは直接関係ないからな。とりあえず、近くまで行ってみるか」

「そうですね、そうしましょう」

 徐々に空腹になってきたので、浮かれている街の人たちに混ざって食事をしたいところだが、まずは功労者のアカネの意向を尊重しておきたい。   
 アデルから反対の意見が出ることはなく、俺たちはミズキを探しに向かうことになった。

 夜になって人通りは落ちついており、昼間は開いていなかった店がいくつか開店したように見える。
 ランス王国では王都ぐらい栄えた土地でなければ、夕方からの営業でやっていけるほどお客は来ない。
 この世界で初めて目にする都会ならではの光景だと思った。

「騒ぎが片づいて、ようやく世間話ができる程度の余裕が出てきたな」

 近くを歩くギュンターが口を開いた。
 俺が通り沿いの店に注目しているのに気がついたようだ。

「いい店を紹介してくれるって話でしたからね」

「忘れてたわけじゃないぞ。うーんと、あそこの店はワインとガーリックトーストが美味い。こっちの店は肉料理に力を入れてる――」

 彼は歩きながら店の紹介を始めた。
 初めて聞くようなタイプの店もあり、好奇心が刺激される。
 ミズキと合流したらよさげな店に寄ってみたいと思う。 

 ギュンターと話しながら歩いていると興味深い光景が目に入った。

「キャー、本物のアデル様よ」

「へえ、実物も赤い髪なんだ」

 アデルがレイランドの料理人界隈で有名なことを示すように街の人が会釈をしたり、声をかけたりする様子が繰り広げられている。
 彼女は戸惑いがちな反応を見せつつも美食家の矜持を発揮するように、堂々とした様子で応じていた。

「アデルは本当に有名なんですね」

「今更だろ。モリウッドさんが心酔するほどだしな」

「分からなくもないんですけど、不思議な感じがします」

 この街の文化水準の高さ故に書物として流布したことが大きいのかもしれない。 
 文字だけが情報だった者がアデル本人を目にした時、彼女の燃えるような赤い髪やエルフ特有の端正な顔立ちに感慨を覚えるのは自然なことだと思う。
 俺だって彼女と初対面の時はオーラに圧倒されるような心地だったから。

 バラムへ戻ることは決まっているが、この街の祭りのような空気をしばらく感じていたい。
 異国の街角であっても、仲間が近くにいることで心細さは感じない。
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