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発展を遂げた国フェルトライン

暴走する者、善を為す者

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 俺自身もアレクシスの言葉に我が耳を疑った。
 デックスを押さえれば全て解決だと思っていたが、必ずしもそうではないようだ。

「アカネさんが来るまではここの人員を減らすわけにもいかなったんだが、これで見回りを強化できる。別の場所でも騒ぎになっていないか、何人か出向かせよう」

「オレも行きたいところだが、ミーシャの娘が心配で離れるわけにはいかない」

「もちろんだ。まずはアカネさんを信じよう」

 俺は冒険者の経験があるので、街の見回りは難しくない。
 しかし、土地勘がないことに加えてデックスの手下を見分けることはできないことが難点になる。
 この状況ではアカネを待つ方が賢明のようだ。

 俺とギュンター、アレクシスの三人で立ち話をしていると、一人の女が小走りでギュンターに近づいてきた。

「兄さん! うちの子が連れ去られたって……」

「もう大丈夫だ。信用できる仲間が助けに向かった」

「ホント? そんなにすごい人がいるの?」 

 彼女がギュンターの妹のミーシャなのだろう。
 慌てて駆けつけたようでブラウスにスカート、その上にエプロンを羽織っている。
 彼女は不安を落ちつかせるように、オレンジ色の長く伸びた髪に何度か触れた。

「ミーシャちゃん、我々の力不足で申し訳ない」

「アレクシスさん、謝らないで。デックスの手下が残っていたって?」

「その通りだね。どうやら、この前の時に隠れていた輩がいたみたいなんだ」

「……そう」

 当然ながらミーシャはアカネのすごさを知らないようだ。
 説明に納得する素振りは見せたものの、彼女の表情には不安の色が残る。

 ――その時だった。

「おおっ! アカネさんが出てきたぞ!」 

 自警団の一人が声を張り上げた。
 民家の方に目を向けるとアカネが少女の手を引いて歩いてくるところだった。
 俺の目にはまるで英雄のように彼女の姿が映っている。

「ああ、レーニャ!」

 ミーシャは泣きそうな声を上げながら、娘の元へと駆け寄る。
 アカネはミーシャと言葉を交わした後、彼女に娘を託して歩いてきた。

「アカネ、ありがとう」

「アカネさん、今回も助けられました。自警団から感謝の言葉を伝えさせてください」

 ギュンターとアレクシスは深々と頭を下げた。
 
「拙者は当然のことをしたまでのこと。二人とも頭を上げてもらえるか」

「とんでもない。あなたのしたことは誰にでもできることではありません」

「ありがたい言葉だ。ここは承るとしよう。ところで悪漢だが、家の台所で気絶させてある。この後は自警団の方々にお任せしたい」

「分かりました。すぐに捕まえます――」

 アレクシスが部下に指示を出しに行こうとしたところで、アカネが彼を立ち止まらせた。

「悪漢を気絶させる前に気になることを聞いた」 

 アカネは俺とミズキやアデルという旅の仲間、それ以外はギュンターとアレクシスで輪を作るように集めた。
 ただならぬ様子に緊張感が高まる。
 
「それで気になることってのは?」

「どうやら、他にも仲間がいるようなのだ。ここと同じように人質を取って立てこもるか、他に別の企みがあるやもしれぬ」

 アカネの発言を受けて、アレクシスは頭を抱えるような仕草を見せた。

「レイランドの街は広い上に、手下たちは地理に精通している。我々自警団の数にも限界があってね。もう少し詳しいことが分かるといいのだが……」

「そういえば気を失う間際、『火薬庫はもらった』と申しておったような」

 アカネはそう言った後、この街の文化で火薬など使うものか疑問に思うのだがと付け加えた。

「いやいや、あるぜ。火薬が保管されたところが……」

「まさか、心当たりがあるのか?」

 同じ街に住んでいるはずのアレクシスだが、ギュンターの申し出に解せぬという態度を示した。
 そもそも、火薬庫には危険物があるので、自警団は把握していそうなものだが。

「トーマンの撮影機を試作する時、あいつの要望でかき集めた分が街外れの倉庫に保管してある。本人以外で知っているのは少数なんだが、デックスの手下の情報網に引っかかったんだろう」

 ギュンターが言い終えたところで、アレクシスがどこかへ向かおうとした。

「待て待て、火薬庫は街外れだから慌てなくていい。それにこんなことが知れたら、街が大騒ぎになるぞ。アカネはそこまで考えたんだよな?」

「うむ、その通りだ」

「二人ともありがとう。気が動転していた」

 アレクシスは気持ちを落ちつけるように何度か深呼吸をした。
 そして、気を取り直した様子で口を開く。

「何度も申し訳ないが、アカネさんの力を借りた方がよさそうだね」

「拙者は問題ない。姫様、ここに残ってくださいませぬか」

 アカネの言葉にミズキは抵抗感を示しかけたが、出かかった言葉を呑みこむようにしっかりと頷いた。

「うーん、本当は力になりたいんだけど、アカネが言うならしょうがないね」

「無礼をお許しください。マルク殿とアデル殿は来て頂けるか?」

 アカネはミズキに謝った後、俺とアデルに顔を向けた。

「もちろん、俺でよければ」   
 
「しょうがないわね。魔法が必要とかそういう理由なのはお見通しよ」

「さすがはアデル殿。拙者は火薬を凍らせれば被害が防げると考えた次第」

 何となく予想はついたが、氷魔法で補助してほしいということのようだ。

「よし、火薬庫に向かうメンバーは決まったな」

 火薬庫の場所を知っているギュンターが先頭になるかたちで移動を開始した。
 残党に好き勝手させないためにも早く解決したいところだ。
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