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発展を遂げた国フェルトライン
デックスの残党が現れる
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しばらく写真を眺めた後、アデルたちは満足したようでトーマンから離れた。
彼はその様子を見てから、写真を封筒に入れてギュンターに手渡した。
「ここでしか作れないものだから、大事にしてくれよ」
トーマンは俺たちに向かって言った後、店の中に戻っていった。
順番待ちの列は残っていて、この後も撮影が待っているのだろう。
「これはオレがもらうわけにいかないな。ひとまず、マルクに預けておこう」
「なるほど、分かりました」
俺の手元に写真の入った封筒がバトンタッチされた。
折り曲げないように注意しながら携行している荷物に入れる。
「そろそろ昼飯にしたいところだが、アカネは飯が入りそうか?」
「拙者は問題ない。姫様が空腹であれば同席しよう」
「あたしはそろそろ食べたいかな」
「分かった。これから店に案内する」
それから俺たちはギュンターに連れていったもらった店で昼食を済ませた。
レイランドの人気店のようで確かな味の店だった。
食後に街の散策を続けるうちに気づけば夕方になっていた。
昼間に比べると人通りは落ちつき、人波をかき分けるような状態ではない。
「いやー、レイランドを満喫しました。心おきなく発つことができそうです」
隣を歩くギュンターに伝えると満足そうに笑みを浮かべた。
「そりゃよかった。マルクの故郷はだいぶ遠いらしいから、なかなか来れないものな」
「馬車を使っても何日もかかります。別の交通手段なら短縮できそうですけど」
「馬車よりも早い交通手段なんてあったか?」
「ええまあ、ミズキさんが乗ってきた水牛とか……」
うっかり飛竜であるテオのことを言いそうになって言葉を濁す。
彼は特殊な存在のため、やたらと口外すべきではないと思った。
「――ギュンター、大変だ!」
ゆったりした時間を打ち破るように、男が声を出しながら駆け寄ってきた。
彼の服装に見覚えがあり、自警団の制服だったことを思い出す。
「そんなに慌ててどうした?」
「デ、デックスの手下が残っていたみたいで、民家に立てこもってる」
「そいつは本当か!?」
ギュンターと自警団の男は早口で言葉を交わした。
二人の様子から緊迫した様子が伝わってくる。
「すまねえ、街案内は中止だ」
「俺も行きますよ」
「拙者も力になろう」
「お前ら……よしっ、頼んだ!」
駆けつけた男は人混みを避けるように路地に入った。
それをギュンターと共に後を追う。
先行する男は必死のようで、通行人にぶつかりそうになりながら進んでいる。
男だけでなく、ギュンターにも焦りの色が感じられる。
もしかしたら、彼の家族や知人が巻きこまれたのかもしれない。
夕暮れが近づき薄暗くなった路地裏を抜けて、幅の広い通りに出る。
民家が並ぶように建っており、ここは住宅街のようだ。
辺りは騒然としており、明らかに何かが起きている雰囲気だった。
「ギュンター、こっちだ!」
声のした方を向くと、見覚えのある顔があった。
たしか、自警団団長のアレクシスだっただろうか。
自警団の制服を身につけた者たちが一軒の民家を遠巻きに取り囲んでいる。
「状況は?」
ギュンターから焦燥を抑えようとしている気配が感じられた。
「ミーシャの娘が人質になっていて、うかつに手が出せない」
「むっ、そうか……」
ギュンターの様子が痛々しいものに見えた。
やはり、彼に関わりのある人が巻きこまれているようだ。
「すいません、ミーシャとは誰です?」
「オレの妹だ。その娘がデックスの残党に人質に取られている」
「……そんな」
アカネがデックスを捕らえて解決したと思っていた。
こんな状況になってしまうとは予想できなかった。
「――失礼する。もしや、手をこまねいている状況ではなかろうか?」
「アカネさん、その通りだ。あんたならどうにかできそうだが……」
アレクシスは遠慮がちに言った。
自警団には街を守るというプライドがあるはずだし、何度も助けてもらうのは気が引けるということなのだと思った。
「ギュンター殿の縁者であれば、見すごすわけにはいくまい」
「アカネ……頼んだ」
ギュンターの懇願するような様子を見て、アカネは大きく頷いた。
「承知した。アレクシス殿、賊の人数は?」
「一人だ。情報が少なくてすまない」
「それだけで十分。拙者にお任せあれ」
アカネは納得したように言った後、吹き抜ける風のように姿を消した。
「ミズキさん、相変わらず彼女はすごいですね」
「うんうん、頼もしいでしょ」
ミズキに話を振ると誇らしげな様子だった。
安定の主従関係である。
俺にできることはなく、アカネの成功を願うばかりだ。
「これで安心できるが、あの方は一体何者なのか」
「実はオレも詳しいことは知らないんだ」
ギュンターとアレクシスはホッとした様子を見せた。
俺もこれで解決だと思っているが、状況について知っておきたい。
「アレクシスさん、デックスの手下はまだいたんですね」
「君はギュンターの知り合いの……」
「マルクと言います」
「そうだったね。よろしく」
アレクシスは自警団を率いる立場だけあって、貫禄のある顔つきをしている。
その一方で物腰は柔らかいので、話しやすい人柄だと感じる。
「手下についてだが、先日のデックス捕縛の時に漏れがあったようなんだ」
「なるほど、そんなことがあったなんて」
俺に続いてギュンターも会話に加わり、アレクシスの話を聞こうとしている。
彼の立場であれば気になるのは自然なことだ。
「気がかりなのは他にも残党がいるかもしれないんだ」
「そんな……かなりの数を捕らえたはずだろ」
アレクシスの報告にギュンターはうなだれるように言った。
彼はその様子を見てから、写真を封筒に入れてギュンターに手渡した。
「ここでしか作れないものだから、大事にしてくれよ」
トーマンは俺たちに向かって言った後、店の中に戻っていった。
順番待ちの列は残っていて、この後も撮影が待っているのだろう。
「これはオレがもらうわけにいかないな。ひとまず、マルクに預けておこう」
「なるほど、分かりました」
俺の手元に写真の入った封筒がバトンタッチされた。
折り曲げないように注意しながら携行している荷物に入れる。
「そろそろ昼飯にしたいところだが、アカネは飯が入りそうか?」
「拙者は問題ない。姫様が空腹であれば同席しよう」
「あたしはそろそろ食べたいかな」
「分かった。これから店に案内する」
それから俺たちはギュンターに連れていったもらった店で昼食を済ませた。
レイランドの人気店のようで確かな味の店だった。
食後に街の散策を続けるうちに気づけば夕方になっていた。
昼間に比べると人通りは落ちつき、人波をかき分けるような状態ではない。
「いやー、レイランドを満喫しました。心おきなく発つことができそうです」
隣を歩くギュンターに伝えると満足そうに笑みを浮かべた。
「そりゃよかった。マルクの故郷はだいぶ遠いらしいから、なかなか来れないものな」
「馬車を使っても何日もかかります。別の交通手段なら短縮できそうですけど」
「馬車よりも早い交通手段なんてあったか?」
「ええまあ、ミズキさんが乗ってきた水牛とか……」
うっかり飛竜であるテオのことを言いそうになって言葉を濁す。
彼は特殊な存在のため、やたらと口外すべきではないと思った。
「――ギュンター、大変だ!」
ゆったりした時間を打ち破るように、男が声を出しながら駆け寄ってきた。
彼の服装に見覚えがあり、自警団の制服だったことを思い出す。
「そんなに慌ててどうした?」
「デ、デックスの手下が残っていたみたいで、民家に立てこもってる」
「そいつは本当か!?」
ギュンターと自警団の男は早口で言葉を交わした。
二人の様子から緊迫した様子が伝わってくる。
「すまねえ、街案内は中止だ」
「俺も行きますよ」
「拙者も力になろう」
「お前ら……よしっ、頼んだ!」
駆けつけた男は人混みを避けるように路地に入った。
それをギュンターと共に後を追う。
先行する男は必死のようで、通行人にぶつかりそうになりながら進んでいる。
男だけでなく、ギュンターにも焦りの色が感じられる。
もしかしたら、彼の家族や知人が巻きこまれたのかもしれない。
夕暮れが近づき薄暗くなった路地裏を抜けて、幅の広い通りに出る。
民家が並ぶように建っており、ここは住宅街のようだ。
辺りは騒然としており、明らかに何かが起きている雰囲気だった。
「ギュンター、こっちだ!」
声のした方を向くと、見覚えのある顔があった。
たしか、自警団団長のアレクシスだっただろうか。
自警団の制服を身につけた者たちが一軒の民家を遠巻きに取り囲んでいる。
「状況は?」
ギュンターから焦燥を抑えようとしている気配が感じられた。
「ミーシャの娘が人質になっていて、うかつに手が出せない」
「むっ、そうか……」
ギュンターの様子が痛々しいものに見えた。
やはり、彼に関わりのある人が巻きこまれているようだ。
「すいません、ミーシャとは誰です?」
「オレの妹だ。その娘がデックスの残党に人質に取られている」
「……そんな」
アカネがデックスを捕らえて解決したと思っていた。
こんな状況になってしまうとは予想できなかった。
「――失礼する。もしや、手をこまねいている状況ではなかろうか?」
「アカネさん、その通りだ。あんたならどうにかできそうだが……」
アレクシスは遠慮がちに言った。
自警団には街を守るというプライドがあるはずだし、何度も助けてもらうのは気が引けるということなのだと思った。
「ギュンター殿の縁者であれば、見すごすわけにはいくまい」
「アカネ……頼んだ」
ギュンターの懇願するような様子を見て、アカネは大きく頷いた。
「承知した。アレクシス殿、賊の人数は?」
「一人だ。情報が少なくてすまない」
「それだけで十分。拙者にお任せあれ」
アカネは納得したように言った後、吹き抜ける風のように姿を消した。
「ミズキさん、相変わらず彼女はすごいですね」
「うんうん、頼もしいでしょ」
ミズキに話を振ると誇らしげな様子だった。
安定の主従関係である。
俺にできることはなく、アカネの成功を願うばかりだ。
「これで安心できるが、あの方は一体何者なのか」
「実はオレも詳しいことは知らないんだ」
ギュンターとアレクシスはホッとした様子を見せた。
俺もこれで解決だと思っているが、状況について知っておきたい。
「アレクシスさん、デックスの手下はまだいたんですね」
「君はギュンターの知り合いの……」
「マルクと言います」
「そうだったね。よろしく」
アレクシスは自警団を率いる立場だけあって、貫禄のある顔つきをしている。
その一方で物腰は柔らかいので、話しやすい人柄だと感じる。
「手下についてだが、先日のデックス捕縛の時に漏れがあったようなんだ」
「なるほど、そんなことがあったなんて」
俺に続いてギュンターも会話に加わり、アレクシスの話を聞こうとしている。
彼の立場であれば気になるのは自然なことだ。
「気がかりなのは他にも残党がいるかもしれないんだ」
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