上 下
361 / 469
発展を遂げた国フェルトライン

アカネの優れた才能

しおりを挟む
 ミズキ自身も腕が立つし、アデルに至っては赤髪のエルフということで目立つ。
 デックスの手下が安易に攻撃を仕かけるとは考えにくく、もしそうなったとしても問題ないだけの強さがある。
 彼女たちに同行するのもよいのだが、二人に守ってもらうのも気が引けるため、そのまま隠れ家に残っているかたちだ。

 俺はロミーがいれてくれたお茶を口にした。
 彼女がマグカップにおかわりを注いでくれて、すでに二杯目になっている。

「なあ、手持ち無沙汰みたいだな」

「ええまあ、夜までまだ時間もありますし、街を出歩くのもどうかと思って」

 ギュンターはこちらに声をかけた後、立ち上がって壁際の木箱を開いた。 
 彼は正方形の厚みのある板、何かが入った容器を手にして戻ってきた。

「シャッハだ。そっちの国でも似たような遊びはあるだろ」

 ギュンターは板をテーブルに置いて、その上に駒のようなものを並べ始めた。
 見覚えのある配置にピンときた。

「あっ、エシェックのことですか」

 エシェックとは地球で言うところのチェスに似たボードゲームだ。
 ルールも似ていて、王に当たる駒を先に取った方が勝利する。

「名前は違うみたいだが、だいたいのところは同じじゃないか。駒を確認してくれ」

 ギュンターに促されて種類を確かめる。
 根幹の部分は似ているようで、微細な違いはあれどすぐに理解できた。
 ――冒険者、魔法使い、衛兵、王。

「きっと同じだと思います。並べ方や動かし方が違っていたら、教えてください」

「分かった。早速並べてくれ」

 彼はこのゲームが好きなようで、乗り気なように見えた。
 自分が知っているエシェックの並びに合わせて駒を配置する。

 王――最も重要な駒で他の駒が王を詰みにできれば勝利。一手につき一マス動かすことができる。

 衛兵―― 最も強力な駒で水平・垂直・斜めのいずれかの方向に、一手につき一マス動かすことができる。

 魔法使い――水平または垂直方向の延長線にいる駒を倒すことができる。しかし、味方が前後のいずれかの延長線にいる場合は使用不可で、相手の王の駒には効かない。ちなみに動かせる範囲は自陣のみと限られている。強力な一方で使い方を選ぶという側面もある。

 冒険者――王と同じく一手につき一マス動かすことができる。前方三方向に動かせる代わりに後ろへは動かせない。この駒でチェックメイトの状態にできると勝利が確定する。
 
「それじゃあ、始めるか。先攻はそっちに譲ろう」

「ありがとうございます」

 あまり大きな差はないものの、どちらかといえば先攻の方が有利だ。

 俺はまず、最前線に配置された冒険者の駒を前に進めた。
 ギュンターの戦術を知らないため、様子見の一手を打った。
 早いうちに魔法使いの射線を空ける戦術もあるが、その分だけ守りが手薄になる上に相手の魔法使いも攻めやすくなるため、向こうの手の内が読めない状況で行うのは悪手とされている。

「ここはそっちに合わせておこう」

 ギュンターは俺とは違う位置の冒険者の駒を前に進めた。
 こうして遊ぶのは久しぶりだが、徐々に楽しくなってきた。
 時間のかかるゲームなので、夜まで退屈せずに済みそうだ。

「――ちっ、その手があったか」

「詰みでよかったですか?」

「普段見かけないような戦法で後手に回っちまった。甘く見て先手を譲ったのは失敗だったか」

 最初の対戦は優位な状況で勝負を進めることができた。
 お互いに熱の入った一戦となり、ほどよい緊張感があった。

「よしっ、もう一戦だ」 

「もちろんいいですよ。次は先手を譲ります」

「まだまだこれからだ。油断するなよ」

 ギュンターは楽しそうにしており、いくらか打ち解けることができた気がした。
 とそこへ、資料とのにらめっこを終えたアカネが加わろうとした。

「貴殿ら面白そうなことをしているな」

 彼女にしては珍しく、積極的に見える。
 表情の変化が乏しいのはいつも通りだが。

「なんだ、興味あるのか?」

「ふむ、これは将棋の一種だな」

 アカネは駒の一つを掴んで、じっくりと眺めている。
 ギュンターは将棋という言葉の意味が分からないようだが、俺は日本から転生しているので理解できた。

「よかったらやってみるか?」

「では邪魔させてもらう」

 アカネとギュンターは位置を入れ替わり、彼がルールの説明を始めた。
 俺はすでに駒の配置が済んだが、二人は話が終わったところで並べていった。

「アカネさんは初めてみたいなので、先攻をどうぞ」

「そうか、かたじけない」

 アカネはそう言った後、即決したように冒険者の駒を前に進めた。

「基本的に指し直しはなしですけど、それでいいです?」

「問題ない。そちらの番だ」

 アカネは淡々と告げた。
 一切の迷いがなく、確信めいたものを感じさせる態度だった。
 俺は冒険者の駒を前に進めてから、戦術について考え始めた。

「――ま、参りました」

「いい経験ができた。二人とも礼を言う」

 結果はこちらの完敗である。
 基本的にはチートな駒である魔法使いをいかに活かすかがポイントなのだが、彼女はそれを使うことなく、一直線に王を狙ってきた。

「……おいおい、マルクだって弱くはないぞ。それなのにこの早さで決着か」

「マルク殿の守りは悪くなかった。しかし、こことここ、それからここ――こうなって時点で勝負は決していた」

「うぅっ、不甲斐ない。完全に敗北です」

 アカネがあまりに強いせいか、ギュンターは彼女に勝負しようとは言わなかった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

何度も死に戻りで助けてあげたのに、全く気付かない姉にパーティーを追い出された 〜いろいろ勘違いしていますけど、後悔した時にはもう手遅れです〜

超高校級の小説家
ファンタジー
武門で名を馳せるシリウス男爵家の四女クロエ・シリウスは妾腹の子としてプロキオン公国で生まれました。 クロエが生まれた時にクロエの母はシリウス男爵家を追い出され、シリウス男爵のわずかな支援と母の稼ぎを頼りに母子二人で静かに暮らしていました。 しかし、クロエが12歳の時に母が亡くなり、生前の母の頼みでクロエはシリウス男爵家に引き取られることになりました。 クロエは正妻と三人の姉から酷い嫌がらせを受けますが、行き場のないクロエは使用人同然の生活を受け入れます。 クロエが15歳になった時、転機が訪れます。 プロキオン大公国で最近見つかった地下迷宮から降りかかった呪いで、公子が深い眠りに落ちて目覚めなくなってしまいました。 焦ったプロキオン大公は領地の貴族にお触れを出したのです。 『迷宮の謎を解き明かし公子を救った者には、莫大な謝礼と令嬢に公子との婚約を約束する』 そこそこの戦闘の素質があるクロエの三人の姉もクロエを巻き込んで手探りで迷宮の探索を始めました。 最初はなかなか上手くいきませんでしたが、根気よく探索を続けるうちにクロエ達は次第に頭角を現し始め、迷宮の到達階層1位のパーティーにまで上り詰めました。 しかし、三人の姉はその日のうちにクロエをパーティーから追い出したのです。 自分達の成功が、クロエに発現したとんでもないユニークスキルのおかげだとは知りもせずに。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...