上 下
357 / 452
発展を遂げた国フェルトライン

新たな刺客

しおりを挟む
 俺は近くにギュンターがいる状態で話すことにした。
 今のところは信頼関係が築けたとは言えず、ミズキとひそひそ話をしようものなら、疑念を抱かせると予想したからだ。

「この人の話では、カールさんはモリウッド氏の隠し財産を盗んだそうです」

「ウソっ、そんなふうには見えなかったけど!?」

 ミズキは戸惑いを露わにした。
 彼女の言うようにカールさんがそんなことをするとは信じがたい。
 見たままの印象であれば、ギュンターたちの方が悪人に見える。

「お嬢ちゃん、見た目にだまされちゃいけない。あいつは人のよさそうな顔をして、モリウッドさんの金を盗んだんだ」

 ミズキは一介の町娘ではない――いずれゼントクの後継者になる人物である。
 ギュンターの話しぶりを見て、それがたわ言ではないと悟ったようだ。
 
「うーん、どっちが正しいのか分からなくなりそう」

「モリウッド氏に会えば、何か分かるかもしれません」

「そうだね。目的地はそのままで、何かあれば返り討ちにすればいいだけだし」

 さらりと言ってのけたミズキを見て、ギュンターの表情が固まった。

「頼むから、あの黒髪の女が暴れないようにしてくれよ」

「アカネはあたしの家臣だから、そうならないようにするね」

 ミズキは落ちついた様子で言葉を返した。
 ここまでの状況を見る限りでは、アカネの戦力を上回る存在はいないのかもしれない。
 仮に地元の冒険者や実力者が出てきたとしても、彼女だけでなく魔法が得意なアデルもいるため、後手に回る可能性は低いことが予想できる。

「……これでハンクもいたら、最強の布陣だな」

「どうした、何か言ったか?」

「いえ、独り言です」

 ギュンターにハンクのことを説明したら、俺たちがモリウッド氏を狙う殺し屋だと誤解されてもおかしくない。適当にはぐらかしておいた。

「ところで、モリウッド氏には会えるんですか? 大物となれば忙しいでしょうし、顔を合わせるのは難しそうですけど」

「それなら問題ない。オレはモリウッドさんから指示を受けて動いているから、ギュンターが戻ったとなれば、どこかで時間を作ってくださる」

「それなら大丈夫ですね」

 外壁を通過して通りを歩いているのだが、牛車が珍しいようで通行人の目が集まっている気がした。
 ギュンターもすでに気づいているようで、周囲の視線を気にするようになっていた。

「モリウッドさんのところへ行くのに、この車は一緒というわけにはいかない。馬が預けられるところがあるから、先にそこで置いてもらうからな」

「全然いいけど、ここから近いの?」

「……ちょうどその方向へ向かっているところだ」

 ギュンターはぶっきらぼうなままだが、牛車のことを気にかけてくれたようだ。
 
 やがて外壁に沿うように続く道を歩いた後、馬の姿がちらほら見えた。
 街の中心を外れているものの、どの馬も逃げないようにつながれている。

「あそこが厩舎だ。話を通してくる」

 ギュンターはそれだけ言って、厩舎の方に向かっていった。 
 そのまま少し待つと彼がゆっくりした足取りで戻ってきた。

「話はついた。馬の邪魔にならなければ問題ないそうだ。端の空いたところを使ってくれ」

「ありがとう!」

 ミズキは牛車に乗ったままのアカネに声をかけに向かった。
 ひとまず、この件は解決したようだ。

「牛車が一緒では街を歩けませんからね。助かりました」

「オレたちは出会ったばかりだ。貸し借りはなしだ」

「ああっ、分かりました」

 ギュンターはドライな性格のようで、あくまで距離を取ろうとしている。
 おそらく、俺たちがカールさんに協力しようとしたことも関係しているだろう。 

 厩舎の脇で話をしていると、アデルに続いてカールさんがやってきた。
 彼はギュンターの存在に気づき、怯えた様子で足を止めた。

「ギュンターにはあなたに手を出さないように伝えてあります。安心してください」

 我ながら白々しい台詞だが、カールさんの潔白が分かるまではギュンターの言い分も無視できない。

「それはありがとう。あの男は何をするか分からないから、本当に助かります」

「いえ、お気になさらず」

 ギュンターとの距離は少し離れているため、会話の内容は聞こえていないはずだ。
 彼は険しい表情でこちらを見ているが、必要以上に近づこうとはしていない。

「マルクくん、モリウッドって人のところに向かうんだよね?」

「はい、そうです」

 ミズキが確認するようにたずねてきた。
 カールさんが嘘をついている可能性があり、彼女もいくらか混乱しているようだ。
    
 その後は全員で集まり、モリウッド氏のところへ向かうことを伝えた。
 相変わらずアデルは興味なさそうな態度を維持しており、アカネはミズキの意向に従うという感じで主体性が見られなかった。

 説明を終えたところで、厩舎の近くを離れて移動を再開した。
 ギュンターは不服そうな姿勢を崩さないが、カールさんをモリウッド氏の元へ行かせることができるため、最初よりは態度を軟化させたように見える。

「これでようやくモリウッドさんのところへ戻れる」

 歩き始めてすぐにギュンターが疲れた様子で言った。
 
「俺は早く真相が知りたいです」

「ふんっ、真相か」

 彼は何か言いたげだったが、続く言葉はなかった。

「――お前さんたち、ちょいと待ちな」

 厩舎近くの路地から街中に入ろうかというところで、唐突に呼び止められた。
 声の主に目を向けると、テンガロンハットを被ったひげ面の男が立っていた。

「デックス……。お前、何の用だ」

 ギュンターはその男に対して、警戒心を露わにした。
 危険な人物なのだろうか。

「……誰なんです?」

「レイランドのごろつきだ」

 彼はさも不愉快そうに答えた。
 
 周囲に緊迫した空気を感じるが、カールさんだけは薄い笑みを浮かべていることが気にかかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★お気に入り登録ポチリお願いします! 2024/3/4 男性向けホトラン1位獲得  難病で動くこともできず、食事も食べられない俺はただ死を待つだけだった。  次に生まれ変わったら元気な体に生まれ変わりたい。  そんな希望を持った俺は知らない世界の子どもの体に転生した。  見た目は浮浪者みたいだが、ある飲食店の店舗前で倒れていたおかげで、店主であるバビットが助けてくれた。  そんなバビットの店の手伝いを始めながら、住み込みでの生活が始まった。  元気に走れる体。  食事を摂取できる体。  前世ではできなかったことを俺は堪能する。  そんな俺に対して、周囲の人達は優しかった。  みんなが俺を多才だと褒めてくれる。  その結果、俺を弟子にしたいと言ってくれるようにもなった。  何でも弟子としてギルドに登録させると、お互いに特典があって一石二鳥らしい。  ただ、俺は決められた仕事をするのではなく、たくさんの職業体験をしてから仕事を決めたかった。  そんな俺にはデイリークエストという謎の特典が付いていた。  それをクリアするとステータスポイントがもらえるらしい。  ステータスポイントを振り分けると、効率よく動けることがわかった。  よし、たくさん職業体験をしよう!  世界で爆発的に売れたVRMMO。  一般職、戦闘職、生産職の中から二つの職業を選べるシステム。  様々なスキルで冒険をするのもよし!  まったりスローライフをするのもよし!  できなかったお仕事ライフをするのもよし!  自由度が高いそのゲームはすぐに大ヒットとなった。  一方、職業体験で様々な職業別デイリークエストをクリアして最強になっていく主人公。  そんな主人公は爆発的にヒットしたVRMMOのNPCプレイヤーキャラクターだった。  なぜかNPCなのにプレイヤーだし、めちゃくちゃ強い。  あいつは何だと話題にならないはずがない。  当の本人はただただ職場体験をして、将来を悩むただの若者だった。  そんなことを知らない主人公の妹は、友達の勧めでゲームを始める。  最強で元気になった兄と前世の妹が繰り広げるファンタジー作品。 ※スローライフベースの作品になっています。 ※カクヨムで先行投稿してます。 文字数の関係上、タイトルが短くなっています。 元のタイトル 超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

処理中です...