354 / 469
発展を遂げた国フェルトライン
ならず者たちとの接触
しおりを挟む
街道は昼下がりの陽気で暖かさを感じさせた。
フェルトライン王国の繁栄を象徴するように、地面はきれいに整っている。
乗員が一人増えた影響なのか、水牛の歩みがゆっくりな気がする。
「レイランドまでは一本道なので、迷うことはないですね」
俺は緊張している様子のカールに声をかけた。
これからモリウッドのところへ乗りこもうとしている以上、落ちついていることは難しいはずだ。
「は、はい。街中は入り組んでいますが、レイランドまでは分かりやすいです」
「モリウッドでしたっけ? こう言っては失礼ですけど、ならず者を一人よこす程度なら、そこまで恐れるほどなんでしょうか」
こちらがたずねると、カールは俯いて表情を曇らせた。
「単に侮っているだけだと思います。都市部ではもっと露骨な手を使っているようですから……」
「ここまで聞いた限りでは根っからの経営者というより、悪事の隠れみのとしてレストランのオーナーをしているってことですね」
カールはこちらの言葉に頷いて、そのまま黙ったままだった。
出会ったばかりで詮索するのはよくないだろうと思い、彼から少し離れて牛車の進行方向に目を向けた。
道沿いには木々が並び、遠くには小高い山と緑が見える。
発展を遂げていても、自然は残されているようだ。
「――マルク殿」
ふいに、アカネの緊張感のある声が聞こえた。
道の先には盗賊風の男たちが数人、牛車の進行を遮るように立っている。
「うーん、あれは……」
どうすべきか考えた後、カールに確かめてもらうことにした。
彼は客車の奥から御者台の近くに移動して、前方をじっと見た。
「あの男たちはモリウッドの手の者です」
カールは不安を感じているような声音で言った。
敵の人数が複数のため、怯えているのだろう。
「マルク殿、一旦牛車を停める」
「はい、頼みます」
アカネが街道脇に牛車を寄せて、水牛の歩みを停めさせた。
通行人がちらほらと見えるが、皆一様にそそくさと立ち去っていく。
前方の男たちは暴漢にしか見えないわけだが、不思議とすぐに襲いかかってくる気配はない。
そのうちに何人かいるうちの一人が代表者のようにこちらへ歩いてきた。
男は険しい表情を浮かべているが、話し合いを望んでいるようにも見える。
「……俺が行ってきます」
「あ、危ないですよ」
カールが必死に制止しようとしてきたが、それをかわして地面に下りる。
身を案じてくれたことに感謝しつつ、前へと歩を進めた。
少し距離が離れたところに、こちらを見据える男の姿があった。
「おい、よそ者がどうしてあいつの肩を持つ」
「事情を聞く限り、強引な立ち退きをさせられてるみたいですけど」
こちらの言葉を耳にした男は、虚を突かれたように表情を変えた。
少しの間をおいて、男は再度口を開く。
「……どうやったら、そんなことになる」
呆れているようにも、怒っているようにも見える反応だった。
何かが食い違うような違和感に思考が追いつかなかった。
「えっ、カールさんの店を狙ってるわけじゃないんですか?」
「あいつの店に嫌がらせをしている理由は教えられない。だがな、お前はだまされているぞ」
いかにもならず者といった風貌だが、男が嘘をついているようには見えなかった。
俺は疑念を抱いて、カールの方を振り返った。
すると、彼は動揺したような様子で目を逸らした。
「……いや、まさか」
カールだけならばまだしも妻のドリスを含めれば、人をだますようには見えない。
そういえば人を見た目で判断すべきでないと、どこかで聞いたこと気がする。
ただ、どちらが信用できるかとなれば、ならず者よりもカールとドリスだろう。
「善良そうな見た目で人をだます。いかにもあいつが使いそうな手だ」
男はこちらの考えを見透かしているようだった。
苦虫を嚙み潰したような表情で、カールの方をじっと見ている。
「……せめて、モリウッドという人物から話を聞いてみないことには」
「あの方はご立腹だ。カールがよそ者を連れて攻めてくることを許さない」
男は途中まで話し合いに応じる素振りを見せていたが、ここにきて鋭い敵意をにじませた。
力ずくでも先へは進ませないということだろう。
「俺の仲間とやり合えば、そっちは無傷というわけにはいきませんよ」
「はっ、忠告のつもりか。交渉決裂だな」
男は踵を返して仲間のところへ向かった。
離れる間際にカールを引き渡せば見逃すと言われたが、真偽が定かでない状況では応じるわけにはいかなかった。
「……カールさん、詳しい事情は後で聞かせてもらいます」
牛車を下りたまま声をかけると、カールはこちらの言葉に無言で頷くだけだった。
「向こうは戦うつもりなので、応戦しましょう」
「ふっ、移動続きで運動不足だったな。腕が鳴る」
「そんなに悪い人たちでもないみたいなので、手加減してあげてくださいね」
鞘から刀を抜いたアカネが好戦的に見えたので、釘を刺しておいた。
彼女が本気を出せば、ならず者たちを血の海に沈めることは容易なのだ。
「あれ、ミズキさんは行かないんですか?」
「あの人数相手なら、アカネ一人で十分だよ」
「……まあ、そうですか」
当然ながら、この件に乗り気でなかったアデルが動かないのは言うまでもない。
俺はそのままアカネの戦いぶりを見守ることにした。
フェルトライン王国の繁栄を象徴するように、地面はきれいに整っている。
乗員が一人増えた影響なのか、水牛の歩みがゆっくりな気がする。
「レイランドまでは一本道なので、迷うことはないですね」
俺は緊張している様子のカールに声をかけた。
これからモリウッドのところへ乗りこもうとしている以上、落ちついていることは難しいはずだ。
「は、はい。街中は入り組んでいますが、レイランドまでは分かりやすいです」
「モリウッドでしたっけ? こう言っては失礼ですけど、ならず者を一人よこす程度なら、そこまで恐れるほどなんでしょうか」
こちらがたずねると、カールは俯いて表情を曇らせた。
「単に侮っているだけだと思います。都市部ではもっと露骨な手を使っているようですから……」
「ここまで聞いた限りでは根っからの経営者というより、悪事の隠れみのとしてレストランのオーナーをしているってことですね」
カールはこちらの言葉に頷いて、そのまま黙ったままだった。
出会ったばかりで詮索するのはよくないだろうと思い、彼から少し離れて牛車の進行方向に目を向けた。
道沿いには木々が並び、遠くには小高い山と緑が見える。
発展を遂げていても、自然は残されているようだ。
「――マルク殿」
ふいに、アカネの緊張感のある声が聞こえた。
道の先には盗賊風の男たちが数人、牛車の進行を遮るように立っている。
「うーん、あれは……」
どうすべきか考えた後、カールに確かめてもらうことにした。
彼は客車の奥から御者台の近くに移動して、前方をじっと見た。
「あの男たちはモリウッドの手の者です」
カールは不安を感じているような声音で言った。
敵の人数が複数のため、怯えているのだろう。
「マルク殿、一旦牛車を停める」
「はい、頼みます」
アカネが街道脇に牛車を寄せて、水牛の歩みを停めさせた。
通行人がちらほらと見えるが、皆一様にそそくさと立ち去っていく。
前方の男たちは暴漢にしか見えないわけだが、不思議とすぐに襲いかかってくる気配はない。
そのうちに何人かいるうちの一人が代表者のようにこちらへ歩いてきた。
男は険しい表情を浮かべているが、話し合いを望んでいるようにも見える。
「……俺が行ってきます」
「あ、危ないですよ」
カールが必死に制止しようとしてきたが、それをかわして地面に下りる。
身を案じてくれたことに感謝しつつ、前へと歩を進めた。
少し距離が離れたところに、こちらを見据える男の姿があった。
「おい、よそ者がどうしてあいつの肩を持つ」
「事情を聞く限り、強引な立ち退きをさせられてるみたいですけど」
こちらの言葉を耳にした男は、虚を突かれたように表情を変えた。
少しの間をおいて、男は再度口を開く。
「……どうやったら、そんなことになる」
呆れているようにも、怒っているようにも見える反応だった。
何かが食い違うような違和感に思考が追いつかなかった。
「えっ、カールさんの店を狙ってるわけじゃないんですか?」
「あいつの店に嫌がらせをしている理由は教えられない。だがな、お前はだまされているぞ」
いかにもならず者といった風貌だが、男が嘘をついているようには見えなかった。
俺は疑念を抱いて、カールの方を振り返った。
すると、彼は動揺したような様子で目を逸らした。
「……いや、まさか」
カールだけならばまだしも妻のドリスを含めれば、人をだますようには見えない。
そういえば人を見た目で判断すべきでないと、どこかで聞いたこと気がする。
ただ、どちらが信用できるかとなれば、ならず者よりもカールとドリスだろう。
「善良そうな見た目で人をだます。いかにもあいつが使いそうな手だ」
男はこちらの考えを見透かしているようだった。
苦虫を嚙み潰したような表情で、カールの方をじっと見ている。
「……せめて、モリウッドという人物から話を聞いてみないことには」
「あの方はご立腹だ。カールがよそ者を連れて攻めてくることを許さない」
男は途中まで話し合いに応じる素振りを見せていたが、ここにきて鋭い敵意をにじませた。
力ずくでも先へは進ませないということだろう。
「俺の仲間とやり合えば、そっちは無傷というわけにはいきませんよ」
「はっ、忠告のつもりか。交渉決裂だな」
男は踵を返して仲間のところへ向かった。
離れる間際にカールを引き渡せば見逃すと言われたが、真偽が定かでない状況では応じるわけにはいかなかった。
「……カールさん、詳しい事情は後で聞かせてもらいます」
牛車を下りたまま声をかけると、カールはこちらの言葉に無言で頷くだけだった。
「向こうは戦うつもりなので、応戦しましょう」
「ふっ、移動続きで運動不足だったな。腕が鳴る」
「そんなに悪い人たちでもないみたいなので、手加減してあげてくださいね」
鞘から刀を抜いたアカネが好戦的に見えたので、釘を刺しておいた。
彼女が本気を出せば、ならず者たちを血の海に沈めることは容易なのだ。
「あれ、ミズキさんは行かないんですか?」
「あの人数相手なら、アカネ一人で十分だよ」
「……まあ、そうですか」
当然ながら、この件に乗り気でなかったアデルが動かないのは言うまでもない。
俺はそのままアカネの戦いぶりを見守ることにした。
4
お気に入りに追加
3,322
あなたにおすすめの小説
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる