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発展を遂げた国フェルトライン

ならず者たちとの接触

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 街道は昼下がりの陽気で暖かさを感じさせた。
 フェルトライン王国の繁栄を象徴するように、地面はきれいに整っている。
 乗員が一人増えた影響なのか、水牛の歩みがゆっくりな気がする。 
 
「レイランドまでは一本道なので、迷うことはないですね」

 俺は緊張している様子のカールに声をかけた。
 これからモリウッドのところへ乗りこもうとしている以上、落ちついていることは難しいはずだ。

「は、はい。街中は入り組んでいますが、レイランドまでは分かりやすいです」

「モリウッドでしたっけ? こう言っては失礼ですけど、ならず者を一人よこす程度なら、そこまで恐れるほどなんでしょうか」

 こちらがたずねると、カールは俯いて表情を曇らせた。 

「単に侮っているだけだと思います。都市部ではもっと露骨な手を使っているようですから……」

「ここまで聞いた限りでは根っからの経営者というより、悪事の隠れみのとしてレストランのオーナーをしているってことですね」

 カールはこちらの言葉に頷いて、そのまま黙ったままだった。

 出会ったばかりで詮索するのはよくないだろうと思い、彼から少し離れて牛車の進行方向に目を向けた。
 道沿いには木々が並び、遠くには小高い山と緑が見える。
 発展を遂げていても、自然は残されているようだ。

「――マルク殿」

 ふいに、アカネの緊張感のある声が聞こえた。
 道の先には盗賊風の男たちが数人、牛車の進行を遮るように立っている。

「うーん、あれは……」

 どうすべきか考えた後、カールに確かめてもらうことにした。  
 彼は客車の奥から御者台の近くに移動して、前方をじっと見た。

「あの男たちはモリウッドの手の者です」

 カールは不安を感じているような声音で言った。
 敵の人数が複数のため、怯えているのだろう。

「マルク殿、一旦牛車を停める」

「はい、頼みます」

 アカネが街道脇に牛車を寄せて、水牛の歩みを停めさせた。
 通行人がちらほらと見えるが、皆一様にそそくさと立ち去っていく。

 前方の男たちは暴漢にしか見えないわけだが、不思議とすぐに襲いかかってくる気配はない。
 そのうちに何人かいるうちの一人が代表者のようにこちらへ歩いてきた。
 男は険しい表情を浮かべているが、話し合いを望んでいるようにも見える。

「……俺が行ってきます」

「あ、危ないですよ」

 カールが必死に制止しようとしてきたが、それをかわして地面に下りる。
 身を案じてくれたことに感謝しつつ、前へと歩を進めた。
 少し距離が離れたところに、こちらを見据える男の姿があった。

「おい、よそ者がどうしてあいつの肩を持つ」

「事情を聞く限り、強引な立ち退きをさせられてるみたいですけど」

 こちらの言葉を耳にした男は、虚を突かれたように表情を変えた。
 少しの間をおいて、男は再度口を開く。

「……どうやったら、そんなことになる」

 呆れているようにも、怒っているようにも見える反応だった。
 何かが食い違うような違和感に思考が追いつかなかった。

「えっ、カールさんの店を狙ってるわけじゃないんですか?」
 
「あいつの店に嫌がらせをしている理由は教えられない。だがな、お前はだまされているぞ」

 いかにもならず者といった風貌だが、男が嘘をついているようには見えなかった。
 
 俺は疑念を抱いて、カールの方を振り返った。
 すると、彼は動揺したような様子で目を逸らした。

「……いや、まさか」

 カールだけならばまだしも妻のドリスを含めれば、人をだますようには見えない。
 そういえば人を見た目で判断すべきでないと、どこかで聞いたこと気がする。
 ただ、どちらが信用できるかとなれば、ならず者よりもカールとドリスだろう。

「善良そうな見た目で人をだます。いかにもあいつが使いそうな手だ」

 男はこちらの考えを見透かしているようだった。
 苦虫を嚙み潰したような表情で、カールの方をじっと見ている。

「……せめて、モリウッドという人物から話を聞いてみないことには」

「あの方はご立腹だ。カールがよそ者を連れて攻めてくることを許さない」

 男は途中まで話し合いに応じる素振りを見せていたが、ここにきて鋭い敵意をにじませた。
 力ずくでも先へは進ませないということだろう。

「俺の仲間とやり合えば、そっちは無傷というわけにはいきませんよ」

「はっ、忠告のつもりか。交渉決裂だな」

 男は踵を返して仲間のところへ向かった。
 離れる間際にカールを引き渡せば見逃すと言われたが、真偽が定かでない状況では応じるわけにはいかなかった。

「……カールさん、詳しい事情は後で聞かせてもらいます」

 牛車を下りたまま声をかけると、カールはこちらの言葉に無言で頷くだけだった。

「向こうは戦うつもりなので、応戦しましょう」

「ふっ、移動続きで運動不足だったな。腕が鳴る」

「そんなに悪い人たちでもないみたいなので、手加減してあげてくださいね」

 鞘から刀を抜いたアカネが好戦的に見えたので、釘を刺しておいた。
 彼女が本気を出せば、ならず者たちを血の海に沈めることは容易なのだ。

「あれ、ミズキさんは行かないんですか?」

「あの人数相手なら、アカネ一人で十分だよ」 
 
「……まあ、そうですか」

 当然ながら、この件に乗り気でなかったアデルが動かないのは言うまでもない。
 俺はそのままアカネの戦いぶりを見守ることにした。
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