351 / 466
異世界の南国ヤルマ
新しい力を手に入れる
しおりを挟む
もう少しすれば深夜になろうかという時間帯なのだが、道沿いの魔力灯が点灯していて明るさが保たれている。
俺とオルスはマグロ三昧の前を出発して、海岸へと向かっていた。
「さすがにこの時間は誰も歩いてませんね」
「観光客を遅い時間に見かけることはあるが、地元の人間は早い時間に寝る者が多い」
「サービス業以外は農業や漁業を営む人が多いみたいなので、朝早いのもあるんでしょうね」
ヤルマよりも都会と呼べるバラムでは市場に関わる人は早寝早起きだが、それ以外の人は夜更かしをするし、早朝に起きる理由は多くない。
海岸の近くまで来るとヤシガニがゆっくりと歩いているのが見えた。
破壊力のあるハサミを持っているので、無闇に触らない方がいいらしい。
「むっ、ヤシガニか」
オルスも同じ個体に気づいて、独り言のように言葉をこぼした。
「あれ、よく見かけるんですか?」
「夜に海岸を歩いているとよく見かける。見た目はあんなだが、蒸して食べると美味しいぞ」
「興味ありますけど、今はお腹いっぱいです」
俺とオルスはヤシガニを捕まえることなく、波の音が聞こえる方へ歩いた。
砂浜の近くに来たところで、淡い光が広がっていることに気づいた。
「これはもしかして……」
「魔力灯だ。観光客向けに明るくしている」
「なるほど」
そのまま進むと等間隔で魔力灯のついた棒が砂浜に刺さっているのが見えた。
男同士でなければ、それなりにロマンチックに感じられたと思う。
俺たちは砂浜の一角に置かれた丸太の上に腰かけた。
元々は流れついた流木だと思うが、ちょうどいい長さで座りやすい。
「早速だが、これが渡したいものだ」
オルスは作務衣の懐から何かを取り出す。
それは魔力灯に照らされて、キラリと光を反射した。
「……これは腕輪ですか?」
「そうだ。純度の高い銀が素材で、魔力がこめられている」
手に取ってみると、指先に電流のようなものを感じた。
内包する魔力が一定以上であることを察した。
「ある意味魔道具みたいなものですね」
「ふむ、そうとも言える」
オルスに促されて、試しに左腕に装着してみる。
腕の太さより余裕がある大きさに見えたが、つけて少しするとぴったりと吸いつくようになじんでいた。
「ちなみにこの腕輪、外せるんですか?」
あまりに完璧なフィット感だったため、外せなくなるのではと不安を覚えた。
腕を振って確かめたところで、オルスがこちらを向いた。
「それなら問題ない。つけた者が外そうと念じれば、簡単に外せる」
「……なるほど」
俺は頭の中で腕輪を外すことを念じた。
すると、腕に密着していた腕輪が緩くなった。
「おっ、たしかに外れました」
「それをつけると、魔力が増幅される。近隣で危険な目に遭うことは滅多にないだろうが、旅の途中で窮地に陥った時に使うといい」
「ありがとうございます」
俺はオルスに感謝を述べて頭を下げた。
「礼には及ばん」
「ところで、オルスさんとクーデリアさんはもう実戦に出ることはないんですか?」
「ほう、興味深い質問だ。我らが戦いに身を投じることはないだろう。そなたも知っての通り、平和な時代が長く続いている。一部の地域では国同士の小競り合いがあるようだが、それが大規模な戦乱につながる気配はない。それにのどかな生活を手放したくはない」
オルスの言葉からここでの生活を気に入っていることが伝わってきた。
伝承に出てくるような、魔界の軍勢を率いて世界を滅ぼそうとする邪悪な存在などという面影は微塵も感じられない。
「ここはいいですね。星の光と魔力灯でうっすらと明るくて、波の音以外は何も聞こえない」
「……長き旅の末にたどり着いた安住の地だ」
オルスは誰にともなくといったふうに言った。
横目で彼の方を見やると、遠くを見据えるような眼差しで海を見ていた。
俺とオルスはそこでしばらくすごした後、どちらともなく声をかけて帰路についた。
翌朝、俺たちは水牛に乗って、フェルトライン王国に向けて出発した。
民宿を離れる時、リンは別れを惜しんでくれて、クーデリアは再会できることを楽しみにしていると言っていた。
オルスは見送りに来なかったものの、ヤルマに来ることがあれば会える気がした。
フェルトライン王国までは離れており、牛車があっても二日ほどの道のりだった。
途中で街道沿いの宿に泊まりつつ、順調に移動して国境の町を通過した。
中心部からは離れていることもあり、聞いていたほど発展している様子はない。
「今回は長旅でしたね」
俺は外の景色を眺めながら言った。
すれ違う旅人や行商人の外見や身なりから、異国へ来たことを実感する。
「ランスも十分に栄えているのに、さらに発展した国なんて想像もつかないわね」
「レイランドまではもう少しですけど、どんなところか気になります」
カイルの話では工業が発展していて、人口が多いらしい。
彼の話しぶりからして、ランスの王都よりも人口密度が高そうだ。
牛車はそのまま進み続けて、気づけば昼時になっていた。
アカネが通りがかった町で停車させて、昼食を食べに行くことになった。
下車して町を眺めると、国境の町よりも規模が大きくなったことに気づく。
地元のバラムを一回り小さくしたぐらいの広さに見えた。
俺とオルスはマグロ三昧の前を出発して、海岸へと向かっていた。
「さすがにこの時間は誰も歩いてませんね」
「観光客を遅い時間に見かけることはあるが、地元の人間は早い時間に寝る者が多い」
「サービス業以外は農業や漁業を営む人が多いみたいなので、朝早いのもあるんでしょうね」
ヤルマよりも都会と呼べるバラムでは市場に関わる人は早寝早起きだが、それ以外の人は夜更かしをするし、早朝に起きる理由は多くない。
海岸の近くまで来るとヤシガニがゆっくりと歩いているのが見えた。
破壊力のあるハサミを持っているので、無闇に触らない方がいいらしい。
「むっ、ヤシガニか」
オルスも同じ個体に気づいて、独り言のように言葉をこぼした。
「あれ、よく見かけるんですか?」
「夜に海岸を歩いているとよく見かける。見た目はあんなだが、蒸して食べると美味しいぞ」
「興味ありますけど、今はお腹いっぱいです」
俺とオルスはヤシガニを捕まえることなく、波の音が聞こえる方へ歩いた。
砂浜の近くに来たところで、淡い光が広がっていることに気づいた。
「これはもしかして……」
「魔力灯だ。観光客向けに明るくしている」
「なるほど」
そのまま進むと等間隔で魔力灯のついた棒が砂浜に刺さっているのが見えた。
男同士でなければ、それなりにロマンチックに感じられたと思う。
俺たちは砂浜の一角に置かれた丸太の上に腰かけた。
元々は流れついた流木だと思うが、ちょうどいい長さで座りやすい。
「早速だが、これが渡したいものだ」
オルスは作務衣の懐から何かを取り出す。
それは魔力灯に照らされて、キラリと光を反射した。
「……これは腕輪ですか?」
「そうだ。純度の高い銀が素材で、魔力がこめられている」
手に取ってみると、指先に電流のようなものを感じた。
内包する魔力が一定以上であることを察した。
「ある意味魔道具みたいなものですね」
「ふむ、そうとも言える」
オルスに促されて、試しに左腕に装着してみる。
腕の太さより余裕がある大きさに見えたが、つけて少しするとぴったりと吸いつくようになじんでいた。
「ちなみにこの腕輪、外せるんですか?」
あまりに完璧なフィット感だったため、外せなくなるのではと不安を覚えた。
腕を振って確かめたところで、オルスがこちらを向いた。
「それなら問題ない。つけた者が外そうと念じれば、簡単に外せる」
「……なるほど」
俺は頭の中で腕輪を外すことを念じた。
すると、腕に密着していた腕輪が緩くなった。
「おっ、たしかに外れました」
「それをつけると、魔力が増幅される。近隣で危険な目に遭うことは滅多にないだろうが、旅の途中で窮地に陥った時に使うといい」
「ありがとうございます」
俺はオルスに感謝を述べて頭を下げた。
「礼には及ばん」
「ところで、オルスさんとクーデリアさんはもう実戦に出ることはないんですか?」
「ほう、興味深い質問だ。我らが戦いに身を投じることはないだろう。そなたも知っての通り、平和な時代が長く続いている。一部の地域では国同士の小競り合いがあるようだが、それが大規模な戦乱につながる気配はない。それにのどかな生活を手放したくはない」
オルスの言葉からここでの生活を気に入っていることが伝わってきた。
伝承に出てくるような、魔界の軍勢を率いて世界を滅ぼそうとする邪悪な存在などという面影は微塵も感じられない。
「ここはいいですね。星の光と魔力灯でうっすらと明るくて、波の音以外は何も聞こえない」
「……長き旅の末にたどり着いた安住の地だ」
オルスは誰にともなくといったふうに言った。
横目で彼の方を見やると、遠くを見据えるような眼差しで海を見ていた。
俺とオルスはそこでしばらくすごした後、どちらともなく声をかけて帰路についた。
翌朝、俺たちは水牛に乗って、フェルトライン王国に向けて出発した。
民宿を離れる時、リンは別れを惜しんでくれて、クーデリアは再会できることを楽しみにしていると言っていた。
オルスは見送りに来なかったものの、ヤルマに来ることがあれば会える気がした。
フェルトライン王国までは離れており、牛車があっても二日ほどの道のりだった。
途中で街道沿いの宿に泊まりつつ、順調に移動して国境の町を通過した。
中心部からは離れていることもあり、聞いていたほど発展している様子はない。
「今回は長旅でしたね」
俺は外の景色を眺めながら言った。
すれ違う旅人や行商人の外見や身なりから、異国へ来たことを実感する。
「ランスも十分に栄えているのに、さらに発展した国なんて想像もつかないわね」
「レイランドまではもう少しですけど、どんなところか気になります」
カイルの話では工業が発展していて、人口が多いらしい。
彼の話しぶりからして、ランスの王都よりも人口密度が高そうだ。
牛車はそのまま進み続けて、気づけば昼時になっていた。
アカネが通りがかった町で停車させて、昼食を食べに行くことになった。
下車して町を眺めると、国境の町よりも規模が大きくなったことに気づく。
地元のバラムを一回り小さくしたぐらいの広さに見えた。
4
お気に入りに追加
3,286
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
男装の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。
領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。
しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。
だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。
そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。
なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!
まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。
ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。
転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」
なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。
授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生
そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』
仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。
魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。
常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。
ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。
カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中
タイトルを
「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」
から変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる