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異世界の南国ヤルマ
まどろみの中で目にした景色
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二人で廊下に出てから近くの休憩所で、アデルとミズキの姿を見つけた。
畳の上に腰を下ろしてくつろいでいる。
「お待たせしました」
「あれっ、早かったね」
「状況が状況だけに、何となくくつろげなくて」
竹林が不気味で早く上がったとは言えなかった。
それではまるで、暗闇を怖がる子どものようではないか。
「一人じゃしょうがないよね。これでお風呂に入れたし、部屋に戻ろうか」
入浴を終えた俺たちはミズキの部屋へと移動を開始した。
相変わらず旅籠に人の気配はなく、不自然に感じるほどに静まり返っている。
幸いなことに廊下に異常は見られず、何ごともなく部屋に着いた。
「この部屋、布団は何組あるかしら?」
四人で部屋に入ってから、アデルがそう言って押入れを開いた。
俺も気になって、彼女の後ろから数を確認した。
「よかった、四組あるわね。これなら足りるわ」
布団を数え終えたアデルは安心したように言った。
「寝る時間はどうしよっか? やることもないし、明日以降のことを考えたら、早めに寝た方がいいかもね」
「拙者は姫様のご意向に従います」
アカネがミズキの意見に同意して、俺も頷いて賛成していることを示した。
アデルは寝る気満々のようで、せっせと布団を出している。
「手伝いますね」
「ありがとう、助かるわ」
エルフは魔法が得意でも腕力はそこまでない。
布団を運び出すぐらいは問題なさそうだが、アデルの細い腕を見ると種族の違いを実感してしまう。
人数分の布団が出せたところで、ミズキとアカネも加わって部屋の中に並べた。
学生旅行、あるいは家族のようだが、実際はそういうわけでもない。
行きがかり上、仕方のないことである。
「寝る位置はこのままでいいですか?」
それぞれ自分で並べたところに寝るかたちになっている。
「あたしは気にしないけど、みんなは?」
「拙者は問題ありません」
「私も気にしないわ」
反対意見は出ることなく、布団の位置が決まった。
アデルは個室第一主義のはずだが、状況が状況だけに相部屋を許容しているようだ。
「行灯の火は朝までもたないかもしれませんね」
「それなら、私がホーリーライトを出したまま寝るわ」
「試したことないですけど、そんなことできるんですか?」
サスペンド・フレイムは燃え移る可能性があり、そういう発想にならなかった。
冒険者時代に一人で野宿しなければいけない時はモンスターに気づかれないよう、消灯して寝るのが鉄則だったため、ホーリーライトに関しても同じである。
「特に難しいことはないの。明るすぎると眠れない人もいるだろうから、明るさを調整させて」
アデルは光球を生じさせて、俺を含めた三人に意見を求めた。
「うーん、あたしはちょっとだけ暗くしてもらった方がいいかも」
「拙者は問題ありませぬ。お気になさらず」
「俺も大丈夫です」
一通り意見が出た後、アデルは明るさを調整した。
魔法の扱いに長けているだけあって、まるで機械を操るように細かく変化させた。
「これでどうかしら」
「そうだね、これなら寝られそう」
部屋の中心に淡い光を放つ球が浮かんでいる。
こうしてアデルが寝ながらホーリーライトを発動することで、真っ暗な部屋で寝ることは避けられそうだ。
「念のために確認しておきたいんですけど、交代で見張りをするとかは……」
四人とも寝る流れになっていたので、切り出しにくいことだった。
案の定、アデルとミズキが渋い顔をしている。
「今日は疲れたから、もう寝かせてほしいよ。あたしは冒険者じゃないから」
「私も寝かせてもらうわ。見張りが必要ならお願い」
二人はすすっと布団に潜りこみ、寝る体勢に入った。
三人の中でもっとも冷たそうな性格のアカネだけが畳の上に正座しており、そのまま待機している。
「……さすがに無茶ですかね」
「部屋の鍵は外から開けられぬ以上、易々と侵入はできそうもない。それに足音が近づけば拙者が気づく。マルク殿も安心して眠るとよい」
「ア、アカネさん」
淡々とした言葉で温かみなどあったものではないが、気遣いの感じられる言葉だった。
「で、では、おやすみなさい」
「うむ」
俺とアカネも布団の中に入った。
身体を包む布団の感触に安心感を抱き、徐々に眠気を催した。
ミズキとアデルのどちらかの寝息が聞こえて、すでに眠っていることが分かる。
「……俺も寝るか」
今日一日の疲れが影響したのか、徐々に意識が遠のいていった。
――ドカッとお腹の辺りに衝撃を感じた。
夢を見ているのか、よく分からない状態で意識が覚めた。
その衝撃は現実感のある感触で、丸長の木を横たえたような重みがある。
「……ううん、何だ?」
手で払いのけようとすると、それに触れた感触で人の足だと分かる。
頭を枕に乗せたまま視線を横に向けて、その主がアカネであることを理解した。
「……普段の態度に反して、寝相が悪いんだな」
俺は上半身を起こして、彼女の足を持ち上げた。
この状態で目を覚まされたら、何をされるか分かったものではない。
すぐに向こうの布団へと押し戻した。
思わぬ邪魔が入ったが、布団の中に戻ると眠たくなってきた。
この調子なら寝直すことができそうだ。
……それにしても。
「部屋の中に霧が出るなんておかしいな……窓は閉めたはずだし、まあいいか……」
白い煙のようなものが室内に広がっているように見えるが、自分はすでに夢の中かもしれない。
まどろみの中で思考はまとまらず、深い眠りへと誘(いざな)われる。
畳の上に腰を下ろしてくつろいでいる。
「お待たせしました」
「あれっ、早かったね」
「状況が状況だけに、何となくくつろげなくて」
竹林が不気味で早く上がったとは言えなかった。
それではまるで、暗闇を怖がる子どものようではないか。
「一人じゃしょうがないよね。これでお風呂に入れたし、部屋に戻ろうか」
入浴を終えた俺たちはミズキの部屋へと移動を開始した。
相変わらず旅籠に人の気配はなく、不自然に感じるほどに静まり返っている。
幸いなことに廊下に異常は見られず、何ごともなく部屋に着いた。
「この部屋、布団は何組あるかしら?」
四人で部屋に入ってから、アデルがそう言って押入れを開いた。
俺も気になって、彼女の後ろから数を確認した。
「よかった、四組あるわね。これなら足りるわ」
布団を数え終えたアデルは安心したように言った。
「寝る時間はどうしよっか? やることもないし、明日以降のことを考えたら、早めに寝た方がいいかもね」
「拙者は姫様のご意向に従います」
アカネがミズキの意見に同意して、俺も頷いて賛成していることを示した。
アデルは寝る気満々のようで、せっせと布団を出している。
「手伝いますね」
「ありがとう、助かるわ」
エルフは魔法が得意でも腕力はそこまでない。
布団を運び出すぐらいは問題なさそうだが、アデルの細い腕を見ると種族の違いを実感してしまう。
人数分の布団が出せたところで、ミズキとアカネも加わって部屋の中に並べた。
学生旅行、あるいは家族のようだが、実際はそういうわけでもない。
行きがかり上、仕方のないことである。
「寝る位置はこのままでいいですか?」
それぞれ自分で並べたところに寝るかたちになっている。
「あたしは気にしないけど、みんなは?」
「拙者は問題ありません」
「私も気にしないわ」
反対意見は出ることなく、布団の位置が決まった。
アデルは個室第一主義のはずだが、状況が状況だけに相部屋を許容しているようだ。
「行灯の火は朝までもたないかもしれませんね」
「それなら、私がホーリーライトを出したまま寝るわ」
「試したことないですけど、そんなことできるんですか?」
サスペンド・フレイムは燃え移る可能性があり、そういう発想にならなかった。
冒険者時代に一人で野宿しなければいけない時はモンスターに気づかれないよう、消灯して寝るのが鉄則だったため、ホーリーライトに関しても同じである。
「特に難しいことはないの。明るすぎると眠れない人もいるだろうから、明るさを調整させて」
アデルは光球を生じさせて、俺を含めた三人に意見を求めた。
「うーん、あたしはちょっとだけ暗くしてもらった方がいいかも」
「拙者は問題ありませぬ。お気になさらず」
「俺も大丈夫です」
一通り意見が出た後、アデルは明るさを調整した。
魔法の扱いに長けているだけあって、まるで機械を操るように細かく変化させた。
「これでどうかしら」
「そうだね、これなら寝られそう」
部屋の中心に淡い光を放つ球が浮かんでいる。
こうしてアデルが寝ながらホーリーライトを発動することで、真っ暗な部屋で寝ることは避けられそうだ。
「念のために確認しておきたいんですけど、交代で見張りをするとかは……」
四人とも寝る流れになっていたので、切り出しにくいことだった。
案の定、アデルとミズキが渋い顔をしている。
「今日は疲れたから、もう寝かせてほしいよ。あたしは冒険者じゃないから」
「私も寝かせてもらうわ。見張りが必要ならお願い」
二人はすすっと布団に潜りこみ、寝る体勢に入った。
三人の中でもっとも冷たそうな性格のアカネだけが畳の上に正座しており、そのまま待機している。
「……さすがに無茶ですかね」
「部屋の鍵は外から開けられぬ以上、易々と侵入はできそうもない。それに足音が近づけば拙者が気づく。マルク殿も安心して眠るとよい」
「ア、アカネさん」
淡々とした言葉で温かみなどあったものではないが、気遣いの感じられる言葉だった。
「で、では、おやすみなさい」
「うむ」
俺とアカネも布団の中に入った。
身体を包む布団の感触に安心感を抱き、徐々に眠気を催した。
ミズキとアデルのどちらかの寝息が聞こえて、すでに眠っていることが分かる。
「……俺も寝るか」
今日一日の疲れが影響したのか、徐々に意識が遠のいていった。
――ドカッとお腹の辺りに衝撃を感じた。
夢を見ているのか、よく分からない状態で意識が覚めた。
その衝撃は現実感のある感触で、丸長の木を横たえたような重みがある。
「……ううん、何だ?」
手で払いのけようとすると、それに触れた感触で人の足だと分かる。
頭を枕に乗せたまま視線を横に向けて、その主がアカネであることを理解した。
「……普段の態度に反して、寝相が悪いんだな」
俺は上半身を起こして、彼女の足を持ち上げた。
この状態で目を覚まされたら、何をされるか分かったものではない。
すぐに向こうの布団へと押し戻した。
思わぬ邪魔が入ったが、布団の中に戻ると眠たくなってきた。
この調子なら寝直すことができそうだ。
……それにしても。
「部屋の中に霧が出るなんておかしいな……窓は閉めたはずだし、まあいいか……」
白い煙のようなものが室内に広がっているように見えるが、自分はすでに夢の中かもしれない。
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