309 / 466
和の国サクラギとミズキ姫
町娘に扮するミズキ
しおりを挟む
厩舎の前を離れて村に向かう途中、リンドウがふいに立ち止まった。
「そちらのお二人は髪色がサクラギでは見かけないような色なので、奴らが怪しむ可能性があります」
彼はそう言って、顔や髪の毛を覆える大きさの手ぬぐいを荷物から取り出した。
各々の外見が目立つのを避けるため、頭に手ぬぐいを巻いた。
それに加えて半纏のような上着を貸してもらって羽織った。
「ミズキ様の服装は目立つかもしれませんので、村に入ったら着替えをご用意します」
「この上着やリンドウさんの服と、ミズキさんや城下町で見かけた服では、風合いが異なりますね」
こちらの世界に和風あるいは洋風という概念はないものの、リンドウのものは前者、ミズキのものは後者に当たる。
村人たちが和風の衣服ならば、ミズキの服装が目立つというのも納得できる。
「それはあたしが周辺国の服を取り入れたからだよ。昔ながらの着物は動きにくくてね」
「サクラギの城下町では普及しているのですが、ヨツバ村では旧来の衣服が中心です。村の中には流行に敏感な者もいて、手に入れた者もいるものの、村人の大半は変わりありません」
「なるほど、そういうことか」
リンドウの説明通りなら、俺とアデルは確実に目立ってしまうだろう。
「どうやら猿人族は遠見がいるらしく、村のことを監視しているようです。こちらが策を練っていることを知られないためにも、ミズキ様の来訪は見抜かれない方がよいと思われます」
「猿人族には注意しないといけないし、ここからはリンドウの指示に従うから」
「畏れ多いことですが、務めさせて頂きます」
リンドウはかしこまって言った。
彼の一貫した姿勢に思わず感心させられる。
話がまとまったところで移動を再開した。
それからリンドウに案内されて、村の正面を避けて中に入った。
かやぶき屋根の時代がかったように見える民家が間隔を空けて建っており、転生前の自分ならば昔の日本にタイムスリップしたような感覚を覚えそうだ。
火山と猿人族の件がなければ、牧歌的で心安らぎそうな景色である。
「ささっ、ミズキ様こちらへ。村の女衆に着替えをさせます」
「うん、分かった」
俺たちは周囲を警戒しながら、一軒の民家へと足を運んだ。
玄関を抜けて土間に入り、靴を脱いで板張りの廊下に上がる。
リンドウに続いて進むと、畳の敷かれた広い部屋に出た。
「ミズキ様がお越しになった。村の者が着る服に替えて差し上げてくれ」
リンドウは部屋にいた数人の女たちに呼びかけた。
彼女たちはミズキの存在を目に留めると、平身低頭して号令をかけたように声を揃えた。
「「「ミズキ様、ようこそお越しくださいました」」」
「まあまあ、そんなにかしこまらなくていいから。早速着替えを頼むね」
「「「ははっ、承りました」」」
女たちの様子にミズキは戸惑うような苦笑を浮かべた。
「……当主一族の威光ってすごいんですね」
「城下町ではそれほどでもないけれど、よその村に行くとだいだいこんなもんよ」
俺よりもサクラギの事情に詳しいアデルがぼそりと言った。
「じゃあ、あたしは着替えてくるから、二人は休んでいてよ」
「はい、いってらっしゃい」
ミズキは女たちに付き添われて、別の部屋へと歩いていった。
「お二人とも、こちらをお使いください」
リンドウは俺とアデルに座布団を差し出した。
「ありがとうございます」
畳の上に座布団を置いて、そこに腰を下ろす。
この家は年季を感じる雰囲気だが、掃除が行き届いていて清潔感がある。
外観だけでなく内装も和風であり、どこか懐かしい感じを抱かせる。
しばらくは部屋の空気を味わう時間になったのだが、なかなかミズキが戻ってこない。
すぐに終わるかと思いきや、想像よりも時間がかかっている。
「女性は身支度に時間がかかるかもしれませんけど、ずいぶん長い気がします」
「さあ、どうかしら。用意された服のサイズが合わないとか」
俺以上にアデルは退屈そうにしている。
昼食は済ませているし、作戦実行までにやることがない。
気だるげに足を伸ばして畳みに手を突くと、視線の先でふわりと人影が着地した。
「――うわっ!?」
「えっ、何ごと?」
人影の正体はアカネだった。
火山の潜入から戻ったみたいだが、普通に部屋に入ってきてほしい。
「……姫様の姿が見えないようだが?」
「ミズキ様は村の者に扮して頂くため、別室で着替えをされているところです」
「そうか、拙者もここで待たせてもらおう」
アカネが畳に腰を下ろすと、リンドウは彼女にも座布団を差し出した。
「……火山の様子はどうでした?」
俺はおっかなびっくりといった感じでたずねた。
アカネに慣れるにはもう少し時間が必要だった。
「貴殿を信用していないわけではないが、姫様が戻られたら話す。しばし待たれよ」
「ああっ、大丈夫です。ミズキさんが戻ってからで」
こちらの返答にアカネは言葉を発せず、小さく頷いた。
アカネが帰還して少し経ってから、女たちが部屋の扉を開いて戻り、その後にミズキが入ってきた。
町娘風の服を身につけて、今までは下ろしていた髪の毛は団子にしてまとめてある。
転生前に和服に詳しくなかったため曖昧だが、浴衣あるいは小袖と呼ばれるものに似ている。
「……どう、変じゃないかな」
ミズキは照れくさそうな表情で問いかけた。
アデルとアカネはそれほどでもないが、俺とリンドウは目を見張っていた。
「「とても似合ってます……あっ……」」
男同士で互いに顔を見合わせる。
その場に気まずい空気が流れるのだった。
「そちらのお二人は髪色がサクラギでは見かけないような色なので、奴らが怪しむ可能性があります」
彼はそう言って、顔や髪の毛を覆える大きさの手ぬぐいを荷物から取り出した。
各々の外見が目立つのを避けるため、頭に手ぬぐいを巻いた。
それに加えて半纏のような上着を貸してもらって羽織った。
「ミズキ様の服装は目立つかもしれませんので、村に入ったら着替えをご用意します」
「この上着やリンドウさんの服と、ミズキさんや城下町で見かけた服では、風合いが異なりますね」
こちらの世界に和風あるいは洋風という概念はないものの、リンドウのものは前者、ミズキのものは後者に当たる。
村人たちが和風の衣服ならば、ミズキの服装が目立つというのも納得できる。
「それはあたしが周辺国の服を取り入れたからだよ。昔ながらの着物は動きにくくてね」
「サクラギの城下町では普及しているのですが、ヨツバ村では旧来の衣服が中心です。村の中には流行に敏感な者もいて、手に入れた者もいるものの、村人の大半は変わりありません」
「なるほど、そういうことか」
リンドウの説明通りなら、俺とアデルは確実に目立ってしまうだろう。
「どうやら猿人族は遠見がいるらしく、村のことを監視しているようです。こちらが策を練っていることを知られないためにも、ミズキ様の来訪は見抜かれない方がよいと思われます」
「猿人族には注意しないといけないし、ここからはリンドウの指示に従うから」
「畏れ多いことですが、務めさせて頂きます」
リンドウはかしこまって言った。
彼の一貫した姿勢に思わず感心させられる。
話がまとまったところで移動を再開した。
それからリンドウに案内されて、村の正面を避けて中に入った。
かやぶき屋根の時代がかったように見える民家が間隔を空けて建っており、転生前の自分ならば昔の日本にタイムスリップしたような感覚を覚えそうだ。
火山と猿人族の件がなければ、牧歌的で心安らぎそうな景色である。
「ささっ、ミズキ様こちらへ。村の女衆に着替えをさせます」
「うん、分かった」
俺たちは周囲を警戒しながら、一軒の民家へと足を運んだ。
玄関を抜けて土間に入り、靴を脱いで板張りの廊下に上がる。
リンドウに続いて進むと、畳の敷かれた広い部屋に出た。
「ミズキ様がお越しになった。村の者が着る服に替えて差し上げてくれ」
リンドウは部屋にいた数人の女たちに呼びかけた。
彼女たちはミズキの存在を目に留めると、平身低頭して号令をかけたように声を揃えた。
「「「ミズキ様、ようこそお越しくださいました」」」
「まあまあ、そんなにかしこまらなくていいから。早速着替えを頼むね」
「「「ははっ、承りました」」」
女たちの様子にミズキは戸惑うような苦笑を浮かべた。
「……当主一族の威光ってすごいんですね」
「城下町ではそれほどでもないけれど、よその村に行くとだいだいこんなもんよ」
俺よりもサクラギの事情に詳しいアデルがぼそりと言った。
「じゃあ、あたしは着替えてくるから、二人は休んでいてよ」
「はい、いってらっしゃい」
ミズキは女たちに付き添われて、別の部屋へと歩いていった。
「お二人とも、こちらをお使いください」
リンドウは俺とアデルに座布団を差し出した。
「ありがとうございます」
畳の上に座布団を置いて、そこに腰を下ろす。
この家は年季を感じる雰囲気だが、掃除が行き届いていて清潔感がある。
外観だけでなく内装も和風であり、どこか懐かしい感じを抱かせる。
しばらくは部屋の空気を味わう時間になったのだが、なかなかミズキが戻ってこない。
すぐに終わるかと思いきや、想像よりも時間がかかっている。
「女性は身支度に時間がかかるかもしれませんけど、ずいぶん長い気がします」
「さあ、どうかしら。用意された服のサイズが合わないとか」
俺以上にアデルは退屈そうにしている。
昼食は済ませているし、作戦実行までにやることがない。
気だるげに足を伸ばして畳みに手を突くと、視線の先でふわりと人影が着地した。
「――うわっ!?」
「えっ、何ごと?」
人影の正体はアカネだった。
火山の潜入から戻ったみたいだが、普通に部屋に入ってきてほしい。
「……姫様の姿が見えないようだが?」
「ミズキ様は村の者に扮して頂くため、別室で着替えをされているところです」
「そうか、拙者もここで待たせてもらおう」
アカネが畳に腰を下ろすと、リンドウは彼女にも座布団を差し出した。
「……火山の様子はどうでした?」
俺はおっかなびっくりといった感じでたずねた。
アカネに慣れるにはもう少し時間が必要だった。
「貴殿を信用していないわけではないが、姫様が戻られたら話す。しばし待たれよ」
「ああっ、大丈夫です。ミズキさんが戻ってからで」
こちらの返答にアカネは言葉を発せず、小さく頷いた。
アカネが帰還して少し経ってから、女たちが部屋の扉を開いて戻り、その後にミズキが入ってきた。
町娘風の服を身につけて、今までは下ろしていた髪の毛は団子にしてまとめてある。
転生前に和服に詳しくなかったため曖昧だが、浴衣あるいは小袖と呼ばれるものに似ている。
「……どう、変じゃないかな」
ミズキは照れくさそうな表情で問いかけた。
アデルとアカネはそれほどでもないが、俺とリンドウは目を見張っていた。
「「とても似合ってます……あっ……」」
男同士で互いに顔を見合わせる。
その場に気まずい空気が流れるのだった。
3
お気に入りに追加
3,286
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
幻想美男子蒐集鑑~夢幻月華の書~
紗吽猫
ファンタジー
ーー さぁ、世界を繋ぐ旅を綴ろう ーー
自称美男子愛好家の主人公オルメカと共に旅する好青年のソロモン。旅の目的はオルメカコレクションー夢幻月下の書に美男子達との召喚契約をすること。美男子の噂を聞きつけてはどんな街でも、時には異世界だって旅して回っている。でもどうやらこの旅、ただの逆ハーレムな旅とはいかないようでー…?
美男子を見付けることのみに特化した心眼を持つ自称美男子愛好家は出逢う美男子達を取り巻く事件を解決し、無事に魔導書を完成させることは出来るのか…!?
時に出逢い、時に闘い、時に事件を解決し…
旅の中で出逢う様々な美男子と取り巻く仲間達との複数世界を旅する物語。
※この作品はエブリスタでも連載中です。
けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~
ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か――
アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。
何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。
試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。
第13章が終了しました。
申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。
再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。
この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。
同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』
来夢
ファンタジー
『あらすじ』
心臓病を患っている、主人公である鈴也(レイヤ)は、幼少の時から見た夢を脚色しながら物語にして、ライトノベルの作品として投稿しようと書き始めた。
そんなある日…鈴也は小説を書き始めたのが切っ掛けなのか、10年振りに夢の続きを見る。
すると、今まで見た夢の中の男の子と女の子は、青年の姿に成長していて、自分の書いている物語の主人公でもあるヴェルは、理由は分からないが呪いの攻撃を受けて横たわっていた。
ジュリエッタというヒロインの聖女は「ホーリーライト!デスペル!!」と、仲間の静止を聞かず、涙を流しながら呪いを解く魔法を掛け続けるが、ついには力尽きて死んでしまった。
「へっ?そんな馬鹿な!主人公が死んだら物語の続きはどうするんだ!」
そんな後味の悪い夢から覚め、風呂に入ると心臓発作で鈴也は死んでしまう。
その後、直ぐに世界が暗転。神様に会うようなセレモニーも無く、チートスキルを授かる事もなく、ただ日本にいた記憶を残したまま赤ん坊になって、自分の書いた小説の中の世界へと転生をする。
”自分の書いた小説に抗える事が出来るのか?いや、抗わないと周りの人達が不幸になる。書いた以上責任もあるし、物語が進めば転生をしてしまった自分も青年になると死んでしまう
そう思い、自分の書いた物語に抗う事を決意する。
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる