289 / 466
和の国サクラギとミズキ姫
焼肉屋の店主に入会許可を
しおりを挟む
「チャンチャン焼きかあ、面白い名前じゃん!」
「名づけた理由はないんですけど、何となく……」
ミズキの目力は光を放つようで、圧倒されるようなパワーを感じる。
先ほど飛びつかれたことといい、彼女に主導権を握られているような。
「マルク、目を覚ますのよ。その子は美味しい料理を前にするとちょろいんだから」
呆れるような声を上げて、アデルが近づいてきた。
ミズキは彼女の言葉に反応して、ちょっと、ちょろいってなんだよと反発した。
「ところで、料理の味はどうでした?」
「それなら、十分に美味しかったわ。少し驚かされたけれど、ああいう料理も作れるのね」
「今回は色んな食材があったので、それで閃きました」
おそらく、転生前の記憶から出てきた調理法だが、正直に話すわけにもいかない。
記憶が触発される理由は定かではないものの、日本にまつわるものを目にすると触発されやすい傾向はあるようだ。
「アデルとミズキさんに気に入ってもらえたみたいなので、美食クラブに入れてもらえるんですね?」
「もちろん、あたしはいいよー。アデルはどう?」
「マルクとはこれまでの縁もあるから、反対する理由がないわ」
「それじゃあ……」
二人に視線を向けると、柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
エルフとして超然とした美貌のアデル、どこか和の要素を感じさせる美人のミズキ。
「そういえば、大したことないって口ぶりだったけど、入会者は『美食』の名に恥じないような人たちばかりだからね」
「は、はぁっ、そうなんですか」
ミズキは強調するように言った。
そこは大事なことのようで間違えてほしくないという雰囲気だ。
俺ではなく、アデルに対しての言葉だろう。
「――ねえ、ミズキ」
俺とミズキが話していると、アデルがぽつりと言った。
美食クラブに関して、何か言い足りないことがあるのだろうか。
「私たちをサクラギに連れていってくれないかしら?」
「急に何言ってんの? ここからどれだけ遠いと思って……」
「そこはお姫様愛用の牛車なら、楽勝でいけるんじゃない?」
アデルがミズキに揺さぶりをかけている。
ワインの影響も少なからずあると思うが、彼女が交渉を持ちかけているところは貴重な場面だと思った。
「……あの、それって、俺とハンクも行くんですか?」
「そりゃそうよ。面白い国だから、物見遊山に行ってみるのはいいと思うわ」
「ひどいよ。あたしの故郷をそんなふうに言うなんて」
ミズキは涙を拭うように泣き真似を見せて、アデルに非難の意思を示した。
そんな彼女の様子を見て取り、アデルはやれやれと言うように両手を上げた。
「マルク、この女にだまされちゃダメよ。野山を駆け回ってイノシシを狩り、北に盗賊と聞けば討伐して、南に悪漢と聞けば駆けつける――そんな繊細な性格ではないもの。Bランク冒険者のフランと同じぐらいの実力があるわ」
「えっ、そうなんですか」
おしとやかな印象だったのだが、フラン並みに強いとなると実情は異なる。
見た感じ細身の体型に見えるのに、そんな力がどこに隠されているのか。
「マルクくん、やだなぁ、そんなに見つめないでよ。照れちゃう」
「あ、ああっ、失礼しました」
ミズキの反応に戸惑ったところで、空の皿を手にしたハンクがやってきた。
いつもより時間をかけていたので、味わって食べてくれたのだろう。
「いやー、美味かった。また今度、作ってくれよ」
「それはよかったです。ただ、材料がサクラギ由来のものが多いので、ランス王国では作るのが難しくて……申し訳ないです」
「おう、そうか。まっ、気にすんなって」
ハンクはテーブルに皿を置いて、こちらの近くの椅子に腰かけた。
俺たちの会話が終わったところで、アデルが何かを企むような笑みを浮かべたことに気づいた。
「ねえ、ハンク。そこのお姫様がサクラギに連れていってくれるそうだから、その料理をまた食べれるわよ」
「ちょっ、アデル。関係ない人を巻きこむのは反則だよ」
「あら、彼は旅の仲間よ。一人だけモルネアに置いていくわけにはいかないわ」
どうやら、アデルの中で俺は参加メンバーに確定しているようだ。
「何だかなあもう。近いうちに里帰りしようと思ってたところだし、牛車は全員乗れるから。乗せてったるよ、サクラギに」
ミズキは投げやりに言い捨てると、疲れ果てたような表情を浮かべた。
翌朝、俺たちはミズキに指定された場所に集まった。
街を囲む外壁の外で、ローサが見張る通用門から離れている。
しばらく三人で待っていると、和のテイストを感じさせる馬車のような乗りものがやってきた。
色々と特徴的で、少しの間その様子を観察してしまった。
ちなみに御者は料理長のタイゾウが務めている。
「……おれはサクラギに行ったことがないんだが、世間にはあんな牛がいるんだな」
「俺もあの牛を見るのは初めてです。大きさもさることながら、ずいぶんと筋肉質ですね」
おとなしい様子で客車を引いているが、興奮して立ち向かってこようものなら、命がいくつあっても足りなそうだ。
この牛たちとは似ても似つかないものの、どこかの国に何とかブルという暴れ牛のようなモンスターがいるらしいので、実は近縁種ということもあるかもしれない。
「名づけた理由はないんですけど、何となく……」
ミズキの目力は光を放つようで、圧倒されるようなパワーを感じる。
先ほど飛びつかれたことといい、彼女に主導権を握られているような。
「マルク、目を覚ますのよ。その子は美味しい料理を前にするとちょろいんだから」
呆れるような声を上げて、アデルが近づいてきた。
ミズキは彼女の言葉に反応して、ちょっと、ちょろいってなんだよと反発した。
「ところで、料理の味はどうでした?」
「それなら、十分に美味しかったわ。少し驚かされたけれど、ああいう料理も作れるのね」
「今回は色んな食材があったので、それで閃きました」
おそらく、転生前の記憶から出てきた調理法だが、正直に話すわけにもいかない。
記憶が触発される理由は定かではないものの、日本にまつわるものを目にすると触発されやすい傾向はあるようだ。
「アデルとミズキさんに気に入ってもらえたみたいなので、美食クラブに入れてもらえるんですね?」
「もちろん、あたしはいいよー。アデルはどう?」
「マルクとはこれまでの縁もあるから、反対する理由がないわ」
「それじゃあ……」
二人に視線を向けると、柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
エルフとして超然とした美貌のアデル、どこか和の要素を感じさせる美人のミズキ。
「そういえば、大したことないって口ぶりだったけど、入会者は『美食』の名に恥じないような人たちばかりだからね」
「は、はぁっ、そうなんですか」
ミズキは強調するように言った。
そこは大事なことのようで間違えてほしくないという雰囲気だ。
俺ではなく、アデルに対しての言葉だろう。
「――ねえ、ミズキ」
俺とミズキが話していると、アデルがぽつりと言った。
美食クラブに関して、何か言い足りないことがあるのだろうか。
「私たちをサクラギに連れていってくれないかしら?」
「急に何言ってんの? ここからどれだけ遠いと思って……」
「そこはお姫様愛用の牛車なら、楽勝でいけるんじゃない?」
アデルがミズキに揺さぶりをかけている。
ワインの影響も少なからずあると思うが、彼女が交渉を持ちかけているところは貴重な場面だと思った。
「……あの、それって、俺とハンクも行くんですか?」
「そりゃそうよ。面白い国だから、物見遊山に行ってみるのはいいと思うわ」
「ひどいよ。あたしの故郷をそんなふうに言うなんて」
ミズキは涙を拭うように泣き真似を見せて、アデルに非難の意思を示した。
そんな彼女の様子を見て取り、アデルはやれやれと言うように両手を上げた。
「マルク、この女にだまされちゃダメよ。野山を駆け回ってイノシシを狩り、北に盗賊と聞けば討伐して、南に悪漢と聞けば駆けつける――そんな繊細な性格ではないもの。Bランク冒険者のフランと同じぐらいの実力があるわ」
「えっ、そうなんですか」
おしとやかな印象だったのだが、フラン並みに強いとなると実情は異なる。
見た感じ細身の体型に見えるのに、そんな力がどこに隠されているのか。
「マルクくん、やだなぁ、そんなに見つめないでよ。照れちゃう」
「あ、ああっ、失礼しました」
ミズキの反応に戸惑ったところで、空の皿を手にしたハンクがやってきた。
いつもより時間をかけていたので、味わって食べてくれたのだろう。
「いやー、美味かった。また今度、作ってくれよ」
「それはよかったです。ただ、材料がサクラギ由来のものが多いので、ランス王国では作るのが難しくて……申し訳ないです」
「おう、そうか。まっ、気にすんなって」
ハンクはテーブルに皿を置いて、こちらの近くの椅子に腰かけた。
俺たちの会話が終わったところで、アデルが何かを企むような笑みを浮かべたことに気づいた。
「ねえ、ハンク。そこのお姫様がサクラギに連れていってくれるそうだから、その料理をまた食べれるわよ」
「ちょっ、アデル。関係ない人を巻きこむのは反則だよ」
「あら、彼は旅の仲間よ。一人だけモルネアに置いていくわけにはいかないわ」
どうやら、アデルの中で俺は参加メンバーに確定しているようだ。
「何だかなあもう。近いうちに里帰りしようと思ってたところだし、牛車は全員乗れるから。乗せてったるよ、サクラギに」
ミズキは投げやりに言い捨てると、疲れ果てたような表情を浮かべた。
翌朝、俺たちはミズキに指定された場所に集まった。
街を囲む外壁の外で、ローサが見張る通用門から離れている。
しばらく三人で待っていると、和のテイストを感じさせる馬車のような乗りものがやってきた。
色々と特徴的で、少しの間その様子を観察してしまった。
ちなみに御者は料理長のタイゾウが務めている。
「……おれはサクラギに行ったことがないんだが、世間にはあんな牛がいるんだな」
「俺もあの牛を見るのは初めてです。大きさもさることながら、ずいぶんと筋肉質ですね」
おとなしい様子で客車を引いているが、興奮して立ち向かってこようものなら、命がいくつあっても足りなそうだ。
この牛たちとは似ても似つかないものの、どこかの国に何とかブルという暴れ牛のようなモンスターがいるらしいので、実は近縁種ということもあるかもしれない。
3
お気に入りに追加
3,286
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」
なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。
授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生
そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』
仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。
魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。
常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。
ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。
カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中
タイトルを
「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」
から変更しました。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる