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トリュフともふもふ
期間限定レストランの締めくくり
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期間限定のレストランが始まってからは、自分の店はシリルやフレヤに任せっぱなしになってしまった。
丸投げというほどひどいものではないが、開店準備に顔を出すのが精一杯で、レストランの開店時間に合わせて動くかたちになった。
レストランでの日々は充実していて、ふと気づけば自分は料理人なのではと錯覚を覚えそうになるほどだった。
やがて迎えた最終日。最後の料理を出して片づけが終わったところで、調理場には何かを成し遂げたような空気が漂っていた。
「マルクさん、お疲れ様でした!」
「いやー、何とか終えることができましたね」
パメラの表情にはどこか晴れやかな色が見て取れる。
彼女のように充実感もあるわけだが、無事に終えることができてホッとするような気持ちの方が大きかった。
「パメラさん、マルクさん、お世話になりました」
声をかけられて振り向くと、クレマンさんとベランさんが立っていた。
二人とも感極まったような表情をしている。
「……どうしました?」
「お二人と一緒に働けて、とても光栄でした」
「そこまで言ってもらえると何だか恐縮ですね」
パメラの方を見るとさわやかな微笑みを浮かべている。
彼女の満足げな表情を目にして、自分が成し遂げたことの大きさを実感した。
「クレマンさんとベランさんもお疲れ様でした。私が言うのもおこがましいかもしれませんが、とてもいい働きぶりでした」
「いいえ、もったいないお言葉です」
「町長に紹介されて、ここに来てよかったです」
二人の涙からも、このレストランの意義を感じ取ることができた。
売上が町の橋の改修費になるのだから、名誉なことでもあるのだ。
それから、四人で雑談をした後に流れで解散になった。
レストラン最終日から数日後。
町長に呼び出されて、町中のカフェに足を運んだ。
「忙しいところ、呼び立ててすまないね」
「いえ、ちょうど定休日だったので」
「注文を頼む。アイスティーを二つ」
給仕の女は注文を受けると、カウンターの方に歩いていった。
「君はアイスティーが好きだと聞いたことがあって、何か違うものがいいだろうか」
「いえ、よくご存じで。そのままで大丈夫です」
町長はバラム中の人間と関わっているので、そういったことを知っていてもおかしくはないと思った。
俺は店での休憩中、外出先のどこでもアイスティーを飲むことが多い。
転生前の記憶の影響でコーヒーを飲みたくなることがあるが、周辺国含めて豆自体が栽培されていないため、残念ながら飲むことはできない。
町長とは何度か会ったことがあるものの、会話がそこまで弾まないまま、テーブルにアイスティーが二つ置かれた。
町長はそのうちの一つを飲むように促した後、おもむろに話を始めた。
「今回は協力してくれてありがとう。無事に改修費が用立てられたよ」
「いえ、お役に立てたのなら光栄です」
「それにしても、ガストロノミーだったかな? 地元の名産を売りにして売上を増やすというのは名案だね。さすがは美食家発案のアイデアだ」
町長は素直に賞賛するような言い方だった。
俺自身、アデルに敬意を抱いているため、そう言われて悪い気はしない。
「やっぱり、トリュフを使うと儲かるもんですか?」
「もちろんそうだね。よそでやたらに採れるものではなし、エディのように訓練された犬を育てるのも手間と費用がかかる。名産の少ないバラムにとって、トリュフは希望の光と呼べるほどの代物だね」
「当初は地元の人だけが密かに味わうものだったので、それがここまで価値を生み出すとはすごいことです。そういえば、今回のレストランであの山のトリュフの存在が広まったと思いますけど、密漁とかは大丈夫ですか?」
こちらがたずねると、町長は意外そうな顔をした。
そんなことを考えていなかったというふうに見える。
「アスタール山で採れることは、必要以上に話さないようにしているよ。それにギルドが山を管理しているから、承知の上で飛びこむ者は少ないはず。人目につかないように犬なしで潜んだところで、トリュフが掘れるはずもないからね」
「たしかにそうですね。それでも入山するような山賊みたいな存在は聞いたことがありません」
バラム周辺は治安がいいところが素晴らしい。
辺境の町なので、よそから来た者が不審な動きを見せれば目につきやすい。
それにアスタール山は町から目と鼻の距離にある。
「これでレストランは区切りがついたし、マルクくんは焼肉店の営業に戻るんだね」
「はい、そのつもりです」
「あの店は好調だね。うちの家族の評判もいいよ」
町長はそう話しながら笑顔を見せた。
社交辞令ではなく、本当のことなのだろう。
「ちなみに町長。今回の件でトリュフの美味しさに気づいてしまったんですけど、また採取に行って、食べてもいいですか?」
「そりゃもちろん。匂いを探知できる犬が必要だから、またサミュエル辺りに頼んでみたらどうだろう」
「そうですね。そうします」
トリュフに限らず、エディに魅力を感じているので、サミュエルに頼むのはベストな気がした。
「今回は本当にご苦労だった。町長として、君やパメラくんのような若者がいることは誇らしいよ」
「ありがとうございます」
「また手伝いを頼むことがあったら、その時はよろしく頼むよ」
「はい、俺でよければお手伝いします」
アイスティーを飲み干した後、町長と店の前で別れた。
丸投げというほどひどいものではないが、開店準備に顔を出すのが精一杯で、レストランの開店時間に合わせて動くかたちになった。
レストランでの日々は充実していて、ふと気づけば自分は料理人なのではと錯覚を覚えそうになるほどだった。
やがて迎えた最終日。最後の料理を出して片づけが終わったところで、調理場には何かを成し遂げたような空気が漂っていた。
「マルクさん、お疲れ様でした!」
「いやー、何とか終えることができましたね」
パメラの表情にはどこか晴れやかな色が見て取れる。
彼女のように充実感もあるわけだが、無事に終えることができてホッとするような気持ちの方が大きかった。
「パメラさん、マルクさん、お世話になりました」
声をかけられて振り向くと、クレマンさんとベランさんが立っていた。
二人とも感極まったような表情をしている。
「……どうしました?」
「お二人と一緒に働けて、とても光栄でした」
「そこまで言ってもらえると何だか恐縮ですね」
パメラの方を見るとさわやかな微笑みを浮かべている。
彼女の満足げな表情を目にして、自分が成し遂げたことの大きさを実感した。
「クレマンさんとベランさんもお疲れ様でした。私が言うのもおこがましいかもしれませんが、とてもいい働きぶりでした」
「いいえ、もったいないお言葉です」
「町長に紹介されて、ここに来てよかったです」
二人の涙からも、このレストランの意義を感じ取ることができた。
売上が町の橋の改修費になるのだから、名誉なことでもあるのだ。
それから、四人で雑談をした後に流れで解散になった。
レストラン最終日から数日後。
町長に呼び出されて、町中のカフェに足を運んだ。
「忙しいところ、呼び立ててすまないね」
「いえ、ちょうど定休日だったので」
「注文を頼む。アイスティーを二つ」
給仕の女は注文を受けると、カウンターの方に歩いていった。
「君はアイスティーが好きだと聞いたことがあって、何か違うものがいいだろうか」
「いえ、よくご存じで。そのままで大丈夫です」
町長はバラム中の人間と関わっているので、そういったことを知っていてもおかしくはないと思った。
俺は店での休憩中、外出先のどこでもアイスティーを飲むことが多い。
転生前の記憶の影響でコーヒーを飲みたくなることがあるが、周辺国含めて豆自体が栽培されていないため、残念ながら飲むことはできない。
町長とは何度か会ったことがあるものの、会話がそこまで弾まないまま、テーブルにアイスティーが二つ置かれた。
町長はそのうちの一つを飲むように促した後、おもむろに話を始めた。
「今回は協力してくれてありがとう。無事に改修費が用立てられたよ」
「いえ、お役に立てたのなら光栄です」
「それにしても、ガストロノミーだったかな? 地元の名産を売りにして売上を増やすというのは名案だね。さすがは美食家発案のアイデアだ」
町長は素直に賞賛するような言い方だった。
俺自身、アデルに敬意を抱いているため、そう言われて悪い気はしない。
「やっぱり、トリュフを使うと儲かるもんですか?」
「もちろんそうだね。よそでやたらに採れるものではなし、エディのように訓練された犬を育てるのも手間と費用がかかる。名産の少ないバラムにとって、トリュフは希望の光と呼べるほどの代物だね」
「当初は地元の人だけが密かに味わうものだったので、それがここまで価値を生み出すとはすごいことです。そういえば、今回のレストランであの山のトリュフの存在が広まったと思いますけど、密漁とかは大丈夫ですか?」
こちらがたずねると、町長は意外そうな顔をした。
そんなことを考えていなかったというふうに見える。
「アスタール山で採れることは、必要以上に話さないようにしているよ。それにギルドが山を管理しているから、承知の上で飛びこむ者は少ないはず。人目につかないように犬なしで潜んだところで、トリュフが掘れるはずもないからね」
「たしかにそうですね。それでも入山するような山賊みたいな存在は聞いたことがありません」
バラム周辺は治安がいいところが素晴らしい。
辺境の町なので、よそから来た者が不審な動きを見せれば目につきやすい。
それにアスタール山は町から目と鼻の距離にある。
「これでレストランは区切りがついたし、マルクくんは焼肉店の営業に戻るんだね」
「はい、そのつもりです」
「あの店は好調だね。うちの家族の評判もいいよ」
町長はそう話しながら笑顔を見せた。
社交辞令ではなく、本当のことなのだろう。
「ちなみに町長。今回の件でトリュフの美味しさに気づいてしまったんですけど、また採取に行って、食べてもいいですか?」
「そりゃもちろん。匂いを探知できる犬が必要だから、またサミュエル辺りに頼んでみたらどうだろう」
「そうですね。そうします」
トリュフに限らず、エディに魅力を感じているので、サミュエルに頼むのはベストな気がした。
「今回は本当にご苦労だった。町長として、君やパメラくんのような若者がいることは誇らしいよ」
「ありがとうございます」
「また手伝いを頼むことがあったら、その時はよろしく頼むよ」
「はい、俺でよければお手伝いします」
アイスティーを飲み干した後、町長と店の前で別れた。
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