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トリュフともふもふ
パメラと商品開発
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アデルからガストロノミーという文化について聞いたことで、トリュフを活用する案がまとまりつつあった。
続いて具体的な料理を決めなければいけないため、アフタヌーンティーを提供しているパメラに会うことに決めていた。
ある日の午後。
焼肉屋が閉店してから、パメラの店が閉まる頃合いを見計らって訪問した。
彼女は仕事終わりのようでテラス席に腰かけて、休憩しているところだった。
メイド服のような衣服は以前と同じで、外したエプロンが椅子にかかっている。
日光が彼女の髪を照らして、きらきらと金色に輝いていた。
「こんにちは。お久しぶりです」
「……あっ、すみません。すぐに気づかなくて」
「いえ、大丈夫です。今日はお客として来たわけじゃないので」
「私に何かご用でしょうか?」
「はい、そんなところです」
パメラは近くの椅子に座るように勧めてくれた。
俺は礼を言って、そこに腰かけた。
「飲み物をご用意するので、少しお待ちください」
「ああっ、お気遣いなく」
こちらが言葉を返すと、彼女は微笑みで応じた。
そして、そのまま店の中へと戻っていった。
「試飲して頂いたフレーバーティーの新しい種類です」
「ありがとうございます」
カップに入ったそれはアイスティーのような見た目だが、ほのかにショウガの香りが漂ってくる。
「今日は風が涼しいので、ジンジャーティーにしてみました」
「身体が温まっていいですよね」
せっかく用意してもらったので、カップを口に近づける。
紅茶の香りとショウガの風味が合わさって、心地よい味わいだった。
「それで、どのようなご用でしょうか」
「実はトリュフを使った料理を考えようとしているところで……」
俺は橋の修繕費を用立てる経緯をかいつまんで説明した。
パメラもこの町の出身ということもあり、彼女の理解は早かった。
「――そういうことでしたのね。あの橋は昔からあるようですから、老朽化も致し方ないと思います」
「パメラさんは王都で働いたこともあるみたいなので、俺よりも料理の幅が広いかなと思ったんですけど」
「どちらかというとお菓子作りの方が得意です。とはいっても、王都にいた時は食べ歩きをして、トリュフを使った料理も食べたことがあります。マルクさんとはご縁があるようですので、ぜひとも協力させてください」
「ありがとうございます!」
パメラの善意に心から感謝した。
実物を見せるため、サミュエルに渡されたトリュフをテーブルに置いた。
「本当にトリュフを使うおつもりなのですね」
「はい、夢みたいな話なんですけど、アスタール山に生えてるんですよ」
パメラは感心するように目を丸くしている。
この世界でも高級品であることは変わりないので、こういった反応は自然だろう。
「手始めに何か作ろうと思うのですが、使ってしまってもよいのでしょうか?」
「はい、問題ありません」
「今日は休憩して帰るつもりでしたが、トリュフを見たらやる気が出てきました」
「おっ、それはよかった。あまり無理はしないでください」
パメラは腕まくりをして、やる気に満ちた姿勢を見せた。
「二人で調理した方が早いと思うので、よかったら手伝って手伝って頂けますか?」
「もちろんです」
「では、今から取りかかりますね」
彼女はトリュフを手に取り、席を立った。
店内に入っていったので、それに続いてついていく。
この店の調理場は清潔で整頓がされていた。
パメラが店を始めたのは最近ということもあり、全体的に真新しい印象を受けた。
「まずはパスタを試してみようと思います」
「分かりました。何か手伝えそうですか?」
「お皿の出し入れや食器の後片づけをお願いします。雑用でごめんなさい」
「いえいえ、お構いなく」
パメラはこちらを気遣いつつ、すでに動き始めている。
のんびりした性格だと思っていたが、料理を作る時は素早くなるようだ。
ひとまず、邪魔にならないように一歩引いた位置で待機する。
彼女の手際のよさに感心していると、そうこうするうちにパスタが完成した。
「マルクさん、お待たせしました。バターベースで和えたので、仕上げにトリュフをかけるだけです」
「専用のスライサーを預かったので、よかったらこれをどうぞ」
俺はパメラにスライサーを手渡した。
彼女はそれを受け取ると、半分にカットしたトリュフを削り始めた。
まるでかつお節のように、薄くスライスされたものが皿に落ちる。
ほんのりとこちらまで香りが漂ってくる。
「あっ、よかったらやってみますか?」
「いや、大丈夫です。いい匂いがするので、味の方が気になります」
「うふふっ、すぐに食べられるので、少しだけお待ちください」
パメラは微笑みながら、トリュフを削っていった。
パスタが完成すると調理場の一角で食べ始めた。
俺とパメラは立ったまま、フォーク片手に麺をすすった。
「お、美味しいー」
「いやー、抜群の味ですね」
二人で顔を見合わせた。
パメラはうっとりするような表情を見せている。
きっと、俺も同じような顔になっているはずだ。
「トリュフが十分に手に入りますし、これはいけそうじゃないですか」
「私もこんなに美味しいなんて予想できませんでした」
「パスタは完璧なので、今度は一品作ってみてもいいですか?」
「店内の設備でしたら、ご自由に使ってください」
パスタは確定でいいと思うが、幅を広げるために自分も案を出すことにした。
続いて具体的な料理を決めなければいけないため、アフタヌーンティーを提供しているパメラに会うことに決めていた。
ある日の午後。
焼肉屋が閉店してから、パメラの店が閉まる頃合いを見計らって訪問した。
彼女は仕事終わりのようでテラス席に腰かけて、休憩しているところだった。
メイド服のような衣服は以前と同じで、外したエプロンが椅子にかかっている。
日光が彼女の髪を照らして、きらきらと金色に輝いていた。
「こんにちは。お久しぶりです」
「……あっ、すみません。すぐに気づかなくて」
「いえ、大丈夫です。今日はお客として来たわけじゃないので」
「私に何かご用でしょうか?」
「はい、そんなところです」
パメラは近くの椅子に座るように勧めてくれた。
俺は礼を言って、そこに腰かけた。
「飲み物をご用意するので、少しお待ちください」
「ああっ、お気遣いなく」
こちらが言葉を返すと、彼女は微笑みで応じた。
そして、そのまま店の中へと戻っていった。
「試飲して頂いたフレーバーティーの新しい種類です」
「ありがとうございます」
カップに入ったそれはアイスティーのような見た目だが、ほのかにショウガの香りが漂ってくる。
「今日は風が涼しいので、ジンジャーティーにしてみました」
「身体が温まっていいですよね」
せっかく用意してもらったので、カップを口に近づける。
紅茶の香りとショウガの風味が合わさって、心地よい味わいだった。
「それで、どのようなご用でしょうか」
「実はトリュフを使った料理を考えようとしているところで……」
俺は橋の修繕費を用立てる経緯をかいつまんで説明した。
パメラもこの町の出身ということもあり、彼女の理解は早かった。
「――そういうことでしたのね。あの橋は昔からあるようですから、老朽化も致し方ないと思います」
「パメラさんは王都で働いたこともあるみたいなので、俺よりも料理の幅が広いかなと思ったんですけど」
「どちらかというとお菓子作りの方が得意です。とはいっても、王都にいた時は食べ歩きをして、トリュフを使った料理も食べたことがあります。マルクさんとはご縁があるようですので、ぜひとも協力させてください」
「ありがとうございます!」
パメラの善意に心から感謝した。
実物を見せるため、サミュエルに渡されたトリュフをテーブルに置いた。
「本当にトリュフを使うおつもりなのですね」
「はい、夢みたいな話なんですけど、アスタール山に生えてるんですよ」
パメラは感心するように目を丸くしている。
この世界でも高級品であることは変わりないので、こういった反応は自然だろう。
「手始めに何か作ろうと思うのですが、使ってしまってもよいのでしょうか?」
「はい、問題ありません」
「今日は休憩して帰るつもりでしたが、トリュフを見たらやる気が出てきました」
「おっ、それはよかった。あまり無理はしないでください」
パメラは腕まくりをして、やる気に満ちた姿勢を見せた。
「二人で調理した方が早いと思うので、よかったら手伝って手伝って頂けますか?」
「もちろんです」
「では、今から取りかかりますね」
彼女はトリュフを手に取り、席を立った。
店内に入っていったので、それに続いてついていく。
この店の調理場は清潔で整頓がされていた。
パメラが店を始めたのは最近ということもあり、全体的に真新しい印象を受けた。
「まずはパスタを試してみようと思います」
「分かりました。何か手伝えそうですか?」
「お皿の出し入れや食器の後片づけをお願いします。雑用でごめんなさい」
「いえいえ、お構いなく」
パメラはこちらを気遣いつつ、すでに動き始めている。
のんびりした性格だと思っていたが、料理を作る時は素早くなるようだ。
ひとまず、邪魔にならないように一歩引いた位置で待機する。
彼女の手際のよさに感心していると、そうこうするうちにパスタが完成した。
「マルクさん、お待たせしました。バターベースで和えたので、仕上げにトリュフをかけるだけです」
「専用のスライサーを預かったので、よかったらこれをどうぞ」
俺はパメラにスライサーを手渡した。
彼女はそれを受け取ると、半分にカットしたトリュフを削り始めた。
まるでかつお節のように、薄くスライスされたものが皿に落ちる。
ほんのりとこちらまで香りが漂ってくる。
「あっ、よかったらやってみますか?」
「いや、大丈夫です。いい匂いがするので、味の方が気になります」
「うふふっ、すぐに食べられるので、少しだけお待ちください」
パメラは微笑みながら、トリュフを削っていった。
パスタが完成すると調理場の一角で食べ始めた。
俺とパメラは立ったまま、フォーク片手に麺をすすった。
「お、美味しいー」
「いやー、抜群の味ですね」
二人で顔を見合わせた。
パメラはうっとりするような表情を見せている。
きっと、俺も同じような顔になっているはずだ。
「トリュフが十分に手に入りますし、これはいけそうじゃないですか」
「私もこんなに美味しいなんて予想できませんでした」
「パスタは完璧なので、今度は一品作ってみてもいいですか?」
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