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トリュフともふもふ

エディの本領発揮

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 アスタール山に関しては土地勘があるはずだったが、地図に書かれた場所がどこであるのか分からなかった。
 そのため、実際に説明を受けたハンクに場所探しを任せた。

「マルクも冒険者だったからできると思うが、こういうのは得意でな」

「冒険者っていうよりも探検家みたいですね」

 ハンクは何をやらせても器用で、万能型の冒険者だった。 
 彼は片手に地図、反対の手にリードを持った状態で移動を続けた。
 
「こんな身近にトリュフがあるなんて、不思議な感じがしますね」

「市場で見かけることは少ないよな。それにそこそこ値が張る」

 希少価値と市場価値。
 その二つが高いことはそれだけ見つけにくいことを示唆している。
 
「エディは優秀らしいですけど、簡単に見つかりますかね」

「ぶっちゃけ、おれも半信半疑だ。見つかったら儲けもの程度に考えてる」

 ハンクほどの人物になれば、ドラゴン討伐からお庭の掃除まで何でも経験しているので、新しいことがあればやってみたいという心情なのだろう。 
 
 地図を読み取りながら進むハンクに続いて、山道を歩いていった。

 さすがに遊歩道のように整備されたところで見つかるはずもなく、途中から道なき道を移動するかたちになった。

「地図の場所、見つかりそうですか」

「ああっ、もう少しで到着する」

 俺はハンクの言葉を信じて、山中の木々を分け入って進んだ。
 エディは不安定な足場に怯むことなく、淡々と足を運んでいる。

「マルク、あとちょっとで地図の範囲に入る」

「分かりました」

 気づくと周囲には人が行き来した痕跡がある。
 おそらく、この近くにトリュフが生えているのだ。

 そこからさらに進んだところで、ハンクが驚くような声を上げた。

「――おっ、エディ、どうした」

 エディがリードを引っ張りながら、前へ突き進もうとしていた。
 泰然自若といった様子だったのに、脇目もふらずに何かを目指している。

「リードを緩めるから、エディが遠くに行きそうになったら捕まえてくれ」

「大丈夫です。任せてください」

 ハンクがリードを調整すると、長さが伸びてエディが動ける範囲が広がった。  
 それに連動して、エディは水を得た魚のように活発さを増した。

「これはもしかして、トリュフに反応してるんじゃないですか」

「どうやら、そうみたいだな」

 俺とハンクは並んで、エディの動きを眺めていた。
 自由自在に歩き回って、何かを探すような動きを続けている。
 やがて天啓を受けたように立ち止まると、一本の木の根元を掘り始めた。

「すごい勢いですね」

「トリュフが崩れるといけねえから、適当に止めた方がいいな」

 俺たちはエディの後ろに立って、様子を見守ることにした。
 エディはしばらく掘り進めた後、こちらを振り向いて何かを訴えかけるような目配せをした。

「これはここ掘れワンワンってやつですね」

「よく分からねえが、あとは人力でどうにかしろってことだろ」

 ハンクは楽しそうに言った後、バックパックから小さなスコップとナイフを取り出した。

「一応、やり方は聞いてきたんだが……」

 彼はエディが掘った先に手を伸ばして、土をひと掴み持ち上げた。

「トリュフが近くにあると、土もいい匂いがするらしい」

「へえ、初耳です」

 ハンクは手にした土に鼻を近づけた。
 俺も同じように土を手に取り、匂いを確かめてみた。

「……そこはかとなく、上品な香りがしますね」

「ほんのちょっとだな。これは慣れないと難しそうだ」

 俺たちは土を地面に戻して、トリュフを掘る作業を開始した。

「エディを借りた時に注意するように言われたんだが、木の根に傷がつくと後から生えるトリュフに影響があるから気をつけるようにだとさ」

「分かりました。けっこう繊細な作業ってことですね」

「適当に道具は使ってくれて構わねえが、ここはおれが掘ってみるな」

「お願いします」

 二人並んだところで窮屈になるところなので、その方が効率がいいだろう。
 一つ目のトリュフはハンクに任せることにした。   

 穴の様子を見ていると、粘土質で少し掘りにくそうだった。
 ハンクは大雑把な性格だが、手先は器用なようで丁寧に掘り進めている。

「何でもそつなくこなしますよね」

「ははっ、おれでも苦手なことがあるんだぜ」

 ハンクはトリュフがほしいというよりも作業自体を楽しんでいるようだ。

「へえ、例えば何ですか?」

「とりあえず、魚釣りは苦手だな」

「それこそ、デール湖みたいに魚が多いと簡単そうですけど」
 
「釣れてる時はいいんだ。釣れない時に待つのは苦痛じゃないか」

「ああっ、なるほど」

 ハンクがのんびりしているところは、ほとんど見たことがなかった。
 退屈が苦手とも言っていたので、何かしていないと落ちつかないのだろう。

「そうなると、読書も苦手ってことですよね」

「まあ、そうだな」

「簡単な魔法は関係ないですけど、上位の魔法だと書物から学ぶ必要はなかったですか?」

 アデルクラスになれば、確実に専門書で学んでいる。
 ハンクも高度な魔法を使えるようなので、全て独学ということはないはずだ。

「ああっ、話してなかったか。おれは魔法都市にいたことがあって、そこで習ったんだ」

「えっ、魔法都市……?」

 初めて聞く地名だった。
 この世界にはそんなところもあるのか。

「なかなか面白いところだぞ」

 ハンクは話を続けながら、なおも地面を掘り進めている。

「ちょっと興味があります」

「マルクは魔法に関心があるもんな。よかったら、いつか連れてってやるよ」

「ホントですか!? ぜひ、お願いします」

 こちらの興奮に感化されたのか、静かだったエディが「ワン」と小さく吠えた。
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