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クレイフィッシュの誘惑
湖に隠された秘密
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自前の船が沈んだこともあり、ガストンはへたりこんで動けないままだった。
キングクレイフィッシュとは何であるか問いかけたかったが、彼が平静を取り戻すまで待つことにした。
「……すみません、お見苦しいところを」
俺とハンクが見守っていると、少ししてガストンは立ち上がった。
「とんでもないです。ガストンさんの操船技術のおかげで事なきを得ましたから」
「そんな、とんでもない。がむしゃらに漕いだら、どうにか逃げ切れました」
俺も一定の動揺が残っているのだが、ガストンの顔は青ざめていた。
湖の漁ならばそこまでの危険は伴わないはずなので、あんな場面に遭遇すれば当然の反応だろう。
「ところで、聞こえてしまったんですけど、キングクレイフィッシュって何ですか?」
「あっ、わしとしたことが……。我を忘れて口にしていましたか」
ガストンはバツの悪そうな顔を見せた後、開き直るように吐露した。
「さっき見た通り、調査と討伐には危険が伴います。あのクレイフィッシュについて、知っていることがあれば教えてください」
「今更になってしまいましたが、お話ししましょう。昔からの言い伝えで、湖周辺のどこかにクレイフィッシュの王が潜む洞穴があると言われていました」
「それは伝承みたいなものですか?」
こちらがたずねると、ガストンはしっかりと頷いた。
「よくある昔話だと、地元の人間で真に受ける者はほとんどいないようなものでした。ただ、レストルを訪れた旅人の一人が、湖に浮かぶ小島に空いた穴を訪れてから、次第に状況が怪しくなりました」
ここからもそれしき島は見えるが、そんな穴があるようには見えない。
デール湖は汽水湖なので、潮の満ち引きで入れる場所なのだろう。
「おそらく、封印されていたか、眠りについていたキングクレイフィッシュを起こしてしまったのでしょう。地元の人間はあそこに入ろうという発想がないので、対応が後手に回ってしまいました」
後悔するような漁師頭の様子にいたたまれない気持ちになる。
「ガストンさん、起きてしまったことはどうしようもないので、これからどうするか考えましょう」
「そうだ、まだ何とかなるかもしれねえ。もう少し対策を考えようぜ」
「お二人とも……ありがとうございます」
ガストンは深々と頭を下げた。
俺やハンクの存在で少しでも気が楽になればと思った。
それから、俺たちは陸で待機しているアデルのところに向かった。
「おう、バカでかいクレイフィッシュが見えたぜ」
「おかえりなさい。それで、退治できたの?」
「いや、船が沈められて、命からがら逃げてきたってところだ」
ハンクの答えを聞いて、アデルは小さく首を傾けた。
「あなたが一緒にいて、そんなこともあるのね」
「ただのクレイフィッシュとは思えないほど狡猾でしたよ。捕まえるにしろ、退治するにしろ、もう少し話し合った方がよさそうです」
ハンクの話に補足するように伝えると、アデルが納得したような表情を見せた。
「なかなか厳しい相手みたいね。マルクの言う通り、作戦が必要なのかしら」
「お三方、エリクに報告したいので、さっきの建物に戻ってもよいですか?」
「はい、もちろん」
俺たちは来た道を引き返して、エリクを待たせている建物に戻った。
「ガスさん、どうだった?」
室内に足を運ぶと、エリクが椅子から立ち上がって近づいてきた。
期待と不安が入り混じるような表情をしている。
「……いや、見つけることはできたんだが」
「うん、そうなんだ」
俯き加減のガストンを見て、エリクは何があったかを悟ったようだった。
「あんたらも大変だと思うが、あんなクレイフィッシュを放置するわけにはいかねえ。何とかした方がいいだろ」
「俺も同じ意見です。今は水中から出ないですけど、陸に上がる可能性もゼロじゃない。非常に危険なモンスターだと思います」
俺とハンクが順番に発言すると、ガストンとエリクは互いの顔を見合わせた。
「……この方たちの力を借りて、何としてでもやつを退治しよう。それでもダメだった時は湖が封鎖になることも覚悟しなければいけないな」
少しの間を置いて、ガストンが渋い表情で口を開いた。
漁業が生活の糧である以上、そんなことは考えたくないはずだ。
それでも、現実を直視して向き合おうとしている。
「できればそうしてくれ。おれが関わった件で犠牲が出るのは胸くそが悪い」
「もしもの時は王都の力を借りるようにします」
ガストンの言葉は重たく、大きな意味を持つように感じられた。
「とりあえず、それは最終手段ということで、俺たちで何とかできないか話し合いましょう」
「私も賛成よ。モンスターの知恵に人やエルフが負けるなんておかしいもの」
「皆さんに来て頂けて、とても心強いです」
エリクは感極まるように涙ぐんでいた。
「おいおい、泣くのは成功してからでいいんじゃねえか」
「はい、すいません」
ハンクは言葉とは裏腹に優しい言い方をしていた。
「それで質問なんですけど、あのクレイフィッシュが出没する場所に規則性はありませんか?」
俺はガストンとエリクに問いかけた。
「例の小島に空いた穴が巣みたいで、あそこから出入りしている可能性が高いです」
「その近くまで行くことはできそうですか?」
「潮の満ち引きに合わせる必要はありますが、時間が合えば中に入れます」
ガストンがしっかりした声で言った。
「回遊していたら見つけるのは難しくなるので、今度は待ち伏せするかたちでいきましょう」
「マルクの意見に賛成だ。不意打ち食らうのはまずいが、待ち伏せできるなら、状況が変わってくる」
次の方針が決まってくると、ガストンの顔に生気が戻るのが感じられた。
キングクレイフィッシュの存在が未知数だからこそ、できるだけのことは試してみたいと思った。
あとがき
漁師頭の名前がビクトル→ガストンに変更になっています。
読む際に違和感などございましたら、申し訳ありません。
キングクレイフィッシュとは何であるか問いかけたかったが、彼が平静を取り戻すまで待つことにした。
「……すみません、お見苦しいところを」
俺とハンクが見守っていると、少ししてガストンは立ち上がった。
「とんでもないです。ガストンさんの操船技術のおかげで事なきを得ましたから」
「そんな、とんでもない。がむしゃらに漕いだら、どうにか逃げ切れました」
俺も一定の動揺が残っているのだが、ガストンの顔は青ざめていた。
湖の漁ならばそこまでの危険は伴わないはずなので、あんな場面に遭遇すれば当然の反応だろう。
「ところで、聞こえてしまったんですけど、キングクレイフィッシュって何ですか?」
「あっ、わしとしたことが……。我を忘れて口にしていましたか」
ガストンはバツの悪そうな顔を見せた後、開き直るように吐露した。
「さっき見た通り、調査と討伐には危険が伴います。あのクレイフィッシュについて、知っていることがあれば教えてください」
「今更になってしまいましたが、お話ししましょう。昔からの言い伝えで、湖周辺のどこかにクレイフィッシュの王が潜む洞穴があると言われていました」
「それは伝承みたいなものですか?」
こちらがたずねると、ガストンはしっかりと頷いた。
「よくある昔話だと、地元の人間で真に受ける者はほとんどいないようなものでした。ただ、レストルを訪れた旅人の一人が、湖に浮かぶ小島に空いた穴を訪れてから、次第に状況が怪しくなりました」
ここからもそれしき島は見えるが、そんな穴があるようには見えない。
デール湖は汽水湖なので、潮の満ち引きで入れる場所なのだろう。
「おそらく、封印されていたか、眠りについていたキングクレイフィッシュを起こしてしまったのでしょう。地元の人間はあそこに入ろうという発想がないので、対応が後手に回ってしまいました」
後悔するような漁師頭の様子にいたたまれない気持ちになる。
「ガストンさん、起きてしまったことはどうしようもないので、これからどうするか考えましょう」
「そうだ、まだ何とかなるかもしれねえ。もう少し対策を考えようぜ」
「お二人とも……ありがとうございます」
ガストンは深々と頭を下げた。
俺やハンクの存在で少しでも気が楽になればと思った。
それから、俺たちは陸で待機しているアデルのところに向かった。
「おう、バカでかいクレイフィッシュが見えたぜ」
「おかえりなさい。それで、退治できたの?」
「いや、船が沈められて、命からがら逃げてきたってところだ」
ハンクの答えを聞いて、アデルは小さく首を傾けた。
「あなたが一緒にいて、そんなこともあるのね」
「ただのクレイフィッシュとは思えないほど狡猾でしたよ。捕まえるにしろ、退治するにしろ、もう少し話し合った方がよさそうです」
ハンクの話に補足するように伝えると、アデルが納得したような表情を見せた。
「なかなか厳しい相手みたいね。マルクの言う通り、作戦が必要なのかしら」
「お三方、エリクに報告したいので、さっきの建物に戻ってもよいですか?」
「はい、もちろん」
俺たちは来た道を引き返して、エリクを待たせている建物に戻った。
「ガスさん、どうだった?」
室内に足を運ぶと、エリクが椅子から立ち上がって近づいてきた。
期待と不安が入り混じるような表情をしている。
「……いや、見つけることはできたんだが」
「うん、そうなんだ」
俯き加減のガストンを見て、エリクは何があったかを悟ったようだった。
「あんたらも大変だと思うが、あんなクレイフィッシュを放置するわけにはいかねえ。何とかした方がいいだろ」
「俺も同じ意見です。今は水中から出ないですけど、陸に上がる可能性もゼロじゃない。非常に危険なモンスターだと思います」
俺とハンクが順番に発言すると、ガストンとエリクは互いの顔を見合わせた。
「……この方たちの力を借りて、何としてでもやつを退治しよう。それでもダメだった時は湖が封鎖になることも覚悟しなければいけないな」
少しの間を置いて、ガストンが渋い表情で口を開いた。
漁業が生活の糧である以上、そんなことは考えたくないはずだ。
それでも、現実を直視して向き合おうとしている。
「できればそうしてくれ。おれが関わった件で犠牲が出るのは胸くそが悪い」
「もしもの時は王都の力を借りるようにします」
ガストンの言葉は重たく、大きな意味を持つように感じられた。
「とりあえず、それは最終手段ということで、俺たちで何とかできないか話し合いましょう」
「私も賛成よ。モンスターの知恵に人やエルフが負けるなんておかしいもの」
「皆さんに来て頂けて、とても心強いです」
エリクは感極まるように涙ぐんでいた。
「おいおい、泣くのは成功してからでいいんじゃねえか」
「はい、すいません」
ハンクは言葉とは裏腹に優しい言い方をしていた。
「それで質問なんですけど、あのクレイフィッシュが出没する場所に規則性はありませんか?」
俺はガストンとエリクに問いかけた。
「例の小島に空いた穴が巣みたいで、あそこから出入りしている可能性が高いです」
「その近くまで行くことはできそうですか?」
「潮の満ち引きに合わせる必要はありますが、時間が合えば中に入れます」
ガストンがしっかりした声で言った。
「回遊していたら見つけるのは難しくなるので、今度は待ち伏せするかたちでいきましょう」
「マルクの意見に賛成だ。不意打ち食らうのはまずいが、待ち伏せできるなら、状況が変わってくる」
次の方針が決まってくると、ガストンの顔に生気が戻るのが感じられた。
キングクレイフィッシュの存在が未知数だからこそ、できるだけのことは試してみたいと思った。
あとがき
漁師頭の名前がビクトル→ガストンに変更になっています。
読む際に違和感などございましたら、申し訳ありません。
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