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クレイフィッシュの誘惑
久しぶりの顔合わせ
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「マルクはデール湖って聞いたことがあるかしら?」
「行ったことはないですけど、けっこう大きな湖ですよね」
こちらの返事が的を得ていたようで、アデルは小さく頷いた。
「その湖は海とつながった汽水湖で、一年のある時期だけクレイフィッシュが海から上がってくるのよ」
「ということは、今回はクレイフィッシュが目当てですか?」
何となく話の流れが読めてきた。
クレイフィッシュはイセエビに似た種類で味が抜群にいい。
「外れてはないけれど、目的は少し違うわね」
「それなら、詳しく教えてください」
アデルは長く赤い髪を手で後ろに流して、愉快そうに笑みを浮かべた。
「地元の漁師がモンスターに困っているみたいで、彼らを助けたらクレイフィッシュを好きなだけ食べられるみたいなのよ」
「ガルフールの時もそうでしたけど、エビとかカニが好きなんですか?」
トマトジュースとセットで食べたブルークラブの記憶が脳裏をよぎる。
独特の組み合わせだったものの、人気になる理由が分かるような美味さだった。
「たしかにエビもカニも好きだけれど、旬の食材を堪能したいだけよ」
「あっ、そういうことですか」
美食家と呼ばれるだけのことはあり、美味しい時期にこだわりがあるようだ。
「それで本題に入るけれど、私も急なことで準備ができていないから、マルクの次の定休日はどう? 日帰りで行ける距離にあるけれど、時間に余裕を持ちたいのよね」
「その方が助かります。次だと一週間後ですけど、クレイフィッシュのシーズンがすぎたりしませんか?」
急に店を閉めるわけにはいかないが、旬が待ってくれるとは限らない。
「まだそれぐらいなら大丈夫よ。今日は用件を伝えに来ただけだから、そろそろ失礼するわね」
アデルは椅子から立ち上がり、軽やかな足取りで去っていった。
アデルの話を聞いてから一週間後。
彼女に指定された待ち合わせ場所に来ていた。
陸路よりも水路を使った方が効率がいいようで、船で移動するらしい。
セレーヌ川の岸際に一隻の船が停泊している。
「おう、マルク!」
アデルの姿を探していると、ハンクが歩いてくるのが目に入った。
いつものバックパックを背負っているので、今回は彼も同行するのだろうか。
「おはようございます。もしかして、デール湖に一緒に行くんですか?」
「アデルから声をかけられてな。クレイフィッシュが食えると聞けば、行くしかないだろうよ」
ハンクはずいぶん楽しみにしているようだ。
それも理解できることで、クレイフィッシュは高級品な上に希少価値が高い。
「おはよう、二人とも揃ってるわね」
「おはようございます」
「さあ、すぐに出発しようぜ」
久しぶりにこの三人で冒険に繰り出すことになるとは。
各地を旅した日々を懐かしく思う。
「今回は船で移動するわ。ここから下流に移動して河口を出たら、海を経由してデール湖に向かう予定だから」
「船旅なんて久しぶりだぜ」
「俺は王都に向かう時に乗りましたよ」
三人で盛り上がっていると、船から一人の男が歩いてきた。
「今回はご予約ありがとうございます! 乗客の三名様はお揃いのようで」
「今日はよろしく頼むわね」
「ではでは、乗船をお願いします」
男はこの船の責任者のようだ。
船長というほどには船が大きくないので、船頭と呼ぶ方がしっくりくる。
俺たちは川面に浮かぶ船へと順番に乗りこんだ。
動力は手漕ぎのようで数名の船員とパドルの存在が目に入る。
座布団のように気の利いたものはないが、座席は設けられていた。
乗客は俺たちだけのようなので、適当に空いたところへ腰を下ろした。
全員が着席したところで、船は岸から離れて出発した。
セレーヌ川は川幅のある穏やかな流れで、船はそこまで揺れなかった。
しばらく流れに乗って船が川を下り続けると、進行方向に海が見えた。
船が河口に到達すると下流への流れだけでなく、波の影響を受けるようになった。
腕っぷしの強そうな船員たちが力を合わせて、パドルを漕いでいた。
やがて、船は海に出て岸に沿うように航行していた。
左手には大海原、右手には砂浜が見えている。
「今日はいい天気だし、泳ぎたくなるよな」
「いいですね。波も穏やかで行楽日和だ」
ハンクの体力なら、このまま目的地まで泳いで行けるのかもしれない。
この後にモンスター退治を控えているので、体力を温存してほしいところだが。
「そういえば、漁師の人たちは何に困ってるんですか?」
具体的なことは確認しなかったものの、目的地に近づいている。
そろそろ、確かめておいてもいいと思った。
「……えーと、それなら現地に着いてから説明するわ」
「あっ、そうですか? それならそれで」
アデルはよそよそしい素振りを見せた。
船員たちに聞かせられない情報があるのかもしれない。
船は海を移動した後、河口のようなところから川を遡るように進んだ。
「ここを抜ければ、ベール湖に到着します」
船頭の案内があり、目的地が近づいていることが分かった。
ここはセレーヌ川のように幅はなく、水路のようにも見える流れだった。
潮の干満の影響を受けるようで、船員たちが全力で漕いでいる。
「――おおっ、すごい」
川のようなところを通過すると、目の前には広大な湖が広がっていた。
池や規模の小さい湖は見たことがあっても、ここまでの大きさは初めて目にした。
「この先にレストルの町の港があるので、そこで下船して頂きます」
船頭の案内を聞きながら、どこまでも続くような水面を眺めていた。
「行ったことはないですけど、けっこう大きな湖ですよね」
こちらの返事が的を得ていたようで、アデルは小さく頷いた。
「その湖は海とつながった汽水湖で、一年のある時期だけクレイフィッシュが海から上がってくるのよ」
「ということは、今回はクレイフィッシュが目当てですか?」
何となく話の流れが読めてきた。
クレイフィッシュはイセエビに似た種類で味が抜群にいい。
「外れてはないけれど、目的は少し違うわね」
「それなら、詳しく教えてください」
アデルは長く赤い髪を手で後ろに流して、愉快そうに笑みを浮かべた。
「地元の漁師がモンスターに困っているみたいで、彼らを助けたらクレイフィッシュを好きなだけ食べられるみたいなのよ」
「ガルフールの時もそうでしたけど、エビとかカニが好きなんですか?」
トマトジュースとセットで食べたブルークラブの記憶が脳裏をよぎる。
独特の組み合わせだったものの、人気になる理由が分かるような美味さだった。
「たしかにエビもカニも好きだけれど、旬の食材を堪能したいだけよ」
「あっ、そういうことですか」
美食家と呼ばれるだけのことはあり、美味しい時期にこだわりがあるようだ。
「それで本題に入るけれど、私も急なことで準備ができていないから、マルクの次の定休日はどう? 日帰りで行ける距離にあるけれど、時間に余裕を持ちたいのよね」
「その方が助かります。次だと一週間後ですけど、クレイフィッシュのシーズンがすぎたりしませんか?」
急に店を閉めるわけにはいかないが、旬が待ってくれるとは限らない。
「まだそれぐらいなら大丈夫よ。今日は用件を伝えに来ただけだから、そろそろ失礼するわね」
アデルは椅子から立ち上がり、軽やかな足取りで去っていった。
アデルの話を聞いてから一週間後。
彼女に指定された待ち合わせ場所に来ていた。
陸路よりも水路を使った方が効率がいいようで、船で移動するらしい。
セレーヌ川の岸際に一隻の船が停泊している。
「おう、マルク!」
アデルの姿を探していると、ハンクが歩いてくるのが目に入った。
いつものバックパックを背負っているので、今回は彼も同行するのだろうか。
「おはようございます。もしかして、デール湖に一緒に行くんですか?」
「アデルから声をかけられてな。クレイフィッシュが食えると聞けば、行くしかないだろうよ」
ハンクはずいぶん楽しみにしているようだ。
それも理解できることで、クレイフィッシュは高級品な上に希少価値が高い。
「おはよう、二人とも揃ってるわね」
「おはようございます」
「さあ、すぐに出発しようぜ」
久しぶりにこの三人で冒険に繰り出すことになるとは。
各地を旅した日々を懐かしく思う。
「今回は船で移動するわ。ここから下流に移動して河口を出たら、海を経由してデール湖に向かう予定だから」
「船旅なんて久しぶりだぜ」
「俺は王都に向かう時に乗りましたよ」
三人で盛り上がっていると、船から一人の男が歩いてきた。
「今回はご予約ありがとうございます! 乗客の三名様はお揃いのようで」
「今日はよろしく頼むわね」
「ではでは、乗船をお願いします」
男はこの船の責任者のようだ。
船長というほどには船が大きくないので、船頭と呼ぶ方がしっくりくる。
俺たちは川面に浮かぶ船へと順番に乗りこんだ。
動力は手漕ぎのようで数名の船員とパドルの存在が目に入る。
座布団のように気の利いたものはないが、座席は設けられていた。
乗客は俺たちだけのようなので、適当に空いたところへ腰を下ろした。
全員が着席したところで、船は岸から離れて出発した。
セレーヌ川は川幅のある穏やかな流れで、船はそこまで揺れなかった。
しばらく流れに乗って船が川を下り続けると、進行方向に海が見えた。
船が河口に到達すると下流への流れだけでなく、波の影響を受けるようになった。
腕っぷしの強そうな船員たちが力を合わせて、パドルを漕いでいた。
やがて、船は海に出て岸に沿うように航行していた。
左手には大海原、右手には砂浜が見えている。
「今日はいい天気だし、泳ぎたくなるよな」
「いいですね。波も穏やかで行楽日和だ」
ハンクの体力なら、このまま目的地まで泳いで行けるのかもしれない。
この後にモンスター退治を控えているので、体力を温存してほしいところだが。
「そういえば、漁師の人たちは何に困ってるんですか?」
具体的なことは確認しなかったものの、目的地に近づいている。
そろそろ、確かめておいてもいいと思った。
「……えーと、それなら現地に着いてから説明するわ」
「あっ、そうですか? それならそれで」
アデルはよそよそしい素振りを見せた。
船員たちに聞かせられない情報があるのかもしれない。
船は海を移動した後、河口のようなところから川を遡るように進んだ。
「ここを抜ければ、ベール湖に到着します」
船頭の案内があり、目的地が近づいていることが分かった。
ここはセレーヌ川のように幅はなく、水路のようにも見える流れだった。
潮の干満の影響を受けるようで、船員たちが全力で漕いでいる。
「――おおっ、すごい」
川のようなところを通過すると、目の前には広大な湖が広がっていた。
池や規模の小さい湖は見たことがあっても、ここまでの大きさは初めて目にした。
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