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異国の商人フレヤ
フレヤの父が大盤振る舞い
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「うーん、まさか本当に来るなんて」
フレヤは戸惑っているようで、独り言を何度か口にしていた。
「もう少し町の中心に行けば、状況が読めそうだね」
「あんまり気乗りしないけど……でも、無視するわけにもいかないよね」
フレヤはどこか諦めた様子だった。
そのお金持ちがどこの誰なのか気になるところだが、困惑気味の彼女にたずねることはやめておいた。
セレーヌ川にかかる橋を越えてから、マーガレット通り方面に来ると賑やかさが増していた。
祭りの時に見かけるような出店がここでも散見される。
「果実水とか冷やした果物が売ってるけど、何か買ってみる?」
「うーん、今はいいかな」
「ああっ、分かった」
お互いに申し合わせることもなく、中心部へと近づいていた。
フレヤは戸惑いながらも、賑わいの発信源に向かおうとする意思が感じられた。
すでに仲間のような関係であるため、彼女に同行するつもりで歩いていた。
「ねえ、マルク……」
「んっ、急にどうした?」
「この後に何があっても、驚かないでほしいんだけど……」
「まあ、フレヤがそう言うなら」
具体的なことは分からなかったが、彼女の真剣な様子に同意を示した。
今までにない状況にこちらも緊張を覚えるような状況だった。
「ごめん、ちょっとのどが渇いたから、出店で何か買ってくる」
「うん、分かった。そこで待ってる」
人通りの多い路地の途中だったが、フレヤは道の脇に移動した。
俺は一軒の出店に近づいて、売り子の若い女に声をかけた。
「あの、オレンジ水を一つ」
「はい、銅貨一枚です」
「では、これで」
彼女に代金を手渡すと、金属製の冷えたカップを手渡された。
「ありがとうございました! お兄さんも祭りを楽しんでね」
「ああっ、どうも」
俺はカップを手にして、フレヤのところに戻った。
「バラムがこんなに賑やかなことってあるんだね」
「うんまあ、年に一度の祭りでもこれぐらいは盛り上がるよ」
フレヤに返事をしつつ、冷えたオレンジ水を口に含む。
柑橘のフルーティーな香りが広がり、冷水は口当たりがよかった。
俺はオレンジ水を飲み終えて出店にカップを戻してから、フレヤと移動を再開した。
やがて、マーガレット通りを少し離れた広場に到着すると、賑わいが最高潮になっていた。
目立つのは出店だけでなく、見たことない衣装の踊り子がおり、聞いたことのない音楽が演奏されている。
慣れない状況にどこか新鮮さを感じていたが、フレヤは複雑な表情を見せていた。
何かに気づいているような彼女を目の当たりにして、質問せずにはいられなかった。
「フレヤ、これは――」
彼女に問いかけたところで、ふいに演奏がストップした。
踊り子もそれに合わせて動きを止めた。
「――はいはい、バラムの皆さん。どいてもらえるー」
「……あれ、誰だ?」
「うーん、やっぱりそうだよね」
フレヤは全てを悟ったような、不思議な表情をしていた。
何もできずに手をこまねいていると、人波をかき分けて誰かが近づいてきた。
「――フレヤちゃーん、バラムまで来ちゃった、てへっ」
「……はっ!?」
その言動は妙に可愛げがあるものの、声の主は中年の男だった。
恰幅のいい体形で上唇の上にひげを生やしている。
服装はフレヤのエスニックなものに似ており、二人が同郷であることを察した。
「お父さん、こんなところまで追いかけてこないでよ」
「……やっぱり、フレヤの父親なのか」
二人は似ても似つかない外見だが、話しぶりから親子だと思った。
「どうせ、ルカに監視でもさせてたんでしょ?」
「い、いやー、監視なんて人聞きの悪い」
フレヤの父は明らかに狼狽えて、額から汗が噴き出している。
三人で話していると、一人の青年が加わろうとしていた。
「――社長、頼んますわ。娯楽の少ない町で何日もお嬢を監視するなんて」
青年はフレヤ親子とは異なり、軽装の防具を身につけている。
商人というよりも冒険者に近い服装だった。
「お嬢、久しぶり。元気にしとった?」
「元気も何も私を監視しておいて、よくそんなことが言えるね」
「これまた手厳しい。あっしもべナード商会――もとい社長に雇われの身である以上、仕事内容は選べないんで。そこんところはご勘弁」
ルカと呼ばれた青年は徒手空拳ではあるが、只者ではない気配を感じた。
ハンクやフランのように腕が立つ人間特有の隙のなさが垣間見える。
「それよりフレヤちゃん。お父さんは婿殿を紹介してほしいな」
「……婿殿? お父さんは何するつもりだったの?」
フレヤにしては珍しく、動揺しているように見える。
あるいは別の見方をすれば怒っているようにも。
「お嬢、社長は何も悪くないんで勘弁したってください」
「もうルカは口を挟まないで、話がややこしくなる」
「いやー、すんません」
フレヤの剣幕にルカは一歩引いた。
「フレヤ、状況がよく分からないんだけど……」
放っておくと延々と三人の会話が続きそうなので、恐る恐る申し出た。
「えーと、これはその……どこから説明すればいいのかな」
「社長が待機用に貸し切りにした店があるんで、そこで話したらどうでしょう?」
ルカはこの状況にも冷静な様子だった。
俺としても落ちついた場所がいいので、渡りに船の提案だ。
「お父さん、まずはそこへ移動しよっ」
「うんうん、そうだね。行きましょう行きましょう」
フレヤの父は娘の提案だからなのか、ずいぶん聞き分けがよかった。
それにしても、先ほどの婿殿というのは俺のことを言っているようだが、彼は何を考えているのだろう。
フレヤは戸惑っているようで、独り言を何度か口にしていた。
「もう少し町の中心に行けば、状況が読めそうだね」
「あんまり気乗りしないけど……でも、無視するわけにもいかないよね」
フレヤはどこか諦めた様子だった。
そのお金持ちがどこの誰なのか気になるところだが、困惑気味の彼女にたずねることはやめておいた。
セレーヌ川にかかる橋を越えてから、マーガレット通り方面に来ると賑やかさが増していた。
祭りの時に見かけるような出店がここでも散見される。
「果実水とか冷やした果物が売ってるけど、何か買ってみる?」
「うーん、今はいいかな」
「ああっ、分かった」
お互いに申し合わせることもなく、中心部へと近づいていた。
フレヤは戸惑いながらも、賑わいの発信源に向かおうとする意思が感じられた。
すでに仲間のような関係であるため、彼女に同行するつもりで歩いていた。
「ねえ、マルク……」
「んっ、急にどうした?」
「この後に何があっても、驚かないでほしいんだけど……」
「まあ、フレヤがそう言うなら」
具体的なことは分からなかったが、彼女の真剣な様子に同意を示した。
今までにない状況にこちらも緊張を覚えるような状況だった。
「ごめん、ちょっとのどが渇いたから、出店で何か買ってくる」
「うん、分かった。そこで待ってる」
人通りの多い路地の途中だったが、フレヤは道の脇に移動した。
俺は一軒の出店に近づいて、売り子の若い女に声をかけた。
「あの、オレンジ水を一つ」
「はい、銅貨一枚です」
「では、これで」
彼女に代金を手渡すと、金属製の冷えたカップを手渡された。
「ありがとうございました! お兄さんも祭りを楽しんでね」
「ああっ、どうも」
俺はカップを手にして、フレヤのところに戻った。
「バラムがこんなに賑やかなことってあるんだね」
「うんまあ、年に一度の祭りでもこれぐらいは盛り上がるよ」
フレヤに返事をしつつ、冷えたオレンジ水を口に含む。
柑橘のフルーティーな香りが広がり、冷水は口当たりがよかった。
俺はオレンジ水を飲み終えて出店にカップを戻してから、フレヤと移動を再開した。
やがて、マーガレット通りを少し離れた広場に到着すると、賑わいが最高潮になっていた。
目立つのは出店だけでなく、見たことない衣装の踊り子がおり、聞いたことのない音楽が演奏されている。
慣れない状況にどこか新鮮さを感じていたが、フレヤは複雑な表情を見せていた。
何かに気づいているような彼女を目の当たりにして、質問せずにはいられなかった。
「フレヤ、これは――」
彼女に問いかけたところで、ふいに演奏がストップした。
踊り子もそれに合わせて動きを止めた。
「――はいはい、バラムの皆さん。どいてもらえるー」
「……あれ、誰だ?」
「うーん、やっぱりそうだよね」
フレヤは全てを悟ったような、不思議な表情をしていた。
何もできずに手をこまねいていると、人波をかき分けて誰かが近づいてきた。
「――フレヤちゃーん、バラムまで来ちゃった、てへっ」
「……はっ!?」
その言動は妙に可愛げがあるものの、声の主は中年の男だった。
恰幅のいい体形で上唇の上にひげを生やしている。
服装はフレヤのエスニックなものに似ており、二人が同郷であることを察した。
「お父さん、こんなところまで追いかけてこないでよ」
「……やっぱり、フレヤの父親なのか」
二人は似ても似つかない外見だが、話しぶりから親子だと思った。
「どうせ、ルカに監視でもさせてたんでしょ?」
「い、いやー、監視なんて人聞きの悪い」
フレヤの父は明らかに狼狽えて、額から汗が噴き出している。
三人で話していると、一人の青年が加わろうとしていた。
「――社長、頼んますわ。娯楽の少ない町で何日もお嬢を監視するなんて」
青年はフレヤ親子とは異なり、軽装の防具を身につけている。
商人というよりも冒険者に近い服装だった。
「お嬢、久しぶり。元気にしとった?」
「元気も何も私を監視しておいて、よくそんなことが言えるね」
「これまた手厳しい。あっしもべナード商会――もとい社長に雇われの身である以上、仕事内容は選べないんで。そこんところはご勘弁」
ルカと呼ばれた青年は徒手空拳ではあるが、只者ではない気配を感じた。
ハンクやフランのように腕が立つ人間特有の隙のなさが垣間見える。
「それよりフレヤちゃん。お父さんは婿殿を紹介してほしいな」
「……婿殿? お父さんは何するつもりだったの?」
フレヤにしては珍しく、動揺しているように見える。
あるいは別の見方をすれば怒っているようにも。
「お嬢、社長は何も悪くないんで勘弁したってください」
「もうルカは口を挟まないで、話がややこしくなる」
「いやー、すんません」
フレヤの剣幕にルカは一歩引いた。
「フレヤ、状況がよく分からないんだけど……」
放っておくと延々と三人の会話が続きそうなので、恐る恐る申し出た。
「えーと、これはその……どこから説明すればいいのかな」
「社長が待機用に貸し切りにした店があるんで、そこで話したらどうでしょう?」
ルカはこの状況にも冷静な様子だった。
俺としても落ちついた場所がいいので、渡りに船の提案だ。
「お父さん、まずはそこへ移動しよっ」
「うんうん、そうだね。行きましょう行きましょう」
フレヤの父は娘の提案だからなのか、ずいぶん聞き分けがよかった。
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