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異国の商人フレヤ
地元の釣り人との交流
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釣り人たちは等間隔に広がり、思い思いに糸を垂らしているようだ。
水面に集中している人に声をかけるのは気が引けて、手前で釣り糸を結んでいる人に話しかけることにした。
「こんにちは、この川は何が釣れるんですか?」
「はい、こんにちは。ここはマスがよく釣れるんだよ」
釣り人はそう言うと、川につけてあったカゴを持ってきて見せてくれた。
そこには銀色の鱗が輝く魚体が数匹、元気よく跳ねていた。
「これはどうするんですか?」
「そりゃもちろん、焼いて食べるんだよ」
「新鮮でいいですね」
生で食べるわけにはいかないだろうが、塩を振って焼くだけでも十分に美味しいだろう。
マスを炭火でこんがり焼く光景を想像するだけで胸躍るような気持ちだった。
「釣り竿は予備がないから貸すことはできないけど、おれたちが釣り終わったら、一緒に食べるかい」
「えっ、いいんですか?」
「釣りの後にそこの川辺で火を焚いて、釣れた魚を焼いて食べるんだ。これがなかなか美味しくてね」
「はいはい、私もお願いします」
フレヤがうれしそうに声を上げた。
彼女の様子に釣り人は微笑んだ。
「もちろん、歓迎するよ。そのうちに切り上げるだろうから、適当に待っていて」
「分かりました」
俺とフレヤは近くにあった座りやすそうな石に腰かけた。
そこで釣り人たちの様子を見守っていると、しばらくして彼らは釣り竿を納めた。
「これから火を起こして準備するから、もう少し待ってもらえるかい」
「いえいえ、お気遣いなく」
釣り人たちは手慣れた様子で、川辺に石を集めた囲炉裏のようなものを作り、魚を捌いたり、薪などを用意したりしていた。
「ちょっと手伝ってくる」
「それなら、私も行く」
二人で釣り人たちに合流した。
乾いた流木などを集めるうちに、魚を焼くための土台ができた。
いよいよ着火するというところで、釣り人の一人が困ったような表情になった。
「いつもは乾燥してすぐに火がつくけど、前に雨が降ったからな」
どうやら、流木などが湿っているようだ。
彼の持つ火打石で火をつけるのは時間がかかるだろう。
「よかったら、手伝いますよ」
「ありがとう。何か持ってるの?」
「いえ、道具は使いません」
俺は簡易的な魔法で火を起こして、流木に着火した。
湿り気があるのは表面だけのようで、少しずつ炎が上がっていく。
「いやー、すごいね」
「初歩的な魔法なので、それほどでも」
感心したように言われて、思わず照れくさい気持ちになった。
「これだけ燃えれば、あとは問題ないよ」
「魚が焼けるの楽しみにしています」
俺は火の燃える場所から離れて、フレヤの隣に戻った。
「魔法って便利だね」
「そうだね。あれぐらいなら習えば、わりと誰でもできると思う」
攻撃魔法ならいざ知らず、ちょっと火を起こす、あるいは氷を発生させる。
この程度なら魔力の消費も少なく、原理さえ学んでしまえば簡単なのだ。
フレヤと火を起こした場所を見ていると、徐々に煙が上がり始めた。
釣り人たちはその周りに串に刺した魚を並べていった。
「ああやって焼くと、表面が炙られて美味しくなるみたいなんだ」
「何だか面白い焼き方だね。初めて見るから、完成するのが楽しみ」
焼き加減などを釣り人たちに任せていると、しばらくして魚が焼き上がった。
釣り人の一人が俺とフレヤに一本ずつ分けてくれた。
「まだ熱いから気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
串に刺さった魚の表面は適度に焦げ目がついてパリッとしており、全体的に香ばしい匂いがした。
「じゃあ、食べようか」
「うん、そうだね」
焼きたてで余熱が残っているので、少し冷ましてゆっくりと口に運ぶ。
香ばしく焼けた皮ごと噛んでみると、旨味と軽い塩味が届いた。
「釣ったばかりの魚をこうやって食べるのは最高だな」
「お魚って、こんなに美味しいものなんだね」
俺たちは口々に感想を述べながら、マスを焼いたものを食べ進めた。
二人とも食べ終えたところで、串を戻しがてら釣り人たちのところに近づく。
彼らは魚を焼いた火を焚き火のようにして、団らんしているところだった。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「おおっ、そいつはよかった。串は燃えれば灰になるから放りこんでおいて」
「分かりました」
俺とフレヤは使い終えた串を焚き火の中に投げ入れた。
そのまま近くに座るように勧められて、適当なところに腰を下ろした。
「君たちはどこから来たんだい、地元の人間じゃないだろ?」
俺より少し年上に見える青年がたずねてきた。
「バラムから来ました」
「そんなに遠くはないね。そっちの地元では釣りする人はいないの?」
青年の質問を受けて、バラムの様子を思い浮かべた。
「町にわりと大きな川は流れてるんですけど、釣り人はほとんど見ませんね。水質はそこそこなので、魚が泳いでいるのはよく見かけます」
「この町は娯楽が少ないから、釣りをするしかないっていうもあるのかもしれない」
「うーん、そうか? バラムとシェルトンなら規模はそんなに違わない気がするが」
「それもそうだね。川があるなら、釣り糸を垂らしたくなるものなんだけど」
微妙に話が盛り上がり、青年は答えを求めるようにこちらを見ていた。
俺はそれに応じるように口を開く。
「たぶんですけど、ここのマスほど美味しくて大きくなるわけじゃないのかと」
「ああっ、そういうことか。この川は上流から湧き水が流れこんで、とてもきれいだからね。エサになる虫や小魚が豊富なんだ」
「バラムでポイ捨てるような人は少ないですけど、どうしても川に入ってしまうゴミがあるのと市街地の中心を流れているので、ここほど水質はよくないような気がします」
俺が説明を加えると青年だけでなく、他の釣り人もうれしそうな顔になった。
「この川は地元民の心の拠り所だから、特別な意味がある。豊穣をもたらしてくれるし、上流に行けば飲み水にしているところもある」
「とても大切な川なんですね」
「ああっ、そうなんだ」
シェルトンを町歩きするだけに留まるのだと思っていたが、こうして地元の人たちと交流ができていい経験になった。
ちなみにフレヤはマスの塩焼きが気に入ったようで、おかわりをもらって夢中に食べていた。
水面に集中している人に声をかけるのは気が引けて、手前で釣り糸を結んでいる人に話しかけることにした。
「こんにちは、この川は何が釣れるんですか?」
「はい、こんにちは。ここはマスがよく釣れるんだよ」
釣り人はそう言うと、川につけてあったカゴを持ってきて見せてくれた。
そこには銀色の鱗が輝く魚体が数匹、元気よく跳ねていた。
「これはどうするんですか?」
「そりゃもちろん、焼いて食べるんだよ」
「新鮮でいいですね」
生で食べるわけにはいかないだろうが、塩を振って焼くだけでも十分に美味しいだろう。
マスを炭火でこんがり焼く光景を想像するだけで胸躍るような気持ちだった。
「釣り竿は予備がないから貸すことはできないけど、おれたちが釣り終わったら、一緒に食べるかい」
「えっ、いいんですか?」
「釣りの後にそこの川辺で火を焚いて、釣れた魚を焼いて食べるんだ。これがなかなか美味しくてね」
「はいはい、私もお願いします」
フレヤがうれしそうに声を上げた。
彼女の様子に釣り人は微笑んだ。
「もちろん、歓迎するよ。そのうちに切り上げるだろうから、適当に待っていて」
「分かりました」
俺とフレヤは近くにあった座りやすそうな石に腰かけた。
そこで釣り人たちの様子を見守っていると、しばらくして彼らは釣り竿を納めた。
「これから火を起こして準備するから、もう少し待ってもらえるかい」
「いえいえ、お気遣いなく」
釣り人たちは手慣れた様子で、川辺に石を集めた囲炉裏のようなものを作り、魚を捌いたり、薪などを用意したりしていた。
「ちょっと手伝ってくる」
「それなら、私も行く」
二人で釣り人たちに合流した。
乾いた流木などを集めるうちに、魚を焼くための土台ができた。
いよいよ着火するというところで、釣り人の一人が困ったような表情になった。
「いつもは乾燥してすぐに火がつくけど、前に雨が降ったからな」
どうやら、流木などが湿っているようだ。
彼の持つ火打石で火をつけるのは時間がかかるだろう。
「よかったら、手伝いますよ」
「ありがとう。何か持ってるの?」
「いえ、道具は使いません」
俺は簡易的な魔法で火を起こして、流木に着火した。
湿り気があるのは表面だけのようで、少しずつ炎が上がっていく。
「いやー、すごいね」
「初歩的な魔法なので、それほどでも」
感心したように言われて、思わず照れくさい気持ちになった。
「これだけ燃えれば、あとは問題ないよ」
「魚が焼けるの楽しみにしています」
俺は火の燃える場所から離れて、フレヤの隣に戻った。
「魔法って便利だね」
「そうだね。あれぐらいなら習えば、わりと誰でもできると思う」
攻撃魔法ならいざ知らず、ちょっと火を起こす、あるいは氷を発生させる。
この程度なら魔力の消費も少なく、原理さえ学んでしまえば簡単なのだ。
フレヤと火を起こした場所を見ていると、徐々に煙が上がり始めた。
釣り人たちはその周りに串に刺した魚を並べていった。
「ああやって焼くと、表面が炙られて美味しくなるみたいなんだ」
「何だか面白い焼き方だね。初めて見るから、完成するのが楽しみ」
焼き加減などを釣り人たちに任せていると、しばらくして魚が焼き上がった。
釣り人の一人が俺とフレヤに一本ずつ分けてくれた。
「まだ熱いから気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
串に刺さった魚の表面は適度に焦げ目がついてパリッとしており、全体的に香ばしい匂いがした。
「じゃあ、食べようか」
「うん、そうだね」
焼きたてで余熱が残っているので、少し冷ましてゆっくりと口に運ぶ。
香ばしく焼けた皮ごと噛んでみると、旨味と軽い塩味が届いた。
「釣ったばかりの魚をこうやって食べるのは最高だな」
「お魚って、こんなに美味しいものなんだね」
俺たちは口々に感想を述べながら、マスを焼いたものを食べ進めた。
二人とも食べ終えたところで、串を戻しがてら釣り人たちのところに近づく。
彼らは魚を焼いた火を焚き火のようにして、団らんしているところだった。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「おおっ、そいつはよかった。串は燃えれば灰になるから放りこんでおいて」
「分かりました」
俺とフレヤは使い終えた串を焚き火の中に投げ入れた。
そのまま近くに座るように勧められて、適当なところに腰を下ろした。
「君たちはどこから来たんだい、地元の人間じゃないだろ?」
俺より少し年上に見える青年がたずねてきた。
「バラムから来ました」
「そんなに遠くはないね。そっちの地元では釣りする人はいないの?」
青年の質問を受けて、バラムの様子を思い浮かべた。
「町にわりと大きな川は流れてるんですけど、釣り人はほとんど見ませんね。水質はそこそこなので、魚が泳いでいるのはよく見かけます」
「この町は娯楽が少ないから、釣りをするしかないっていうもあるのかもしれない」
「うーん、そうか? バラムとシェルトンなら規模はそんなに違わない気がするが」
「それもそうだね。川があるなら、釣り糸を垂らしたくなるものなんだけど」
微妙に話が盛り上がり、青年は答えを求めるようにこちらを見ていた。
俺はそれに応じるように口を開く。
「たぶんですけど、ここのマスほど美味しくて大きくなるわけじゃないのかと」
「ああっ、そういうことか。この川は上流から湧き水が流れこんで、とてもきれいだからね。エサになる虫や小魚が豊富なんだ」
「バラムでポイ捨てるような人は少ないですけど、どうしても川に入ってしまうゴミがあるのと市街地の中心を流れているので、ここほど水質はよくないような気がします」
俺が説明を加えると青年だけでなく、他の釣り人もうれしそうな顔になった。
「この川は地元民の心の拠り所だから、特別な意味がある。豊穣をもたらしてくれるし、上流に行けば飲み水にしているところもある」
「とても大切な川なんですね」
「ああっ、そうなんだ」
シェルトンを町歩きするだけに留まるのだと思っていたが、こうして地元の人たちと交流ができていい経験になった。
ちなみにフレヤはマスの塩焼きが気に入ったようで、おかわりをもらって夢中に食べていた。
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