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異国の商人フレヤ
新しい人気店の発見
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今日は晴天に恵まれているため、午後の日差しがまぶしさを感じさせる。
三人で店の近くからマーガレット通り方面へ歩いていると、道沿いに食堂などが目に入るようになってきた。
すでに昼時はすぎていることもあり、どの店もわりと空いているようだ。
この時間帯に食事をしようというのは俺たちぐらいなものだろう。
バラムの仕事はホワイトが基本なので、昼休みはしっかりとるところが多い。
「何か食べたいものはありますか?」
「わたしは二人に合わせます」
「そんなにこだわりはないけど、お腹も空いてるし、ボリューム多めの方がいいかな」
「この辺りなら候補になる店はあると思いますよ」
互いに言葉を交わして歩いていると、一軒の店に人だかりができていた。
テラス席は満席に近い状態で、外から覗く店内も席が埋まっている。
「あれ、いつの間にこんな店が?」
「ええと、新しいお店で少し前にオープンしたみたいです」
立ち止まって眺めていると、エスカが教えてくれた。
「いやー、自分の店の準備が忙しくて、全然気づかなかった。こっちの方は用事がある時ぐらいしか通らないからな」
「実はわたしも何のお店か知らないんですよ。営業中に入ったことがなくて」
気がつけば三人で店を観察していた。
同じように盛況ぶりに足を止める通行人がいるため、店内だけでなく路地にも人だかりができるような状態だった。
エスカとフレヤは何の店か判別できないようだが、俺にはだいたい理解できた。
三層の洒落たスタンドに並ぶ、軽食の数々とテーブルに置かれたティーポット。
ここがバラムであることが信じがたいが、間違いなくアフタヌーンティーを提供する店だと分かった――本来の時間帯にもぴったりだ。
「これはあれだな。王都かデュラスの公都で見かけたことのある、昼下がりにお茶と軽食を嗜む店と同じかもしれないな」
「なるほど、王族や貴族が好きそうだよね」
「さすがマルクさん、物知りですね。わたしは初めて知りました」
「ケーキやスコーンは美味しそうだけど、あれじゃお腹は満たされないよな。また今度、一緒に来よう。こんなに流行るんだから、偵察にも行っておきたい」
この場を離れるためにそう伝えると、エスカは目をきらきらと輝かせて、大きく頷いた。
「絶対に行きましょう!」
「あ、ああっ」
彼女の勢いに反応を返すと、今度はフレヤが口を開いた。
陶酔するような表情が思いもよらないもので、虚を突かれるかたちとなった。
「乙女の心をくすぐる繊細な料理の数々。商人として商機を感じるだけでなく、一人の少女として胸がときめくのを感じるわ」
「しょ、少女……」
十代後半から二十歳ぐらいの外見なので、少し苦しいと思った。
しかし、今後の信頼関係を考慮して口をつぐんだ。
「さあ、昼飯を食べに行きましょうか。二人ともお腹が空いてますよね」
「はい」
「うん、また今度にしよう」
俺たちはアフタヌーンティーを提供する店の前を離れた。
この日はエスカおすすめの食堂に入って、三人とも豪快に食べまくった。
ちなみにバラムの店ではあまり見かけないガレットを提供していたので、勢いに乗って何枚も食べてしまった。
味と値段ともに満足できる店で、お気に入りの店が一軒追加された。
支払いは自分持ちでも痛くはない出費だった。
新装開店してからは忙しい日々が続いた。
機転の利くフレヤがいること、時には俺がカフェを経営していた頃の記憶を頼りにするなどして、着実に運営体制が磨かれていった。
それに加えてエスカが依頼の合間に手伝ってくれたことも大きかった。
彼女が冒険者仲間に宣伝してくれたことも重なって、うれしい悲鳴が続いた。
それから、少しずつ客の入りが落ちつき始めたある日。
満を持してアフタヌーンティーを提供する店に行くことになった。
なかなか行く時間が確保できないことで、フレヤに来店を催促されたのはここだけの話である。
俺たちは三人で店の敷地を出た。
今日は風が涼しい日ですごしやすい天気だった。
アフタヌーンティーを出す店が洒落た雰囲気だからなのか、エスカとフレヤはおしゃれな服に着替えていた。
「二人とも、気合が入ってますね。昼食に出した牛肉も控えめだったし」
「バラムにはあんな店はなかったので、すごく楽しみなんですよ」
「ホントに不思議なんだよな。なんでここに開いたのか分からないし、あそこまで流行るとは。世の中、何が起きるか分からないもんだ」
俺が言い終えたところで、フレヤが会話に加わってきた。
何だか得意げな顔をしているように見える。
「調べたところによると、あそこの店主は王都に住んでいたみたいだよ」
「へ、へえ、そうなんですか」
口から出まかせで王都とか公都とか言ってしまったので、実際に店主が王都帰りと聞いて動揺しそうになる。
「で、貴族とお茶をしたのと王都の生活からヒントを得て、あのお店を始めようと思った――みたいな話だって」
「俺も王都にいたことがありますけど、ああいう商売は思いつきませんね」
アフタヌーンティー自体は知っていても、バラムでやろうとは思わないだろう。
焼肉のように食欲を刺激する方が、客層が幅広く分かりやすいと考えるはずだ。
「それにしても、この町の規模であの賑わいはなかなかだよ。ビジネスのヒントというのはどこにあるか分からないものだなー」
フレヤは自分に言い聞かせるように口にしたが、たしかにその通りだと思った。
店の前から通りを歩き続けるうちに、前方に例の店が見えてきた。
以前ほどの混雑は見られないが、それでもテラス席はほとんど埋まっていた。
「うわぁ、待ちそうだね」
「どうだろう、ひとまず並んでみるか」
俺たちは店の入り口へと足を運んだ。
看板のデザインは洗練されており、建物の雰囲気も上品だった。
店主の美的センスが優れているのだろう。
「いらっしゃいませ、三名様ですね。店内とテラス、どちらにされますか?」
「それじゃあ、テラス席で」
「かしこまりました」
店の中からテラス席へと通された。
案内してくれた女の店員はメイド服に近い服装で、王都で世話をしてくれたアンのことを思い出した。
彼女が着ていたものに少し雰囲気が似ている。
全員が椅子に腰を下ろしたところで、注文の説明が始まった。
「お茶は紅茶とハーブティーがございます。軽食は日替わりでお出ししておりまして、種類は選べませんのでご了承ください」
ここはバラムなのかと思うほど、丁寧な接客だった。
王都や公都ならば上品な店は何軒かあるものの、この町にはごくわずかだ。
三人で店の近くからマーガレット通り方面へ歩いていると、道沿いに食堂などが目に入るようになってきた。
すでに昼時はすぎていることもあり、どの店もわりと空いているようだ。
この時間帯に食事をしようというのは俺たちぐらいなものだろう。
バラムの仕事はホワイトが基本なので、昼休みはしっかりとるところが多い。
「何か食べたいものはありますか?」
「わたしは二人に合わせます」
「そんなにこだわりはないけど、お腹も空いてるし、ボリューム多めの方がいいかな」
「この辺りなら候補になる店はあると思いますよ」
互いに言葉を交わして歩いていると、一軒の店に人だかりができていた。
テラス席は満席に近い状態で、外から覗く店内も席が埋まっている。
「あれ、いつの間にこんな店が?」
「ええと、新しいお店で少し前にオープンしたみたいです」
立ち止まって眺めていると、エスカが教えてくれた。
「いやー、自分の店の準備が忙しくて、全然気づかなかった。こっちの方は用事がある時ぐらいしか通らないからな」
「実はわたしも何のお店か知らないんですよ。営業中に入ったことがなくて」
気がつけば三人で店を観察していた。
同じように盛況ぶりに足を止める通行人がいるため、店内だけでなく路地にも人だかりができるような状態だった。
エスカとフレヤは何の店か判別できないようだが、俺にはだいたい理解できた。
三層の洒落たスタンドに並ぶ、軽食の数々とテーブルに置かれたティーポット。
ここがバラムであることが信じがたいが、間違いなくアフタヌーンティーを提供する店だと分かった――本来の時間帯にもぴったりだ。
「これはあれだな。王都かデュラスの公都で見かけたことのある、昼下がりにお茶と軽食を嗜む店と同じかもしれないな」
「なるほど、王族や貴族が好きそうだよね」
「さすがマルクさん、物知りですね。わたしは初めて知りました」
「ケーキやスコーンは美味しそうだけど、あれじゃお腹は満たされないよな。また今度、一緒に来よう。こんなに流行るんだから、偵察にも行っておきたい」
この場を離れるためにそう伝えると、エスカは目をきらきらと輝かせて、大きく頷いた。
「絶対に行きましょう!」
「あ、ああっ」
彼女の勢いに反応を返すと、今度はフレヤが口を開いた。
陶酔するような表情が思いもよらないもので、虚を突かれるかたちとなった。
「乙女の心をくすぐる繊細な料理の数々。商人として商機を感じるだけでなく、一人の少女として胸がときめくのを感じるわ」
「しょ、少女……」
十代後半から二十歳ぐらいの外見なので、少し苦しいと思った。
しかし、今後の信頼関係を考慮して口をつぐんだ。
「さあ、昼飯を食べに行きましょうか。二人ともお腹が空いてますよね」
「はい」
「うん、また今度にしよう」
俺たちはアフタヌーンティーを提供する店の前を離れた。
この日はエスカおすすめの食堂に入って、三人とも豪快に食べまくった。
ちなみにバラムの店ではあまり見かけないガレットを提供していたので、勢いに乗って何枚も食べてしまった。
味と値段ともに満足できる店で、お気に入りの店が一軒追加された。
支払いは自分持ちでも痛くはない出費だった。
新装開店してからは忙しい日々が続いた。
機転の利くフレヤがいること、時には俺がカフェを経営していた頃の記憶を頼りにするなどして、着実に運営体制が磨かれていった。
それに加えてエスカが依頼の合間に手伝ってくれたことも大きかった。
彼女が冒険者仲間に宣伝してくれたことも重なって、うれしい悲鳴が続いた。
それから、少しずつ客の入りが落ちつき始めたある日。
満を持してアフタヌーンティーを提供する店に行くことになった。
なかなか行く時間が確保できないことで、フレヤに来店を催促されたのはここだけの話である。
俺たちは三人で店の敷地を出た。
今日は風が涼しい日ですごしやすい天気だった。
アフタヌーンティーを出す店が洒落た雰囲気だからなのか、エスカとフレヤはおしゃれな服に着替えていた。
「二人とも、気合が入ってますね。昼食に出した牛肉も控えめだったし」
「バラムにはあんな店はなかったので、すごく楽しみなんですよ」
「ホントに不思議なんだよな。なんでここに開いたのか分からないし、あそこまで流行るとは。世の中、何が起きるか分からないもんだ」
俺が言い終えたところで、フレヤが会話に加わってきた。
何だか得意げな顔をしているように見える。
「調べたところによると、あそこの店主は王都に住んでいたみたいだよ」
「へ、へえ、そうなんですか」
口から出まかせで王都とか公都とか言ってしまったので、実際に店主が王都帰りと聞いて動揺しそうになる。
「で、貴族とお茶をしたのと王都の生活からヒントを得て、あのお店を始めようと思った――みたいな話だって」
「俺も王都にいたことがありますけど、ああいう商売は思いつきませんね」
アフタヌーンティー自体は知っていても、バラムでやろうとは思わないだろう。
焼肉のように食欲を刺激する方が、客層が幅広く分かりやすいと考えるはずだ。
「それにしても、この町の規模であの賑わいはなかなかだよ。ビジネスのヒントというのはどこにあるか分からないものだなー」
フレヤは自分に言い聞かせるように口にしたが、たしかにその通りだと思った。
店の前から通りを歩き続けるうちに、前方に例の店が見えてきた。
以前ほどの混雑は見られないが、それでもテラス席はほとんど埋まっていた。
「うわぁ、待ちそうだね」
「どうだろう、ひとまず並んでみるか」
俺たちは店の入り口へと足を運んだ。
看板のデザインは洗練されており、建物の雰囲気も上品だった。
店主の美的センスが優れているのだろう。
「いらっしゃいませ、三名様ですね。店内とテラス、どちらにされますか?」
「それじゃあ、テラス席で」
「かしこまりました」
店の中からテラス席へと通された。
案内してくれた女の店員はメイド服に近い服装で、王都で世話をしてくれたアンのことを思い出した。
彼女が着ていたものに少し雰囲気が似ている。
全員が椅子に腰を下ろしたところで、注文の説明が始まった。
「お茶は紅茶とハーブティーがございます。軽食は日替わりでお出ししておりまして、種類は選べませんのでご了承ください」
ここはバラムなのかと思うほど、丁寧な接客だった。
王都や公都ならば上品な店は何軒かあるものの、この町にはごくわずかだ。
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