異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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海産物を開拓する

彼女はきっと世直しエルフ

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 俺とエステルが止める間もなく、アデルは事務室の中を歩いていった。
 男たちはそこまで間抜けではなかったようで、すぐに彼女の気配に気づいて反応を示した。

「――おい何だ、お前は? 死にたくなければさっさと帰りな!」

「ふっ、あなたたち、お金目当てなのでしょう」

「こいつ、金持ちっぽい身なりだな。ここの金をぶんどったら、この女からも絞ってやろうぜ」

 男たちの下品な物言いはこちらまで届いていた。
 アデルは魔法の能力が高くても、物理的な戦い向きではないはずだ。
 危うい状況になるようなら、すぐに駆けつけられるように意識を傾ける。

「……ここに金貨が五十枚。その人たちを解放するなら、これを全部渡すわ」

 アデルは重たそうな布袋をテーブルの上に置いた。
 袋の膨らみ具合と重量感から、本当に金貨が入っているように見える。
 彼女の思いきりのよさからして、中身は本物で間違いないだろう。 

「なんだこいつ、頭おかしいのか?」

「ふんっ、おかしくなんかないわ。お金よりも命の方が大事なだけよ」

「見た感じ、ここの客だろ。そこまでして助けたいもんかね」

「二度も同じことを言わせないで。命が大事だと言ったのよ」

 さすがはアデルといったところだ。
 男たちは野盗のように見えるが、一歩も引いていない。
 むしろ、主導権を握っているようにさえ見える。
 場の空気が彼女を中心に流れている以上、手助けすることは逆効果になる。

「何か気に食わねえな。だがまあいい。金貨五十枚なんてそうそう手に入らねえしな」

 男たちはリーダー的な役割が不在のようで、一体感がないように見えた。
 何か言う時もそれぞれが好き勝手に話している様子だ。
 いくらならず者の集まりだとしても烏合の衆では短期間で瓦解してしまう。
 こういった輩であってもリーダー格はいることが多いのだが……。

「あれ、もしかして……」

「マルク、どうした?」

「たぶんですけど、あの男たちは昼間に捕まえた悪党の仲間なんじゃないかと」

「封鎖された街道に残党がいるって言ってたね」

「もしかしたら、昼間の連中にリーダー格が含まれていて、こいつらは兵士が包囲に入る前に出てきたのかもしれません」

 とはいえ、あの男たちが何者であるかは、さして重要ではないのかもしれない。
 まずはアデルに事態を好転させてもらわなければならない。
 引き続き成り行きを見守っていると、一人の男がアデルの置いた布袋に手を伸ばそうとした。
 
「……あれ、手が届かねえ」

 男の手は先に伸びることなく、不自然な挙動に見えた。

「ひぃっー!? あっ足が、足が――」

「おい、何だってんだ。おかしな声出すんじゃねえ!」

 続けて別の男が悲鳴を上げた。
 アデルは何か仕かけたのだろうか。
 部屋の空気が凍てつく感じがする。

「あははっ、野盗にほいほいと渡すわけないでしょ」

「何だと! てめぇ!」

 アデルは金貨の入った布袋を回収して、相手を嘲(あざけ)るような声を上げた。
 怒り狂った男の一人が彼女を掴もうとするが、上半身からぺしゃんと倒れた。

「――さあ、逃げるのよ」

 アデルは二人の従業員を解放すると、こちらの方に逃がした。
 二人はふらつくような足取りだったが、何とか走り抜けた。

「大丈夫ですか、ケガは?」

「いえ、自分たちは……それより、あの女性をそのままにするわけには――」

「ああっ、それならたぶん大丈夫です」

「ですが、お客様を危険な目に遭わせるわけにはいきません」

 女の方の従業員は膝を抱えて震えたままで、立つのもやっとという様子だが、もう一人の責任者らしき男はアデルのことを気にかけていた。

「姉さんなら大丈夫。ほら、手を貸して」

「あっ、痛っ」

 二人とも縄をきつく縛られたようで、露出した肌に裂傷が見られる。
 エステルはそこに手をかざして、何かを始めたようだ。
 彼女の手の平から淡い光のようなものが発生した。

「ソラルの力に似てますね」

「兄さんほどではないけど、わたしも少しだけできるんだ。ちょっとした治癒しかできないけどね」

「ありがとうございます。助けて頂いた上に手当まで」

 俺はエステルに従業員を任せて、アデルを手伝うことにした。
 もはや、こちらが息を潜める必要はなく、彼女一人の力で決着している。 
 部屋の中に足を踏み入れて、アデルのところに歩いていく。

「あら、マルク。さっきの二人は無事だったかしら?」

「はい、何ごともなく。エステルが治療してましたよ」

 アデルはこちらの言葉を聞くと、納得したように頷いた。

「それにしても、この男たちをそのままにはできないわね」

「ははっ、動けそうにはないですけど」

 俺は苦笑を浮かべつつ、侵入者たちの末路に目を向けた。
 全員が膝の辺りまで氷漬けになっており、動くことがままならないようだ。
 口を閉じているわけではないので、罵詈雑言を放つ者もいれば、命乞いを口にする者もいる。

「衛兵がいれば引き渡せるけれど、時間が時間だし、コスタには常駐してないのよね」

「せめて拘束しておきたいところですね」

 俺はアデルと男たちを交互に見て言った。
 彼女は見られたことで何か勘違いをしたのか、唐突に慌てだした。

「えっ!? 私は縄で縛ったりするのはイヤよ。もう十分な働きはしたわ」

「俺もできなくはないですけど、この人数を完全に拘束するのは手間ですね」
 
 二人で困り果てていると、従業員の男が誰かを伴って戻ってきた。

「近所に知り合いの冒険者が住んでいるので、事情を説明して来てもらいました」

「オレはダリオだ。コスタの町で冒険者をしている」

「はじめまして、マルクです」

「私はアデルよ」

 ダリオと名乗った男は日に焼けた肌をしており、表情から精悍な印象を受けた。
 見た目の雰囲気から、それなりに腕が立つように見えた。
 
「不審者を退治してくれたそうで感謝する。本来は冒険者か衛兵がやるべき仕事だ」

「とりあえず、あの男たちを何とかしたいんですけど」

「オレ以外の冒険者も呼んできて、ここからギルドへ連行しよう」

「それなら、あとは任せたわ」

 ダリオが申し出たことで、アデルは部屋に戻ろうとしていた。
 そういえば、彼女は疲れているのだった。

「あとはオレたちに任せて、君たちは休んでくれ」

「じゃあ、俺も失礼します」

「お客様にご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 従業員の男が低姿勢で頭を下げた。
 彼が悪いわけではないので、少しばかり気の毒な気持ちになる。

「当然のことをしたまでよ」

「気にしてないので、頭を上げてください」

 俺たちは従業員とダリオに声をかけてから、事務室を離れた。
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