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海産物を開拓する
海岸線の町
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アデルたちが店を去ってから、気持ちの整理がついたような感覚になった。
数日ぶりの開店だったのに店じまいをしてから考えこんでしまったが、二人のおかげで今後の見通しを立てることができた。
それ以降、仕事に精を出すことができて、今まで以上に集中することができた。
常連のお客には申し訳ないことだが、仕入れを理由に何日か店を閉めることを伝えた。
あまり好ましくはないものの、大半のお客が慣れてしまったせいか、不満の声を聞くことはなかった。
ちなみにコショネ茸は内々で味わうだけにしておいた。
ハンクは来れず、テオは食事に興味がなかったので、エスカやアデル、エステルなどと食べるうちに採取した分は完食した。
できればハンクには食べさせたかったが、資材調達のために出ずっぱりだったため、顔を合わせる機会がないままだった。
今回はコショネ茸が美味しすぎて、自分もけっこう食べてしまったのはここだけの話である。
それから何日か経過して訪れた店休日。
俺は町外れのにある馬の係留場で、アデルとエステルが集まるのを待っていた。
テオとは夢のような空間で顔を合わせてから、何となく会いづらくなってしまったこともあり、声をかけずに当日を迎えた。
コスタは隣国のロゼルにある町で、馬車よりも早く移動できる乗馬ならば比較的短い時間でたどり着ける場所にある。
そのため、用意した荷物は比較的軽装だった。
ハンクと一緒なのも楽しい旅なのだが、アデルとエステルがいるといくらか華やぐような感じもある。
「おはよーう!」
「あれ、待たせてしまったかしら」
アデルとエステルがゆっくりとこちらに歩いてきた。
二人とも海辺の町が目的地だからなのか、夏めいた衣服を身につけている。
「おはようございます。今日はいつもと雰囲気が違いますね」
「コスタは少し暑いかもしれないのよ」
「せっかくの旅なんだから、少しはオシャレをしたいよね」
「ああっ、女性にたずねるのは野暮でしたね」
俺は話題を変えるべく、何頭か馬が係留されている方を向いた。
「今回はどの馬ですか?」
バラムではギルドや商人などが馬を使うので、様々な所有者の馬が混ざっている。
アデルたちが所有する馬がどれのなかは分からなかった。
「二人で里帰りした時に使った二頭をそのまま所有しているわ。ついてきて」
「はい、お願いします」
アデルは係留所の中を歩いて、二頭の馬が並んで係留されたところに近づいた。
一頭は栗毛で凛々しい顔立ちで、もう一頭は黒っぽい毛並みで強そうな雰囲気の馬だった。
「状態はまずまずね。町の人に管理を頼んで正解だったわ」
アデルは一頭ずつ順番に撫でた後、満足げに言った。
「この二頭で全部ですか?」
「もう一頭追加してもよかったけれど、予算が増えてしまうから」
「わたしと姉さんは軽いから、二人乗りでもへっちゃらだよ」
「じゃあ、俺は一人で乗らせてもらいます。あと、馬の代金は?」
「私たちが里帰りするために買った馬だから、支払いは気にしないで」
「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えて」
アデルは気前がよいところがあり、断って気を悪くさせるのも申し訳ないので、素直に厚意を受け取ることにした。
「マルク、すぐに出られるわよね?」
「もちろん、いつでもどうぞ」
「いいわ、出発しましょう」
特に申し合せることなく、俺が黒い馬でアデルたちが栗毛に乗ることになった。
初めての顔を合わせということもあり、様子を見ながら縄を外した。
慎重に鐙(あぶみ)に足をかけてよじ登って馬にまたがる。
わりと人に慣れているのか、特に抵抗することなく乗ることができた。
「そっちはだいじょうぶ?」
「はい、乗れました」
「このまま、街道に出てロゼル方面にむかうよ」
向こうはエステルが手綱を取るようだ。
姉のアデルが後ろに乗っているのは不思議な感じがした。
乗馬したまま係留場を出て、街道に連なる道を移動する。
「さあ、出発するよー」
エステルは進行の合図のように声を上げると馬が走り出した。
まるで、水を得た魚のように栗毛の馬が走り出す。
「えっ、早っ……」
通行人を器用に避けながら、エステルの馬が駆けていく。
俺は遅れないように馬を走らせた。
先行きに不安が残る状況だが、アデルも一緒だから大丈夫……なはずだ。
まばゆい晴天の下、二頭の馬が駆ける。
エステルの馬もこちらの馬も状態がよいようで、走るペースが安定している。
アデルが購入した馬だけあり、癖がなく乗りやすい種類なのかもしれない。
俺自身が乗馬に慣れたことも多少は影響しているだろう。
コスタへの道は整ったところが多く、ほとんど休みなしで進むことができた。
やがてランス領からロゼル領に入る関所で簡単な聞き取りがあった。
関所を越えたところで馬を少し休ませた後、移動を再開した。
コスタまでは街道沿いに進むだけでよく、道に迷う心配はなかった。
途中までは道の脇に街路樹が生えていたが、しばらくすると周囲の視界が開けた。
「うわぁ、海だー!」
前方のエステルが喜びを爆発させるような声を上げた。
彼女の言葉が示すように海岸線がまっすぐに続いていた。
「……あの向こうに見えるのがコスタの町か」
こちらから見て左側には海が広がり、右側には町の様子が見えている。
初めて訪れる場所だが、比較的規模が大きいので、いい食材が手に入ることが期待できそうだ。
街道から町の入り口が見えたところで、徐々に馬を減速させた。
道の先は広い通りだったので、馬に乘ったまま中に進んでいく。
町並みを眺めながらうろうろしていると、馬を繋いでおける場所が見つかった。
「あそこで馬を預けましょうか」
「うん、そうする」
近くまで行くと、他の町にある係留場と同じような雰囲気だった。
地元ならばともかく、よその町で留めたままにしておくのは少し不安があった。
馬から下りずに辺りを見回していると、一人の男が近づいてきた。
「あんたら、ここの町のもんじゃないよな」
「ランスのバラムから来ました」
「こらまた遠くから来たもんだ。馬を預けたいんだろ」
「……ええと、ここはどういう仕組みになってます?」
勝手が分からず、おずおずとたずねた。
「繋いでもらったら馬小屋で預かる。一頭当たり銅貨五枚だけど、問題ないか?」
「それぐらいなら大丈夫です」
男の説明を受けてから、俺とエステルは係留場に馬を繋いだ。
「二頭で銅貨十枚ということは、銀貨一枚ですね」
「はいよ、毎度あり」
男に銀貨を渡すと満面の笑みを浮かべた。
これで馬を預けられたので、早速コスタの町を散策するとしよう。
あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
今話から新章に入りました。
アデル、エステルの姉妹との旅です。
数日ぶりの開店だったのに店じまいをしてから考えこんでしまったが、二人のおかげで今後の見通しを立てることができた。
それ以降、仕事に精を出すことができて、今まで以上に集中することができた。
常連のお客には申し訳ないことだが、仕入れを理由に何日か店を閉めることを伝えた。
あまり好ましくはないものの、大半のお客が慣れてしまったせいか、不満の声を聞くことはなかった。
ちなみにコショネ茸は内々で味わうだけにしておいた。
ハンクは来れず、テオは食事に興味がなかったので、エスカやアデル、エステルなどと食べるうちに採取した分は完食した。
できればハンクには食べさせたかったが、資材調達のために出ずっぱりだったため、顔を合わせる機会がないままだった。
今回はコショネ茸が美味しすぎて、自分もけっこう食べてしまったのはここだけの話である。
それから何日か経過して訪れた店休日。
俺は町外れのにある馬の係留場で、アデルとエステルが集まるのを待っていた。
テオとは夢のような空間で顔を合わせてから、何となく会いづらくなってしまったこともあり、声をかけずに当日を迎えた。
コスタは隣国のロゼルにある町で、馬車よりも早く移動できる乗馬ならば比較的短い時間でたどり着ける場所にある。
そのため、用意した荷物は比較的軽装だった。
ハンクと一緒なのも楽しい旅なのだが、アデルとエステルがいるといくらか華やぐような感じもある。
「おはよーう!」
「あれ、待たせてしまったかしら」
アデルとエステルがゆっくりとこちらに歩いてきた。
二人とも海辺の町が目的地だからなのか、夏めいた衣服を身につけている。
「おはようございます。今日はいつもと雰囲気が違いますね」
「コスタは少し暑いかもしれないのよ」
「せっかくの旅なんだから、少しはオシャレをしたいよね」
「ああっ、女性にたずねるのは野暮でしたね」
俺は話題を変えるべく、何頭か馬が係留されている方を向いた。
「今回はどの馬ですか?」
バラムではギルドや商人などが馬を使うので、様々な所有者の馬が混ざっている。
アデルたちが所有する馬がどれのなかは分からなかった。
「二人で里帰りした時に使った二頭をそのまま所有しているわ。ついてきて」
「はい、お願いします」
アデルは係留所の中を歩いて、二頭の馬が並んで係留されたところに近づいた。
一頭は栗毛で凛々しい顔立ちで、もう一頭は黒っぽい毛並みで強そうな雰囲気の馬だった。
「状態はまずまずね。町の人に管理を頼んで正解だったわ」
アデルは一頭ずつ順番に撫でた後、満足げに言った。
「この二頭で全部ですか?」
「もう一頭追加してもよかったけれど、予算が増えてしまうから」
「わたしと姉さんは軽いから、二人乗りでもへっちゃらだよ」
「じゃあ、俺は一人で乗らせてもらいます。あと、馬の代金は?」
「私たちが里帰りするために買った馬だから、支払いは気にしないで」
「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えて」
アデルは気前がよいところがあり、断って気を悪くさせるのも申し訳ないので、素直に厚意を受け取ることにした。
「マルク、すぐに出られるわよね?」
「もちろん、いつでもどうぞ」
「いいわ、出発しましょう」
特に申し合せることなく、俺が黒い馬でアデルたちが栗毛に乗ることになった。
初めての顔を合わせということもあり、様子を見ながら縄を外した。
慎重に鐙(あぶみ)に足をかけてよじ登って馬にまたがる。
わりと人に慣れているのか、特に抵抗することなく乗ることができた。
「そっちはだいじょうぶ?」
「はい、乗れました」
「このまま、街道に出てロゼル方面にむかうよ」
向こうはエステルが手綱を取るようだ。
姉のアデルが後ろに乗っているのは不思議な感じがした。
乗馬したまま係留場を出て、街道に連なる道を移動する。
「さあ、出発するよー」
エステルは進行の合図のように声を上げると馬が走り出した。
まるで、水を得た魚のように栗毛の馬が走り出す。
「えっ、早っ……」
通行人を器用に避けながら、エステルの馬が駆けていく。
俺は遅れないように馬を走らせた。
先行きに不安が残る状況だが、アデルも一緒だから大丈夫……なはずだ。
まばゆい晴天の下、二頭の馬が駆ける。
エステルの馬もこちらの馬も状態がよいようで、走るペースが安定している。
アデルが購入した馬だけあり、癖がなく乗りやすい種類なのかもしれない。
俺自身が乗馬に慣れたことも多少は影響しているだろう。
コスタへの道は整ったところが多く、ほとんど休みなしで進むことができた。
やがてランス領からロゼル領に入る関所で簡単な聞き取りがあった。
関所を越えたところで馬を少し休ませた後、移動を再開した。
コスタまでは街道沿いに進むだけでよく、道に迷う心配はなかった。
途中までは道の脇に街路樹が生えていたが、しばらくすると周囲の視界が開けた。
「うわぁ、海だー!」
前方のエステルが喜びを爆発させるような声を上げた。
彼女の言葉が示すように海岸線がまっすぐに続いていた。
「……あの向こうに見えるのがコスタの町か」
こちらから見て左側には海が広がり、右側には町の様子が見えている。
初めて訪れる場所だが、比較的規模が大きいので、いい食材が手に入ることが期待できそうだ。
街道から町の入り口が見えたところで、徐々に馬を減速させた。
道の先は広い通りだったので、馬に乘ったまま中に進んでいく。
町並みを眺めながらうろうろしていると、馬を繋いでおける場所が見つかった。
「あそこで馬を預けましょうか」
「うん、そうする」
近くまで行くと、他の町にある係留場と同じような雰囲気だった。
地元ならばともかく、よその町で留めたままにしておくのは少し不安があった。
馬から下りずに辺りを見回していると、一人の男が近づいてきた。
「あんたら、ここの町のもんじゃないよな」
「ランスのバラムから来ました」
「こらまた遠くから来たもんだ。馬を預けたいんだろ」
「……ええと、ここはどういう仕組みになってます?」
勝手が分からず、おずおずとたずねた。
「繋いでもらったら馬小屋で預かる。一頭当たり銅貨五枚だけど、問題ないか?」
「それぐらいなら大丈夫です」
男の説明を受けてから、俺とエステルは係留場に馬を繋いだ。
「二頭で銅貨十枚ということは、銀貨一枚ですね」
「はいよ、毎度あり」
男に銀貨を渡すと満面の笑みを浮かべた。
これで馬を預けられたので、早速コスタの町を散策するとしよう。
あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
今話から新章に入りました。
アデル、エステルの姉妹との旅です。
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