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高級キノコを求めて
高級キノコを調理開始
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フランの背中は遠ざかり、角を曲がったところで見えなくなった。
彼女の存在感は大きく、いなくなると穴が空いたような静けさを感じた。
見目麗しい彼女なのだが、庶民の自分とは釣り合わないと思う。
それにハンクに憧れや尊敬を示した以外、異性に興味を示す場面を見たことがなかった。
「今までの雰囲気だとアデルか、いや……」
お姉さまと言って懐いている様子だが、恋愛対象というふうではない気もする。
どちらにせよ、フランが広い意味で高嶺の花であることは間違いない。
並の男が近づいても、軽くあしらわれるのがオチだろう。
「さあ、用事も済みましたし、バラムに戻りましょうか」
俺は気を取り直して、遠巻きに立っていたハンクとテオを見た。
フランが帰ったことで安心したのか、二人はこちらに近づいてきた。
「公都の市場とか覗いていかなくてもいいのか?」
「行きたい気持ちもありますけど、日が暮れるとテオが飛べないみたいなので」
「そうか、もうすぐ夕方か。じゃあまた、来れたら来るか」
「それで問題ありません」
テオに飛んでもらおうと思ったが、先に周りに人の気配がないかを確かめる。
通りから離れている場所のようで、喧騒が遠くから聞こえた。
何もない空き地と言ってしまえばそれまでだが、あまり人の来ない場所のようだ。
「それじゃあ、帰りも頼めますか」
「うむ、よかろう」
テオが飛竜の姿になり、俺は魔道具を取り出して操作した。
それから、バラムに着く頃には夕方になっていた。
出発した時と同じように町外れの空き地にテオが着地したのだ。
「……今日は移動が多くて疲れた。我は宿へ戻るとする」
「ありがとうございました。またお願いします」
「ふむ、気が向いた時は乗せてやろう」
テオはこちらに応じているものの、いつも以上に言葉が少なかった。
今日はフランがいたことで、途中から負担が増えていたのだと思う。
テオはつぶやくように、「ではな」と言って立ち去った。
「今日のところは、おれも帰るとするか」
「お疲れ様でした。俺の分のコショネ茸をもらってもいいですか?」
「ああっ、もちろんだ。少し待ってくれ」
ハンクはバックパックを地面に下ろすと、中から布袋を一つ取り出した。
それから、他の袋に入ったコショネ茸を一つにまとめていった。
「おれとテオの分はマルクが持って帰ってくれ」
「テオはともかく、ハンクもいいんですか?」
「自分であんまり料理はしないからな。マルクが美味しく料理して食わせてくれ」
「それなら、もらっておきます」
ハンクから膨らみ気味の布袋を受け取った。
布袋に入ったコショネ茸の量が多いので、抱きかかえるような状態になる。
中身がキノコだからなのか、そこまで重たくはなかった。
「久しぶりにデュラスまで行ったら、すげえ遠出したような気分でな。飛竜というか、テオが乗せてくれると行動範囲が桁違いに広がるよな」
「それはありますね。デュラスは気になる国でしたけど、なかなか行く機会はなかったですから」
「今日は遠くまで行けたから、おれはしばらくおとなしくするつもりだ。マルクは店を開くつもりなのか?」
「そのつもりです。どこかに行きたくなった時は次回もお願いします。ハンクが一緒だと心強いので」
俺の言葉を受けて、ハンクは嬉しそうに表情を緩めた。
冒険者の高み――Sランクという偉業を成し遂げたにもかかわらず、親しみやすい側面があることも敬意を抱く理由の一つだった。
「おう、そうか! おれの方でも面白そうなところがないか、情報は集めておくぜ。メルツとデュラスに行ったから、今度はロゼル辺りか。たしか、七色ブドウを採りに行った時以来だよな」
「そうだと思います。あの時は中継地点程度の感覚だったので、ロゼルの行ったことがない場所へ行くのも面白そうですね」
「分かった。候補の一つとして考えておく。それじゃあ、またな」
「早速、明日の朝にコショネ茸を料理してみるので、よかったら店に来てください」
「いいな、そいつは楽しみだ」
ハンクはそう言った後、大きく手を振って離れていった。
翌朝。自宅で目を覚ました俺は顔を洗い、身支度を整えてから、自分の店に向かった。
店の前に着いてから周囲を確認してみたが、ゴミや落ち葉の数は少なく、適当に手で拾って終わりにした。
それから、店内の厨房に向かって、前日に保管しておいたコショネ茸を確認した。
テーブルの上で布袋を開くと、上品で濃厚な香りが漂ってきた。
木の実のような新鮮で香ばしい匂いといった感じだろうか。
「よしっ、この感じなら鮮度は大丈夫そうだ」
いくら高級キノコだからといっても、腐ってしまえばどうしようもない。
バラムは湿度低めのさっぱりした気候ということもあり、食べものが傷みにくいのは焼肉屋をやる上で利点の一つだった。
俺は布袋の中から、一掴みほどのコショネ茸を取り出した。
触った感じは普通のキノコといった感じで、特別な違いはなさそうに思えた。
取り出したコショネ茸を軽く水洗いして、土や細かい汚れを洗い落とす。
続けて、きれいになったコショネ茸を食感が残る程度に薄く切った。
下準備が済んだ後、かまどに火をおこしてフライパンを用意する。
コショネ茸の香りを活かすために、オリーブオイルに似た種類の油で炒めてから、乾燥させてニンニクの粉末と塩で味を整えていく。
加熱しすぎないように注意して、適当なタイミングでフライパンを火から離した。
ニンニクが油で炒まる香りが食欲をそそる。
コショネ茸を使っていることもあり、厨房に香ばしい匂いが充満していた。
「……うん、これはすごい」
仕上がったものを小皿に乗せて味見すると、思わず声が漏れた。
転生前にマツタケを食べたことはないが、おそらくそういった高級キノコに負けずとも劣らない存在感のある風味だった。
それに油で炒めて味つけをしても、香ばしさが消えなかったのは驚きだ。
「もしも、こんな目玉があれば、俺は自分の店を畳まずに済んだのか……いや、そうじゃない――」
この世界の優れた食材を前にした時、何度か感じたことだった。
今までは感じていたとしても言葉にならなかった。
だが、今日は内なる思いが無意識に口をついた。
「当時は不遇だったかもしれないけど、今度は幸せを嚙みしめないと」
アデルやハンク、ギルドの仲間、町の人たち。
色んな人の支えがあるおかげで、店も俺の生活も成り立っている。
このコショネ茸だって、仲間の協力で手に入れたものだ。
「うん、美味い」
この世界は地球と比べて、どれほどの広さがあるのかは分からない。
それでも、たくさんの国と地域が存在している。
未踏の地にあるはずの新たな食材のことを考えると、胸の高鳴りが強まるのを感じた。
彼女の存在感は大きく、いなくなると穴が空いたような静けさを感じた。
見目麗しい彼女なのだが、庶民の自分とは釣り合わないと思う。
それにハンクに憧れや尊敬を示した以外、異性に興味を示す場面を見たことがなかった。
「今までの雰囲気だとアデルか、いや……」
お姉さまと言って懐いている様子だが、恋愛対象というふうではない気もする。
どちらにせよ、フランが広い意味で高嶺の花であることは間違いない。
並の男が近づいても、軽くあしらわれるのがオチだろう。
「さあ、用事も済みましたし、バラムに戻りましょうか」
俺は気を取り直して、遠巻きに立っていたハンクとテオを見た。
フランが帰ったことで安心したのか、二人はこちらに近づいてきた。
「公都の市場とか覗いていかなくてもいいのか?」
「行きたい気持ちもありますけど、日が暮れるとテオが飛べないみたいなので」
「そうか、もうすぐ夕方か。じゃあまた、来れたら来るか」
「それで問題ありません」
テオに飛んでもらおうと思ったが、先に周りに人の気配がないかを確かめる。
通りから離れている場所のようで、喧騒が遠くから聞こえた。
何もない空き地と言ってしまえばそれまでだが、あまり人の来ない場所のようだ。
「それじゃあ、帰りも頼めますか」
「うむ、よかろう」
テオが飛竜の姿になり、俺は魔道具を取り出して操作した。
それから、バラムに着く頃には夕方になっていた。
出発した時と同じように町外れの空き地にテオが着地したのだ。
「……今日は移動が多くて疲れた。我は宿へ戻るとする」
「ありがとうございました。またお願いします」
「ふむ、気が向いた時は乗せてやろう」
テオはこちらに応じているものの、いつも以上に言葉が少なかった。
今日はフランがいたことで、途中から負担が増えていたのだと思う。
テオはつぶやくように、「ではな」と言って立ち去った。
「今日のところは、おれも帰るとするか」
「お疲れ様でした。俺の分のコショネ茸をもらってもいいですか?」
「ああっ、もちろんだ。少し待ってくれ」
ハンクはバックパックを地面に下ろすと、中から布袋を一つ取り出した。
それから、他の袋に入ったコショネ茸を一つにまとめていった。
「おれとテオの分はマルクが持って帰ってくれ」
「テオはともかく、ハンクもいいんですか?」
「自分であんまり料理はしないからな。マルクが美味しく料理して食わせてくれ」
「それなら、もらっておきます」
ハンクから膨らみ気味の布袋を受け取った。
布袋に入ったコショネ茸の量が多いので、抱きかかえるような状態になる。
中身がキノコだからなのか、そこまで重たくはなかった。
「久しぶりにデュラスまで行ったら、すげえ遠出したような気分でな。飛竜というか、テオが乗せてくれると行動範囲が桁違いに広がるよな」
「それはありますね。デュラスは気になる国でしたけど、なかなか行く機会はなかったですから」
「今日は遠くまで行けたから、おれはしばらくおとなしくするつもりだ。マルクは店を開くつもりなのか?」
「そのつもりです。どこかに行きたくなった時は次回もお願いします。ハンクが一緒だと心強いので」
俺の言葉を受けて、ハンクは嬉しそうに表情を緩めた。
冒険者の高み――Sランクという偉業を成し遂げたにもかかわらず、親しみやすい側面があることも敬意を抱く理由の一つだった。
「おう、そうか! おれの方でも面白そうなところがないか、情報は集めておくぜ。メルツとデュラスに行ったから、今度はロゼル辺りか。たしか、七色ブドウを採りに行った時以来だよな」
「そうだと思います。あの時は中継地点程度の感覚だったので、ロゼルの行ったことがない場所へ行くのも面白そうですね」
「分かった。候補の一つとして考えておく。それじゃあ、またな」
「早速、明日の朝にコショネ茸を料理してみるので、よかったら店に来てください」
「いいな、そいつは楽しみだ」
ハンクはそう言った後、大きく手を振って離れていった。
翌朝。自宅で目を覚ました俺は顔を洗い、身支度を整えてから、自分の店に向かった。
店の前に着いてから周囲を確認してみたが、ゴミや落ち葉の数は少なく、適当に手で拾って終わりにした。
それから、店内の厨房に向かって、前日に保管しておいたコショネ茸を確認した。
テーブルの上で布袋を開くと、上品で濃厚な香りが漂ってきた。
木の実のような新鮮で香ばしい匂いといった感じだろうか。
「よしっ、この感じなら鮮度は大丈夫そうだ」
いくら高級キノコだからといっても、腐ってしまえばどうしようもない。
バラムは湿度低めのさっぱりした気候ということもあり、食べものが傷みにくいのは焼肉屋をやる上で利点の一つだった。
俺は布袋の中から、一掴みほどのコショネ茸を取り出した。
触った感じは普通のキノコといった感じで、特別な違いはなさそうに思えた。
取り出したコショネ茸を軽く水洗いして、土や細かい汚れを洗い落とす。
続けて、きれいになったコショネ茸を食感が残る程度に薄く切った。
下準備が済んだ後、かまどに火をおこしてフライパンを用意する。
コショネ茸の香りを活かすために、オリーブオイルに似た種類の油で炒めてから、乾燥させてニンニクの粉末と塩で味を整えていく。
加熱しすぎないように注意して、適当なタイミングでフライパンを火から離した。
ニンニクが油で炒まる香りが食欲をそそる。
コショネ茸を使っていることもあり、厨房に香ばしい匂いが充満していた。
「……うん、これはすごい」
仕上がったものを小皿に乗せて味見すると、思わず声が漏れた。
転生前にマツタケを食べたことはないが、おそらくそういった高級キノコに負けずとも劣らない存在感のある風味だった。
それに油で炒めて味つけをしても、香ばしさが消えなかったのは驚きだ。
「もしも、こんな目玉があれば、俺は自分の店を畳まずに済んだのか……いや、そうじゃない――」
この世界の優れた食材を前にした時、何度か感じたことだった。
今までは感じていたとしても言葉にならなかった。
だが、今日は内なる思いが無意識に口をついた。
「当時は不遇だったかもしれないけど、今度は幸せを嚙みしめないと」
アデルやハンク、ギルドの仲間、町の人たち。
色んな人の支えがあるおかげで、店も俺の生活も成り立っている。
このコショネ茸だって、仲間の協力で手に入れたものだ。
「うん、美味い」
この世界は地球と比べて、どれほどの広さがあるのかは分からない。
それでも、たくさんの国と地域が存在している。
未踏の地にあるはずの新たな食材のことを考えると、胸の高鳴りが強まるのを感じた。
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