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飛竜探しの旅

老人と魔道具ふたたび

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 こちらが前を進み、アデルが後ろを歩くという順番で獣道の中を歩き始めた。
 以前は剣で草木を払う必要があったが、今回はそこまでしなくても進むことができる。
 
 危険が少ないとはいえ、周囲に異変がないか警戒してしまうのは元冒険者としての気質みたいなものだろうか。
 見たところそういった形跡はないので、安心して進んでよさそうだった。
 
 順調に道を進んでいくと、記憶と一致するようにドーム型のテントのような建物が目に入った。
 周囲に生えていた雑草などは取り去られていて、老人がこまめに草刈りをしている様子がありありと浮かぶようだった。

「まだありましたね。よそへ移った可能性もあると思ったんですけど」

「とりあえず、留守かどうかを確認するわよ」

「はい、そうしましょう」

 俺はテントの玄関に近づいて、ドアをノックした。
 すると、少し時間をおいてゆっくりと開いた。

「――うん? 何の用じゃ?」

 あの時の老人が玄関に姿を現した。
 急な来客に戸惑っているように見える。

「どうも、こんにちは」

「おおっ、おぬしか。ギルドの件は上手く報告してくれたようじゃな」

「ああっ、まぁ……」

 ギルド長に報告する際、老人を助けるような説明をしたことを思い出す。
 こちらの意図が露見することはなかったものの、あの時は肝を冷やした。

「今日はちょっとお願いがあるんですよ」

 俺は気を取り直して老人に切り出した。
 突然押しかけたにもかかわらず、さほど不快そうな反応はなかった。

「そうか、まずは中に入るといい」
 
「では、お邪魔します」

 俺とアデルは老人に招かれて、テントの中へを足を踏み入れた。
 二度目ではあるものの、中が思ったよりも広いことに改めて驚いた。

「ほれ、こっちじゃ」

 老人に案内されるままに中を進む。
 少し奥へと歩いたところで、見覚えのあるリビングのような場所に通された。
 前もここで話したことを思い出す。

「そこに座っておれ。わしはお茶を用意する」

「ありがとうございます」

 俺とアデルが椅子に腰かけて待っていると、老人が二つのカップをトレーに乗せて持ってきた。
 中身は温かいようで、うっすらと湯気が漂っている。

「町へ買い出しに行った時、ついでに買った紅茶じゃ。よかったら、飲むといい」

 今回は二度目の訪問なのだが、老人は以前から知り合いだったかのように気さくな振る舞いだった。
 山中の生活では人恋しくて、相手の態度が軟化しているのだと悟った。

「さてと、何かお願いがあるんだったかのう」 

 老人は紅茶を出し終えると、トレーをテーブルの脇に置いて口を開いた。

「実は魔道具についてのこと何ですけど――」

「何じゃと!? わしはもう町で売ったりはしておらんぞ」

「あっ、違います。最後まで聞いてください」

「そうか、すまん。それでは続きを」

 仕切り直すように咳ばらいをして、話の続きを始めた。

「特殊な効果になってしまうんですけど、作ってほしい魔道具があります」

「ほう、わしに頼みに来るとはのう。おぬしは目が肥えておる。具体的にはどういう機能が欲しいのじゃ?」

 老人は頼りにされたことがずいぶんうれしいようだった。
 誰が見ても明らかなほど、にやにやしている。

「結界のように認識を阻害したり、かく乱したりする効果、もしくは透明にして特定の対象から見えなくするみたいな……。自分で言っていて無茶なお願いだと思います」

「うーん、そうでもないぞ……」

 老人は腕組みをして、何やら考え始めた。
 ちなみにアデルは直接関係がないので、ほとんど会話に参加していない。
 出された紅茶を上品かつ美味しそうに飲んでいる。

「さあ、若者、ちょっとついてくるんじゃ」

 老人は何かを思いついた様子で立ち上がった。
 どこかへ歩いていくので後に続くと玄関から外に出た。
 
「おぬしに話した機能じゃが、すでに完成しておる」

「……それと外に出たのは何の関係が?」

「立ち退きから逃れるためにテントごと隠れるよう、特別に設置した装置がある。それを起動して、効果のほどを見せてやろうという話じゃな」

「ああっ、なるほど」

 実物がイメージしやすいようにという本人なりの親切なのだと捉えた。
 何というか、この老人は魔法使いというより研究者みたいな感じだな。
 出会った時から魔道具にご執心だった。
   
「それでは、起動するぞ」

 老人はリモコンめいた小さな装置を手にしている。
 それが操作されると、テントのシルエットがそのまま消えていった。

「あれっ、どういう仕組みですか!? ……ていうか、中にいるアデルは?」

「テントに魔道具が設置されているが、周りにいる者から目を隠すだけだから、あのお嬢さんなら問題ない」

 老人はこちらの動揺を鎮めるように言った。
 もう一度、リモコンのようなものが操作されると、何ごともなかったようにテントが現れた。

「まさしく、こんなものを求めていたんです」 

 テントに設置された装置の効果が分かると、そんな言葉が口をついた。
 これなら、テオを隠すのに使えそうなアイテムだ。

「これはわしが緊急避難するために渡すことはできんが、時間をもらえたら同じようなものが作れるぞ」

「それは助かります。ところで完全に視界から消えてしまうと、見えなくした本人も見失いそうですけど、それはどうなってますか?」

 透明人間みたいになるのは優れものだが、テオがどこに行ったのか分からなくなったり、上空で乗っている人間だけが見えてしまえば、それはそれで問題がある。

「それなんじゃが、触れていると一緒に隠れた状態になる。おまけに触れている者からは一緒に見えない状態の者を見ることができる。そういう仕組みだのう」

「えっ、そんなことが可能なんですか?」

 幻覚魔法が見た者の認識を阻害するという効果は、魔法だから何でもありという認識だった。
 しかし、魔道具でそこまでの効果があるのなら、とんでもないものが完成したことになるのではないか。

「それはあれじゃ、ここが静かで集中しやすいのと地脈を流れる魔力が豊富で、試作品を作り放題だったのが大きいな」

「個人的な感想ですけど、高性能な魔道具がやたらに出回ると戦乱の種になりかねないと思うので、注意した方がいい気がします」

「心配いらん。やたらに他人に譲るようなことはないぞ。おぬしがギルドからの立ち退き勧告を防いだ礼に分けるだけだからのう」

「……おじいさん」

 老人は気難しいとばかり思っていたが、意外と義理深い一面を知った瞬間だった。
 俺たちはがっちりと握手をかわした。


 あとがき
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