異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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飛竜探しの旅

ソラルとの夕食 その2

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 座った状態でテーブルに肘を乗せた。
 少し離れたところにキッチンがあり、ソラルは食事の準備をしている。
 鍋で何かを煮ているようで、食欲をそそるような匂いがこちらまで漂った。

 ソラルが俺の分の食器を運んできたところで声をかけた。
   
「何か手伝いましょうか?」

「ほとんどやることはないから、座っていてよ」

「あっ、分かりました」

 アデルの話は半信半疑だったが、ソラルは少し上機嫌な様子だ。
 外界との交流が少ないのならば、来客はうれしいものなのかもしれない。
 とはいえ、料理を作って待っていたということはないように見えた。

「お待たせ。まだ熱いから気をつけて」

「はい、ありがとうございます」

 ソラルは俺の前にスープの入った器を置いた。
 湯気が浮かび、何だかいい香りがする。
 ふと、アデルの作ったスープのことが脳裏をよぎった。
 
「ちなみにこの中にハーブって入ってますか?」

「ハーブ? 風味をつけるために少し入っているね」

「……そうですか」

「もしかして、ハーブの香りが苦手だったり?」

 ソラルは心配そうにたずねてきた。
 せっかくごちそうしてくれているのに、何だか申し訳ない気持ちになる。

「実はアデルが――」

 俺はアデルのスープの件をざっくりと説明した。
 それを聞いたソラルは愉快そうに笑った。
 こんなふうに笑うのだと少し驚いた。

「あの子が料理をするなんて珍しいこともあるもんだ。それにしても、人間には強すぎるハーブを入れてしまうとは。ふふふっ」

 ソラルは笑いながら、冷めちゃうから食べてねと付け足した。

「元気が出すぎてしまったので、何か反動が出ないか心配でした」

「それはないと思うけど、胃が荒れたりすることもあるだろうから、あまり食べない方がいいかもしれないね」

 俺たちはソラルの作ったスープを口に運びながら、ゆっくりと会話を進めた。
 彼は落ちついた環境で生活していることもあり、のんびりした雰囲気だった。
 最初に想像していたよりも、肩の力を抜いて話せることに気づいた。
 
「そういえば、君はどこの出身なんだい?」

「ランス王国のバラムという町です。規模はそこそこなんですけど、王都からずいぶん離れているので、辺境に入ると思います」

「ほう、バラムね。僕はあんまり旅に出たことがないから、フェルンとリムザン、あとはメルツ国内の町しか土地勘がないんだ」

 こういった話題の時、遠くに行けぬ我が身を儚むというのは人間的な発想のようで、ソラルからはそういった雰囲気は感じられなかった。
 バラムのことは、どこか遠い国のように捉えているようにも聞こえた。

「素朴な疑問なんですけど、村の生活は退屈になったりしませんか?」

「退屈、ね。長すぎる寿命のせいかもしれないけれど、人間のように生き急ぐ感覚はないからね。特に僕の場合は多少のケガや病気は自分で治せてしまうし」

「そういうものなんですね。少し羨ましい気がします」

「羨ましいか……新鮮に聞こえるよ。ありがとう」

「何か役に立ちましたか?」

「うん、まあね」

 ソラルは外界との交流が少ないと言っていたので、俺の言葉が何か参考になったのならよいと思った。
 それと途中で補足されたのだが、治療希望者は種族を問わずに来るそうなので、全く誰とも会わないわけではないことを知った。
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