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飛竜探しの旅
ハンクの提案
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三人で話し合ったものの、なかなか意見がまとまらない状況だった。
俺は俺で、拘束して放置するのも気が引けるが、かといって旅路の邪魔をされるのには抵抗を覚えるといった心境である。
力自慢のハンクも男を掴んだままでは手が疲れるようで、いつものバックパックに入った縄で縛っていた。
木に縛りつけられて、男は身動きを取れないでいる。
やがて、ハンクが行き詰まりを打開するように、よしっと声を上げた。
「こいつを国境まで運ぼう」
「置いていくことができないなら、それが妥当かもしれないわね。馬に乗せたら暴れそうだけれど、それはどうするつもり?」
「昨日のあれがあるだろ。あれで魔力を増幅させて、こいつに睡眠魔法をかける。魔法使いは抵抗力があるから、そのままじゃすぐに目を覚ますからな」
「あれってそんな使い道があるんですね」
俺はハンクの意図を察して、「魔石」という単語は使わなかった。
魔法使い風の男が魔法に精通しているのなら、貴重なものを所有していることは知られない方がいいだろう。
「それなら手伝うけれど、私の馬にこの男を乗せたくないわ」
「悪いんですけど、俺もあんまり……」
「それなら問題ねえ。言い出しっぺのおれが連れていく」
「私はそれで問題ないわ。マルクはどうかしら」
「助かりますけど、あの馬に二人乗れそうですか?」
俺は後ろを振り返り、馬たちの方に視線を向けた。
三人の旅人を仲間と捉えているようで、辺りをうろつきながら待っている。
「おれの荷物はけっこう重たいからな。合流するまでの間、マルクが預かってくれ」
「大事なものもあると思いますけど、それでいいんですか?」
ずいぶん慣れが生じているが、Sランク冒険者の荷物を預かることなど、普通ではありえない。
いくら引退した立場であっても、それぐらいの常識は弁(わきま)えている。
「こんな外れに盗賊はいねえだろ。怪しい魔法使いはいたが」
「まあ、そうですね」
ハンクは冗談めかした様子で、身動きの取れない状態の男を見た。
「長い距離となると日没まで時間がねえ。国境までの道と行く予定だった町の位置を教えてくれ」
「ええ、分かったわ」
アデルとハンクは二人で道のりについて話し始めた。
彼が男への警戒を緩めるはずもないが、確認のために視線を向けた。
両手は後ろ手に縛られて、口には布が当てられている。
この状態では魔法は使うことができず、そこまでの脅威を感じなかった。
ハンクの理解が早いようで、すぐにアデルの説明は済んだ。
「さてと、あいつを眠らせるとするか」
「それなら私に任せて。睡眠魔法をかければいいのね」
「ああっ、頼む」
アデルが睡眠魔法をかけることになった。
彼女に声をかけられて、黒い犬が落とした魔石を一つ手渡した。
ベヒーモスが落としたものは価値が高いようなので、使わないようだ。
アデルは左手に魔石を手にした状態で、右手を男の額に掲げた。
男はこれから何をされるか分かっているようで、抵抗しようと身じろぎしたところをハンクに押さえられた。
睡眠魔法について詳しくないため、アデルがどのような魔法を使うか興味がある。
アデルが何かを念じるように目を閉じた後、わずかながら魔力が流れるのを感じた。
するとその直後、男はがくんと力が抜けたように脱力した。
ハンクは男が地面に倒れこむ前にがっちりと掴んで、そのまま担ぎ上げた。
その行動から男が頭をぶつけてケガしないようにという優しさを感じた。
「それじゃあ、おれは国境までひとっ走りしてくる。町で合流だな」
ハンクは男を真横に伸びた状態で自らの身体に縄で固定すると、「重たい荷物」を感じさせないような動きで馬に乗った。
彼の身体能力の高さに驚いているうちに、馬は走り去っていった。
「さてと、私たちも出発しましょう」
「そうですね」
思わぬ足止めにあったが、そこまで時間は経っていない。
今から移動を再開すれば今日中に次の町に到着できるはずだ。
近くでおとなしく待っていた馬に乗りこむ。
ハンクに預かった荷物を背負っているため、身体が重く感じた。
縄を探す時に中を覗いたが、大容量で色んなものが整理されて収まっていた。
馬が走れなくなるほどではなかったようで、そこまで大きな支障は感じられない。
中断地点から出発して、飛ばし気味のアデルに何とかついていくと、延々と続いた木々の群れが途切れ始めた。周囲の土地が徐々に開けてきた。
人里の気配を感じ始めたところで、道の先に建物がいくつか目に入った。
アデルが馬を減速させて、俺と横並びになった。
「あそこがリムザンの町。村と呼んでも差し支えないぐらいこじんまりとしたところよ」
「……何か問題でもあるんですか?」
彼女の声音は何か気がかりがあるように聞こえた。
「町の人は穏やかだけれど、リムザンの町長とエルフの村長が話し合いを長く続けていて、それがまとまらないおかげで、町長はエルフへの態度が悪いわ」
「とりあえず、町長に関わらなければ問題なさそうですね」
「まあ、そうなんだけれど、何せ小さい町だから」
一度にエルフの村へ到着すれば理想的なのだが、それが難しいので、手前のリムザンで休むということだろう。
それにイレギュラーとはいえ、ハンクを待たなければならない。
俺は俺で、拘束して放置するのも気が引けるが、かといって旅路の邪魔をされるのには抵抗を覚えるといった心境である。
力自慢のハンクも男を掴んだままでは手が疲れるようで、いつものバックパックに入った縄で縛っていた。
木に縛りつけられて、男は身動きを取れないでいる。
やがて、ハンクが行き詰まりを打開するように、よしっと声を上げた。
「こいつを国境まで運ぼう」
「置いていくことができないなら、それが妥当かもしれないわね。馬に乗せたら暴れそうだけれど、それはどうするつもり?」
「昨日のあれがあるだろ。あれで魔力を増幅させて、こいつに睡眠魔法をかける。魔法使いは抵抗力があるから、そのままじゃすぐに目を覚ますからな」
「あれってそんな使い道があるんですね」
俺はハンクの意図を察して、「魔石」という単語は使わなかった。
魔法使い風の男が魔法に精通しているのなら、貴重なものを所有していることは知られない方がいいだろう。
「それなら手伝うけれど、私の馬にこの男を乗せたくないわ」
「悪いんですけど、俺もあんまり……」
「それなら問題ねえ。言い出しっぺのおれが連れていく」
「私はそれで問題ないわ。マルクはどうかしら」
「助かりますけど、あの馬に二人乗れそうですか?」
俺は後ろを振り返り、馬たちの方に視線を向けた。
三人の旅人を仲間と捉えているようで、辺りをうろつきながら待っている。
「おれの荷物はけっこう重たいからな。合流するまでの間、マルクが預かってくれ」
「大事なものもあると思いますけど、それでいいんですか?」
ずいぶん慣れが生じているが、Sランク冒険者の荷物を預かることなど、普通ではありえない。
いくら引退した立場であっても、それぐらいの常識は弁(わきま)えている。
「こんな外れに盗賊はいねえだろ。怪しい魔法使いはいたが」
「まあ、そうですね」
ハンクは冗談めかした様子で、身動きの取れない状態の男を見た。
「長い距離となると日没まで時間がねえ。国境までの道と行く予定だった町の位置を教えてくれ」
「ええ、分かったわ」
アデルとハンクは二人で道のりについて話し始めた。
彼が男への警戒を緩めるはずもないが、確認のために視線を向けた。
両手は後ろ手に縛られて、口には布が当てられている。
この状態では魔法は使うことができず、そこまでの脅威を感じなかった。
ハンクの理解が早いようで、すぐにアデルの説明は済んだ。
「さてと、あいつを眠らせるとするか」
「それなら私に任せて。睡眠魔法をかければいいのね」
「ああっ、頼む」
アデルが睡眠魔法をかけることになった。
彼女に声をかけられて、黒い犬が落とした魔石を一つ手渡した。
ベヒーモスが落としたものは価値が高いようなので、使わないようだ。
アデルは左手に魔石を手にした状態で、右手を男の額に掲げた。
男はこれから何をされるか分かっているようで、抵抗しようと身じろぎしたところをハンクに押さえられた。
睡眠魔法について詳しくないため、アデルがどのような魔法を使うか興味がある。
アデルが何かを念じるように目を閉じた後、わずかながら魔力が流れるのを感じた。
するとその直後、男はがくんと力が抜けたように脱力した。
ハンクは男が地面に倒れこむ前にがっちりと掴んで、そのまま担ぎ上げた。
その行動から男が頭をぶつけてケガしないようにという優しさを感じた。
「それじゃあ、おれは国境までひとっ走りしてくる。町で合流だな」
ハンクは男を真横に伸びた状態で自らの身体に縄で固定すると、「重たい荷物」を感じさせないような動きで馬に乗った。
彼の身体能力の高さに驚いているうちに、馬は走り去っていった。
「さてと、私たちも出発しましょう」
「そうですね」
思わぬ足止めにあったが、そこまで時間は経っていない。
今から移動を再開すれば今日中に次の町に到着できるはずだ。
近くでおとなしく待っていた馬に乗りこむ。
ハンクに預かった荷物を背負っているため、身体が重く感じた。
縄を探す時に中を覗いたが、大容量で色んなものが整理されて収まっていた。
馬が走れなくなるほどではなかったようで、そこまで大きな支障は感じられない。
中断地点から出発して、飛ばし気味のアデルに何とかついていくと、延々と続いた木々の群れが途切れ始めた。周囲の土地が徐々に開けてきた。
人里の気配を感じ始めたところで、道の先に建物がいくつか目に入った。
アデルが馬を減速させて、俺と横並びになった。
「あそこがリムザンの町。村と呼んでも差し支えないぐらいこじんまりとしたところよ」
「……何か問題でもあるんですか?」
彼女の声音は何か気がかりがあるように聞こえた。
「町の人は穏やかだけれど、リムザンの町長とエルフの村長が話し合いを長く続けていて、それがまとまらないおかげで、町長はエルフへの態度が悪いわ」
「とりあえず、町長に関わらなければ問題なさそうですね」
「まあ、そうなんだけれど、何せ小さい町だから」
一度にエルフの村へ到着すれば理想的なのだが、それが難しいので、手前のリムザンで休むということだろう。
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