上 下
129 / 469
飛竜探しの旅

アデルとハンクに相談

しおりを挟む
「貴重なものを見せてもらって、ありがとうございました」

「今回は特別だ。いつもなら立ち寄った町を散策して、飛竜の存在がばれないうちに何食わぬ顔で立ち去る」

 ジョゼフは飛竜に視線を向けながら言った。
 昨日今日の付き合いではないようで、愛着が感じられるような眼差しだった。

「さっき書いてもらった地図の場所に行こうと思ったら、飛竜並みの機動力がないと難しそうですけど、どうしたら手に入りますかね」

「うーん、見せてやった立場で言うもんじゃないが、すぐに行けるような場所にはいないなあ。どうしても手に入れたいのなら、情報を集めてみるといい」

「やっぱり、バラム周辺では難しそうですね」

 質問する前に予想がついていたが、ランス王国全土に範囲を広げても飛竜は生息していない可能性が高い。
 色んなところを旅する中で、そのような痕跡は一度も目にしなかった。

「例外的にワイバーンを卵のうちから育てて、人に慣れさせたら乗れなくもないが……。そもそも、ワイバーンの巣から卵をかすめ取ることや巣を探す労力を考えたら、飛竜に指輪をはめる方が簡単だ」

 暗殺機構の者がワイバーンに乗っていたとハンクから聞いたことがあるが、あれは卵から育てたのかもしれない。

「ワイバーンは気性が荒いらしいですけど、指輪をつける前の飛竜はどうなんですか?」

「種類によって違いはあるはずだが、わしの知る限りではそこまで凶暴ではないよ。もちろん、草食動物のように人畜無害というわけにはいかないがね」

 ジョゼフの話を聞きながら、知性の指輪をくれた老人の話を思い出した。
 指輪を外した瞬間、モンスターが襲いかかることもありえると言っていた。
 ワイバーンに知性の指輪をはめたとしても、そこまで安心できないだろう。

「それなら、飛竜を探してみようと思います」

「それが賢明というやつだ。有力な情報や仲間が集まることを願っているよ」

 ジョゼフはだいたいのことを話し尽くしたようで、飛竜に乗ろうとしていた。

「色々とありがとうございました。初めて知ることばかりで新鮮でした」

「なるべく力になってやりたいが、一つのところに長居するのは性に合わないんだ。それじゃあ、達者でな」 

 ジョゼフは飛竜の背に設置された鞍に跨(またが)った状態で手綱を握ると、馬を操るように従わせた。
 飛竜は両翼をはためかせて、ゆっくりと地面から飛び立っていった。
 


 ジョゼフと出会った日から数日後。
 俺は閉店後の店にアデルとハンクを呼び出していた。
 バラムという辺境で広範囲の情報を集めようとするならば、この二人が適任だと考えた。

 最初に俺はジョゼフとの出会いについて話した。
 その後、飛竜を手に入れるにはどうすればいいかを二人にたずねた。
 目的の一つであるドラゴンの肉を仕入れることについても。

「ドラゴンは何度か遭遇したことがあるが、飛竜は見たことねえな。もし、移動手段が何とかなるなら、ドラゴンを倒すのは手伝うぜ」

「それは助かります」

 飛竜のことはともかく、ドラゴンをどうにかしようと思うなら、ハンクの力を借りるつもりだった。
 ハンクが話し終えると、今度はアデルが話し始めた。

「まさかこんな話になるとは思わなかったけれど、飛竜なら私の故郷の近くで見かけることがあるのよ」

「えっ、本当ですか!?」

「この前の知性の指輪を使えば、乗れるようになるわね」

 アデルの話す内容は歓迎できるものなのだが、本人は控えめな口ぶりだった。

「何か問題がありますか?」

「私の故郷はとても遠い場所にあるから、帰りは飛竜に乗るとしても、行きは時間がかかるわ。そうなると、店をしばらく閉めることになるわよね」

「そうですね。今はジェイクがいませんし」

 飛竜もドラゴンも近くにいないと知ってから、店の今後が脳裏にちらついていた。
 アデルとハンクは開店当初から訪れてくれただけでなく、旅や冒険を通じて時間を共にした間柄だった。
 そのため、二人には自分の考えを話しておいた方がいいと思った。

「……俺はこの店で成功を収めたいと思っていました。そして、それはすでに十分達成できました。今では常連だけでなく、店の評判を聞きつけた人も足を運んでくれます」

「バラムの規模を考えれば成功したと言ってもいいんじゃないかしら」

「はい、俺自身もそう考えています」

 真剣に話していることが伝わったようで、二人とも真面目な表情で話を聞いている。

「少し前から食材について考えていたところ、ジョゼフという行商人に出会ったことで、色んな食材を扱ってみたい気持ちが強くなりました」
 
「たしかにドラゴンの話とつながるな」

「前置きが長くなりましたけど、将来的に店の営業日を減らす代わりに、色んな食材を仕入れてきて、幅広く鉄板で焼いて食べられるようにしたいと考えています」

 アデルは深々と頷き、ハンクは明るい表情を見せていた。
 自分にとって重要な存在の二人に話せたことで、肩の荷が下りたような気がした。

「私はそれでいいと思うわ。食材が豊富な方が食べる楽しみが広がるもの。それに店としての魅力につながるんじゃないかしら」

「やっぱり、マルクは冒険が好きだと分かってうれしいぜ。仕入れも理由だが、色んなところに行ってみたいんだよな」

「二人ともありがとうございます。ハンクの言う通り、自分が色んなところへ行ったみたい気持ちもあります。飛竜があれば遠くへ行けそうですから」

 転生前の記憶では孤立無援で、何もかも裏目に出るような環境にあった。
 だが、今では頼もしい味方がいると思うと心が温かくなるような気持ちだった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...