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飛竜探しの旅
ジョゼフの移動手段
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「素朴な疑問なんですけど、どんな馬に乗っているんですか? 地図を見た感じだと、どうやって移動しているのか気になりました」
「……あ、ああっ、それが知りたいか。たしかに移動手段は重要だな」
ジョゼフは歯切れの悪い反応だった。
他人には見せられないような珍しい馬にでも乗っているということだろうか。
「どうしてもというわけではありません。何か秘密があるなら、無理に話してもらわなくても」
「そうだなあ……見せたところで問題ないか」
ジョゼフは独り言をぼそぼそとつぶやいていた。
こちらに馬を見せるかどうか迷っている様子だ。
そんな反応を見せられると、余計に気になってしまう。
「よしっ、それじゃあ実物を見に行くか」
「店をもう少し整理しておきたいので、ちょっとだけ待ってもらえますか」
「ああっ、それは構わん。終わったら声をかけてくれ」
俺は自分とジョゼフがドラゴンを食べるのに使った食器を下げた。
その後、店内の厨房に戻って、洗いかけの皿や食器を洗い始めた。
細かいところの掃除は帰ってからでも問題ない。
「お待たせしました。では、案内をお願いします」
「さて、出発するか」
俺は店を閉店の状態にして、ジョゼフと通りに出た。
少し歩いたところで、彼はどちらから来たかを迷うような素振りを見せた。
「ええと、こっちだな。この町は初めてだから土地勘がないんだ」
「道に迷ったら言ってください。地元なので、だいたいのことは何とかなると思います」
「それは助かる。行商であちこち行く分だけ道の覚えは早い方だ」
ジョゼフは来た道順を思い出したようで、滑らかな足取りで進んだ。
町の中を歩いていると、ドワーフを珍しがるような視線がジョゼフに向けられるのに気づいた。
「町の人に悪意はないと思いますけど、ドワーフを見る機会が少ないので……」
「お前さんが気にする必要はない。慣れたものさ」
バラムの町は穏やかな住民がほとんどなので、ドワーフだからと失礼なことをする可能性は低い。
ただ、他の町や国では排他的な場合もありえるため、ジョゼフの生業(なりわい)である行商は大変だと思った。
ジョゼフの向かっている方向は町外れの方角だった。
俺が想像した通りに珍しい馬に乗っていて、人目を避けているのだろうか。
やがて、彼が足を止めたのは草むらと木々が数本生えるような何もない場所だった。
どこに馬がいるのかと思いかけたところで、何の変哲もない馬が視界に入った。
木に縄が結ばれて、逃げないように留めてある。
「この馬がそうですか?」
俺は馬を指さして言った。
「まあ、これなんだが。少し待ってくれ」
ジョゼフはそう言った後、馬に近づいていった。
特に乗せてほしいわけではないのだが、興味のありそうだった俺を乗せてくれようとしているのか……。
彼は馬の前でしゃがみこんで足元の辺りに近づくと、手元を動かし始めた。
何をしているのか不思議に思ったところで、馬の周りに霧のようなものが生じた。
「……えっ、何が起きたんだ?」
ついさっきまで馬がいた場所に、大きな生物が座りこんでいた。
俺の見間違いでなければ、翼の生えたドラゴン――飛竜だった。
「いやー、すまんな。だますつもりはなかったんだが」
「もしかして、これに乗っているというわけですか」
「その通りだ。誰が聞いているか分からない場所で教えるわけにはいかなくてな」
飛竜は全体的に青白い体表をしており、思ったよりもおとなしくしている。
初めて実物を見ることができたので、頭からしっぽの先まで見回すと、指の先に見覚えのある指輪をつけていることに気づいた。
「……あれは」
飛竜の指で輝いているのは知性の指輪に似た雰囲気の指輪だった。
ジョゼフはドワーフなので、自分で作ることができたのだろうか。
「もしかして、飛竜がおとなしいのはその指輪の効果ですか?」
「むっ、どうして分かるんだ」
「少し形状は違いますけど、似た指輪を持っています」
俺がそう伝えると、ジョゼフは不思議そうに首を傾けた。
「そんなに優れた鍛冶屋がいるのか? これと同じものはおいそれと作れないはずなんだが」
「えっ、鍛冶……ではなくて、俺のものは魔道具ですね。逆に魔力をこめずに同じような効果が得られるのは驚きです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前さんの指輪は魔道具で、ドラゴンを従えられるということだな?」
ジョゼフは少し混乱した様子で問いかけた。
効果が特殊であることや希少性を考えれば、彼の反応は当然のものだった。
俺自身、この状況を目の当たりにしなければ、鍛冶で作れると信じるのは難しい気がする。
「俺の指輪は譲り受けたものなんですけど、伸縮自在でモンスター全般を従えることができるらしいです」
「おまけに伸縮自在……。わしは試行錯誤の末に完成させたわけだが、魔法の力は恐ろしいな。魔道具という手段は思いつかなかった」
「ところで、飛竜が馬に見えたのにも何か秘密が?」
「ああっ、それはこれだな」
ジョゼフは懐から大きめの指輪を取り出した。
先ほどの動作は飛竜からこの指輪を外していたことに気づく。
「ちなみにこれも鍛冶で?」
「そうだ。魔道具ではないのだが、力のこめられた鉱石が素材だから、原理は魔法に近いのかもしれん。飛竜がおとなしくなるのも同じ仕組みだ」
ジョゼフはそう答えた後、飛竜の足元に近づいて指輪を装着しようとした。
指輪がはまった直後、再び白い霧のようなものが立ちこめた。
「……あっ、馬に戻った」
「この指輪をはめていると、相手が幻術をかけられたようになってしまう。それ故に飛竜がいても、馬がいるように見えてしまうというわけだ」
再びジョゼフが馬の足元で手を動かした後、馬が飛竜に変身したように見えた。
「もしかして、飛竜を見られると大騒ぎになるから、こうしているんですか?」
「まさにその通り。それにこうしておけば、荷物を盗まれる心配もない」
飛竜の背の部分に膨らんだ袋が見える。
少ないように感じたジョゼフの荷物はここにあったのだ。
「……あ、ああっ、それが知りたいか。たしかに移動手段は重要だな」
ジョゼフは歯切れの悪い反応だった。
他人には見せられないような珍しい馬にでも乗っているということだろうか。
「どうしてもというわけではありません。何か秘密があるなら、無理に話してもらわなくても」
「そうだなあ……見せたところで問題ないか」
ジョゼフは独り言をぼそぼそとつぶやいていた。
こちらに馬を見せるかどうか迷っている様子だ。
そんな反応を見せられると、余計に気になってしまう。
「よしっ、それじゃあ実物を見に行くか」
「店をもう少し整理しておきたいので、ちょっとだけ待ってもらえますか」
「ああっ、それは構わん。終わったら声をかけてくれ」
俺は自分とジョゼフがドラゴンを食べるのに使った食器を下げた。
その後、店内の厨房に戻って、洗いかけの皿や食器を洗い始めた。
細かいところの掃除は帰ってからでも問題ない。
「お待たせしました。では、案内をお願いします」
「さて、出発するか」
俺は店を閉店の状態にして、ジョゼフと通りに出た。
少し歩いたところで、彼はどちらから来たかを迷うような素振りを見せた。
「ええと、こっちだな。この町は初めてだから土地勘がないんだ」
「道に迷ったら言ってください。地元なので、だいたいのことは何とかなると思います」
「それは助かる。行商であちこち行く分だけ道の覚えは早い方だ」
ジョゼフは来た道順を思い出したようで、滑らかな足取りで進んだ。
町の中を歩いていると、ドワーフを珍しがるような視線がジョゼフに向けられるのに気づいた。
「町の人に悪意はないと思いますけど、ドワーフを見る機会が少ないので……」
「お前さんが気にする必要はない。慣れたものさ」
バラムの町は穏やかな住民がほとんどなので、ドワーフだからと失礼なことをする可能性は低い。
ただ、他の町や国では排他的な場合もありえるため、ジョゼフの生業(なりわい)である行商は大変だと思った。
ジョゼフの向かっている方向は町外れの方角だった。
俺が想像した通りに珍しい馬に乗っていて、人目を避けているのだろうか。
やがて、彼が足を止めたのは草むらと木々が数本生えるような何もない場所だった。
どこに馬がいるのかと思いかけたところで、何の変哲もない馬が視界に入った。
木に縄が結ばれて、逃げないように留めてある。
「この馬がそうですか?」
俺は馬を指さして言った。
「まあ、これなんだが。少し待ってくれ」
ジョゼフはそう言った後、馬に近づいていった。
特に乗せてほしいわけではないのだが、興味のありそうだった俺を乗せてくれようとしているのか……。
彼は馬の前でしゃがみこんで足元の辺りに近づくと、手元を動かし始めた。
何をしているのか不思議に思ったところで、馬の周りに霧のようなものが生じた。
「……えっ、何が起きたんだ?」
ついさっきまで馬がいた場所に、大きな生物が座りこんでいた。
俺の見間違いでなければ、翼の生えたドラゴン――飛竜だった。
「いやー、すまんな。だますつもりはなかったんだが」
「もしかして、これに乗っているというわけですか」
「その通りだ。誰が聞いているか分からない場所で教えるわけにはいかなくてな」
飛竜は全体的に青白い体表をしており、思ったよりもおとなしくしている。
初めて実物を見ることができたので、頭からしっぽの先まで見回すと、指の先に見覚えのある指輪をつけていることに気づいた。
「……あれは」
飛竜の指で輝いているのは知性の指輪に似た雰囲気の指輪だった。
ジョゼフはドワーフなので、自分で作ることができたのだろうか。
「もしかして、飛竜がおとなしいのはその指輪の効果ですか?」
「むっ、どうして分かるんだ」
「少し形状は違いますけど、似た指輪を持っています」
俺がそう伝えると、ジョゼフは不思議そうに首を傾けた。
「そんなに優れた鍛冶屋がいるのか? これと同じものはおいそれと作れないはずなんだが」
「えっ、鍛冶……ではなくて、俺のものは魔道具ですね。逆に魔力をこめずに同じような効果が得られるのは驚きです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前さんの指輪は魔道具で、ドラゴンを従えられるということだな?」
ジョゼフは少し混乱した様子で問いかけた。
効果が特殊であることや希少性を考えれば、彼の反応は当然のものだった。
俺自身、この状況を目の当たりにしなければ、鍛冶で作れると信じるのは難しい気がする。
「俺の指輪は譲り受けたものなんですけど、伸縮自在でモンスター全般を従えることができるらしいです」
「おまけに伸縮自在……。わしは試行錯誤の末に完成させたわけだが、魔法の力は恐ろしいな。魔道具という手段は思いつかなかった」
「ところで、飛竜が馬に見えたのにも何か秘密が?」
「ああっ、それはこれだな」
ジョゼフは懐から大きめの指輪を取り出した。
先ほどの動作は飛竜からこの指輪を外していたことに気づく。
「ちなみにこれも鍛冶で?」
「そうだ。魔道具ではないのだが、力のこめられた鉱石が素材だから、原理は魔法に近いのかもしれん。飛竜がおとなしくなるのも同じ仕組みだ」
ジョゼフはそう答えた後、飛竜の足元に近づいて指輪を装着しようとした。
指輪がはまった直後、再び白い霧のようなものが立ちこめた。
「……あっ、馬に戻った」
「この指輪をはめていると、相手が幻術をかけられたようになってしまう。それ故に飛竜がいても、馬がいるように見えてしまうというわけだ」
再びジョゼフが馬の足元で手を動かした後、馬が飛竜に変身したように見えた。
「もしかして、飛竜を見られると大騒ぎになるから、こうしているんですか?」
「まさにその通り。それにこうしておけば、荷物を盗まれる心配もない」
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