異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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魔道具とエスカ

老人と魔道具

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 アデルも魔道具を渡した経緯に気づいているようだった。
 俺だけ置いてけぼりな状況で、いまいち判然としなかった。

「あれは本音が言いやすくなる魔道具じゃよ。何も危険はない」

「本音が言いやすく……あっ」

 エスカの言った「愛し合う」という言葉が脳裏をよぎった。
 アデルと老人があの場面を見ていたわけではないのだが、何となく気恥ずかしい気持ちになる。

「年柄もなく恋愛相談に乗ってしまってのう。気の毒に思って、力を貸してやったわけじゃ」

「は、はぁ」

 老人はニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
 だいたいどうなったかを分かっているような態度だった。

「やれやれ、わざわざ来るほどのこともなかったわね。栗を採って帰りましょう」

「やれやれはこっちのセリフじゃ。危うく濡れ衣を着せられるところだったわい」

 老人はうんざりしたように言った。

「ちなみにギルドの許可はどうします?」

「わしの心証はよくないだろうから、直談判に行けば追い返されるのが関の山じゃろうな」

「それじゃあ、またどこかに移動するんですね」

「いや、この地は魔力の流れいいからのう。もう少し滞在する」

 すんなり離れてはくれないようだ。 
 今の自分はギルドの関係者ではないものの、地元民としてこの件を無視するわけにもいかない気がする。

「俺は冒険者を引退してますけど、入山の許可をもらった手前、おじいさんのことは報告しないといけません。そうしたら、他の冒険者が退去させようとしますよ」

「なるほどのう。ところで青年よ、おぬしは冒険が好きそうな顔をしておるな」

「ええと、何か関係が?」

 老人はちょっと待っておれと席を外した。
 何かを探しに行くように見えた。 

 二人だけになって室内は静かになった。
 老人の動向を気にかけていると、沈黙を破るようにアデルが言った。 

「ふたを開けてみれば、ただの魔法好きなお年寄りだったわけね」

「とりあえず、危険人物ではなさそうでよかったです」

 二人で話していると、老人がどこかから戻ってきた。
 何やらうれしそうな顔をしているようにも見える。

「ほれ、これは知性の指輪じゃ」

「……指輪、ですか?」

 差し出されたそれは金色の指輪で、人の指にはめるには大きすぎるように見えた。

「これを用いれば小型のドラゴンぐらいまでのモンスターなら、はめた者の言うことを聞くようになる。伸縮自在で小さいモンスターにも対応可能という逸品じゃ。悪用せんだろうが、人間につけても効果はないことは補足しておこう」

「そんなものをくれるんですか?」

「その代わりギルドへの報告を頼む。山の中にいるご老人は人畜無害で、魔法の研究をしているだけじゃと」

「えっ、それは……」

 なかなか微妙なところだった。
 現状では無許可であることが問題なのだが、無害であるところは同意できる部分もある。
 
「いいじゃない。受け取っておきなさいよ。本当にその通りの効果があるなら、とても貴重なものだと思うわ」

 アデルは老人の提案に前向きのようだ。
 モンスターを従える道具というのは夢のようなもので、その話が本当なら手に入れたい気持ちもある。

「興味はあるんですけど、本当にそんな効果があるのかは疑問が残ります」

「ほう、わしの魔道具に疑義を抱くというのか。その目で効果を見たようだがのう」

「ああっ、それはまあ……」

 エスカの変化を思い返せば、老人の魔道具は効果があるのだろう。
 彼女は酒に酔った程度であそこまで大胆になるとは思えない。

「これはあくまでわしからの提案じゃ。もし、近隣のギルドから冒険者が攻めてくるようなら籠城を決めこむぞ。魔法の効果でこのテントはほぼ無敵だからのう」

「そこまで話がこじれるのは望むところではないので、ギルドには話を通しておきますよ。それと地元の人をおどかすようなことはしないでくださいね」

 知性の指輪に目がくらんだわけではないが、老人が強硬な姿勢になることは避けたいと思った。

「よしっ、交渉成立でよいな。この指輪はおぬしのものじゃ。ゴブリンなりドラゴンなり、好きなモンスターにつけるといい。他のモンスターに切り替えたい時は外せば問題ないが、外した瞬間に襲いかかってくる可能性もあるから用心するんじゃ」

 老人は知性の指輪をこちらに差し出した。
 それを受け取って、じっくりと眺めた。
 金色に輝く、美しい見た目だった。

「魔力を感じるから、ただの金の指輪ではないようね」

 隣にいたアデルが覗きこむように指輪を見ていた。
 何かを推し測るような様子が感じられた。   

「俺は見極められないので、よかったら見てくれますか?」

 アデルに指輪を手渡した。 
 彼女は角度を変えながら、様子を確かめている。

「細かいところまでは分からないけれど、その人が言った通りの効果はあるみたいよ」

「そうじゃろう。わしを信じるべし」

「ところでおじいさん、この指輪をつけてみて」

 アデルは携帯する荷物の中から、小さな銀の指輪を取り出した。
 何の変哲もないようだが、何をしようとしているのだろう。

「美人のエルフから指輪をもらうのは悪くないのう……って、何を企んでおる!?」

 老人はそう言いながらも、指輪を指にはめていた。
 もしや、アデルの指輪も魔道具ではと思ったが、老人の身に変化はない。

「ふふっ、嘘はついていないことは分かったわ」

「おぬし、とんでもない魔道具を持っておるな。つける気はなかったのに抗えんかったぞ」

「もしかして、その指輪って……」

 あえて聞くまでもなく想像がつくが、アデルが効果の説明を始めた。

「真実の指輪。嘘をついていると電流が流れて、死なない程度にしびれるわ」

 老人の知性の指輪もすごい効果だが、アデルの真実の指輪も恐ろしい効果がついている。
 金と銀の指輪――二つの魔道具が作られたことを考えると、魔法の奥深さを実感させられる。
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