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魔道具とエスカ
老人と魔道具
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アデルも魔道具を渡した経緯に気づいているようだった。
俺だけ置いてけぼりな状況で、いまいち判然としなかった。
「あれは本音が言いやすくなる魔道具じゃよ。何も危険はない」
「本音が言いやすく……あっ」
エスカの言った「愛し合う」という言葉が脳裏をよぎった。
アデルと老人があの場面を見ていたわけではないのだが、何となく気恥ずかしい気持ちになる。
「年柄もなく恋愛相談に乗ってしまってのう。気の毒に思って、力を貸してやったわけじゃ」
「は、はぁ」
老人はニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
だいたいどうなったかを分かっているような態度だった。
「やれやれ、わざわざ来るほどのこともなかったわね。栗を採って帰りましょう」
「やれやれはこっちのセリフじゃ。危うく濡れ衣を着せられるところだったわい」
老人はうんざりしたように言った。
「ちなみにギルドの許可はどうします?」
「わしの心証はよくないだろうから、直談判に行けば追い返されるのが関の山じゃろうな」
「それじゃあ、またどこかに移動するんですね」
「いや、この地は魔力の流れいいからのう。もう少し滞在する」
すんなり離れてはくれないようだ。
今の自分はギルドの関係者ではないものの、地元民としてこの件を無視するわけにもいかない気がする。
「俺は冒険者を引退してますけど、入山の許可をもらった手前、おじいさんのことは報告しないといけません。そうしたら、他の冒険者が退去させようとしますよ」
「なるほどのう。ところで青年よ、おぬしは冒険が好きそうな顔をしておるな」
「ええと、何か関係が?」
老人はちょっと待っておれと席を外した。
何かを探しに行くように見えた。
二人だけになって室内は静かになった。
老人の動向を気にかけていると、沈黙を破るようにアデルが言った。
「ふたを開けてみれば、ただの魔法好きなお年寄りだったわけね」
「とりあえず、危険人物ではなさそうでよかったです」
二人で話していると、老人がどこかから戻ってきた。
何やらうれしそうな顔をしているようにも見える。
「ほれ、これは知性の指輪じゃ」
「……指輪、ですか?」
差し出されたそれは金色の指輪で、人の指にはめるには大きすぎるように見えた。
「これを用いれば小型のドラゴンぐらいまでのモンスターなら、はめた者の言うことを聞くようになる。伸縮自在で小さいモンスターにも対応可能という逸品じゃ。悪用せんだろうが、人間につけても効果はないことは補足しておこう」
「そんなものをくれるんですか?」
「その代わりギルドへの報告を頼む。山の中にいるご老人は人畜無害で、魔法の研究をしているだけじゃと」
「えっ、それは……」
なかなか微妙なところだった。
現状では無許可であることが問題なのだが、無害であるところは同意できる部分もある。
「いいじゃない。受け取っておきなさいよ。本当にその通りの効果があるなら、とても貴重なものだと思うわ」
アデルは老人の提案に前向きのようだ。
モンスターを従える道具というのは夢のようなもので、その話が本当なら手に入れたい気持ちもある。
「興味はあるんですけど、本当にそんな効果があるのかは疑問が残ります」
「ほう、わしの魔道具に疑義を抱くというのか。その目で効果を見たようだがのう」
「ああっ、それはまあ……」
エスカの変化を思い返せば、老人の魔道具は効果があるのだろう。
彼女は酒に酔った程度であそこまで大胆になるとは思えない。
「これはあくまでわしからの提案じゃ。もし、近隣のギルドから冒険者が攻めてくるようなら籠城を決めこむぞ。魔法の効果でこのテントはほぼ無敵だからのう」
「そこまで話がこじれるのは望むところではないので、ギルドには話を通しておきますよ。それと地元の人をおどかすようなことはしないでくださいね」
知性の指輪に目がくらんだわけではないが、老人が強硬な姿勢になることは避けたいと思った。
「よしっ、交渉成立でよいな。この指輪はおぬしのものじゃ。ゴブリンなりドラゴンなり、好きなモンスターにつけるといい。他のモンスターに切り替えたい時は外せば問題ないが、外した瞬間に襲いかかってくる可能性もあるから用心するんじゃ」
老人は知性の指輪をこちらに差し出した。
それを受け取って、じっくりと眺めた。
金色に輝く、美しい見た目だった。
「魔力を感じるから、ただの金の指輪ではないようね」
隣にいたアデルが覗きこむように指輪を見ていた。
何かを推し測るような様子が感じられた。
「俺は見極められないので、よかったら見てくれますか?」
アデルに指輪を手渡した。
彼女は角度を変えながら、様子を確かめている。
「細かいところまでは分からないけれど、その人が言った通りの効果はあるみたいよ」
「そうじゃろう。わしを信じるべし」
「ところでおじいさん、この指輪をつけてみて」
アデルは携帯する荷物の中から、小さな銀の指輪を取り出した。
何の変哲もないようだが、何をしようとしているのだろう。
「美人のエルフから指輪をもらうのは悪くないのう……って、何を企んでおる!?」
老人はそう言いながらも、指輪を指にはめていた。
もしや、アデルの指輪も魔道具ではと思ったが、老人の身に変化はない。
「ふふっ、嘘はついていないことは分かったわ」
「おぬし、とんでもない魔道具を持っておるな。つける気はなかったのに抗えんかったぞ」
「もしかして、その指輪って……」
あえて聞くまでもなく想像がつくが、アデルが効果の説明を始めた。
「真実の指輪。嘘をついていると電流が流れて、死なない程度にしびれるわ」
老人の知性の指輪もすごい効果だが、アデルの真実の指輪も恐ろしい効果がついている。
金と銀の指輪――二つの魔道具が作られたことを考えると、魔法の奥深さを実感させられる。
俺だけ置いてけぼりな状況で、いまいち判然としなかった。
「あれは本音が言いやすくなる魔道具じゃよ。何も危険はない」
「本音が言いやすく……あっ」
エスカの言った「愛し合う」という言葉が脳裏をよぎった。
アデルと老人があの場面を見ていたわけではないのだが、何となく気恥ずかしい気持ちになる。
「年柄もなく恋愛相談に乗ってしまってのう。気の毒に思って、力を貸してやったわけじゃ」
「は、はぁ」
老人はニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
だいたいどうなったかを分かっているような態度だった。
「やれやれ、わざわざ来るほどのこともなかったわね。栗を採って帰りましょう」
「やれやれはこっちのセリフじゃ。危うく濡れ衣を着せられるところだったわい」
老人はうんざりしたように言った。
「ちなみにギルドの許可はどうします?」
「わしの心証はよくないだろうから、直談判に行けば追い返されるのが関の山じゃろうな」
「それじゃあ、またどこかに移動するんですね」
「いや、この地は魔力の流れいいからのう。もう少し滞在する」
すんなり離れてはくれないようだ。
今の自分はギルドの関係者ではないものの、地元民としてこの件を無視するわけにもいかない気がする。
「俺は冒険者を引退してますけど、入山の許可をもらった手前、おじいさんのことは報告しないといけません。そうしたら、他の冒険者が退去させようとしますよ」
「なるほどのう。ところで青年よ、おぬしは冒険が好きそうな顔をしておるな」
「ええと、何か関係が?」
老人はちょっと待っておれと席を外した。
何かを探しに行くように見えた。
二人だけになって室内は静かになった。
老人の動向を気にかけていると、沈黙を破るようにアデルが言った。
「ふたを開けてみれば、ただの魔法好きなお年寄りだったわけね」
「とりあえず、危険人物ではなさそうでよかったです」
二人で話していると、老人がどこかから戻ってきた。
何やらうれしそうな顔をしているようにも見える。
「ほれ、これは知性の指輪じゃ」
「……指輪、ですか?」
差し出されたそれは金色の指輪で、人の指にはめるには大きすぎるように見えた。
「これを用いれば小型のドラゴンぐらいまでのモンスターなら、はめた者の言うことを聞くようになる。伸縮自在で小さいモンスターにも対応可能という逸品じゃ。悪用せんだろうが、人間につけても効果はないことは補足しておこう」
「そんなものをくれるんですか?」
「その代わりギルドへの報告を頼む。山の中にいるご老人は人畜無害で、魔法の研究をしているだけじゃと」
「えっ、それは……」
なかなか微妙なところだった。
現状では無許可であることが問題なのだが、無害であるところは同意できる部分もある。
「いいじゃない。受け取っておきなさいよ。本当にその通りの効果があるなら、とても貴重なものだと思うわ」
アデルは老人の提案に前向きのようだ。
モンスターを従える道具というのは夢のようなもので、その話が本当なら手に入れたい気持ちもある。
「興味はあるんですけど、本当にそんな効果があるのかは疑問が残ります」
「ほう、わしの魔道具に疑義を抱くというのか。その目で効果を見たようだがのう」
「ああっ、それはまあ……」
エスカの変化を思い返せば、老人の魔道具は効果があるのだろう。
彼女は酒に酔った程度であそこまで大胆になるとは思えない。
「これはあくまでわしからの提案じゃ。もし、近隣のギルドから冒険者が攻めてくるようなら籠城を決めこむぞ。魔法の効果でこのテントはほぼ無敵だからのう」
「そこまで話がこじれるのは望むところではないので、ギルドには話を通しておきますよ。それと地元の人をおどかすようなことはしないでくださいね」
知性の指輪に目がくらんだわけではないが、老人が強硬な姿勢になることは避けたいと思った。
「よしっ、交渉成立でよいな。この指輪はおぬしのものじゃ。ゴブリンなりドラゴンなり、好きなモンスターにつけるといい。他のモンスターに切り替えたい時は外せば問題ないが、外した瞬間に襲いかかってくる可能性もあるから用心するんじゃ」
老人は知性の指輪をこちらに差し出した。
それを受け取って、じっくりと眺めた。
金色に輝く、美しい見た目だった。
「魔力を感じるから、ただの金の指輪ではないようね」
隣にいたアデルが覗きこむように指輪を見ていた。
何かを推し測るような様子が感じられた。
「俺は見極められないので、よかったら見てくれますか?」
アデルに指輪を手渡した。
彼女は角度を変えながら、様子を確かめている。
「細かいところまでは分からないけれど、その人が言った通りの効果はあるみたいよ」
「そうじゃろう。わしを信じるべし」
「ところでおじいさん、この指輪をつけてみて」
アデルは携帯する荷物の中から、小さな銀の指輪を取り出した。
何の変哲もないようだが、何をしようとしているのだろう。
「美人のエルフから指輪をもらうのは悪くないのう……って、何を企んでおる!?」
老人はそう言いながらも、指輪を指にはめていた。
もしや、アデルの指輪も魔道具ではと思ったが、老人の身に変化はない。
「ふふっ、嘘はついていないことは分かったわ」
「おぬし、とんでもない魔道具を持っておるな。つける気はなかったのに抗えんかったぞ」
「もしかして、その指輪って……」
あえて聞くまでもなく想像がつくが、アデルが効果の説明を始めた。
「真実の指輪。嘘をついていると電流が流れて、死なない程度にしびれるわ」
老人の知性の指輪もすごい効果だが、アデルの真実の指輪も恐ろしい効果がついている。
金と銀の指輪――二つの魔道具が作られたことを考えると、魔法の奥深さを実感させられる。
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