上 下
102 / 469
王都出立編

彼女が旅をする目的

しおりを挟む
「わたしの名前はエステル。お兄さんの名前は?」

「俺はマルク、たまたま声が聞こえたので近くにきました」

 エステルは切れ長の耳などの外見の様子から、エルフであると判断した。
 金色の髪を短めのツインテールにまとめている。
 白いシャツの上にベスト、ショートパンツを身につけており、活発そうな印象を受けた。 

「あれぐらいの相手なら、わたし一人で全然大丈夫だったから」

「ところで、こんなところに用事が?」

「明るいうちに町にたどり着けるか分からなくて、野営にちょうどいい場所を探してたところ」

 俺とエステルが話していると、エドワルドが会話に加わってきた。

「彼らの所属は分かりませんが、暗殺機構の残党を追っている冒険者がこの辺りを拠点にしているようです。面倒に巻きこまれないよう、早く離れましょう」

「そうですね」

 俺はエドワルドに答えた後、エステルの方を見た。
 彼女はやれやれといった感じで、両腕を伸ばして手の平を揺らした。

「野営は無理そうだし、あなたたちについていくわ」

「どうぞ、ご自由に」

 エドワルドは紳士的な言い方をして、いかにも衛兵のような振る舞いに見えた。

 俺たちは周囲に家屋のある場所を後にして、ピートのいる馬車に戻った。

「何が起きてましたか?」

 ピートは馬の近くに立っており、心配そうな表情でこちらを見ていた。
 
「とりあえず、大丈夫でした」

「お二人ともご無事で何よりです。ところで、そちらの女性は?」

 ピートはエステルに興味を示した。
 彼女は馬車をじっと見つめているところだった。

「ねえ、あなたたちの目的地は?」

 俺とエドワルド、ピートの三人は顔を見合わせた。
 少しの間をおいて、ピートが代表するように答えた。

「バラムです」

「えっ、ホント!?」

「はい、間違いありません」

 少し取っつきにくい感じのエステルだったが、思いもよらない反応を見せた。
 俺はピートの補足をするように口を開いた。
 
「帰郷のために馬車で送ってもらっているところです。そこの御者がピートで、護衛の兵士がエドワルド」

「そんなふうには見えないけど、あなたは貴族か何か?」

 エステルの言葉に少し動揺したが、気にせず会話を続けることにした。

「いえ、料理店の店主です」

「ふーん、そうなの。わたしもバラムを目指してるんだけど、よかったら同乗させてもらえる?」

「……どうして、バラムに?」

「姉がバラムにいるんだけど、ちょっと用があって」

 エステルはやや言葉を濁したものの、嘘を言っているようには見えなかった。
 荷台は四人乗りなので、もう一人乗る分には問題ない。

 バラムにいるエルフといえば、アデルのような気もしたが、彼女の髪の毛は赤色に対して、エステルの髪の毛は金色だった。

「ピートとエドワルドはどうです?」

「マルク様がよろしければ問題ありません」

「私も同じく。ここから一人歩きさせるのも気が進みませんな」

 二人の回答は肯定的なものだった。
 俺としても、エステルが同乗するのに反対する気持ちはない。

「それじゃあ、どうぞ」

「やった! ありがとう」

 エステルは明るい笑顔を見せた。
 面影がアデルに似ているような気もしたが、エルフということでそんなふうに見えるだけな気もした。
 彼女は足早に荷台へ乗りこむと、そこから顔を出した。

「さあさあ、早く出発するわよ」

 エステルの勢いに戸惑いつつ、エドワルドと順番に馬車へと乗りこんだ。

「ピート、馬の休憩は十分ですか?」

「もう少し時間があるとベストなのですが、すぐに出発しても問題ありません。人数が増える分だけ速度が下がるので、馬たちの足並みが落ちつくと思います」

 ピートは通常よりも急いだ動きで、早々と馬車を出発させた。
 俺は荷台から周囲を確認していたが、誰かが追ってくる様子はなかった。

「ふぅ、これで安心だ」

「ああいった手合いが集まった要因は、ランス、ロゼル、デュラスの三つの国で、残党を捕らえた冒険者に報奨金を支払うと決めたことが影響していそうです」

「その件はそんなふうになってたんですね」

「危険が伴うことなので、無報酬というわけにはいかないと思いますが……」

 エドワルドはならず者たちが集まった場所を目にしたことで、よくない印象を抱いたように見えた。
 
「さっきの人たちを擁護するつもりはないですけど、全ての冒険者があんな感じではないですよ」

「もちろん、理解しています。それに服装や言葉の雰囲気に違和感があったので、他国の冒険者だったかもしれません」

 エドワルドはこちらの説明に理解を示した。
 その反応にホッとするような気持ちだった。

「ところで、エステルは歩いてバラムまで? だいぶ距離がありますけど」

「ああっ、その話? あなたたちが話していたみたいに、なんかきな臭い騒動があったんでしょ? その影響でエルフを乗せるのはちょっと……みたいな馬車がほとんどで、途中までしか乗れなかったのよ」

 エステルはうんざりしたような表情を見せた。
 どこから来たのか気になるところだが、詮索しすぎるのはやめておこう。
 
「まあ、ピートはそんな御者ではないから、そんな理由で断りはしませんよ」

「特に人族を嫌うことはないけど、人間不信になるところだったわ」

「それじゃあ、そうならなくてよかった」

「野営も楽じゃないから、乗せてくれて助かったわ」

「御者のピートが承諾しないと乗れなかったので、彼に感謝してもらえたら」

「御者の人、ありがとう」 
 
「どういたしまして」

 エルフといえばアデルの印象が強かったが、エステルは若い分だけ素直なようで少し安心した。


 あとがき
 お読みいただき、ありがとうございます。
 エールやお気に入り登録など励みになっています。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...