上 下
80 / 466
王都出立編

バイキングっぽい朝食と食材の到着

しおりを挟む
 一人前にしてはなかなかのボリュームだった。
 数種類のパン、何枚かの皿に分けられたサラダ、目玉焼きやベーコンなど。
 栄養バランスを考えてあるのか、フルーツも盛りだくさんだった。

 俺は既視感を覚えて、皿の配置などをよく確認した。
 最後に手元に置かれた空の白い皿に視線が向く。
 これはもしかして、あれなのではないか。

「この皿に取り分けて、食べればいいんですか?」

「はい、その通りです」

「……なるほど、一人バイキングってところか」

「あのう、バイキングとは何でしょう?」

 この世界の食糧供給は安定しているとはいえ、飽食の極みであるような食べ放題という概念は浸透していない。
 そのため、アンはバイキングという言葉の意味を知るはずもないだろう。

「ああっ、大した意味はないので、気にしないでもらえると」

「承知しました」

「それじゃあ、いただきます」

「はい、どうぞ」

 俺は取り皿に料理を乗せ始めた。
 まずはパンを一つ、それからサラダを少々。
 そこそこ空腹だったので、ベーコンエッグもしっかり追加する。
 こうして、朝食プレートが完成した。

 テーブルに置かれたナイフとフォークに手に取り、サラダから食べ始める。
 うっすらとドレッシングがかかっており、食べやすい味だった。

 続いて、パンをちぎってかじる。
 焼きたてだったようで、指先と口の中に残っていた熱が伝わった。
 香ばしさとふっくらした柔らかさが両立されていて、美味しいパンだった。

 ベーコンエッグを口に運ぶと、こちらも調理したばかりのようで温かかった。
 冷めて固くなっていないのはありがたかった。

 最後にいくつかフルーツを食べた後、食事の手を止めた。
 この後は焼肉の準備があるので、腹八分で切り上げておこう。 

「ごちそうさまでした」

「お口に合いましたでしょうか」

「はい、もちろん」

「それはよかったです」

 アンは笑みを見せた後、片づけを始めた。
 他の作業と同じように手慣れた動きだった。

「一旦、部屋に戻ります」

「承知しました」

 俺は食事を終えて食堂を出ると客間に向かった。
 廊下を歩いて部屋の前に着いたところで誰かが立っていた。

「おはよう、マルク」

「おはようございます。何か用事でしたか?」

 それはブルームだった。
 彼の様子から何か用件があることを察した。

「おぬし宛てに荷物が届いておってな。どこに運べばいいのか確認に来たのだ」

「もしかして、市場からの食材ですか」  

「うむ、そうだ」

 客間に運んでもらっても自分で運び直さないといけないので、焼肉を調理する場所に持っていってもらった方がよさそうだ。

「これから、焼肉の準備をしたいんですけど、食材を外庭までお願いしてもいいですか?」

「それは問題ない。荷物は城の者に運ばせておく。準備をするつもりなら使ってもらう予定の場所に案内しよう」

 ブルームはそう言うと、廊下を歩き始めた。
 俺はそれについて歩いていく。

 今朝、カタリナを見に行った時とは別のところから外庭に出た。
 そこは庭園風の広い場所だった。

「ここなら問題ないだろう。植えてある木まで離れているから、燃え移る心配もない」

「それにしても、立派な庭ですね」

「ほぼ毎日、庭師が手入れしている。今は暗殺機構の影響で難しいが、以前は王様自ら剪定や草むしりをされることもあった」

「へえ、王様がやられたんですね」

 俺は素直に感心していた。
 ランス王国が平和を保ち続けているのは、王様の影響もあるのだろうか。
 実際に会ったことはないので、どんな人柄なのかは想像の域を出ない。

 二人で立ち話をしていると、一人の兵士が近くを通りがかった。
 ブルームはその兵士に近づいていった。

「荷物をここに運ぶように伝えてくる」

「はい」

 彼が手短に用件を伝えると、兵士は一礼して離れていった。

「これで問題ないだろう」

「ありがとうございます」

 食材がどこに届いているのか分からなかったので、非常に助かった。

 俺はどの辺りで焼肉をするか決めるために外庭を歩き出した。
 少し検討した後、候補の場所が決まった。

 そこは外庭の一角にテーブルと椅子が置かれた場所だった。
 近くに噴水があり、眺めがいいところが決め手になった。

「あそこでどうですかね? 近くにテーブルもあるし」

「判断はおぬしに任せるが、いいのではないか」

「それじゃあ、決定にします」

 それから、どんなふうに提供しようかと考え始めたところで、今度は別の兵士がやってきた。
 兵士の傍らには、見覚えのある鍛冶職人がいた。

「マルク様、失礼します。こちらの職人が用件があるそうです」

「おう、頼まれたやつが完成したぜ」

「あっ、どうも」

 鉄板と焼き台だけなら運べる重さのようで、鍛冶職人は布にくるんだ状態で背中に担いでいた。
 彼が地面に下ろして布をほどくと、ピカピカの鉄板と焼き台が出てきた。

「肉を焼くのに使うらしいから、仕上げの後に何回も洗ってある。まずは確認してみてくれ」

「ありがとうございます。見せてもらいますね」

 鉄板の表面は滑らかで、希望通りの厚みだった。
 焼き台も火を入れたいところに、上手い具合に空洞が空いている。

「いやー、完璧ですね。王都の職人はすごい」

「ははっ、王都の鍛冶は歴史が違うからな」
   
 鍛冶職人は誇らしげな態度を見せた。
 強がりではなく、自然ににじみ出るもののように感じられた。

「ブルーム、道具の請求も城宛てでよかったですか?」
 
「うむ、それでいい」

「そういうわけなので、支払いは城の方からもらってください」

「よしっ、分かった。それじゃあな」

 鍛冶職人は上機嫌な様子で去っていった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」

なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。 授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生 そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』 仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。 魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。 常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。 ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。 カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中 タイトルを 「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」 から変更しました。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

処理中です...