異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
上 下
63 / 473
王都出立編

領主による漁業禁止令

しおりを挟む
 コルヌからの定期船は追い風を受けて、レアレス島の港に向かっていた。
 入港のタイミングが近づくと、船員が帆を素早く収納した。
 減速した船は二つの桟橋の間に入り、岸壁の手前に停泊した。
 
「――お待たせしましたっ! レアレス島に到着です。足元が揺れるので、気をつけて下船してください」

 船長が到着を高らかに告げた。
 定期船というよりも観光船のような見送り方だと感じた。

 俺たちは船内の椅子から立ち上がると、順番に船を下りた。
 続いて桟橋から岸壁へ渡ると、港周辺の通りには民家や商店などが目に入った。

「離島なのに栄えていますね。何か利益を生むような産業があるのでしょうか」

「リリアよ、レアレス島周辺はいい漁場になっているようで、漁業が大きな利益を生むらしい」

「そうなのですね」

 ブルームがガイドのようにレアレス島のことをリリアに伝えている。
 俺自身もそこまでこの島について詳しくはなかった。

 三人で船を下りたところから歩いていると、しばらく港が続いていた。
 漁業が盛んな島だけあって、係留されている船の数は多い。
 港の規模も海運で栄えているコルヌと大差ないほどの広さだった。

「新鮮な海の幸とはどのようなものなのでしょうか。カルパッチョ、アクアパッツァ、グリル、何でもありそうです」

「リリアは楽しそうですね」

「こんなにも風情がある町並みは王都にはありません。さらに美味しい魚介料理が食べられるなんて……幸せすぎます」

「――そこのお嬢さん。もしかして、レアレスの獲れたての魚が食べたいのかい?」

「は、はい」

 道沿いに置かれた木箱の上に男が座っており、リリアに声をかけてきた。
 彼女はふいに声をかけられて驚いている様子だった。

「おれの名前はランパード。この島の漁師頭だ」

「はじめまして、ランパードさん。私はリリアと申します」

 俺とブルームは立ち止まり、少し離れた位置でリリアとランパードのやりとりを見守った。

「非常に残念な知らせがある。島の領主様からの通達で漁が禁止になった」

「な、なんだって!?」

「おぉっ、あんたはリリアちゃんの知り合いか?」

 ブルームの反応があまりにも大きかったので、ランパードはびっくりした様子で声をかけてきた。

「わしはリリアの旅の仲間のブルーム。この者はマルクだ」

「はじめまして、マルクといいます」

「そうかそうか、旅の方たちだったか」

 俺たちは三人でランパードと話すかたちになっていた。
 彼は屈強な海の男という雰囲気だが、人当たりはよさそうだった。

「して、領主が漁業を禁ずるなど信じがたいが」

「おれたちもよく分かんねえ。ずいぶん急なことで、通達が出たのは今日の朝だ」

 ランパードからは戸惑いの色が見て取れる。
 おそらく、気持ちの整理がついていないのだろう。

「領主の命令は絶対なんですか?」

「ふむ、どうだろう。その土地土地で規則や法令は細かく違うこともあるが」

「領主様の言うことは絶対だ。漁師たちのために船を揃えて、何もないこの島を興した人だから。その人が禁止と言ったら、おれたちは反対できねえんだ」

「ふーん、それは困りましたね」

 俺は話の内容を頭の中でまとめながら、二人の仲間の顔を見た。
 リリアは新鮮な魚が食べられそうにないことで、少し元気がなくなっているようだ。
 一方のブルームは何かを決意するような表情をしていた。

「――よしっ、決めたぞ」

「えっ、どうしたんですか?」

「もし、この場に大臣がおられたら、レアレス島の漁師のために一肌脱ぐだろう」

 俺はブルームの話についていけず、成り行きを見守ることにした。

「ええっと、ブルームさんは偉い人なのかい?」

「わしは王都の大臣に仕えるしがない年寄りだ」

「おっと、そうだったの。これはすんません」

 ランパードは恐縮したように頭を下げた。
 そんな彼の様子を見て、王都の威光はなかなかのものだと思った。

「気にすることはない。それより、君たちから領主に物申せぬのなら、わしから事情を聞いてみよう」

「ありがてえけども、それは本気で?」

「うむっ、わしに二言はない。ここは任せてくれまいか」

「ええ、ええ、そりゃもちろん!」

 ブルームの言葉にランパードは感激するような表情だった。



 それから、俺たちはランパードの案内で領主の屋敷へと向かった。
 屋敷は高台の見晴らしのいい場所にあり、港や町の様子を一望できた。

「漁業で儲けているようだな。離島にこんな立派な家を建てられるとは」

「領主様は昔からレアレスを治められているので、この屋敷は以前からありやす」

「あまり気にかけたことはなかったが、この島には歴史があるのだな」

 ブルームは感心するように言った。

「領主様は早朝に漁師の様子を港へ見に来た後、屋敷にいらっしゃることが多いんで」

「そうか。では早速、領主をたずねるとするか」

「俺とリリアは外で待てばいいですか?」

「うむ、そうしてくれ」

「私は護衛ですので、同行してもよいですよ」

「まあ、物騒なことにはならんだろう」

 ブルームはランパードと二人で中に入ろうとしている。
 大所帯で訪問したら領主が警戒する可能性もあるので、彼らだけで行くのが最善なのかもしれない。

「では、行ってくる。この辺りで待っていておくれ」

「はい、分かりました」

 ランパードが屋敷の方へ向かい、正面の入り口にある扉を開いた。
 そこからブルームが中に入ると、次にランパードも足を踏み入れた。

「唐突に漁業を禁止するなんてよほどのことだと思いますけど、ブルームの説得で領主は禁止令を解きますかね?」

「どうでしょう。私は戦闘要員ですから、交渉に関しての知識は少ないです。ただ、ブルーム様は貫禄があるので、領主を説得できそうな気もします」

 漁師たちが困っていること、リリアが新鮮な海の幸が食べられないことを考えると、無事に説得できることを願うばかりだ。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

処理中です...